円運動の式を,同位体の分離,有限の磁場領域,ホール効果に使います.先に円軌道の作図の決まりをまとめます.
ポイント 数学の道具:円軌道の中心とふれ角
一様な磁場の中の円軌道(半径 𝑟,角振動数 𝜔)について,次が成り立つ.
円の中心は,入った点で速度に垂直な直線の上,力の向きの側に距離 𝑟 の所にある.円の上の2点が分かっていれば,中心はその2点を結ぶ線分の垂直二等分線の上にある.
粒子が回った中心角 𝜙 は,速度の向きの変化(ふれ角)に等しい.かかる時間は 𝜙/𝜔 である.
中心角 𝜙 の円弧の弦の長さは 2𝑟sin(𝜙/2) で,弦は入ったときの速度と 𝜙/2 の角をなす.
最後の性質は,中心から弦に下ろした垂線が中心角を二等分し,速度が半径に垂直なことから分かります.
練習1 粒子が磁場領域の中で 60∘ だけ向きを変えて出ていった.入った点と出た点の距離を 𝑟 で表せ.
練習2 𝑥 >0 の全体に +𝑧 向きの一様な磁場 𝐵 がある.電荷 𝑞 >0 の粒子を,原点から,+𝑥 軸から +𝑦 側へ角 𝛼 傾けた向きに速さ 𝑣 で入射させる(−𝜋/2 <𝛼 <𝜋/2).粒子が再び 𝑦 軸に戻る点と,磁場の中にいる時間を求めよ.
答え 練習1:2𝑟sin30∘ =𝑟.練習2:速度 (cos𝛼,sin𝛼) に対し力は 𝒗 ×𝑩 の向き (sin𝛼,−cos𝛼) なので,中心は 𝑟(sin𝛼,−cos𝛼).円が 𝑥 =0 と交わるのは 𝑦 =0 と 𝑦 = −2𝑟cos𝛼 で,戻る点は (0,−2𝑟cos𝛼).粒子は時計回りに回り,速度の向きは 𝛼 から 𝜋 −𝛼 へ変わるので,中心角は 𝜋 +2𝛼,時間は (𝜋+2𝛼)/𝜔.𝛼 =0 で半円,𝛼 →𝜋/2 でほぼ1周になる.
例題
1価の正イオン 𝐴20𝐴2202Ne𝐴+ と 𝐴22𝐴2222Ne𝐴+(質量はそれぞれ 20𝑢 と 22𝑢,𝑢 =1.66 ×10−27 kg)を,静止状態から電圧 𝑉 =1.0 ×103 V で加速し,スリットから紙面に垂直な一様な磁場 𝐵 =0.20 T の中へ,スリットの面に垂直に入れる.イオンは半円を描いてスリットと同じ面の検出板に着く.スリットの幅と入射方向のばらつきは無視する.電気素量は 𝑒 =1.6 ×10−19 C とする.
2種類のイオンの軌道の半径と,検出板の上での着く位置の間隔を求めよ.
加速電圧が ±0.50 % の範囲でふらつく.着く位置の広がりを見積もり,2つの同位体が分離できるか判断せよ.また,電圧のふらつきが何 % を超えると2つの像が重なり始めるか.
[図:加速したネオン同位体の半円軌道]電圧 V で加速した正イオンがスリットから紙面の手前向きの磁場 B に入る.問題文で与えられた2種類の半円軌道と検出板上の間隔を示す.半径と着く位置の間隔の計算値は示していない.
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考え方 加速で 12𝑚𝑣2 =𝑒𝑉,磁場の中で 𝑟 =𝑚𝑣/(𝑒𝐵).𝑣 を消すと 𝑟 =1𝐵√2𝑚𝑉𝑒 で,𝑟 ∝√𝑚𝑉.着く位置は入口から 2𝑟 の所.
𝐴20𝐴2202Ne𝐴+ では
𝑟20=10.20√2×20×1.66×10−27×1.0×1031.6×10−19≈0.10m
𝐴22𝐴2222Ne𝐴+ は 𝑟22 =𝑟20√22/20 ≈0.11 m.半径を丸める前の値から求めた着く位置の間隔は 2(𝑟22−𝑟20) ≈9.9 ×10−3 m,約 1.0 cm である.
