問いしるべ
問いから始める物理 電流と磁場

電流と磁場

磁性体の例題

著者:柚木芹香

鉄心のあるコイルの磁場,ヒステリシスによる損失,磁石が金属片を引く力を求めます.B,H,M のどれを計算しているのかを,いつも単位で確かめてください.体積は V と書きます.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

周の長さ ℓ=0.40m,断面積 S=4.0×10−4m2 の細い環の形の鉄心に,導線を N=400 回均等に巻き,電流 I=0.20A を流す.鉄心は比透磁率 μr=2.0×103 の線形な物質とみなし,μ0=4π×10−7NA−2 とする.

  1. 鉄心の中の H,B,磁束 Φ,磁化 M を求めよ.鉄心が無いときの B と比べよ.

  2. 鉄心の1か所を切り,幅 d=1.0×10−3m のすき間を作る.電流は同じとする.すき間での磁束の広がりと漏れを無視して,鉄心とすき間の B を求めよ.巻線の NI のうち何 %がすき間の Hd に使われるか.

N 回の巻線に電流 I を流す環状鉄心.断面積は S,周の長さは ℓ.右は幅 d のすき間を開けた場合で,磁力線が鉄心からすき間へ続く様子を示す.磁場や磁束の計算値は示していない. N 回の巻線に電流 I を流す環状鉄心.断面積は S,周の長さは ℓ.右は幅 d のすき間を開けた場合で,磁力線が鉄心からすき間へ続く様子を示す.磁場や磁束の計算値は示していない.
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考え方 自由電流だけで決まる H の線積分を,環に沿って一周の道で使う.すき間の面では B の法線成分がつながる.

  1. Hℓ=NI より H=400×0.20/0.40=2.0×102Am−1.

B=μrμ0H=2.0×103×4π×10−7×2.0×102=0.50T

で,Φ=BS=2.0×10−4Wb,M=B/μ0−H=(μr−1)H=4.0×105Am−1 である.鉄心が無ければ B=μ0H=2.5×10−4T で,鉄心はその 2.0×103 倍の磁場を作る.磁場の大部分は,巻線の電流ではなく鉄の磁化電流が作っている.

  1. 鉄心の中の磁場の強さを Hi,すき間を Hg とすると,一周の線積分は Hi(ℓ−d)+Hgd=NI.B は両方で等しいので Hi=B/(μrμ0),Hg=B/μ0 で,d は ℓ よりずっと小さいので ℓ−d≈ℓ とすると

B=μ0NIℓ/μr+d=4π×10−7×802.0×10−4+1.0×10−3=8.4×10−2T

である.すき間の分は Hgd=Bd/μ0=67A で,NI=80A の83 %にあたる.1mm のすき間が,40cm の鉄心より大きな「抵抗」になっている.

確かめ:d→0 で(1)に戻り,μr→∞ で B→μ0NI/d=0.10T となる.すき間の広がりを無視できるのは,d が断面の大きさ S=2cm よりずっと小さいからである.実際の鉄は μr が B によって変わるので,B が飽和に近い所ではこの線形の計算は使えない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

変圧器の鉄心の材料のヒステリシス曲線を,横軸 H,縦軸 B の平行四辺形で近似する.B が増えるときは直線 H=Hc+B/κ を,減るときは直線 H=−Hc+B/κ をたどり,B は −Bm と Bm の間を往復する(κ は正の定数).Hc=30Am−1,Bm=1.2T とする.

  1. 1往復で単位体積あたりに失われるエネルギー w を,∫HdB を計算して求めよ.結果は κ によるか.

  2. 体積 V=2.0×10−3m3 の鉄心を振動数 50Hz で使うときの損失の仕事率を求めよ.同じ Bm で保磁力 Hc=8.0×105Am−1 の永久磁石の材料を使ったらどうなるか.

B が増える辺は H = Hc + B/κ,減る辺は H = −Hc + B/κ.B は ±Bm の間を往復する.傾き κ の平行な2辺と ±Hc,±Bm,たどる向きを示す.損失の答えは示していない. B が増える辺は H = Hc + B/κ,減る辺は H = −Hc + B/κ.B は ±Bm の間を往復する.傾き κ の平行な2辺と ±Hc,±Bm,たどる向きを示す.損失の答えは示していない.
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考え方 1周の積分を,B が増える辺と減る辺に分ける.B/κ の部分は往きと帰りで打ち消し合い,±Hc の部分だけが残る.

  1. B が増える辺の寄与は

∫−BmBm(Hc+Bκ)dB=2HcBm

で,B が減る辺の寄与は

∫Bm−Bm(−Hc+Bκ)dB=2HcBm

である.合わせて w=4HcBm=4×30×1.2=1.4×102Jm−3 で,κ によらない.4HcBm は平行四辺形の面積(底辺 2Hc,高さ 2Bm)そのものである.

