問いしるべ
問いから始める物理 マクスウェル方程式

マクスウェル方程式

変位電流とマクスウェル方程式

著者:柚木芹香

問い

電池と抵抗をつないで,平行板コンデンサーを充電します.導線には電流が流れ,そのまわりには第22章で調べたとおり円を描く磁場ができます.ところが,2枚の極板の間はすき間で,電流は流れていません.では,充電している間,極板のすき間のまわりにも磁場はできるのでしょうか.それとも,導線の所にだけ磁場があって,すき間の所では途切れるのでしょうか.

この章は電磁気の分野(第20章から第24章)のまとめです.第20章の初めに,電荷は場を作り,場は電荷に力を及ぼす,そして電場と磁場の法則は全部で4つにまとまる,という見取り図を示しました.第20章から第23章で,その4つを静電気,電流と磁場,電磁誘導の順に1つずつ確かめてきました.この題材では,その中で1つだけ足りなかった項(変位電流)を足し,4つの法則を積分形と微分形で並べます.次の題材「場のエネルギーとその流れ」では,場がエネルギーを持ち,そのエネルギーが空間を流れることを見ます.ここで完成した法則から,第25章で波の性質を調べたあと,第26章で電磁波を導きます.第20章から第23章で(発展)の微分形を飛ばした人は,この章でも表の微分形の列と,それを使う式変形(電荷の保存,真空の渦の式,ポインティングの定理の導き方)は結果だけを認め,積分形で先へ進んでかまいません.「(発展)」と付けた同軸ケーブルと場の運動量の節も飛ばせます.

ポイント 第24章で使う記号

記号

意味

ΦE

電束(面を貫く電場の流束).磁束は Φ

Id=ε0dΦE/dt

変位電流(単位 A)

j, jd=ε0∂E/∂t

電流密度,変位電流密度(単位 Am−2)

ρ

電荷密度.この章では抵抗率に使わない

γ

導電率(j=γE,抵抗率の逆数)

u=uE+uB

場のエネルギー密度(単位 Jm−3)

UE, UB

ある領域の電場と磁場のエネルギー

S

ポインティングベクトル(単位 Wm−2).この章では面積に S を使わず A を使う

dA, dl, dV

面要素(大きさは面積,向きは面の法線),線要素,体積要素

ex, ey, ez

右手系の直交座標の単位ベクトル

er, eϕ, ez

円筒座標の単位ベクトル.r は軸からの距離,ϕ は +z 側から見て反時計回りが正.成分は Ez, Bϕ, Sr のように書く

c=1/ε0μ0

光の速さ

g

場の運動量密度(発展)

閉じた道に沿って一周する積分の記号は使わず,∫B⋅dl と書いて「閉じた道に沿って一周」と言葉で断ります.閉じた面全体の積分も同じです.球対称な場では er は中心から外向きの単位ベクトルです.

考えてみる

第22章のアンペールの法則は,閉じた道に沿って一周した磁場の線積分が,その道を縁とする面を貫く電流の μ0 倍になる,というものでした.

∫B⋅dl=μ0I

充電中の導線を囲む円を道に選び,面としてその円を張る平らな円板をとれば,導線が貫くので右辺は μ0I です.ところが,同じ円を縁にしたまま,面を袋のようにふくらませて極板のすき間を通すと,面を貫く電流はありません.右辺は0です.左辺は道だけで決まる量なので,面の選び方で答えが変わるのは矛盾です.

充電中のコンデンサーの下の導線を囲む同じ円を,平らな面A₁と袋の形の面A₂の縁にとる.A₁は導線が貫き,A₂は正極板の外を回り込んで極板のすき間を通る. 充電中のコンデンサーの下の導線を囲む同じ円を,平らな面A₁と袋の形の面A₂の縁にとる.A₁は導線が貫き,A₂は正極板の外を回り込んで極板のすき間を通る.

電流が一定で,どこにも電荷がたまらない場合は,この矛盾は起きません.2つの面を合わせた閉じた面に入る電流と出る電流が等しいので,どちらの面を貫く電流も同じだからです.困るのは,極板に電荷がたまっていく所です.アンペールの法則は,定常電流についてしか確かめられていなかったのです.

