本体の節では,マクスウェル方程式を積分形と微分形の2通りで並べました.ここでは,面積分と線積分の向きの約束を確かめ,第20章のガウスの定理とストークスの定理で2つの形を行き来します.あわせて,電荷の保存を導くのに使った 𝛁 ⋅𝛁 ×𝑭 =0 と,𝛁 ×𝛁𝑓 =0 をまとめます.
定理 数学の道具:流束と循環
ベクトル場 𝑭 の面を通る流束は ∫𝑭 ⋅d𝑨,閉じた道に沿った循環は,道に沿って一周した ∫𝑭 ⋅d𝒍 である.d𝑨 は大きさが小さな面の面積で向きが面の法線のベクトルで,閉じた面では外向き,縁のある面では,縁を回る向きに右ねじを回したときに進む向きにとる.
𝑭 が面に垂直で一様なら,流束は(法線成分)×(面積).
半径 𝑟 の円に沿って 𝐹𝜙 が一定なら,循環は 2𝜋𝑟𝐹𝜙.
止まった面では d/d𝑡∫𝑬 ⋅d𝑨 =∫𝜕𝑬/𝜕𝑡 ⋅d𝑨.
定理 数学の道具:ガウスの定理とストークスの定理(第20章)
領域 𝑉 を囲む閉じた面について,また,閉じた道 𝐶 を縁とする面 Σ について
∫𝑭⋅d𝑨=∫𝑉𝛁⋅𝑭dV,∫𝐶𝑭⋅d𝒍=∫Σ(𝛁×𝑭)⋅d𝑨
が成り立つ.左の式の左辺は閉じた面全体の積分,右の式の左辺は 𝐶 に沿って一周する積分である.
積分形から微分形へは次のように直します.アンペール・マクスウェルの法則の左辺をストークスの定理で面積分に直し,右辺の電流と電束も同じ面 Σ の積分で書くと
∫Σ(𝛁×𝑩)⋅d𝑨=∫Σ(𝜇0𝒋+𝜇0𝜀0𝜕𝑬𝜕𝑡)⋅d𝑨
です.これがどんなに小さな面でも,どの向きの面でも成り立つので,被積分関数どうしが各点で等しく,𝛁 ×𝑩 =𝜇0𝒋 +𝜇0𝜀0𝜕𝑬/𝜕𝑡 となります.ガウスの法則も,両辺を体積積分で書いて,どんな小さな領域でも等しいことから 𝛁 ⋅𝑬 =𝜌/𝜀0 です.逆に,微分形を面や領域で積分して定理を使えば,積分形に戻ります.問題を解くときは,対称性がある場合に積分形が掛け算で済み,便利です.微分形は,各点で何が起きているかを述べ,法則どうしを組み合わせるのに向いています.
定理 数学の道具:𝛁 ⋅𝛁 ×𝑭 =0 と 𝛁 ×𝛁𝑓 =0(第20章・第22章)
どんなベクトル場 𝑭 と関数 𝑓 についても
𝛁⋅(𝛁×𝑭)=0,𝛁×(𝛁𝑓)=0
が成り立つ.
どちらも成分で書けば,偏微分の順序を入れ替えてよいので項が2つずつ打ち消し合って0になります(第20章と第22章の数学の節).定理で見ると意味が分かります.閉じた面には縁が無いので,ストークスの定理から 𝛁 ×𝑭 の閉じた面全体の流束は0で,ガウスの定理からその発散も0です.勾配の循環は端点だけで決まり(第20章),閉じた道では0なので,回転も0です.前者を使うと,本体の節のように電荷の保存が導けます.同じように,ファラデーの法則の発散をとると 𝜕/𝜕𝑡(𝛁⋅𝑩) =0 で,ある時刻に 𝛁 ⋅𝑩 =0 なら,それはずっと保たれます.
