問いしるべ
問いから始める物理 電磁誘導と交流

電磁誘導と交流

第23章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,磁場と運動や磁場の変化から起電力が生まれる電磁誘導を扱いました.起電力の生じ方は2つあり,1つは磁場の中を動く導体の電荷が受ける磁気力,もう1つは時間とともに変わる磁場が周りに作る誘導電場です.まったく別の仕組みなのに,どちらも「回路を貫く磁束の変化の速さ」という1つの式 E=−dΦ/dt にまとまりました.回路が自分の電流の変化に逆らう自己誘導からは,コイルのエネルギーと磁場のエネルギー密度,そしてばね振り子と同じ形の電気振動が出てきました.最後に,振動する量を複素数で表すと微分が掛け算に変わり,交流回路が直流回路と同じ手順で解けることを見ました.

定義と法則

定義 起電力と磁束

  • 回路を一周したとき,単位電荷あたりの力の接線成分を道に沿って積分したものを起電力という.符号は,回路を回る正の向きを決めて初めて決まる.

  • 回路を回る正の向きと面の正の法線 n を右ねじの関係にとり,回路を貫く磁束を Φ=∫B⋅ndS と定める.単位は Wb=Tm2.磁場に湧き出しが無いので,回路を縁とする面の選び方によらない.

  • N 回巻きのコイルでは各巻きの磁束の和 NΦ を使い,これを鎖交磁束という.

法則 運動起電力

導体が磁場 B の中を速度 v で動くとき,導体の中の電荷は単位電荷あたり v×B の力を受ける.これを導体に沿って積分したものが運動起電力で,長さ l の棒と速度と磁場が互いに垂直なら E=vBl である.磁気力は自分では仕事をせず,導体を動かす仕事を,導体に沿って電荷を押す仕事へ受け渡す.

法則 ファラデーの電磁誘導の法則

空間に固定した閉じた道について

∫一周E⋅dl=−dΦdt

が成り立つ(回る向きと面の法線は右ねじの関係).道に沿って導線が無くても成り立つ.磁場の変化が作るこの電場を誘導電場といい,一周の線積分が0でないので電位は定義できない.微分形(発展)は ∇×E=−∂B/∂t で,第24章でマクスウェル方程式の1つになる.

法則 磁束の法則とレンツの法則

  • 回路が動いても,磁場が変わっても,その両方でも,回路の正の向きの起電力は

E=−dΦdt

である.回路が動く部分の起電力は v×B から,磁場が変わる部分は誘導電場から来る.

  • 負号は,誘導電流が作る磁場が磁束の変化を妨げる向きになることを表す(レンツの法則).符号が逆なら導体はひとりでに加速して熱を出し続けるので,これはエネルギーの保存の表れである.

  • 同じ導体の部分をたどって作った回路にだけ使える.単極発電機(ファラデーの円板)のように使えない場合は,電荷に働く力 F=q(E+v×B) と,固定した道についてのファラデーの法則に戻る.

ポイント 誘導があるときの回路の式

回路を正の向きに一周するとき,抵抗での電圧降下の和は起電力の和に等しい.

∑kRkIk=∑kEk−dΦdt

誘導が無ければキルヒホッフの第2法則にもどる.電圧計の読みは端子の導線がたどる道に沿った電場の線積分で,道が囲む磁束が変われば読みも変わる.誘導があるときの「2点間の電圧」は,道を決めて初めて意味をもつ.

定義 自己インダクタンスと相互インダクタンス

  • 回路自身の電流 I が作る鎖交磁束を NΦ=LI と書き,L を自己インダクタンスという.単位は H=WbA−1=VsA−1.電流が変わると,電流の正の向きに E=−LdI/dt の起電力が生じる(自己誘導).このため,コイルを流れる電流は連続に変わる.

  • コイル1の電流がコイル2に作る鎖交磁束を M21I1,逆を M12I2 とすると,エネルギーの考察から M12=M21=M で,M を相互インダクタンスという.正の電流どうしが同じ向きの磁場を作るとき M>0.