変位電流

すき間には電流はありませんが,電場があり,それが増えていきます.極板の面積を A,正極板の電荷を Q とすると,ガウスの法則から極板の間の電束は ΦE=Q/ε0 です.充電電流は I=dQ/dt なので

ε0dΦEdt=dQdt=I

です.導線を貫く平らな面では電流が I で電束は変わらず,すき間を通る袋の面では電流が0で ε0dΦE/dt が I です.電流と ε0dΦE/dt の和は,どちらの面でも同じです.

これはこのコンデンサーに限りません.同じ道を縁とする2つの面で閉じた面を作ると,電荷の保存から,閉じた面から出ていく電流は中の電荷の減る速さに等しく,ガウスの法則から,閉じた面から出る電束は中の電荷の 1/ε0 倍です.2つを合わせると,閉じた面から出ていく電流と ε0dΦE/dt の和はいつも0です.つまり,電流と ε0dΦE/dt の和は,面の選び方によらず,縁の道だけで決まります.

定義 変位電流

面を貫く電束 ΦE の変化から作った量

Id=ε0dΦEdt

を変位電流という.各点での密度は jd=ε0∂E/∂t で,電流と同じ単位 A(密度は Am−2)をもつ.

変位電流は電荷の流れではありません.名前は歴史的なもので,磁場を作る点だけが電流と同じです.マクスウェルは,アンペールの法則の右辺に変位電流を足しました.

法則 アンペール・マクスウェルの法則

閉じた道に沿って一周した磁場の線積分は,その道を縁とする面を貫く電流 I と変位電流 Id の和の μ0 倍に等しい.

∫B⋅dl=μ0(I+ε0dΦEdt)

面の向きと道を回る向きは右ねじの関係にとる.

円板の極板(半径 a)の間で,軸を中心とする半径 r の円を道にとると,極板の間の電場は一様なので,円を貫く電束は全体の r2/a2 です.軸対称性から磁場は円に沿う向きで大きさが一定なので,r が a より小さい所では B=μ0Ir/(2πa2),a より大きい所では B=μ0I/(2πr) となります(数学の節の例題1).極板の外側の円では,導線のまわりと同じ磁場です.

[図:充電中のコンデンサーの半径と磁場]

初期状態はr = 0.50aで,円を貫く電束は全体の25 %である.上に極板の側面図,下に極板の間の平面図,右にBとrのグラフを示す.スライダーでrを変えると,数える電束の面とグラフ上の点が動く.r = aで直線の増加から1/rの減少につながる.

4つの法則

これで電場と磁場の法則がそろいました.積分形の Φ,ΦE,I は,閉じた道を縁とする止まった面についての量です.微分形は,ガウスの定理とストークスの定理で積分形を各点の式に直したもので,両者は同じことを言っています(数学の節).

法則 マクスウェル方程式

法則

積分形

微分形

ガウスの法則(第20章)

閉じた面で ∫E⋅dA=Qinε0

∇⋅E=ρε0

磁場のガウスの法則(第22章)

閉じた面で ∫B⋅dA=0

∇⋅B=0

ファラデーの法則(第23章)

閉じた道で ∫E⋅dl=−dΦdt

∇×E=−∂B∂t

アンペール・マクスウェルの法則(第22章とこの節)

閉じた道で ∫B⋅dl=μ0I+μ0ε0dΦEdt

∇×B=μ0j+μ0ε0∂E∂t

場が電荷に及ぼす力はローレンツ力 F=q(E+v×B)(第22章)である.

表は,第20章の見取り図で言葉で書いた4つの法則を,同じ順に式で書いたものです.1行目と2行目は場の湧き出し(電場には電荷という湧き出しがあり,磁場にはない),3行目と4行目は場の渦(電場の渦は磁場の変化が,磁場の渦は電流と電場の変化が作る)を述べています.回路が動く場合は,起電力を電荷に働く力(ローレンツ力)の一周の積分ととれば,運動起電力(第23章)も含めて磁束の法則 E=−dΦ/dt が成り立ちます.

