問い
19世紀の終わりから,光の速さを,向きを変えたり,地球の公転の向きに沿ったり逆らったりして,精密に測る実験が繰り返されました.結果はいつも同じで,光の速さは,観測する人がどう動いていても,光源がどう動いていても,𝑐 =2.998 ×108 ms−1 でした.ガリレイ変換では,速度は足し算になるはずです.光を追いかけて走れば,光は遅く見えるはずなのに.時間と空間について,何を考え直さなければならないのでしょうか.
考えてみる
ガリレイ変換 𝑥′ =𝑥 −𝑉𝑡,𝑡′ =𝑡 からは,速度の足し算 𝑢′ =𝑢 −𝑉 が出ます.光の速さがどの慣性系でも 𝑐 なら,この式のどこかが間違っていることになります.空間の座標を変えるだけでは直りません.疑わしいのは,前の題材から何度か「仮定」と断ってきた 𝑡′ =𝑡,つまり時間はどの慣性系でも同じように進む,という考えです.
法則 アインシュタインの2つの原理
相対性原理:すべての慣性系で,物理法則は同じ形をしている(力学だけでなく,光の現象も含めて).
光速不変の原理:真空中の光の速さは,どの慣性系で測っても,光源の動きによらず,同じ値 𝑐 である.
2つとも経験の事実です.ガリレイの相対性原理との違いは,光を含めてすべての法則に相対性原理を求めることと,ガリレイ変換を前提にしないことです.
光時計と時間の遅れ
2枚の平行な鏡を距離 𝑑 だけ離して向かい合わせ,その間を光が往復する時計を考えます.光が1往復するたびに1回「刻む」とします.時計が止まって見える慣性系では,1往復の時間は
Δ𝜏=2𝑑𝑐
です.
この時計が,鏡に平行な向きに速さ 𝑣 で動いて見える慣性系 K から見ます.K では,光は鏡の間を斜めに進みます.1往復の時間を Δ𝑡 とすると,その間に時計は 𝑣Δ𝑡 進むので,光が片道に進む道のりは √𝑑2+(𝑣Δ𝑡/2)2 です.光速不変の原理から K でも光の速さは 𝑐 なので
(𝑐Δ𝑡2)2=𝑑2+(𝑣Δ𝑡2)2
で,𝑑 =𝑐Δ𝜏/2 を使って解くと
Δ𝑡=Δ𝜏√1−𝑣2/𝑐2=𝛾Δ𝜏,𝛾=1√1−𝑣2/𝑐2
です.𝛾 ≥1 なので,動いている時計の刻みは,止まっている時計の刻みより長く見えます.
[図:光時計の1往復と時間の遅れ]鏡の間隔d = 1.0 m,初期速度v = 0.60c.同じ慣性系Kの同じ時刻で,止まった時計と右へ動く時計を並べる.右の光路は斜めで,1往復にかかるKの時間はγ倍になる.薄い鏡は動く時計の1往復の始点と終点の位置.速度と時刻を操作でき,動きを減らす設定では自動再生しない.
鏡の間隔d = 1.0 m,初期速度v = 0.60c.同じ慣性系Kの同じ時刻で,止まった時計と右へ動く時計を並べる.右の光路は斜めで,1往復にかかるKの時間はγ倍になる.薄い鏡は動く時計の1往復の始点と終点の位置.速度と時刻を操作でき,動きを減らす設定では自動再生しない.
相対性原理から,これは光時計に限りません.もしほかの時計(振り子,原子の振動,生き物の老化)が別の遅れ方をしたら,2つの時計を比べて「自分が動いているか」が分かってしまうからです.動いているもの全体で,時間がゆっくり進むのです.
定理 時間の遅れ
慣性系 K に対して速さ 𝑣 で動く時計が刻む時間 Δ𝜏 と,その間に K で経過する時間 Δ𝑡 の間には Δ𝑡 =𝛾Δ𝜏 の関係がある.時計とともに動く系で測った時間 𝜏 を固有時という.