  • M2≤L1L2.k=M/L1L2 を結合の割合といい,一方の磁束がすべて他方を貫くとき |k|=1.

法則 コイルのエネルギーと磁場のエネルギー

  • 電流 I が流れるコイルはエネルギー U=12LI2 を蓄えている.2つのコイルでは U=12L1I12+MI1I2+12L2I22.

  • このエネルギーは磁場にあり,真空の空間には単位体積あたり B22μ0 のエネルギーがある.

  • 抵抗が0の回路では,外から貫く磁束と自分の電流の磁束の和 LI+Φext が一定に保たれる.

定義 交流の表し方

  • V(t)=V0cos⁡(ωt+ϕ) の V0 を振幅,f=ω/(2π) を周波数という.Ve=V0/2,Ie=I0/2 を実効値といい,抵抗での平均の消費電力は VeIe=Ve2/R.

  • 定常状態の電圧と電流を V(t)=Re⁡(V^eiωt),I(t)=Re⁡(I^eiωt) と書き,V^=V0eiϕ を複素振幅という.絶対値が振幅,偏角が位相である.

  • Z=V^/I^ を複素インピーダンス,Z=R+iX の X をリアクタンス,Y=1/Z をアドミタンスという.|Z|=V0/I0 で,Z の偏角は電圧が電流より進む位相である.

交流回路を解く手順

ポイント 交流回路を複素インピーダンスで解く手順

  1. 使ってよいかを確かめる.素子が線形で,回路の大きさが波長 c/f より十分小さい(集中定数の近似)こと.過渡的な振動が消えた定常状態だけを考える.

  2. 電源を複素振幅で書く.cos⁡ωt は Re⁡(eiωt),sin⁡ωt は Re⁡(−ieiωt) で,Iccos⁡ωt+Issin⁡ωt の複素振幅は Ic−iIs.

  3. 各素子を複素インピーダンスに置き換える.時間の微分は iω の掛け算なので ZR=R,ZL=iωL,ZC=1/(iωC)=−i/(ωC).相互誘導があれば V^1=iωL1I^1+iωMI^2,V^2=iωMI^1+iωL2I^2 を使う.

  4. 直流回路と同じ規則で解く.キルヒホッフの法則は複素振幅についてそのまま成り立ち,各素子は V^=ZI^ に従う.直列は Z=Z1+Z2,並列は 1/Z=1/Z1+1/Z2,分圧やブリッジの平衡の条件も同じ形で使える.

  5. 複素数の掛け算・割り算は極形式 |z|eiθ で行い,絶対値は掛け算,偏角は足し算にする.分母を実数にするには 1/z=z∗/|z|2 を使う.

  6. 実部に戻す.Re⁡(|z|eiθeiωt)=|z|cos⁡(ωt+θ) で,複素振幅の絶対値が振幅,偏角が位相になる.

  7. 電力は積なので,実部をとってから掛ける.平均電力は P=12Re⁡(V^I^∗) で求める.

  8. 位相の違う電圧の実効値は足せない.電圧の和は複素振幅の和(ベクトル図の矢印の和)である.

  9. 入力がいくつもの周波数を含むときは,周波数ごとに解いて足す.

主な公式

  • 運動起電力:棒 E=vBl,回転する長さ a の棒 12Bωa2,回転するコイル E=NBSωsin⁡ωt(複素振幅 −iNBSω)

  • レールの上の棒(抵抗 R):I=vBl/R,制動力 B2l2v/R,外力の仕事率 B2l2v2/R=I2R=EI.運動方程式 mdv/dt=F−B2l2v/R,時定数 mR/(B2l2),終端速度 FR/(B2l2)

  • 抵抗の代わりにコンデンサー C:(m+CB2l2)dv/dt=F

  • 回路を通った電荷:q=−ΔΦ/R(動かし方によらない)

  • 長いソレノイドの誘導電場:E=r2|dB/dt|(r<a),E=a22r|dB/dt|(r≥a)

