問いしるべ
問いから始める物理 力学の総合演習

力学の総合演習

東大の過去問を発展させる(1)

著者:柚木芹香

力学の全章を終えた皆さんに向けて,東大前期の問題の設定と問いを組み直しました.重心と内部運動の分解,エネルギー図,単振動を,同じ現象の別々の見方として使います.各題の後半では,原題の計算を越えて,最適条件や繰り返しの極限まで調べてください.

総合演習 19

東京大 2015 前期 第1問(改題) ★★★★☆

質量 m の小球 A と質量 M の小球 B を,長さ ℓ の軽い糸で結びます.B を原点に固定し,A を B と同じ高さの左側から静かに放します.A が最下点を右向きに通る瞬間,B の固定を衝撃なしに外します.この瞬間を t=0 とし,右向きを x,上向きを y とします.重力加速度は g,空気抵抗と球の大きさは無視します.その後は床や天井に衝突しないものとします.

B の固定を外す瞬間.A は糸の真下から右へ動きます.点線は解放前の支点の高さです. B の固定を外す瞬間.A は糸の真下から右へ動きます.点線は解放前の支点の高さです.
  1. 解放直前の A の速さ u と糸の張力を求めてください.

  2. 解放後の重心の軌跡,二球の相対位置,各球の軌跡を求めてください.

  3. 解放直後に張力が変わる理由と,その後の張力の時間変化を説明してください.二球が最初に同じ高さになる時刻も求めてください.

  4. 解放直後の運動エネルギーを外部運動と内部運動に分けてください.速度空間では,各球の速度の端点は重心速度の端点を中心にどんな円を描きますか.M=2m,ℓ=0.80m,g=9.8ms−2 のとき,同じ高さになる時刻を計算してください.

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考え方 一様な重力は重心を加速するが,相対加速度には現れない.自由落下する重心から見ると,糸の張力だけが働く二体の回転になる.

  1. 高さ ℓ の下降から u=2gℓ.最下点の半径方向の式 T−mg=mu2/ℓ より,解放直前は T=3mg である.

  2. S=m+M,ω=u/ℓ とおく.初期の重心位置と速度から

R(t)=(muSt,−mℓS−12gt2).

相対位置を r=rA−rB とすると,初期値は (0,−ℓ),相対速度は (u,0).相対角運動量が保存し,距離は一定なので

r=ℓ(sin⁡ωt,−cos⁡ωt),rA=R+MSr,rB=R−mSr.

これが地上での両軌跡であり,円そのものではない.

  1. 換算質量 mr=mM/S の運動方程式より,解放後は T=mru2/ℓ=2mMg/S で一定.固定中には支点の反力があったが,解放後は B も加速する.力は不連続に変わってよく,有限の力の跳びで速度は跳ばない.高さが等しい最初の時刻は t∗=π/(2ω).

  2. 初期のエネルギーは

Kext=m2u22S,Kint=mMu22S,Kext+Kint=12mu2.

ニュートンダイアグラムで,A と B の相対速度の半径はそれぞれ Mu/S,mu/S.端点は反対方向にあり,円の中心 R˙=(mu/S,−gt) 自体が下へ動く.数値は u=3.96ms−1,t∗=0.317s.周期は質量比によらないが,軌跡と張力は質量比による.M→∞ でも解放後の B は落下するため,固定支点の 3mg に戻るとは限らず,張力は 2mg に近づく.

総合演習 20

東京大 2014 前期 第1問(改題) ★★★★☆

角度 θ を調整できる滑らかな直線レールで,質量 m の粒子をばね定数 k のばねに押し付けます.ばねは粒子に接着せず,自然長の端がレール出口 A です.圧縮量 a から静かに放し,A から射出します.着地面は A と同じ高さにあり,飛行を妨げる物体はありません.0<θ<π/2,重力加速度は g とします.

圧縮されたばねで粒子を出口 A へ押し出します.着地面は出口と同じ高さです. 圧縮されたばねで粒子を出口 A へ押し出します.着地面は出口と同じ高さです.
  1. A での速さと,そこに正の速さで到達する条件を求めてください.圧縮量を座標とする有効な位置エネルギーの最小点も示してください.

  2. 飛距離 D を求め,λ=ka/(2mg),s=sin⁡θ により,飛距離を最大にする条件を三次方程式で表してください.最大点がただ一つであることも説明してください.