  1. 仕事率は fwV=50×1.44×102×2.0×10−3=14W である.永久磁石の材料では w=4×8.0×105×1.2=3.8×106Jm−3 で,同じ使い方なら損失は 3.8×105W になり,変圧器にはまったく使えない.そもそも B を反転させるだけで 8.0×105Am−1 もの H が要る.逆に,逆向きの H をかなり加えても磁化が反転しないことが,永久磁石としての長所である.

確かめ:単位は Am−1⋅T=Am−1⋅NA−1m−1=Jm−3 で正しい.Hc→0 なら曲線は1本の直線になり,損失は0になる.実際の鉄心では,鉄心の中を回る誘導電流(第23章)による損失も加わるので,薄い板を絶縁して重ねて使う.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

円柱形の磁石の軸の上,x 軸に沿って,1辺 5.0mm の小さな立方体を置く.立方体の中心の位置で,磁場は +x 向きに B=0.20T で,磁石から離れるほど弱まり,dBdx=−20Tm−1 である.立方体の磁気モーメントは x 方向を向き,力は Fx=mdBdx で見積もる.μ0=1.26×10−6NA−2,g=9.8ms−2 とする.

  1. 鉄の立方体(密度 7.9×103kgm−3)の磁化は,この位置で M=4.0×105Am−1 と測られた.力の大きさと向きを求め,重さと比べよ.

  2. 同じ大きさのアルミの立方体(磁化率 χ=2.2×10−5,密度 2.7×103kgm−3)と,銅の立方体(χ=−9.7×10−6,密度 9.0×103kgm−3)について,同じ見積もりをせよ.

  3. この見積もりの精度を,立方体の大きさと磁場の変化から論じよ.結論は変わるか.

円柱形の磁石の軸に沿って x 軸を取り,その軸上に1辺5.0 mm の立方体を置く.中心での磁場 B は +x 向きで,磁石から離れるほど磁力線が広がる.立方体に働く力の向きは示していない. 円柱形の磁石の軸に沿って x 軸を取り,その軸上に1辺5.0 mm の立方体を置く.中心での磁場 B は +x 向きで,磁石から離れるほど磁力線が広がる.立方体に働く力の向きは示していない.
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考え方 磁気モーメントは m=MV.弱い磁性体では物質を入れても磁場はほとんど変わらないので H≈B/μ0,M=χB/μ0 とする.

  1. V=(5.0×10−3)3=1.25×10−7m3 で,m=MV=5.0×10−2Am2.

Fx=mdBdx=5.0×10−2×(−20)=−1.0N

で,磁石へ向かう向きに 1.0N である.重さは 7.9×103×1.25×10−7×9.8=9.7×10−3N なので,力は重さの約100倍で,鉄片は磁石に吸い付く.

  1. アルミでは M=χB/μ0=2.2×10−5×0.20/(1.26×10−6)=3.5Am−1,力は 3.5×1.25×10−7×20=8.7×10−6N で,磁石へ向かう.重さ 3.3×10−3N の 2.6×10−3 倍にすぎない.銅では M=−1.5Am−1,力は 3.8×10−6N で,磁石から離れる向きである.重さ 1.1×10−2N の 3.5×10−4 倍にすぎない.

  2. 中心での勾配を幅全体に当てはめると,立方体の幅 5.0mm の間の磁場の変化は 20×5.0×10−3=0.10T,つまり中心の値の半分と見積もられる.中心の値だけを使う見積もりは,立方体が磁場の変わる長さ(ここでは B/|dB/dx|=1.0cm)よりずっと小さいことを前提にしているので,ここでは十分よい近似とはいえない.中心の磁場と勾配だけでは誤差の大きさや結論を断定できず,立方体内の磁場と磁化の分布が必要である.ただし,力の向きが変わらず,補正が数倍以内なら,力と重さの比は鉄では約100倍,アルミでは 10−3 倍の程度と桁で違うので,鉄の磁気力は重さより大きく,アルミや銅では小さいという比較は変わらない.

確かめ:鉄の μ0M=0.50T は飽和の約 2.2T より小さく,あり得る値である.鉄の磁化は形や履歴によるので χ からは求めず,測定値を与えた.アルミと銅では |χ| が1より十分小さいので,H≈B/μ0 の近似がよく成り立つ.

ポイント ここまでのまとめ

  • 環状の鉄心では Hℓ=NI から H が決まり,B=μrμ0H.すき間があると B は法線成分がつながる条件から決まり,狭いすき間でも B を大きく下げる.

  • ヒステリシスの損失は1往復で単位体積あたり ∫HdB(曲線の面積).可逆な直線の部分は打ち消し合い,保磁力の幅の分だけが残る.

  • 小片の力は Fx=mdB/dx.鉄とアルミ・銅では磁化が 105 倍ほど違うので,付くか付かないかがはっきり分かれる.

  • 中心の値で力を見積もるには,小片が磁場の変わる長さより小さいことが要る.