  • ベータトロンの条件:Bav=2Borb

  • 渦電流自身の磁場を無視できる条件:μ0κb2/T が1より十分小さい

  • 細長いソレノイド:L=μ0N2S/l=μ0n2Sl

  • RL回路:LdI/dt+RI=E0,I=E0R(1−e−t/τ),τ=L/R.電源を外すと I=I0e−t/τ

  • 直列のコイル:L1+L2±2M

  • LRC回路:Lq¨+Rq˙+q/C=0,ω0=1/LC,γ=R/(2L),ω′=ω02−γ2,Q=ω0L/R.R<2L/C で減衰振動,R=2L/C で臨界減衰,R>2L/C で過減衰

  • 回路のエネルギー:ddt(12LI2+q22C)=−RI2(電源があれば右辺に EI が加わる)

  • 直列RLCの交流:Z=R+i(ωL−1ωC),I0=V0R2+(ωL−1/(ωC))2.共振のとき Z=R で,コイルとコンデンサーの電圧の振幅は QV0

  • 共振の幅:ω+−ω−=R/L,ω+ω−=ω02,Q=ω0/(ω+−ω−).ω0 の近くで X≈2L(ω−ω0)

  • 並列のLC:Y=i(ωC−1ωL) が ω0 で0(並列共振)

  • 平均電力:P=12Re⁡(V^I^∗)=VeIecos⁡φ=RIe2,力率 cos⁡φ=R/|Z|

  • 理想変圧器:n=N2/N1 として V^2=nV^1,I^1=nI^2′.負荷 Z は1次側から Z/n2 に見える.送電線の損失は r(P/Ve)2

  • RCローパス:H=11+iω/ωc,ωc=1/(RC),|H|=1/1+(ω/ωc)2.ハイパスは H=iω/ωc1+iω/ωc

各題材の問いへの答え

  • 運動起電力とレンツの法則:発電機のコイルが磁場の中を動くとき,導線の電荷を押しているのは磁気力 qv×B である.磁気力は仕事をせず,コイルを回す仕事を電荷を押す仕事へ受け渡す.流れた電流にはレンツの法則により回転を妨げる力が働くので,電灯をつけるとペダルが重くなる.磁石が回る発電機でも起電力は同じ磁束の法則で求まるが,電荷を押しているのは変化する磁場が作る電場である.

  • 誘導電場とファラデーの法則:IH調理器のコイルの速く変わる磁場が,止まった鍋の底を回る誘導電場を作り,それが渦電流を流して鍋を熱くする.ガラスの天板にも同じ電場はあるが,絶縁体なので電流が流れず,熱くならない.

  • インダクタンスと電気振動:コイルの電流を急に断ち切ると,自己誘導の起電力 −LdI/dt が電流を流し続ける向きに非常に大きく生じ,火花が飛ぶ.火花のエネルギー 12LI2 は,スイッチを切る前にはコイルの中の磁場に密度 B2/(2μ0) で蓄えられていた.

  • 交流回路と共振:ラジオの入口のLC共振回路は,ω0=1/LC に近い周波数の信号にだけ小さなインピーダンスで大きく応え,コンデンサーには信号の Q 倍の電圧が現れる.つまみで C を変えて ω0 を局の周波数に合わせる.どれだけ近い局まで分けられるかは,共振の幅 ω0/Q で決まる.

この章で使った数学

運動起電力を磁束の変化で書き直すのにスカラー三重積を,対称な誘導電場を求めるのに円に沿った線積分を使い,微分形(発展)ではストークスの定理を使いました.電気振動では,第7章の方法を回路に使い,定数係数の線形微分方程式に est を代入して特性方程式にしました.複素数の根からは減衰振動が,重解からは (A+Dt)es0t が出て,定数はコンデンサーの電荷とコイルの電流の連続性で決めました.回路の式に電流を掛けるとエネルギーの式ができることも,第6章の力学と同じでした.交流では,複素数の極形式と複素共役で掛け算・割り算と実部への戻しを行い,周波数応答 H(ω) で振幅の比と位相のずれを表しました.第24章では,ここで出会った誘導電場の法則がマクスウェル方程式の1つとして他の3つと並び,磁場のエネルギーの見方も一般の場に広がります.