𝑟 ∝√𝑉 なので,𝑉 の相対的なずれ 𝛿 に対して 𝑟 のずれは 𝛿/2.𝛿 =0.50 % なら着く位置 2𝑟 ≈0.20 m のずれは ±0.25 %,つまり ±0.51 mm で,像の幅は約 1.0 mm.間隔 9.9 mm よりずっと小さいので分離できる.重なり始めるのは,𝐴20𝐴2202Ne𝐴+ の最も外と 𝐴22𝐴2222Ne𝐴+ の最も内が一致するときで
𝑟20(1+𝛿2)=𝑟22(1−𝛿2)より1+𝛿/21−𝛿/2=√1.1≈1.049
𝛿/2 ≈0.024,すなわち 𝛿 ≈4.8 % である.
確かめ:イオンの速さは √2𝑒𝑉/𝑚 ≈9.8 ×104 ms−1 で,光の速さよりずっと小さく,円運動の式をそのまま使ってよい.
𝑥𝑦 平面の 0 ≤𝑥 ≤𝑑 の帯状の領域にだけ,+𝑧 向きの一様な磁場 𝐵 がある.質量 𝑚,電荷 𝑞 >0 の粒子を原点から速さ 𝑣 で入射させる.𝑟 =𝑚𝑣/(𝑞𝐵),𝜔 =𝑞𝐵/𝑚 とする.
粒子を +𝑥 向きに入射させる.𝑟 >𝑑 のとき,粒子が 𝑥 =𝑑 から出る位置,出るときのふれ角 𝜃,領域の中にいる時間を求めよ.
で 𝑟 ≤𝑑 のとき,粒子はどこから,どの向きに出るか.領域の中にいる時間も求めよ.
入射の向きを +𝑥 軸から +𝑦 側へ角 𝛼 傾けた(−𝜋/2 <𝛼 <𝜋/2).粒子が 𝑥 =𝑑 から抜けるための 𝑣 の条件を求めよ.
[図:有限の磁場への2通りの入射]0 ≤ x ≤ d に紙面の手前向きの磁場 B がある.正電荷 q の粒子を原点から速さ v で入射させる.左は +x 向き,右は +x 軸から +y 側へ角 α 傾けた向き.軌道と出口は示していない.
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考え方 入射点での力は 𝑞𝒗 ×𝑩 の向きで,そちらの側に円の中心がある.円の上で 𝑥 が最大になる点が 𝑥 =𝑑 を越えるかどうかで,抜けるか戻るかが決まる.
入射点での力は 𝑞𝑣𝐵 𝒆𝑥 ×𝒆𝑧 = −𝑞𝑣𝐵 𝒆𝑦 の向きなので,中心は (0,−𝑟).回った角を 𝜙 とすると 𝑥 =𝑟sin𝜙,𝑦 = −𝑟(1−cos𝜙).𝑥 =𝑑 となる最初の角が 𝜃 で
sin𝜃=𝑑𝑟,𝑦=−𝑟(1−cos𝜃)=−(𝑟−√𝑟2−𝑑2)
出る位置は (𝑑,−(𝑟−√𝑟2−𝑑2)),速度は +𝑥 軸から −𝑦 側へ 𝜃 傾いた向き,時間は 𝜃/𝜔 =𝑚𝑞𝐵arcsin𝑞𝐵𝑑𝑚𝑣 である.
円の上の 𝑥 の最大値は 𝑟 なので,𝑟 ≤𝑑 なら 𝑥 =𝑑 に届かず(𝑟 =𝑑 では接するだけで),半円を描いて 𝑦 軸に戻る.出る位置は (0,−2𝑟),向きは −𝑥,時間は 𝜋/𝜔 =𝜋𝑚/(𝑞𝐵) で,速さによらない.
速度 (cos𝛼,sin𝛼) に対し力の向きは (sin𝛼,−cos𝛼) なので,中心は 𝑟(sin𝛼,−cos𝛼).円の上の 𝑥 の最大値は 𝑟sin𝛼 +𝑟.抜ける条件は 𝑟(1+sin𝛼) >𝑑,すなわち
𝑣>𝑞𝐵𝑑𝑚(1+sin𝛼)
確かめ:𝛼 =0 で (1) の条件 𝑟 >𝑑 に戻る.曲がる向き(−𝑦)と逆の +𝑦 側へ傾けて入れる(𝛼 >0)ほど,遅くても抜けられる.𝑑/𝑟 が小さければ 𝜃 ≈𝑑/𝑟,時間 ≈𝑑/𝑣 で,ほとんど直進する.