  3. λ→0 と λ→∞ のそれぞれで,最適角の主要な近似を求めてください.小さい λ でも射出できるのはなぜですか.

  4. λ=3/2,a=0.15m,g=9.8ms−2 の最適角と最大飛距離を数値で求めてください.

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考え方 蓄えたばねのエネルギーの一部は,出口までの上昇に使われる.射出速度を一定として角度だけ最適化してはいけない.

  1. 圧縮量 q の位置エネルギーを A 基準で U(q)=kq2/2−mgqsin⁡θ とおくと,最小点は q0=mgsin⁡θ/k.保存則から

v2=ka2m−2gasin⁡θ=2ga(λ−s).

条件は a>2q0,すなわち s<λ である.等号では出口で速さがゼロになり,射出にはならない.

  1. 飛行時間 2vsin⁡θ/g より

D=v2gsin⁡2θ=4a(λ−s)s1−s2.

微分すると停留条件は

3s3−2λs2−2s+λ=0.

正の距離を与える区間 0<s<min(1,λ) で,log⁡D の微分は 1/s−1/(λ−s)−s/(1−s2).その微分は −1/s2−1/(λ−s)2−(1+s2)/(1−s2)2<0 であり,両端で正から負へ変わる.したがって最大点は一つ.また λ=s(2−3s2)/(1−2s2) で,最大点は s<1/2,つまり 45∘ 未満である.

  1. 小さい λ では s≃λ/2,したがって θ∗≃λ/2(ラジアン),Dmax≃aλ2.レールを十分寝かせれば上昇に要するエネルギーを小さくできる.大きい λ では s=1/2−1/(8λ)+⋯ なので

θ∗≃π4−142λ.

圧縮量を増すほど,射出速度の角度依存が相対的に小さくなる.

  1. 三次方程式の該当する根は s≃0.54676.したがって θ∗≃33.1∘,Dmax≃0.262m.距離の式の次元は長さで,端の s=0 や s=λ<1 では距離がゼロになる.

総合演習 21

東京大 2017 前期 第1問(改題) ★★★★☆

底面の進行方向の長さが b,高さが h,質量が m の同じ積木を n 個重ねます.底の積木を水平な糸で引き,軽い固定滑車を経て質量 Q のおもりにつなぎます.糸は伸びず,おもりは床に着かないものとします.積木の前端の位置を x とし,床は x<0 で滑らか,x≥0 で粗くなっています.積木が一体で動く間,床からの動摩擦力を f=μ′nmgmin(x/b,1) とモデル化します.x=0 で右向きの速さ v0≥0 を与えます.転倒は側方ガイドで防ぎ,ガイドは進行方向の力を及ぼしません.

前端が粗面に x だけ入り,右の滑車を介しておもり Q が引きます.図は四段の例で,転倒防止ガイドは省略しています. 前端が粗面に x だけ入り,右の滑車を介しておもり Q が引きます.図は四段の例で,転倒防止ガイドは省略しています.
  1. 0≤x≤b での運動方程式を求め,単振動型の式にしてください.この式が単振動に似ていても,機械的エネルギー保存を意味しない理由を述べてください.

  2. A=μ′nmg,B=Qg,S=nm+Q とおきます.最初に速さがゼロになる位置を求め,部分進入で止まる場合,全体が粗面に入った後に止まる場合,止まらない場合を分類してください.

  3. 積木間の静止摩擦係数を μi,粗面と底の積木の静止摩擦係数を μ≥μ′ とします.得られた停止位置まで積木間が滑らず,停止後も動き出さない条件を求めてください.

  4. n=4,Q=m,b=0.40m,h=0.10m,μ′=0.60,v0=0,g=9.8ms−2 で,停止位置,そこまでの時間,必要な μi の下限を計算してください.

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考え方 糸でつながった系全体の加速にはおもりの慣性も含める.摩擦の仕事を位置で積分すれば,途中で摩擦の式が切り替わっても停止条件をつなげられる.

  1. Sx¨=B−Ax/b=−SΩ2(x−c),ただし Ω2=A/(Sb),c=Bb/A.右へ滑る区間では x=c(1−cos⁡Ωt)+(v0/Ω)sin⁡Ωt.熱に変わるエネルギーは Ax2/(2b) で正である.左へ動けば摩擦の向きが変わるため,この式をそのまま一周期に延長できない.

