問いしるべ
問いから始める物理 力学の総合演習

力学の総合演習

軌道と潮汐の総合問題

著者:柚木芹香

重力のわずかな場所の違いは,長時間の軌道のずれや内部運動との交換を生みます.第6章のエネルギー,第7章の振動,第8章の角運動量,第9章の外部運動と内部運動,第10章の万有引力,第11章の非慣性系を組み合わせます.小さい量の一次近似と,それを長時間へ延長できる範囲を区別してください.

総合演習 16

オリジナル ★★★★★

軌道上で離した荷物は戻ってくるか

重力定数と天体質量の積が GM=3.60×1014m3s−2 の球対称天体のまわりを,無人ステーションが半径 a=7.20×106m の円軌道で進みます.ステーションとともに回る座標系を取り,外向き動径方向を x,進行方向を y とします.原点から小さなカプセルを相対速度 (u,v) で放します.軌道面外の運動,ステーションの反動と引力は無視します.n=GM/a3,|x|,|y| は a より十分小さいとします.

  1. 重力差,遠心加速度,コリオリ加速度を一次まで取り,相対運動方程式を導いてください.

  2. 初期位置0に対する x(t),y(t) を求め,v=0 の帰還と,v≠0 の1公転後のずれを比較してください.u=0.20ms−1,v=0.0050ms−1 で数値を示してください.

  3. v=0 でも,厳密な二体軌道で1公転後に完全帰還するとは限りません.カプセルの長半径と周期を u/(na) の2次まで求め,線形模型で消えた効果を説明してください.

問題図.共回転する動径方向と進行方向を示します.放出後の軌道は未知です. 問題図.共回転する動径方向と進行方向を示します.放出後の軌道は未知です.
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考え方 ステーション自体の自由落下を差し引いてから回転座標へ移る.接線方向の式を一度積分すると,残りは定数項のある単振動になる.

  1. 重力加速度の差は (2n2x,−n2y).相対座標にかかる遠心加速度は (n2x,n2y),コリオリ加速度は (2ny˙,−2nx˙) なので

x¨−2ny˙−3n2x=0,y¨+2nx˙=0.

接線方向の重力差と遠心項が消え,動径方向には 3n2x が残る.

  1. 第2式から y˙+2nx=v.第1式へ代入して x¨+n2x=2nv.初期条件を使い,さらに y を積分すると

x=unsin⁡nt+2vn(1−cos⁡nt),y=2un(cos⁡nt−1)+4vnsin⁡nt−3vt.

v=0 では T=2π/n ごとに位置も相対速度も初期値へ戻り,相対軌道は中心 (0,−2u/n) の楕円となる.v≠0 では x(T)=0,y(T)=−3vT.数値は n=9.821×10−4s−1,T=6.398×103s.u/n≃204m,動径放出だけの場合の最大後方距離 4u/n≃815m,今回の接線誤差によるずれは −96.0m である.いずれも1周期では a に比べ小さい.

  1. v=0 の地上系初速度は接線成分 na と動径成分 u.単位質量当たりエネルギーは −GM/(2a)+u2/2 だから,新しい長半径 ac は

1ac=1a−u2GM,ac≃a[1+(una)2],TcT≃1+32(una)2.

線形近似で捨てた2次の周期差があり,多数周期後には位相差が蓄積する.今回の u では Tc−T≃7.68×10−6s と極小だが,正確に0ではない.また v≠0 の一次のずれ自体も 3|v|t が a に近づけば近似範囲を外れる.線形模型の周期的帰還を永久に正確な会合と解釈してはいけない.

[図:放出後の近傍相対軌道]

解答図.初期状態は放出点です.再生すると動径放出だけの帰還と,接線誤差を含む場合のずれを比較できます.

総合演習 17

APhO 2001 第1問(改題) ★★★★★

潮汐による同期までの道のりを見積もる

架空の惑星の GM=4.0×1014m3s−2,慣性モーメントは I=2.0×1037kgm2 です.質量 m=1.0×1022kg の衛星が半径 r0=1.0×108m の円軌道を進みます.惑星質量は衛星より十分大きく,衛星の自転角運動量は無視します.初期自転角速度は Ω0=2n0,n0=GM/r03 です.外部トルクはなく,潮汐でゆっくり半径が増えても軌道は円のままと近似します.現在の増加率は a0=1.0m年−1 です.