長さの向きを 𝑥,幅の向きを 𝑦,厚さの向きを 𝑧 とする半導体の板(幅 𝑤 =4.0 mm,厚さ ℎ =0.50 mm)に,+𝑥 向きに電流 𝐼 =2.0 mA を流し,+𝑧 向きに一様な磁場 𝐵 =0.50 T をかけた.板の 𝑦 =0 の側面は 𝑦 =𝑤 の側面より 𝑉𝐻 =5.0 mV だけ電位が高かった.電気素量は 𝑒 =1.6 ×10−19 C とし,電荷を運ぶ粒子は1種類で,電荷の大きさは 𝑒 とする.
電荷を運ぶ粒子の電荷は正か負か.
粒子の数密度 𝑛 とドリフト速度 𝑣𝑑 を求めよ.
同じ形の銅の板(𝑛 =8.5 ×1028 m−3,電子が運ぶ)で同じ測定をしたら,ホール電圧はいくらか.
[図:半導体板のホール電圧の測定]板の長さは x 方向,幅 w は y 方向,厚さ h は z 方向.電流 I は +x 向き,磁場 B は +z 向き.y = 0 と y = w の側面を電圧計につなぐ.キャリアの符号と数密度の答えは示していない.
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考え方 正の粒子なら +𝑥 向きに,負の粒子なら −𝑥 向きに動く.どちらの場合に 𝑦 =0 側が正に帯電するかを,力の向きで調べる.定常状態では横の電場による力と磁気力がつり合う.
正の粒子が速度 𝑣𝑑𝒆𝑥 で動くと,力は 𝑒𝑣𝑑𝐵 𝒆𝑥 ×𝒆𝑧 = −𝑒𝑣𝑑𝐵 𝒆𝑦 で,𝑦 =0 側に寄り,そちらが高電位になる.負の粒子は速度 −𝑣𝑑𝒆𝑥 で,力は (−𝑒)(−𝑣𝑑)𝐵 𝒆𝑥 ×𝒆𝑧 = −𝑒𝑣𝑑𝐵 𝒆𝑦 とやはり 𝑦 =0 側に寄るが,そちらは低電位になる.測定では 𝑦 =0 側が高いので,粒子は正(正孔,p型の半導体)である.
つり合い 𝑒𝐸𝐻 =𝑒𝑣𝑑𝐵 と 𝐼 =𝑛𝑒𝑣𝑑𝑤ℎ,𝑉𝐻 =𝐸𝐻𝑤 から 𝑉𝐻 =𝐼𝐵𝑛𝑒ℎ.
𝑛=𝐼𝐵𝑒ℎ𝑉𝐻=2.0×10−3×0.501.6×10−19×5.0×10−4×5.0×10−3=2.5×1021m−3
𝑣𝑑=𝐼𝑛𝑒𝑤ℎ=2.0×10−32.5×1021×1.6×10−19×4.0×10−3×5.0×10−4=2.5ms−1
𝑉𝐻 = −𝐼𝐵𝑛𝑒ℎ = −2.0×10−3×0.508.5×1028×1.6×10−19×5.0×10−4 ≈ −1.5 ×10−10 V で,符号は逆(𝑦 =0 側が低い).
確かめ:𝐸𝐻 =𝑣𝑑𝐵 =1.25 Vm−1,𝑉𝐻 =𝐸𝐻𝑤 =5.0 mV で測定値に戻る.銅では数密度が 107 倍以上大きく,同じ電流でもドリフト速度が小さいのでホール電圧はほとんど測れない.磁場の測定器に半導体を使うのはこのためである.
ポイント ここまでのまとめ
円軌道の中心は入射点で速度に垂直な直線の上,力の側にある.中心角がふれ角で,時間は中心角を 𝜔 で割って出す.
質量分析器では 𝑟 ∝√𝑚𝑉/𝐵 で,同位体の質量の差の約半分の割合で半径が違う.加速電圧のふらつきはその割合より小さく抑える.
有限の領域を抜けるかどうかは,円の上で最も奥まで届く点が境界を越えるかで決まる.戻る場合の時間は中心角だけで決まる.
ホール効果では,電圧の符号から電荷を運ぶ粒子の符号が,𝑉𝐻 =𝐼𝐵/(𝑛𝑞ℎ) から数密度が分かる.