  2. K(x)=Sv02/2+Bx−Ax2/(2b) より,部分進入の候補は

xs=c+c2+SbAv02.

xs≤b ならここで停止.同値な条件は Sv02≤b(A−2B).これを満たさず A>B なら,Kb=Sv02/2+Bb−Ab/2>0 を使って xs=b+Kb/(A−B).A≤B なら全進入後も減速せず,有限の停止位置はない.v0=0 の出発点そのものは停止位置に数えない.

  1. どの接触面でも,上側の積木全体の加速に必要な摩擦力をその重さで割ると |x¨|/g となる.したがって

μi≥max{B,|B−Amin(xs/b,1)|}Sg.

加速度が進入中は単調に減るので,始点と終点を調べればよい.停止を保持する条件は B≤μnmgmin(xs/b,1).有限の停止点では動摩擦の値が既に駆動力以上なので,μ≥μ′ なら保持できる.

  1. c=b/2.4,xs=2c=0.333m.v0=0 なので初めて止まるまで ts=π/Ω=0.916s.加速度の絶対値の最大は g/5 で,μi≥0.20.停止保持には μ≥0.30 で足りるので,仮定を満たす粗面なら静止する.h が結果に入らないのは,転倒をガイドで除いた模型だからである.A→B+0 では全進入後の停止距離が発散する.

総合演習 22

東京大 2013 前期 第1問(改題) ★★★★☆

一直線上で動く等質量 m の二つの小球を,左壁と右壁にそれぞればねでつなぎます.自然長での位置は左球が x=0,右球が x=d>0.ばね定数は左が k,右が 4k です.壁は十分遠く,球の大きさとばねの質量は無視します.左球を x=−s から放し,右球は自然長で静止させます.球同士の衝突は瞬間的で完全弾性とします.

左のばね定数は k,右は 4k.自然長の位置の間隔は d で,左球だけを s だけ引いて放します. 左のばね定数は k,右は 4k.自然長の位置の間隔は d で,左球だけを s だけ引いて放します.
  1. 滑らかな床で s=2d とします.最初の衝突の直前・直後の速度を求めてください.

  2. 最初の衝突を t=0,ω=k/m として,再衝突前の両球の位置を求めてください.再衝突時刻を決める方程式を書き,最初の正の根を数値で求めてください.それ以前に別の衝突がないことも確かめてください.

  3. 再衝突までの各ばねの最大圧縮量と,再衝突直前・直後の速度を dω 単位で求めてください.速度交換をニュートンダイアグラムで説明してください.

  4. 今度は床を粗くし,両球に静止摩擦係数 μ,動摩擦係数 μ′ を与えます.初期変位 s を変え,左球が動き出して正の速さで右球に衝突するための条件を求めてください.衝突後の運動は問わず,μ≥μ′ とします.

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考え方 衝突中は外力の力積を無視できるが,衝突と衝突の間には壁につながるばねが系の運動量を変える.二つの異なる周期を,球間距離のゼロという条件で結びつける.

  1. 保存則より左球の入射速度は ωs2−d2=dω.等質量の一次元弾性衝突では速度を交換し,直後は左球が 0,右球が dω となる.

  2. z=ωt とすると

x1=dcos⁡z,x2=d+d2sin⁡2z,x2−x1d=F(z)=1−cos⁡z+sin⁡zcos⁡z.

求める根は z∗=5.28722,したがって t∗=5.28722/ω.最初の半周期 0<z<π では,cos⁡z≥0 なら各項が非負,cos⁡z<0 なら F=1+cos⁡z(sin⁡z−1)≥1.π≤z≤3π/2 でも F≥1.最後の四分周期で z=2π−2arctan⁡q,0<q<1 とおくと,ゼロ条件は q3+q2+q−1=0.左辺が単調増加なので根は一つであり,これが最初の再衝突である.

  1. 左ばねの最大圧縮は z=π で d,右ばねの最大圧縮は z=π/4 で d/2.速度は v1=−dωsin⁡z,v2=dωcos⁡2z なので,再衝突直前は約 (0.83929,−0.40880)dω,直後はその逆.速度図の中心は衝突瞬間の (v1+v2)/2 で,相対速度の端点を中心の反対側へ移す操作が速度交換になる.全エネルギーは最初から kd2 で,式を代入しても一定である.

  2. 動き出すには ks>μmg.右へ動く間の仕事から

v2(x)=km(s2−x2)−2μ′g(x+s)=km(s+x)(s−x−2μ′mgk).