  1. 保存する全角運動量を使い,z=r/r0 に対する自転角速度と,同期 Ω=n の半径を求めてください.内側にも同期解があれば,今回の進化がどちらへ向かうかを説明してください.

  2. 惑星の自転と衛星の公転のエネルギーの和が,現在から同期までどれだけ変わるかを求めてください.

  3. 衛星へ与えるトルクを τ=τ0z−6 と外挿する模型で,同期半径までの時間を見積もり,増加率一定の推定と比べてください.さらに τ=τ0z−6(Ω−n)/(Ω0−n0) に変更すると,正確な同期に達する時間はどう変わりますか.

問題図.速く自転する惑星と円軌道の衛星を示します.同期距離は示しません. 問題図.速く自転する惑星と円軌道の衛星を示します.同期距離は示しません.
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考え方 角運動量の交換先は自転と公転である.角運動量保存で同期位置を先に決め,その後にエネルギー差とトルク則に依存する時間を計算する.

  1. 全角運動量は L=IΩ+mGMr.I/(mr02)=0.20,Ω0/n0=2 なので,mr02n0 を単位にすると L=1.40.従って

w(z)=Ωn0=7−5z,n/n0=z−3/2,0.20z−3/2+z=1.40.

左辺の微分は (z2−0.60)/(2z5/2) で,z=0.60 に最小値がある.数値解は内側 z≃0.411,外側 zs=1.71951 の2個.現在の z=1 は両者の間にあり Ω>n なので,自転から公転へ角運動量を渡し,外側の rs=1.72×108m に向かう.n0=2.0×10−5s−1 である.

  1. エネルギーは E=IΩ2/2−GMm/(2r).E0∗=GMm/r0=4.0×1028J を単位にすれば E/E0∗=0.10w2−1/(2z).現在は −0.100,同期時は 0.10zs−3−1/(2zs)=−0.271112.従って減少量は 6.84×1027J.公転エネルギーは増すが,自転エネルギーがそれ以上に減る.直接にも E˙=−Ωτ+nτ=−(Ω−n)τ≤0 と確かめられる.

  2. Lorb=mGMr を微分すると τ=mGMr˙/(2r).現在の値で規格化すれば r˙=a0z−11/2.従って

t=r0a0∫1zsz11/2dz=r0a0zs13/2−113/2=5.06×108年.

一定増加率なら (rs−r0)/a0=7.20×107年 なので約7.03倍の違いである.ただし最初のトルク則は同期時にも正のトルクを残すため,その先へ外挿できない.変更後は r˙=a0z−11/2[w(z)−z−3/2].外側の根では括弧の導関数が負で,括弧は zs−z に比例して0へ向かう.時間積分は ∫dz/(zs−z) の形で対数発散し,正確な同期には無限時間を要する.有限の許容差まで近づく時間なら有限である.同期半径は保存則の結果だが,時間の値は採用した経験則に依存する.

[図:保存則が決める同期位置]

解答図.現在の距離から開始します.再生では半径を走査し,自転と公転の角速度が等しくなる交点へ進みます.潮汐進化の実時間表示ではありません.

総合演習 18

IPhO 1992 第1問(改題) ★★★★★

伸縮する衛星は自転と公転を交換できるか

円軌道を進む小さな衛星を,直交する2組の質量のない伸縮アームと,各先端の質量 m の4個のおもりで模型化します.中心は半径 r0,角速度 n=GM/r03 で自由落下します.一組の半長を a,他方を b(a>b) とし,a,b は r0 より十分小さいとします.第1組が動径方向となす角を θ,慣性系での自転角速度を ω とします.アームは張力だけでなく圧縮も支えられます.

  1. 伸縮しない瞬間の各おもりに必要な内向き軸力と,中心まわりの重力トルクを,潮汐の一次近似で求めてください.特に ω=n,θ=0 ではどうなりますか.

  2. ω>n とし,σ=ω−n の変化を1操作中の主要項では無視できる場合を考えます.θ=0 で第1組が長い状態から始め,θ=π/2 で2組の長さを交換し,θ=π で再び交換して初めの配置へ戻します.交換は姿勢がほとんど変わらない短時間に行い,常に2組の半長の2乗和を一定に保ちます.径方向の運動エネルギーは装置が回収し,操作前後には残しません.装置がおもりにする正味の仕事と,自転角運動量の変化を求めてください.