電荷の保存は,この4つから導けます.アンペール・マクスウェルの法則の微分形の発散をとると,左辺は ∇⋅∇×B=0(どんな場でも0,第22章と数学の節)なので,∇⋅j+ε0∂/∂t(∇⋅E)=0 です.ガウスの法則を入れると

∂ρ∂t+∇⋅j=0

で,第21章の連続の式になります.変位電流の項が無いと ∇⋅j=0 がいつも要求され,電荷がたまることが許されません.第22章の数学の節で,元のアンペールの法則は定常電流に限られると注意したのはこのためです.変位電流は,電荷の保存と両立させるために必要な項なのです.

場は自分で伝わる

電荷も電流も無い真空では,渦の2つの式は

∇×E=−∂B∂t,∇×B=1c2∂E∂t,c=1ε0μ0

となり,ほとんど対称な形になります.変化する磁場がまわりに電場を作り,変化する電場がまわりに磁場を作ります.すると,いったん場の変化が起これば,電荷から離れたところでも,場が互いを作り合いながら進んでいけるはずです.ε0=8.85×10−12Fm−1,μ0=1.26×10−6Hm−1 から 1/ε0μ0=3.00×108ms−1 で,光の速さと一致します.電荷の間の力と電流の間の力という静的な測定だけから,光の速さが出てくるのです.これが第26章の電磁波です.

空間に並ぶ電場Eはx方向,磁場Bはそれに垂直なy方向を向く.2つの場の山と谷は同じ位置にある.場の変化が互いに結び付くことを,2本の矢印でつないだ輪で示す.場の矢印の長さは,それぞれ任意の尺度である. 空間に並ぶ電場Eはx方向,磁場Bはそれに垂直なy方向を向く.2つの場の山と谷は同じ位置にある.場の変化が互いに結び付くことを,2本の矢印でつないだ輪で示す.場の矢印の長さは,それぞれ任意の尺度である.

準静的近似

第21章から第23章の回路では,各瞬間の電荷と電流から静的な場の式で場を求めました.これを準静的近似といいます.大きさ L の装置で,場が時間 τ 程度で変わるとします.磁場 B の変化がファラデーの法則で作る電場は E∼LB/τ 程度で,その電場の変化の変位電流が作る磁場は μ0ε0LE/τ∼L2B/(cτ)2 程度です.磁場の補正の割合は (L/(cτ))2 で,L/(cτ) が十分小さい,つまり光が装置を横切る時間が変化の時間よりずっと短ければ,補正を無視できます.50Hz の交流では cτ=c/ω≈950km で,部屋の中の回路はまったく問題ありません.1GHz では cτ≈5cm で,手のひらほどの回路でも近似が破れ,回路は電磁波を出します.

準静的近似は,変位電流をすべて捨てることではありません.コンデンサーの極板の間の変位電流は導線の電流の続きで,小さくありません.捨てるのは,場の変化が作った場がさらに場を作る,という連鎖の2段目です.金属の中では,角振動数 ω の変化に対して変位電流と伝導電流の比は ωε0/γ で,銅(γ=6×107Sm−1)なら 1GHz でも 10−9 程度です.導体の中の変位電流はふつう無視できます.

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充電している間,極板のすき間のまわりにも磁場はできます.すき間では電流は流れていませんが,電場が増えていて,その変位電流 ε0dΦE/dt は導線の電流 I にちょうど等しいからです.極板より外側の円では,磁場は導線のまわりと同じ μ0I/(2πr) で,すき間の所で途切れることはありません.

ポイント ここまでのまとめ

  • アンペールの法則は,電荷がたまる所では面の選び方で答えが変わり,矛盾する.

  • 変位電流 Id=ε0dΦE/dt を足したアンペール・マクスウェルの法則で,矛盾が消え,電荷の保存とも両立する.

  • マクスウェル方程式は,場の湧き出し(ガウスの2つの法則)と渦(ファラデー,アンペール・マクスウェル)の4つで,積分形と微分形は同じことを言う.

  • 真空では変化する電場と磁場が互いを作り,場は速さ c=1/ε0μ0 で自分で伝わる.

  • 準静的近似は,装置の大きさ L が cτ よりずっと小さいときに使え,補正の割合は (L/(cτ))2 程度.