練習1 𝑘 を定数として,電場 𝑬 =𝑘(𝑥𝒆𝑥+𝑦𝒆𝑦) の発散と回転を求め,この電場を作る電荷密度を答えよ.
練習2 𝑏 を定数として,磁場 𝑩 =𝑏(−𝑦𝒆𝑥+𝑥𝒆𝑦) の回転を求めよ.この磁場を円筒座標の成分で表せ.電流の無い所で,この磁場が変位電流だけで作られているなら,𝜕𝑬/𝜕𝑡 はいくらか.
答え 練習1:𝛁 ⋅𝑬 =2𝑘,𝛁 ×𝑬 =0.電荷密度は 𝜌 =𝜀0𝛁 ⋅𝑬 =2𝜀0𝑘 で,一様である.練習2:𝑥,𝑦 成分は0で,𝑧 成分は 𝜕/𝜕𝑥(𝑏𝑥) −𝜕/𝜕𝑦(−𝑏𝑦) =2𝑏 なので 𝛁 ×𝑩 =2𝑏𝒆𝑧.−𝑦𝒆𝑥 +𝑥𝒆𝑦 =𝑟𝒆𝜙 なので 𝐵𝜙 =𝑏𝑟 で,軸のまわりを回り,軸から離れるほど強い.𝛁 ×𝑩 =𝜇0𝜀0𝜕𝑬/𝜕𝑡 から 𝜕𝑬/𝜕𝑡 =2𝑏𝑐2𝒆𝑧.積分形でも,半径 𝑟 の円で 2𝜋𝑟 ⋅𝑏𝑟 =𝜇0𝜀0𝜋𝑟2𝜕𝐸𝑧/𝜕𝑡 となり一致する.
例題
半径 𝑎 =5.0 cm の2枚の円板を間隔 𝑑 =2.0 mm で向かい合わせた真空のコンデンサーを,一定の電流 𝐼 =0.50 A で充電する.正極板から負極板へ向かう向きを +𝑧 とし,縁の効果は無視する.𝜀0 =8.85 ×10−12 Fm−1,𝜇0 =4𝜋 ×10−7 Hm−1 とする.
極板の間の電場が増える速さ d𝐸𝑧/d𝑡 を求めよ.
極板の間の平面で,軸からの距離 𝑟 の点の磁場 𝐵𝜙 を,𝑟 <𝑎 と 𝑟 >𝑎 に分けて求めよ.𝑟 =𝑎 での値も求めよ.
𝑟 <𝑎 の磁場が,微分形のアンペール・マクスウェルの法則を満たすことを確かめよ.
[図:円板コンデンサーと円形の道]半径a,間隔dの円板コンデンサーを充電する.正極板から負極板へ向かう向きを+zとする.極板の間に半径rの円形の道と,その円に沿う磁場Bφを示す.電場と磁場の計算結果は記していない.
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考え方 極板の間の電場は一様で 𝐸𝑧 =𝑄/(𝜀0𝜋𝑎2).半径 𝑟 の円を道にとり,円を張る平らな円板を面にすると,電流は貫かず,変位電流だけが貫く.軸対称性から 𝐵𝜙 は円の上で一定.
d𝑄/d𝑡 =𝐼 より
d𝐸𝑧d𝑡=𝐼𝜀0𝜋𝑎2=0.508.85×10−12×𝜋×(5.0×10−2)2≈7.2×1012Vm−1s−1
𝑟 <𝑎 では円を貫く変位電流は 𝜀0𝜋𝑟2d𝐸𝑧/d𝑡 =𝐼𝑟2/𝑎2 なので,2𝜋𝑟𝐵𝜙 =𝜇0𝐼𝑟2/𝑎2 より
𝐵𝜙=𝜇0𝐼𝑟2𝜋𝑎2
𝑟 >𝑎 では電場は極板の間だけにあるので変位電流は 𝐼 全体で,𝐵𝜙 =𝜇0𝐼/(2𝜋𝑟).𝑟 =𝑎 では
𝐵𝜙=𝜇0𝐼2𝜋𝑎=2.0×10−7×0.505.0×10−2=2.0×10−6T
で,2つの式はつながる.向きは +𝑧 側から見て反時計回り.