  3. 全角運動量と全エネルギーの収支を照合してください.m=5.0kg,a=21m,b=20m,r0=7.0×106m,n=1.0×10−3s−1,ω=4n で,回収できる仕事と近似の精度の目安を計算してください.

問題図.中心の円軌道と衛星の内部構造を別縮尺で示します.動径に対する姿勢角を使います. 問題図.中心の円軌道と衛星の内部構造を別縮尺で示します.動径に対する姿勢角を使います.
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考え方 中心の自由落下を引いた重力差は方向によって異なる.伸縮の仕事と重力トルクを別々に積分し,公転への反作用まで含めると両者の収支が一致する.

  1. 中心とともに並進する慣性方向の軸で,動径・接線方向の重力差は n2(2x,−y).動径となす角 ϕ,中心からの距離 l のおもりへの軸方向重力差は mn2l(3cos2⁡ϕ−1).必要な向心加速度は −ω2l だから内向き軸力は

T(l,ϕ)=ml[ω2+n2(3cos2⁡ϕ−1)].

第1組は (l,ϕ)=(a,θ),第2組は (b,θ+π/2) を使う.ω=n,θ=0 では動径の各腕で T=3mn2a,接線の各腕で T=0.一般には負の値なら圧縮を要する.1個への重力トルクは −3mn2l2sin⁡ϕcos⁡ϕ.対向する2個ずつを足すと

τ=−3mn2(a2−b2)sin⁡2θ,I=2m(a2+b2),ddt(Iω)=τ.
  1. D=a2−b2>0 と置く.1回目の交換では動径を向く第2組が b→a,接線を向く第1組が a→b と変わる.装置の仕事は各おもりについて −∫Tdl.2個ずつを数え,a2+b2 一定によって ω2 の項が打ち消されることを使えば

W1=−mn2[2(a2−b2)−(b2−a2)]=−3mn2D.

径方向の加速・減速に関する項は,始めと終わりの径方向運動エネルギーがともに0なので正味で消える.2回目も同じで Wact=−6mn2D.装置は正の 6mn2D を回収する.一方,最初の四分回転では dt=dθ/σ より ΔL1=−3mn2D/σ.次の四分回転では長さの差と sin⁡2θ がともに反転するので,同じ負の変化となり,

ΔLspin=−6mn2Dσ.

長さ交換の間は I が一定で,内部操作は角運動量を直接増やさない.

  1. 外部の中心力は天体中心まわりの全角運動量を変えないので ΔLorb=−ΔLspin.円軌道の E=−GM(4m)/(2r),L=4mGMr を微分すると dE/dL=n.自転側では ΔEspin≃ωΔLspin なので,元の姿勢・長さに戻った1操作では

ΔEspin+ΔEorb=(ω−n)ΔLspin=−6mn2D=Wact.

公転の変化を無視して自転だけから仕事を数えると,係数 ω/σ だけ誤る.数値では回収仕事 1.23×10−3J,ΔLspin=−0.410kgm2s−1.I=8410kgm2,初めの Iω=33.64kgm2s−1 なので,自転角運動量の相対変化は約1.2 %で,σ の相対変化は約1.6 %.一定 σ の計算はこの程度の補正を捨てた主要項である.潮汐展開の長さ比は a/r0=3.0×10−6 とさらに小さい.相対姿勢の1回転周期は 2π/σ,慣性系の自転周期は 2π/ω,今回の操作時間は π/σ≃1.05×103s で,三者を区別する必要がある.a=b ならトルクも回収仕事も0となる.

[図:潮汐を利用する長さ交換の1操作]

解答図.初期状態は長い組が動径方向です.再生で半回転と2回の長さ交換を示し,2乗和一定の条件を保ちます.

ポイント この節のふり返り

共回転系では,重力差と遠心項とコリオリ項を同じ次数で数えます.
一次近似で消えた周期差も,長時間では会合のずれを生みます.
潮汐進化の到達位置は保存則で,所要時間はトルクの模型で決まります.
伸縮装置の仕事は,自転と公転の角運動量・エネルギーの両方を数えると整合します.