この章は発展の章です.受験だけが目的なら飛ばして構いませんが,前提は第3章までなので,第3章の後ならどこで読んでも構いません.実験のレポートを書くとき,共通テストなどで実験の結果やグラフを読むときに役立ちます.章全体を通して,振り子の周期から重力加速度 𝑔 を求める実験を例にします.周期の式 𝑇 =2𝜋√𝑙/𝑔(𝑙 は振り子の長さ)は第7章で導く式で,ここでは結果だけを使います.この章に出てくる測定値は,説明のために作った例の値です.
問い
長さ 80 cm ほどの糸に金属のおもりをつるして揺らし,ストップウォッチで1往復の時間(周期)を測ります.周期はおよそ 1.8 s ですが,ボタンを押すのは人なので,押すのが早すぎたり遅すぎたりして,1回だけの測定では 0.1 s ほどずれます.周期が 0.1 s ずれると,そこから計算する 𝑔 は 1 割ほどもずれてしまいます.同じ振り子と同じストップウォッチを使って,どう測れば,もっと信じられる値になるでしょうか.
考えてみる
まず思いつくのは,何回も測って平均することです.10回測って平均すれば,早すぎた回と遅すぎた回が打ち消し合って,1回よりは良くなりそうです.ただし,人の癖で毎回同じ向きにずれているなら,平均してもそのずれは残ります.
もう1つの考えは,ストップウォッチをもっと細かいものに替えることです.しかし,表示が 0.01 s まで出ても,ボタンを押す人の手が 0.1 s ほどずれるのなら,細かい表示は役に立ちません.表示の細かさと,値の確かさは別のものです.
大事なのは,ずれがどこから来るかを見きわめ,ずれの影響が小さくなるように測り方を組み立てることです.この節では,測る前に決めておくことを順に見ます.
測る量をはっきり決める
周期の式の 𝑙 は,糸の長さではなく,支点からおもりの中心(重心)までの長さです.糸を測っただけでは,おもりの半径の分だけ短くなります.メートル尺では支点からおもりの上端までの長さ 𝑙′ を測り,おもりの直径 𝐷 をノギスで測って,𝑙 =𝑙′ +𝐷/2 とします.
周期の式は,振れ角が小さいときの近似です.第7章で示すように,振れ角 𝜃0 で揺らすと周期はおよそ 𝜃20/16 の割合(𝜃0 はラジアン)だけ長くなり,10∘ で約 0.19 %,30∘ で約 1.7 % です.振れ角を 5∘ ほどにそろえれば,この延びは 0.05 % ほどで済みます.ほかにも,支点がぐらつかない,おもりが円を描くように回らない,風が当たらない,といった測定条件をそろえます.何を測るのかを言葉で決めておかないと,どれだけ丁寧に測っても,違うものを測ってしまいます.
[図:振り子で測る長さの区別]支点から球の上端までを l′,中心までを l,球の直径を D とする.振れ角は約5°にそろえる.球と振れ角の表示を拡大した模式図.
支点から球の上端までを l′,中心までを l,球の直径を D とする.振れ角は約5°にそろえる.球と振れ角の表示を拡大した模式図.
目盛りと分解能
測定器には,読み取れる細かさの限りがあります.メートル尺の最小目盛りは 1 mm,ノギスは 0.05 mm です.デジタルの表示で区別できる最小の差を分解能といい,ストップウォッチなら 0.01 s です.
アナログの目盛りは,最小目盛りの 110 まで目分量で読むのがふつうです.786.2 mm と読んだら,最後の 2 は目分量の桁で,確かではないが意味のある数です.目盛りは真正面から読みます.斜めから見ると,目盛りと物の間のすき間のために読みがずれます(視差).
[図:目盛りの読みと視差]おもりの上端は786 mmと787 mmの間の786.2 mmにある.目盛りとおもりにすき間があると,斜め上からの視線は別の目盛りに重なり,読みがずれる.
おもりの上端は786 mmと787 mmの間の786.2 mmにある.目盛りとおもりにすき間があると,斜め上からの視線は別の目盛りに重なり,読みがずれる.
測った値は,どれくらい確かかと組にして初めて意味を持ちます.「786.2 mm,ただし支点の位置の見きわめで 1 mm ほど違いうる」のように書きます.測った結果がどれだけ疑わしいかを表す数を不確かさといいます.不確かさを数で決める方法は次の題材で扱います.
実は,第1章「記号と単位の約束」の有効数字は,不確かさを大まかに伝える書き方です.0.7989 m と書けば,「最後の桁の 9 は数単位くらい違いうるが,その前の桁は確か」という意味になります.この章では,その「数単位くらい」を,はっきりした数にします.
まとめて測る
人がストップウォッチを押すと,押し始めと押し終わりのそれぞれで時刻が少しずれます.このずれは,1往復を測っても10往復を測っても,ほとんど同じ大きさです.そこで,10周期の時間 𝑡10 をまとめて測って 𝑇 =𝑡10/10 とすれば,1周期あたりのずれは 110 になります.0.1 s のずれは,周期にすると 0.01 s です.
ポイント まとめて測る
押し始めと押し終わりのずれ 𝛿 が測る時間の長さによらないなら,𝑛 周期をまとめて測ると,1周期あたりのずれは 𝛿/𝑛 になる.
いくらでも増やせばよいわけではありません.振り子は空気の抵抗で少しずつ振れ幅が小さくなり,何百周期も測ると振れ角の条件が変わります.周期を数え違えると,周期まるごと1つ分の大きなずれになります.測る時間も長くなります.10〜20周期ほどが手ごろです.
時刻を取る瞬間は,おもりが最下点を通るときにします.最下点ではおもりが最も速く動くので,目印を通過した瞬間がはっきりします.折り返し点ではおもりがほとんど止まって見えるので,どの瞬間に折り返したかが分かりにくくなります.最下点の真後ろに目印の線を置き,おもりが同じ向きに通過するたびに「0,1,2,…」と数えます.押し始めを「1」と数えると,1周期少なく数えてしまいます.
測定の計画と記録
測り始める前に,次のことを決めて,ノートに書いておきます.
何を求めるか(ここでは 𝑔)と,そのために何を測るか(𝑙′,𝐷,𝑡10).
それぞれを何で測るか,最小目盛り・分解能はいくつか.
何をそろえるか(振れ角,支点,時刻を取る位置).
何回繰り返すか.条件を変える測定(長さを変えるなど)をするか.
記録には,計算した結果だけでなく,読んだ値そのもの,単位,測定器,気づいたこと(「3回目は数え違えたかもしれない」など)を残します.あとでずれの原因を探すとき,手がかりは生の記録にしかありません.測り始めたら,すぐに 𝑔 を大まかに計算してみるのも大切です.9.8 ms−2 から大きく外れていれば,周期の数え違いや長さの取り違えにすぐ気づけます.
ポイント ここまでのまとめ
測る量を言葉ではっきり決める.振り子の 𝑙 は支点からおもりの中心まで.振れ角を小さくそろえる.
最小目盛り・分解能は測定器の読みの限り.アナログは最小目盛りの 110 まで読み,視差に注意する.表示の細かさと値の確かさは別.
測った値には不確かさを添える.有効数字は不確かさの大まかな表し方である.
問いの答え:10周期ほどをまとめて測り,時刻は最下点を通る瞬間に取る.押すずれが1周期あたり 110 になる.繰り返して平均すればさらに良くなるが,毎回同じ向きのずれは平均では消えない(次の題材).