不変な間隔
光時計の式を書き直すと,時計が K で進んだ距離 Δ𝑥 =𝑣Δ𝑡 を使って
𝑐2Δ𝑡2−Δ𝑥2=𝑐2Δ𝜏2
です.右辺は時計自身の固有時だけで決まるので,どの慣性系から見ても同じ値です.一般に,2つの出来事(ある場所,ある時刻に起こること)の間の
Δ𝑠2=𝑐2Δ𝑡2−Δ𝑥2−Δ𝑦2−Δ𝑧2
を間隔といい,これはすべての慣性系で同じ値をとります.時間の差と空間の差は,それぞれは慣性系によって変わりますが,この組み合わせは変わりません.これが,時間と空間をまとめて時空と考える理由です.運動する粒子の固有時は,ごく短い時間 d𝑡 について
d𝜏=d𝑠𝑐=d𝑡√1−𝑣2𝑐2
です.
ローレンツ変換
慣性系 K に対して 𝑥 方向に速さ 𝑉 で動く慣性系 K' の座標は,間隔を変えないように選ぶと,次のようになります(導き方は数学の節).
定理 ローレンツ変換
𝑥′=𝛾(𝑥−𝑉𝑡),𝑡′=𝛾(𝑡−𝑉𝑐2𝑥),𝑦′=𝑦,𝑧′=𝑧,𝛾=1√1−𝑉2/𝑐2
𝑉 が 𝑐 よりずっと小さければ 𝛾 ≈1,𝑉𝑥/𝑐2 ≈0 で,ガリレイ変換に戻ります.私たちの日常で 𝑡′ =𝑡 が正しく見えるのは,身のまわりの速さが光の速さよりはるかに小さいからでした.
[図:ローレンツ変換した時空の軸]初期速度V = 0.60c.Kの直交軸に対し,青いx′軸と緑のct′軸が光の45度の線へ傾く.目盛りはx′またはct′が1,2,3となる出来事を逆ローレンツ変換して打ち,画面内に収まる分を表示する.スライダー操作だけで変化し,自動アニメーションは行わない.
初期速度V = 0.60c.Kの直交軸に対し,青いx′軸と緑のct′軸が光の45度の線へ傾く.目盛りはx′またはct′が1,2,3となる出来事を逆ローレンツ変換して打ち,画面内に収まる分を表示する.スライダー操作だけで変化し,自動アニメーションは行わない.
ローレンツ変換からは,いくつか驚くことが出てきます.
同時の相対性:K で同じ時刻(Δ𝑡 =0)に違う場所(Δ𝑥 ≠0)で起こる2つの出来事は,K' では Δ𝑡′ = −𝛾𝑉Δ𝑥/𝑐2 だけずれた時刻に起こる.
長さの縮み:K' で止まっている長さ 𝐿0 の棒は,K では 𝐿 =𝐿0/𝛾 に縮んで見える.
速度の合成:K で速さ 𝑢 で 𝑥 方向に動く物体の,K' での速さは
𝑢′=𝑢−𝑉1−𝑢𝑉/𝑐2
𝑢 =𝑐 なら 𝑢′ =𝑐 で,光の速さはどの系でも 𝑐 になる.
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光の速さがどの慣性系でも同じであることと,相対性原理を両方認めると,時間はどの慣性系でも同じように進む,という考えを捨てなければなりません.動いている時計はゆっくり進み,時間の差と空間の差は混ざり合います.変わらないのは間隔 𝑐2Δ𝑡2 −Δ𝑥2 −Δ𝑦2 −Δ𝑧2 です.慣性系の間の座標の関係は,ガリレイ変換ではなくローレンツ変換で,速さが 𝑐 よりずっと小さいときだけガリレイ変換で近似できます.
ポイント ここまでのまとめ
相対性原理と光速不変の原理(どちらも経験の事実)から出発する.
光時計から時間の遅れ Δ𝑡 =𝛾Δ𝜏,𝛾 =1/√1−𝑣2/𝑐2.時計とともに動く系の時間が固有時.
間隔 Δ𝑠2 =𝑐2Δ𝑡2 −Δ𝑥2 −Δ𝑦2 −Δ𝑧2 はすべての慣性系で同じ.固有時は d𝜏 =d𝑡√1−𝑣2/𝑐2.
慣性系の間はローレンツ変換でつながる.𝑉 が 𝑐 よりずっと小さいとき,ガリレイ変換に戻る.
同時の相対性,長さの縮み,速度の合成で光速を超えないこと.