𝑟𝒆𝜙 = −𝑦𝒆𝑥 +𝑥𝒆𝑦 なので,𝑟 <𝑎 の磁場は練習2で 𝑏 =𝜇0𝐼/(2𝜋𝑎2) としたものである.よって 𝛁 ×𝑩 =2𝑏𝒆𝑧 =𝜇0𝐼𝜋𝑎2𝒆𝑧.一方,電流の無い極板の間で右辺は 𝜇0𝜀0𝜕𝑬/𝜕𝑡 =𝜇0𝜀0𝐼𝜀0𝜋𝑎2𝒆𝑧 =𝜇0𝐼𝜋𝑎2𝒆𝑧 で,一致する.
確かめ:𝑟 =𝑎 の磁場は地磁気(5 ×10−5 T 程度)の 1/25 ほどで,小さいが測れる.𝐼 が一定なら磁場は時間変化しないので,ファラデーの法則による電場の補正も生じない.縁の効果を無視するには 𝑑/𝑎 が十分小さい(ここでは 0.04)ことが要る.
小さな放射性の球が,正の電荷をもつ粒子をすべての向きに同じように放出し,まわりの真空へ電荷が球対称に広がっていく.外部からの電磁場はないものとする.時刻 𝑡 に,中心からの距離 𝑟 の球面の内側にある電荷を 𝑄(𝑟,𝑡) とする.
この球面を外向きに通る電流 𝐼(𝑟,𝑡) を 𝑄 で表せ.
球面上の電場と,球面を外向きに通る変位電流 𝐼𝑑 を求めよ.
電流が流れているのに,どこにも磁場ができないことを示せ.
[図:球対称に外へ流れる電流]中心の小さな球から正の電荷をもつ粒子がすべての向きへ放出される.半径rの球面と外向きの電流I(r,t),球面上の小さな円の道,その円を縁とする球面の一部を示す.
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考え方 球対称なので,電場も電流密度も半径方向で,大きさは 𝑟 と 𝑡 だけで決まる.電場は 𝑄 の符号により外向きにも内向きにもなる.磁場の向きを対称性から絞り,電流と変位電流の和を調べる.
電荷の保存から,球面から出ていく電流は内側の電荷の減る速さに等しく,𝐼 = −𝜕𝑄/𝜕𝑡.
ガウスの法則から 𝑬 =𝑄4𝜋𝜀0𝑟2𝒆𝑟.外向きの電束は Φ𝐸 =𝑄/𝜀0 なので 𝐼𝑑 =𝜀0𝜕Φ𝐸/𝜕𝑡 =𝜕𝑄/𝜕𝑡 = −𝐼.各点でも,電流密度 𝒋 =𝐼4𝜋𝑟2𝒆𝑟 と変位電流密度 𝜀0𝜕𝑬/𝜕𝑡 =14𝜋𝑟2𝜕𝑄𝜕𝑡𝒆𝑟 は打ち消し合い,𝒋 +𝜀0𝜕𝑬/𝜕𝑡 =0 である.
球面上の点で磁場が球面に沿う成分をもつとすると,その点を通る半径の線のまわりに配置を回しても何も変わらないのに,その成分の向きだけが回ってしまう.よって磁場は半径方向しか許されない.半径成分を 𝐵𝑟(𝑟,𝑡) とすると,磁場のガウスの法則から 4𝜋𝑟2𝐵𝑟 =0 で 𝐵𝑟 =0.したがって磁場は0である.アンペール・マクスウェルの法則とも整合する.球面上の小さな円を道にとり,それを縁とする球面の一部を面にとると,貫く電流と変位電流の和は0なので,循環は0である.
