問いしるべ
問いから始める物理 力学の総合演習

力学の総合演習

衝突の先にある運動

著者:柚木芹香

衝突の瞬間に得た速度は,次の飛行や振動の初期条件になります.第5章の力積,第6章のニュートンダイアグラムと相対運動エネルギー,第7章の振動,第8章の自転,第9章の外部運動と内部運動を合わせて考えます.一度目の衝突を解いた後も,接触の切替えや次の衝突の有無を確認してください.

総合演習 10

IPhO 1991 第1問(改題) ★★★★★

跳ね返る途中で滑りが止まる回転球

半径 r,質量 m,慣性モーメント I=βmr2 の球が水平な床に衝突します.直前の水平速度は u>0,鉛直速度は下向きに w>0 です.時計回りの角速度を正として ω0 とし,接点の滑り速度は s0=u−rω0>0 とします.法線の反発係数は e,滑り中の摩擦係数は μ′ です.接線方向の弾性はなく,滑り速度が0になれば以後接線力積は増えない模型を採用します.衝突中の重力の力積は無視します.

  1. 累積法線力積を p として,接点の滑り速度を求め,滑りが途中で止まる条件を示してください.

  2. 衝突後の水平速度,回転,エネルギー損失,次の着地点までの水平距離を求めてください.β=2/5,u=2.0ms−1,rω0=−3.0ms−1,w=3.0ms−1,e=0.60,μ′=0.30,m=0.20kg で計算してください.

  3. 他の数値を保ち,逆回転だけを変えて真上へ跳ね返すことはできますか.摩擦係数も変更できるなら,必要な最小値とそのときの初回転を求めてください.

問題図.水平速度と下向き速度,角速度の符号を示します.衝突後の状態は示しません. 問題図.水平速度と下向き速度,角速度の符号を示します.衝突後の状態は示しません.
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考え方 衝突時間の力の波形を知らなくても,累積力積を変数にできる.摩擦力積には法線力積による上限と,滑り停止による上限の両方がある.

  1. 左向きの摩擦力積の大きさを J とすると u(p)=u−J/m,ω(p)=ω0+rJ/I.滑り中は J=μ′p だから

s(p)=s0−1+1/βmμ′p.

全法線力積は pf=m(1+e)w.滑り停止に必要なのは J∗=mβs0/(1+β) で,J∗≤μ′pf が停止条件である.等号は離床の瞬間に停止する境界である.実際の力積は J=min(μ′pf,J∗).

  1. 結果は uf=u−J/m,rωf=rω0+J/(βm),鉛直速度は上向き ew.接線方向のエネルギーを展開して引けば,全損失は

Q=12m(1−e2)w2+Js0−J22m(1+1β).

滑りが止まる場合,第2,第3項の和は mβs02/[2(1+β)].空中で抵抗がなければ次に同じ高さへ戻る時間は 2ew/g,水平距離は X=2ewuf/g である.数値では s0=5.0ms−1,J∗/m=10/7ms−1,μ′pf/m=1.44ms−1 なので離床直前に滑りが止まる.uf=rωf=4/7ms−1,Q=1.29J,X=0.210m となる.μ′=0 なら接線損失は0で,水平速度と自転は変わらないという極限に合う.

  1. uf=0 には J=mu が必要だが,今の上限は 1.44m<2.0m なので回転だけでは実現できない.摩擦係数を変えるなら μ′≥u/[(1+e)w]=5/12≃0.417 が必要である.この最小値で,ちょうど滑りも止める初回転は J∗=mu,すなわち rω0=−u/β=−5.0ms−1.このとき uf=ωf=0.さらに強い逆回転なら最小摩擦係数でも水平速度だけを0にできるが,自転と滑りは残る.

[図:力積による滑り停止]

解答図.初期状態は接触開始です.前半は累積法線力積,後半は離床後の飛行を再生します.二つの時間尺度は別です.

総合演習 11

オリジナル ★★★★★

ばねで結ばれた的への再衝突

滑らかな直線上で,質量 m の台車B,Cを自然長 ℓ,ばね定数 k のばねで結び,静止させます.左から質量 γm の台車Aが速さ u でBへ弾性衝突します.台車は点質量として扱い,AとBの衝突中のばねの力積を無視します.t=0 を最初の衝突直後とし,xA=xB=0,xC=ℓ とします.ω=2k/m とし,2u/ω<ℓ を満たすものとします.

  1. 最初の衝突直後の各速度と,その後の xA,xB,xC を,次の衝突まで求めてください.

  2. AとBが再衝突する質量比の閾値を数値で求めてください.位置の一致だけでなく接近速度も検討してください.

  3. 閾値を γc,γ=γc+ε(ε>0) とします.最初の再衝突時刻が閾値での接触時刻からどのようにずれるか,ε の主要項を求めてください.

問題図.入射台車と,自然長のばねでつながる2台の静止台車です. 問題図.入射台車と,自然長のばねでつながる2台の静止台車です.
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考え方 第1衝突は2体の速度円で解ける.その後はB,Cの重心等速運動と相対振動を重ね,Aとの位置差の最小値を調べる.

