問いしるべ
問いから始める物理 電流と磁場

電流と磁場

磁場の中の荷電粒子の例題

著者:柚木芹香

円運動の式を,同位体の分離,有限の磁場領域,ホール効果に使います.先に円軌道の作図の決まりをまとめます.

ポイント 数学の道具:円軌道の中心とふれ角

一様な磁場の中の円軌道(半径 r,角振動数 ω)について,次が成り立つ.

  • 円の中心は,入った点で速度に垂直な直線の上,力の向きの側に距離 r の所にある.円の上の2点が分かっていれば,中心はその2点を結ぶ線分の垂直二等分線の上にある.

  • 粒子が回った中心角 ϕ は,速度の向きの変化(ふれ角)に等しい.かかる時間は ϕ/ω である.

  • 中心角 ϕ の円弧の弦の長さは 2rsin⁡(ϕ/2) で,弦は入ったときの速度と ϕ/2 の角をなす.

最後の性質は,中心から弦に下ろした垂線が中心角を二等分し,速度が半径に垂直なことから分かります.

練習1 粒子が磁場領域の中で 60∘ だけ向きを変えて出ていった.入った点と出た点の距離を r で表せ.

練習2 x>0 の全体に +z 向きの一様な磁場 B がある.電荷 q>0 の粒子を,原点から,+x 軸から +y 側へ角 α 傾けた向きに速さ v で入射させる(−π/2<α<π/2).粒子が再び y 軸に戻る点と,磁場の中にいる時間を求めよ.

答え 練習1:2rsin⁡30∘=r.練習2:速度 (cos⁡α,sin⁡α) に対し力は v×B の向き (sin⁡α,−cos⁡α) なので,中心は r(sin⁡α,−cos⁡α).円が x=0 と交わるのは y=0 と y=−2rcos⁡α で,戻る点は (0,−2rcos⁡α).粒子は時計回りに回り,速度の向きは α から π−α へ変わるので,中心角は π+2α,時間は (π+2α)/ω.α=0 で半円,α→π/2 でほぼ1周になる.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

1価の正イオン A20A2220NeA+ と A22A2222NeA+(質量はそれぞれ 20u と 22u,u=1.66×10−27kg)を,静止状態から電圧 V=1.0×103V で加速し,スリットから紙面に垂直な一様な磁場 B=0.20T の中へ,スリットの面に垂直に入れる.イオンは半円を描いてスリットと同じ面の検出板に着く.スリットの幅と入射方向のばらつきは無視する.電気素量は e=1.6×10−19C とする.

  1. 2種類のイオンの軌道の半径と,検出板の上での着く位置の間隔を求めよ.

  2. 加速電圧が ±0.50 % の範囲でふらつく.着く位置の広がりを見積もり,2つの同位体が分離できるか判断せよ.また,電圧のふらつきが何 % を超えると2つの像が重なり始めるか.

電圧 V で加速した正イオンがスリットから紙面の手前向きの磁場 B に入る.問題文で与えられた2種類の半円軌道と検出板上の間隔を示す.半径と着く位置の間隔の計算値は示していない. 電圧 V で加速した正イオンがスリットから紙面の手前向きの磁場 B に入る.問題文で与えられた2種類の半円軌道と検出板上の間隔を示す.半径と着く位置の間隔の計算値は示していない.
解答を見る

考え方 加速で 12mv2=eV,磁場の中で r=mv/(eB).v を消すと r=1B2mVe で,r∝mV.着く位置は入口から 2r の所.

  1. A20A2220NeA+ では

r20=10.202×20×1.66×10−27×1.0×1031.6×10−19≈0.10m

A22A2222NeA+ は r22=r2022/20≈0.11m.半径を丸める前の値から求めた着く位置の間隔は 2(r22−r20)≈9.9×10−3m,約 1.0cm である.

  1. r∝V なので,V の相対的なずれ δ に対して r のずれは δ/2.δ=0.50 % なら着く位置 2r≈0.20m のずれは ±0.25 %,つまり ±0.51mm で,像の幅は約 1.0mm.間隔 9.9mm よりずっと小さいので分離できる.重なり始めるのは,A20A2220NeA+ の最も外と A22A2222NeA+ の最も内が一致するときで

r20(1+δ2)=r22(1−δ2)より1+δ/21−δ/2=1.1≈1.049

δ/2≈0.024,すなわち δ≈4.8 % である.

確かめ:イオンの速さは 2eV/m≈9.8×104ms−1 で,光の速さよりずっと小さく,円運動の式をそのまま使ってよい.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

xy 平面の 0≤x≤d の帯状の領域にだけ,+z 向きの一様な磁場 B がある.質量 m,電荷 q>0 の粒子を原点から速さ v で入射させる.r=mv/(qB),ω=qB/m とする.

  1. 粒子を +x 向きに入射させる.r>d のとき,粒子が x=d から出る位置,出るときのふれ角 θ,領域の中にいる時間を求めよ.

    1. で r≤d のとき,粒子はどこから,どの向きに出るか.領域の中にいる時間も求めよ.

  2. 入射の向きを +x 軸から +y 側へ角 α 傾けた(−π/2<α<π/2).粒子が x=d から抜けるための v の条件を求めよ.