確かめ:変位電流の項が無いと,球面上の円の循環が 𝜇0 倍の電流の分だけ0でないことになり,(3) の対称性の議論と矛盾する.この例は,変位電流が無ければ法則そのものが矛盾することを示している.
電荷も電流も無い真空で,𝐸0,𝐵0,𝑘,𝜔 を正の定数として,次の場を考える.
𝑬=𝐸0cos(𝑘𝑧−𝜔𝑡)𝒆𝑥,𝑩=𝐵0cos(𝑘𝑧−𝜔𝑡)𝒆𝑦
2つのガウスの法則を満たすことを確かめよ.
ファラデーの法則とアンペール・マクスウェルの法則の微分形から,𝐵0 と 𝐸0 の関係,𝜔 と 𝑘 の関係を求めよ.
この場の山が進む向きと速さを求めよ.
[図:z軸に沿って並ぶ電場と磁場]ある瞬間の電場Exと磁場Byをz軸に沿って描く.電場はx方向,磁場はy方向に振れ,山と谷は同じ位置にそろう.矢印の長さは場ごとに任意の尺度である.進行方向,速さ,E₀とB₀の関係は図には記さない.
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考え方 成分が1つで,𝑧 と 𝑡 だけの関数なので,回転のうち残るのは 𝑧 で微分する項だけである.
𝐸𝑥 は 𝑥 によらないので 𝛁 ⋅𝑬 =𝜕𝐸𝑥/𝜕𝑥 =0.同じく 𝛁 ⋅𝑩 =𝜕𝐵𝑦/𝜕𝑦 =0.電荷の無い真空のガウスの法則を満たす.
𝛁 ×𝑬 =𝜕𝐸𝑥𝜕𝑧𝒆𝑦 = −𝑘𝐸0sin(𝑘𝑧 −𝜔𝑡) 𝒆𝑦,−𝜕𝑩𝜕𝑡 = −𝜔𝐵0sin(𝑘𝑧 −𝜔𝑡) 𝒆𝑦.ファラデーの法則から 𝑘𝐸0 =𝜔𝐵0.また 𝛁 ×𝑩 = −𝜕𝐵𝑦𝜕𝑧𝒆𝑥 =𝑘𝐵0sin(𝑘𝑧 −𝜔𝑡) 𝒆𝑥,1𝑐2𝜕𝑬𝜕𝑡 =𝜔𝐸0𝑐2sin(𝑘𝑧 −𝜔𝑡) 𝒆𝑥 なので 𝑘𝐵0 =𝜔𝐸0/𝑐2.2式を掛けると 𝑘2𝐸0𝐵0 =𝜔2𝐸0𝐵0/𝑐2 で
𝜔𝑘=𝑐,𝐵0=𝑘𝜔𝐸0=𝐸0𝑐
𝑘𝑧 −𝜔𝑡 が一定の点は 𝑧 =(𝜔/𝑘)𝑡 +一定 と動くので,山は +𝑧 向きに速さ 𝜔/𝑘 =𝑐 で進む.
確かめ:単位は 𝐸0/𝑐 が Vm−1/(ms−1) =Vsm−2 =T で合う.電荷も電流も無いのに場が光の速さで進むことは,本体の節の「場は自分で伝わる」の具体例で,第26章で詳しく扱う.近似は使っていない.
ポイント ここまでのまとめ
流束と循環の向きは,閉じた面では外向き,縁のある面では縁と右ねじの関係にとる.
ガウスの定理とストークスの定理で,積分形の法則と微分形の法則は互いに直せる.
𝛁 ⋅𝛁 ×𝑭 =0,𝛁 ×𝛁𝑓 =0 は成分の計算でも,定理でも示せる.前者から電荷の保存が出る.
充電中の円板コンデンサーの極板の間では 𝐵𝜙 =𝜇0𝐼𝑟/(2𝜋𝑎2)(𝑟 <𝑎)で,外側では導線のまわりと同じ.
球対称な電流では,電流と変位電流が打ち消し,磁場はできない.