−s<x≤d で正を保つには s>d+2μ′mg/k.従って二つの厳密な不等式 s>μmg/k,s>d+2μ′mg/k が必要十分である.等号は動き出しの限界または速度ゼロの接触であり,正の入射速度を保証しない.摩擦ゼロなら s>d に戻り,mg/k は長さの次元を持つ.

総合演習 23

東京大 2005 前期 第1問(改題) ★★★★☆

半径 R,一様な密度 ρ の自転しない球形天体に,直径に沿った細いトンネルを通します.中心を x=0,一方の入口を x=R とします.内部の重力は半径 r 以内の質量が中心に集中したものと等しく,トンネルの質量欠損は無視できます.等質量 m の小球 P を時刻ゼロに入口から静かに放し,Q を Δ=ϕ/ω 後に同じ入口から放します.ただし 0<ϕ<π,ω=4πGρ/3 です.球同士の反発係数は 0<e<1,他の摩擦・抵抗・相互重力は無視します.

中心 O を通るトンネル.右の入口 R から P を先に,Q を時間差で放します.球の位置は放出順を示す模式図です. 中心 O を通るトンネル.右の入口 R から P を先に,Q を時間差で放します.球の位置は放出順を示す模式図です.
  1. 単球の運動方程式と周期を導き,二球の最初の衝突時刻・位置・直前の速度を求めてください.

  2. Q の放出後,重心座標 X と相対座標 r=xP−xQ に運動を分けてください.衝突によるエネルギー損失は,どちらの運動に属しますか.

  3. 衝突はどの間隔で,どこで起こりますか.第 N 回の衝突直後の内部エネルギーと,長時間後の各球の運動を求めてください.有限時間で衝突が無限回起こるかも答えてください.

  4. ϕ=π/2,e=0.60,ρ=4.0×103kgm−3,G=6.67×10−11m3kg−1s−2 とします.周期を分で,第4回衝突後の内部エネルギーを衝突前の内部エネルギーとの比で示してください.

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考え方 同じ角振動数の外力は,重心と相対座標を独立な振動に分ける.衝突は重心運動を変えず,相対速度だけを反転・縮小する.

  1. 内部質量 4πρr3/3 より x¨=−ω2x,周期 T=2π/ω=3π/(Gρ).放出後の自由軌跡は xP=Rcos⁡ωt,xQ=Rcos⁡(ωt−ϕ).最初の交点は

tc=π+ϕ/2ω,xc=−Rcos⁡ϕ2,(vP,vQ)=(Rωsin⁡ϕ2,−Rωsin⁡ϕ2).

Q の放出時には P は既に内側にあり,それから tc まで二つの余弦に別の交点はない.

  1. 衝突間は X¨=−ω2X,r¨=−ω2r.重心は衝突を通して滑らかで

X=Rcos⁡ϕ2cos⁡(ωt−ϕ2).

ポテンシャルの定数を除いたエネルギーは

E=m(X˙2+ω2X2)+m4(r˙2+ω2r2).

衝突時は r=0,r˙+=−er˙−.損失 m(1−e2)r˙−2/4 は全て内部運動から出る.

  1. 各衝突直後から相対位置は正弦関数となるので,次のゼロは必ず π/ω=T/2 後.第 N 回は tN=tc+(N−1)T/2,位置は xN=(−1)NRcos⁡(ϕ/2).初回直前の内部エネルギーを E0=mR2ω2sin2⁡(ϕ/2) とすれば,Eint,N=e2NE0.両球の差はゼロへ近づくが,重心は振幅 Rcos⁡(ϕ/2) で振動を続ける.衝突間隔は縮まらないので,有限時間内の無限回衝突はない.e→1 なら内部運動は減衰せず,ϕ→π なら重心振幅がゼロに近づく.

  2. T=5.94×103s=99min,Eint,4/E0=0.608=0.0168(約 1.7 %).Gρ の次元は時間の逆二乗であり,周期が R や m に依存しないこととも整合する.

ポイント この節のふり返り

  • 同じ運動を重心と相対運動に分けると,拘束力や衝突の役割が見えます.

  • エネルギーで求めた到達候補には,接触・静止・射出の条件を添えます.

  • 最適化や再衝突では,方程式の根だけでなく,許される区間と最初の事象を確かめます.

  • 繰り返しで失われる内部エネルギーと,残る重心運動を区別します.