問いしるべ
問いから始める物理 対称性から組み立てる力学(発展)

対称性から組み立てる力学(発展)

ローレンツ変換を導く

著者:柚木芹香

本体の節では,ローレンツ変換を結果だけ示しました.ここで,間隔が変わらないという条件から導きます.あわせて,γ の近似と速度の合成の計算を練習します.

定理 数学の道具:γ の近似

β=v/c が小さいとき,(1+x)n≈1+nx(|x| が1よりずっと小さいとき)から

γ=(1−β2)−1/2≈1+12β2,1−β2≈1−12β2

である.

ローレンツ変換の導出

K' は K に対して x 方向に速さ V で動き,t=t′=0 で2つの原点が重なるとします.空間と時間が一様なので,変換は1次式とします(場所や時刻によって変換の仕方が変わらないため).y′=y,z′=z とし,K' の原点 x′=0 は K で x=Vt にあるので

x′=γ(x−Vt),t′=at+bx

と書けます.γ,a,b は V で決まる定数です.間隔が変わらない条件 c2t′2−x′2=c2t2−x2 がすべての t,x で成り立つように,t2,x2,tx の係数を比べると

c2a2−γ2V2=c2,c2b2−γ2=−1,c2ab+γ2V=0

です.1つ目と2つ目から a2=1+γ2V2/c2,b2=(γ2−1)/c2.3つ目を2乗して a2b2=γ4V2/c4 に代入すると

(c2+γ2V2)(γ2−1)=γ4V2

で,整理すると γ2(c2−V2)=c2,つまり γ=1/1−V2/c2 です.すると a2=γ2 で a=γ(V→0 で t′=t に戻るように正の側),3つ目から b=−γV/c2 です.これで本体の節の式が出ました.

定理 数学の道具:速度の合成

K で x=ut と動く物体を K' から見ると,x′=γ(u−V)t,t′=γ(1−uV/c2)t なので

u′=x′t′=u−V1−uV/c2

練習1 v=0.60c と v=0.80c のときの γ を求めよ.

練習2 v=300ms−1(ジェット機ほど)のとき,γ−1 はいくらか.

答え 練習1:1−0.36=0.80 で γ=1.25.1−0.64=0.60 で γ≈1.67.練習2:γ−1≈12(3003.0×108)2=5.0×10−13.日常の速さでは,時間の遅れは測れないほど小さい.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

上空で生まれたミュー粒子は,止まっていれば平均 2.2μs で崩壊する.速さ 0.995c で地表へ向かうミュー粒子について答えよ.c=3.0×108ms−1 とする.

  1. 時間の遅れを考えないと,崩壊までに平均どれだけ進むか.

  2. 地上から見た平均の寿命と,崩壊までに進む平均の距離を求めよ.

上空の同じ生成点から,(1)と(2)で考える平均の距離だけ進んだ位置を印で示す.高さの目盛りは等間隔で,図の距離比は速さ0.995cから計算したもの.距離の数値は示していない. 上空の同じ生成点から,(1)と(2)で考える平均の距離だけ進んだ位置を印で示す.高さの目盛りは等間隔で,図の距離比は速さ0.995cから計算したもの.距離の数値は示していない.
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考え方 ミュー粒子とともに動く系での寿命が固有時 Δτ=2.2μs.地上ではそれが γ 倍に延びる.

  1. 0.995×3.0×108×2.2×10−6≈6.6×102m.

  2. γ=1/1−0.9952=1/0.009975≈10.0.寿命は γΔτ≈22μs,進む距離は 0.995c×22μs≈6.6km.

確かめ:上空10 km ほどで生まれたミュー粒子の多くが地表に届くことが観測されていて,これは時間の遅れを考えないと説明できない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

地上に対して速さ 0.60c で飛ぶ宇宙船が,進む向きに,宇宙船に対して速さ 0.60c で小さな探査機を打ち出した.地上から見た探査機の速さを求めよ.

解答を見る

考え方 宇宙船の系を K,地上の系を K' とすると,K' は K に対して V=−0.60c で動く.K での探査機の速さ u=0.60c を速度の合成の式に入れる.

u′=0.60c−(−0.60c)1−0.60×(−0.60)=1.20c1.36≈0.88c

確かめ:ガリレイ変換なら 1.20c になるが,相対論では c を超えない.u と V が c よりずっと小さければ,分母が1に近く,ふつうの足し算に戻る.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

GPS の衛星は,地上に対して約 3.9kms−1 で動いている.衛星の運動による時間の遅れだけを考えると,衛星の時計は地上の時計に比べて1日でどれだけ遅れるか.c=3.0×108ms−1 とする.また,光の速さでこの時間に進む距離を求めよ.

地球のまわりを回るGPS衛星から,地表の受信機へ電波が届く.衛星の運動による時計のずれを考える配置の模式図.時計のずれや距離の解答値は描いていない. 地球のまわりを回るGPS衛星から,地表の受信機へ電波が届く.衛星の運動による時計のずれを考える配置の模式図.時計のずれや距離の解答値は描いていない.
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考え方 地上の1日 Δt の間に衛星の時計が刻むのは Δτ=Δt1−β2≈Δt(1−12β2).遅れは 12β2Δt.

12β2=12(3.9×1033.0×108)2≈8.5×10−11

1日は 8.64×104s なので,遅れは 8.5×10−11×8.64×104≈7.3×10−6s,約 7μs.光がこの間に進む距離は 3.0×108×7.3×10−6≈2.2×103m,約 2km.

確かめ:GPS は電波が届く時間から距離を測るので,時計が 1μs ずれると位置は約 300m ずれる.実際の衛星では,重力による効果(逆向きに約 45μs 進む)もあり,両方を補正している.重力による時間の進み方の違いは,一般相対性理論の話題で,この本では扱わない.

ポイント ここまでのまとめ

  • β=v/c が小さいとき γ≈1+12β2.日常の速さでは γ−1 は非常に小さい.

  • 変換が1次式であることと,間隔が変わらないことから,ローレンツ変換が導ける.

  • 速度の合成は u′=(u−V)/(1−uV/c2) で,光の速さを超えない.

  • 時間の遅れは,ミュー粒子の寿命や GPS の時計で実際に観測されている.