  1. 2体の重心速度 V=γu/(γ+1) のまわりで速度を反転させれば,a=(γ−1)u/(γ+1),b=2γu/(γ+1) がA,Bの直後の速度となる.Cは0.B,Cの重心は速度 b/2 で動き,相対伸び z=xC−xB−ℓ は z¨=−ω2z,z(0)=0,z˙(0)=−b を満たす.よって

xA=at,xB=bt2+b2ωsin⁡ωt,xC=ℓ+bt2−b2ωsin⁡ωt.

ℓ−b/ω>0 は与えた条件から保証され,BとCは接触しない.

  1. τ=ωt として位置差は

xB−xA=u(γ+1)ωF(τ),F(τ)=τ+γsin⁡τ.

0<τ≤π では正である.負の正弦の最初の区間で曲線が初めて0に接するとき,F=F′=0.したがって tan⁡τc=τc,π<τc<3π/2,γc=−1/cos⁡τc.数値解は τc=4.493409,γc=4.603339.後の負の区間で必要な γ=τ/(−sin⁡τ) は少なくとも 3π>γc なので,これが全時刻での閾値である.γ<γc では再接触せず,等号では相対速度0の接触だけで力積はない.γ>γc の最初の零点では F′<0 なので,本当の再衝突が起こる.

  1. τ=τc+δ として2次まで展開すると,定数項と δ の項は消え,

F≃εsin⁡τc−12γcsin⁡τcδ2.

よって δ≃±2ε/γc.最初の零点は負の枝なので

thit≃1ω(τc−2εγc).

根の時刻は質量比に線形ではなく平方根で変わる.1/ω が時間の次元を担い,閾値へ近づくと接近速度も0へ近づく.再衝突後にはこの自由振動の式を使い続けず,新しい速度を初期条件にし直す必要がある.

[図:重心移動と内部振動から再衝突へ]

解答図.初期状態は第1衝突直後です.再生はγ=5の最初の再衝突直前で停止します.台車の幅は見やすさのための表示です.

総合演習 12

オリジナル ★★★★★

多数の小さな衝突で進路を反転させる

無摩擦水平面で,質量 m の円盤を初速 v0 で入射させます.静止した同じ質量 qm(0<q<1) の的を N 個置き,弾性衝突を1個につき1回ずつ行わせます.各回に同じ角 δ=Θ/N<π/2 だけ同じ側へ偏向させます.各的の位置は実際の出射方向に合わせて設計し,的同士の衝突や再接触はないものとします.円盤と的の自転はなく,接触法線方向だけに力積が働きます.

  1. 1回の衝突の速度円から,指定角へ曲げられる最小の q と,そのときの速さの倍率を求めてください.

  2. この最小質量を各回に採用したとき,的の総質量と最後の速さを求め,N→∞ の極限を計算してください.

  3. Θ=π で N=6,12 と極限を比較してください.的の総質量を固定したまま N を増やすことと,今回の最小質量列は同じですか.また入射円盤のエネルギー減少は散逸ですか.

問題図.1回に指定する偏向角を示します.的の質量と出射速度は未知です. 問題図.1回に指定する偏向角を示します.的の質量と出射速度は未知です.
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考え方 原点から速度円へ引いた接線が最大偏向を与える.その境界を各衝突で使えば,速度の倍率を掛け合わせる問題になる.

  1. 入射速度を v とすると,速度円の中心は入射方向へ c=v/(1+q),半径は b=qv/(1+q).原点から引く接線は sin⁡δmax=b/c=q を満たす.従って最小は q=sin⁡δ.接線の長さが出射速度なので

v′v=1−q21+q=1−q1+q.

この条件は衝突法線を適切に選べば実現できる.

  1. q=sin⁡(Θ/N) を各回に使うから

Mtargets=Nmsin⁡ΘN,vNv0=[1−sin⁡(Θ/N)1+sin⁡(Θ/N)]N/2.

sin⁡z=z+⋯,ln⁡[(1−z)/(1+z)]=−2z+⋯ を用いると Mtargets→mΘ,ln⁡(vN/v0)→−Θ.従って vN→v0e−Θ,入射円盤に残るエネルギーの割合は e−2Θ である.角度はラジアンで無次元である.

  1. N=6 では q=1/2,総質量は 3m,vN/v0=(1/3)3=0.03704.N=12 では総質量 3.1058m,速さの割合 0.04166.極限では πm,e−π=0.04321 となる.この列では総質量が一定なのではなく,下から πm へ増加する.総質量を Qm に固定するなら q=Q/N で,実現条件は Narcsin⁡(Q/N)≥Θ.多数回極限では Q≥Θ が必要になる.また全衝突は弾性なので,全系の運動エネルギーは保存する.円盤から失われたエネルギーは動き出した的に移るのであって,摩擦の散逸ではない.「細かく曲げれば円盤の速さはほとんど減らない」という予想は,有限の総質量という条件のもとでは成立しない.

[図:最大偏向を決める速度円の接線]

解答図.初期状態は入射速度とコース入口です.前半は速度円の接線を作図し,後半は6回偏向する経路を順に再生します.衝突位置を点で示し,各区間の再生時間はそろえています.

ポイント この節のふり返り

法線力積と滑り停止の条件を合わせると,衝突中の摩擦の切替えを追えます.
衝突後は重心運動と内部振動に分け,再接触を位置差の零点として調べました.
速度円の接線条件を繰り返すと,多数回の散乱の有限な効果が現れます.
部分系のエネルギー減少と,全系での散逸を区別してください.