問いしるべ
問いから始める物理 運動量と質点系

運動量と質点系

力積とベクトルの積分

著者:柚木芹香

前の節で,運動量の変化は力積に等しいと見ました.この節では,力が時間とともに変わるときの力積の計算を練習します.

定理 数学の道具:ベクトルの時間積分と平均値

定義 ベクトル F(t)=(Fx(t),Fy(t)) の時間積分は,成分ごとの積分である.

∫t1t2Fdt=(∫t1t2Fxdt, ∫t1t2Fydt)

面積としての力積 一直線上の力なら,∫Fdt は F-t グラフと時間軸ではさまれた面積である.時間軸より下の部分は負の面積として数える.

  • 一定の力:I=FΔt(長方形).

  • 0から F0 まで直線的に増える力:三角形の面積 I=12F0Δt.

  • 折れ線の力は,三角形と台形に分けて足す.

平均値 区間 [t1,t2] での力の平均を

F¯=1t2−t1∫t1t2Fdt=IΔt

で定める.平均の力に時間をかけると,力積に戻る.

練習.

  1. F=6t [N] が t=0 から 2s まで働いたときの力積と平均の力を求めよ.

  2. F=(2t, 3) [N] が t=0 から 4s まで働いたときの力積ベクトルを求めよ.

  3. 力が t=0 の 0 から t=0.010s の 800N まで直線的に増え,t=0.020s で直線的に 0 に戻った.力積と平均の力を求めよ.

  4. F=3t2 [N] が t=0 から 2s まで働いたときの力積と平均の力を求めよ.

  5. F=4−2t [N] が t=0 から 3s まで働いたときの力積と平均の力を求めよ.

答え:(1) I=∫026tdt=[3t2]02=12Ns.平均の力は 12/2=6N. (2) Ix=∫042tdt=16,Iy=∫043dt=12 より I=(16, 12)Ns. (3) 三角形の面積で 12×800×0.020=8.0Ns.平均の力は 8.0/0.020=4.0×102N(最大の半分). (4) [t3]02=8Ns,平均の力は 4N. (5) [4t−t2]03=3Ns(0≤t≤2 の正の三角形 4 と,2≤t≤3 の負の三角形 −1 の和).平均の力は 1N.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

質量 0.15kg のボールが,x 軸の負の向きに 30ms−1 で飛んできて,バットに当たって x 軸の正の向きに 40ms−1 で飛び出した.バットとの接触時間は 1.0×10−3s である.

ボールがバットに当たる前と後の速度の向きを,x軸とともに描く.バットは固定した板として簡略化し,数値は書かない. ボールがバットに当たる前と後の速度の向きを,x軸とともに描く.バットは固定した板として簡略化し,数値は書かない.
  1. ボールが受けた力積を求めよ.

  2. 接触中の平均の力を求めよ.

  3. 力が接触時間の中央で最大となる三角形状に変化するとき,最大の力を求めよ.

  4. 接触中の重力の力積は(1)に比べて無視できるか.

解答を見る

考え方 力積は運動量の変化に等しい.向きを符号で扱う.

  1. I=mv2−mv1=0.15×40−0.15×(−30)=10.5Ns(正の向き).

  2. F¯=IΔt=10.51.0×10−3=1.05×104N.ボールの重さの約7000倍である.

  3. 三角形の面積が I なので 12FmaxΔt=I.よって Fmax=2IΔt=2.1×104N.平均の力のちょうど2倍である.

  4. 重力の力積は mgΔt=0.15×9.8×1.0×10−3≈1.5×10−3Ns.(1)の約 1/7000 なので,無視できる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

外力の及ばない宇宙空間で,静止していた質量 4.0kg の物体が,内部の火薬で分裂した.

分裂前の1つの物体と,分裂後に飛び散る破片の位置関係を,図(a)(b)として描く.速度や質量の値は書かない. 分裂前の1つの物体と,分裂後に飛び散る破片の位置関係を,図(a)(b)として描く.速度や質量の値は書かない.
  1. 質量 1.0kg と 3.0kg の2つに分かれ,1.0kg の破片が東向きに 12ms−1 で飛んだ.3.0kg の破片の速度を求めよ.

  2. 別の実験で,質量 1.0kg の破片4つに分かれた.1つめは東向きに 6.0ms−1,2つめは北向きに 8.0ms−1,3つめは西向きに 4.0ms−1 で飛んだ.4つめの破片の速度を求めよ.

解答を見る

考え方 外力がないので,分裂の前後で全運動量は 0 のままである.ベクトルとして成分ごとに足す.

  1. 東向きを正とする.1.0×12+3.0v=0 より v=−4.0ms−1.西向きに 4.0ms−1.

  2. 東を x,北を y とする.4つの運動量の和が 0 なので,4つめの速度を (vx,vy) として

1.0×(6.0+0−4.0+vx)=0,1.0×(0+8.0+0+vy)=0

より vx=−2.0,vy=−8.0.したがって v=(−2.0, −8.0)ms−1.速さは 2.02+8.02≈8.2ms−1.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

なめらかな水平面上で静止していた質量 2.0kg の台車に,水平な力 F(t)=12t−3t2 [N] を t=0 から加える.

F-t グラフを0〜6秒の範囲で描く.放物線が時間軸と交わる点を含め,数値は書かない. F-t グラフを0〜6秒の範囲で描く.放物線が時間軸と交わる点を含め,数値は書かない.
  1. F が0になる時刻を求め,t=0 からその時刻までの力積を求めよ.

  2. その時刻での台車の速さを求めよ.

  3. 力を t=6s まで加え続けたときの台車の速度を求めよ.

解答を見る

考え方 力積は F の積分である.F が負になる区間は,運動量を減らす.

  1. F=3t(4−t)=0 より t=4s.力積は

I=∫04(12t−3t2)dt=[6t2−t3]04=96−64=32Ns

である.

  1. 初めの運動量は0なので mv=32.v=322.0=16ms−1.

  2. t=6 までの力積は [6t2−t3]06=216−216=0.運動量の変化が0なので,台車は止まる(v=0).t=4 以降は F<0 で,正の面積32と負の面積−32が打ち消し合ったためである.台車は t=4 で最大の速さ 16ms−1 になり,その後は減速する.

ポイント ここまでのまとめ

  • ベクトルの時間積分は成分ごとに行う.力積は I=∫Fdt.

  • 一直線上では,力積は F-t グラフの面積で,時間軸より下は負.平均の力は I/Δt.

  • 外力がなければ全運動量は変わらない.分裂のように初めの運動量が 0 なら,分裂後の運動量の和も 0.

  • 力が正から負へ変わる時刻(F=0)に,正の向きの速度は極大になる.速さの最大を調べるときは,速度の符号と区間の端点も確かめる.