0 ≤ x ≤ d に紙面の手前向きの磁場 B がある.正電荷 q の粒子を原点から速さ v で入射させる.左は +x 向き,右は +x 軸から +y 側へ角 α 傾けた向き.軌道と出口は示していない. 0 ≤ x ≤ d に紙面の手前向きの磁場 B がある.正電荷 q の粒子を原点から速さ v で入射させる.左は +x 向き,右は +x 軸から +y 側へ角 α 傾けた向き.軌道と出口は示していない.
解答を見る

考え方 入射点での力は qv×B の向きで,そちらの側に円の中心がある.円の上で x が最大になる点が x=d を越えるかどうかで,抜けるか戻るかが決まる.

  1. 入射点での力は qvBex×ez=−qvBey の向きなので,中心は (0,−r).回った角を ϕ とすると x=rsin⁡ϕ,y=−r(1−cos⁡ϕ).x=d となる最初の角が θ で

sin⁡θ=dr,y=−r(1−cos⁡θ)=−(r−r2−d2)

出る位置は (d,−(r−r2−d2)),速度は +x 軸から −y 側へ θ 傾いた向き,時間は θ/ω=mqBarcsin⁡qBdmv である.

  1. 円の上の x の最大値は r なので,r≤d なら x=d に届かず(r=d では接するだけで),半円を描いて y 軸に戻る.出る位置は (0,−2r),向きは −x,時間は π/ω=πm/(qB) で,速さによらない.

  2. 速度 (cos⁡α,sin⁡α) に対し力の向きは (sin⁡α,−cos⁡α) なので,中心は r(sin⁡α,−cos⁡α).円の上の x の最大値は rsin⁡α+r.抜ける条件は r(1+sin⁡α)>d,すなわち

v>qBdm(1+sin⁡α)

確かめ:α=0 で (1) の条件 r>d に戻る.曲がる向き(−y)と逆の +y 側へ傾けて入れる(α>0)ほど,遅くても抜けられる.d/r が小さければ θ≈d/r,時間 ≈d/v で,ほとんど直進する.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

長さの向きを x,幅の向きを y,厚さの向きを z とする半導体の板(幅 w=4.0mm,厚さ h=0.50mm)に,+x 向きに電流 I=2.0mA を流し,+z 向きに一様な磁場 B=0.50T をかけた.板の y=0 の側面は y=w の側面より VH=5.0mV だけ電位が高かった.電気素量は e=1.6×10−19C とし,電荷を運ぶ粒子は1種類で,電荷の大きさは e とする.

  1. 電荷を運ぶ粒子の電荷は正か負か.

  2. 粒子の数密度 n とドリフト速度 vd を求めよ.

  3. 同じ形の銅の板(n=8.5×1028m−3,電子が運ぶ)で同じ測定をしたら,ホール電圧はいくらか.

板の長さは x 方向,幅 w は y 方向,厚さ h は z 方向.電流 I は +x 向き,磁場 B は +z 向き.y = 0 と y = w の側面を電圧計につなぐ.キャリアの符号と数密度の答えは示していない. 板の長さは x 方向,幅 w は y 方向,厚さ h は z 方向.電流 I は +x 向き,磁場 B は +z 向き.y = 0 と y = w の側面を電圧計につなぐ.キャリアの符号と数密度の答えは示していない.
解答を見る

考え方 正の粒子なら +x 向きに,負の粒子なら −x 向きに動く.どちらの場合に y=0 側が正に帯電するかを,力の向きで調べる.定常状態では横の電場による力と磁気力がつり合う.

  1. 正の粒子が速度 vdex で動くと,力は evdBex×ez=−evdBey で,y=0 側に寄り,そちらが高電位になる.負の粒子は速度 −vdex で,力は (−e)(−vd)Bex×ez=−evdBey とやはり y=0 側に寄るが,そちらは低電位になる.測定では y=0 側が高いので,粒子は正(正孔,p型の半導体)である.

  2. つり合い eEH=evdB と I=nevdwh,VH=EHw から VH=IBneh.

n=IBehVH=2.0×10−3×0.501.6×10−19×5.0×10−4×5.0×10−3=2.5×1021m−3
vd=Inewh=2.0×10−32.5×1021×1.6×10−19×4.0×10−3×5.0×10−4=2.5ms−1
  1. VH=−IBneh=−2.0×10−3×0.508.5×1028×1.6×10−19×5.0×10−4≈−1.5×10−10V で,符号は逆(y=0 側が低い).

確かめ:EH=vdB=1.25Vm−1,VH=EHw=5.0mV で測定値に戻る.銅では数密度が 107 倍以上大きく,同じ電流でもドリフト速度が小さいのでホール電圧はほとんど測れない.磁場の測定器に半導体を使うのはこのためである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 円軌道の中心は入射点で速度に垂直な直線の上,力の側にある.中心角がふれ角で,時間は中心角を ω で割って出す.

  • 質量分析器では r∝mV/B で,同位体の質量の差の約半分の割合で半径が違う.加速電圧のふらつきはその割合より小さく抑える.

  • 有限の領域を抜けるかどうかは,円の上で最も奥まで届く点が境界を越えるかで決まる.戻る場合の時間は中心角だけで決まる.

  • ホール効果では,電圧の符号から電荷を運ぶ粒子の符号が,VH=IB/(nqh) から数密度が分かる.