問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

力学の総合問題(2)

著者:柚木芹香

保存則と振動・回転・万有引力(第5〜11章)の問題を,測定の不確かさ(第14章),操作のタイミング,光子や原子核との衝突(第29・31章)へ広げた4題です.相対論(第13章)の式は問題の中で示します.条件が変わる区間ごとに収支を立ててください.

総合演習 25

オリジナル ★★★★☆

二つのすき間で粘性と装置の損失を分ける

ねじり定数 κ の線につるした水平円盤は,半径 R,慣性モーメント I です.上下の固定平板とのすき間 2h,h を,密度 ρ,粘性係数 η の液体で満たします.液体の速度分布は両面間で直線的とし,せん断応力は η と速度勾配の積です.縁の影響を無視し,支持部の抵抗トルクは −b0dθdt とします.b0 はすき間によらず一定です.

  1. 環の力を積分し,抵抗トルクと自由振動の方程式を求めてください.

  2. 包絡線を A0e−βt,山の間隔を Td とします.山の高さの比から β,周期から κ を求める式を導いてください.β 対 1/h の両端の2点から η,b0 を求め,中間点と照合してください.R=2.00×10−2m,I=2.00×10−5kgm2 とします.

h/(10−5m)

β/(s−1)

Td/(s)

2.50

7.790

0.3411

5.00

4.020

0.3207

7.50

2.763

0.3172

  1. β の独立な標準不確かさだけを 0.020s−1 とし,η,b0 の標準不確かさを求めてください.厚さ d のすき間の平衡化時間 ρd2/η は振動時間尺度より十分短い必要があります.ρ=9.0×102kgm−3 として最大厚さで確かめ,すき間を狭め続ける方法の限界を述べてください.

上下の固定平板と水平円盤の断面.上のすき間は2h,下のすき間はhで,円盤の半径はR.液体の密度はρ,粘性係数はη,つり線のねじり定数はκ.別の上面図にねじれ角θと,半径rの環およびその幅を示す.環の幅は模式的に拡大している. 上下の固定平板と水平円盤の断面.上のすき間は2h,下のすき間はhで,円盤の半径はR.液体の密度はρ,粘性係数はη,つり線のねじり定数はκ.別の上面図にねじれ角θと,半径rの環およびその幅を示す.環の幅は模式的に拡大している.
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考え方

慣性を無視した層流模型で環の抵抗を足し,減衰率の傾きと切片から粘性と支持部の損失を分ける.

  1. 半径 r,幅 dr の環の面積は 2πrdr,速さは rdθdt.厚さ d の側の抵抗トルクは −2πηr3dr(dθdt)/d.積分し両面を足すと

τv=−πηR42(1h+12h)dθdt=−3πηR44hdθdt.

従って b=b0+3πηR4/(4h) とおけば,Id2θdt2+bdθdt+κθ=0 である.

  1. est の代入で Is2+bs+κ=0.振動解は s=−β±iωd,β=b/(2I),ωd2=κ/I−β2>0.山 An,An+1 は同位相なので

ln⁡AnAn+1=βTd,κ=I[(2πTd)2+β2].

x=1/h として β=a+Cx,a=b0/(2I),C=3πηR4/(8I).両端の値から

C=β1−β3x1−x3=1.8851×10−4ms−1,a=β3−Cx3=0.2495s−1.

η=8IC/(3πR4),b0=2Ia となる.中間点の予測は 4.0198s−1 で測定と一致する.各行とも 8.00×10−3Nm にそろう.

  1. sβ=0.020s−1 とすると,差を取るので sC=2sβ/(x1−x3).切片は a=(x1β3−x3β1)/(x1−x3) だから

sa=x12+x32x1−x3sβ=52sβ.

sη=8IsC/(3πR4),sb0=2Isa より η=(2.000±0.011)×10−2Pas,b0=(1.00±0.13)×10−5kgm2s−1 となる.

固有角振動数は ω0=20.0s−1.最大厚さ d=2h で ω0ρd2/η=0.020 は小さく,2h/R≤0.0075 も小さい.小振幅・層流・壁で滑らないことも仮定した.狭めすぎて β≥ω0 になると山が消え,この測定はできない.ηR4/h は抵抗係数の次元を持つ.

総合演習 26

オリジナル ★★★★☆

質量を失う時刻で,束縛軌道を残せるか

球対称な天体 M0 を探査機 m が半径 r0 の円軌道で回ります.m/M0 は十分小さく,重力定数は G です.天体は質量の 1/4 を失い,探査機が次の最遠点に来た瞬間,残存質量の割合 s を再び失います.0≤s<1 とします.中心は動かず,変化時の探査機の位置・速度は連続です.放出物質の重力と衝突を無視し,残存質量の重力だけを使います.

  1. 最初の変化後の比エネルギー ε1,比角運動量 ℓ,近点・遠点の距離,長半径を求めてください.

  2. 2回目以後の束縛条件と,変化地点が近点か遠点かを分類してください.s=1/2 で両端の距離と離心率を求めてください.

  3. s=1/2 と同じ最終質量まで一度で変える場合と,非常にゆっくり変える場合を比較してください.後者では円に近い軌道を仮定して半径と周期を求め,時間尺度の条件も示してください.

左に天体M_0,探査機mの初期円軌道,半径r_0と変化点Pを示す.Pにいるときに天体が初期質量の1/4を失う.右は次の最遠点Qで残存質量の割合sを失う配置を模式的に示す. 左に天体M_0,探査機mの初期円軌道,半径r_0と変化点Pを示す.Pにいるときに天体が初期質量の1/4を失う.右は次の最遠点Qで残存質量の割合sを失う配置を模式的に示す.
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考え方

中心力の角運動量保存と,各一定質量の区間のエネルギーで転回点を求める.

  1. 初速は v0=GM0/r0 であり,ℓ=r0v0=GM0r0.残存質量 M1=3M0/4 に対して

ε1=v022−GM1r0=−GM04r0,ε1=12(drdt)2+ℓ22r2−GM1r.

半径速度0の方程式に z=r/r0 を入れると z2−3z+2=0.近点 r0,遠点 2r0,長半径 a1=3r0/2,遠点の速さ va=ℓ/(2r0)=v0/2 となる.

  1. M2=3(1−s)M0/4 とすると

ε2=va22−GM22r0=GM08r0(3s−2).

従って s<2/3 は楕円,s=2/3 は放物線,s>2/3 は双曲線となる.変化地点の半径加速度は

d2rdt2=ℓ2(2r0)3−GM2(2r0)2=GM016r02(3s−1).

s<1/3 なら遠点,s>1/3 なら近点であり,s=1/3 では円になる.s=1/2 の転回点は ε2=ℓ2/(2r2)−GM2/r に z=r/r0 を入れて z2−6z+8=0.近点 2r0,遠点 4r0,長半径 3r0,離心率 e=(4−2)/(4+2)=1/3 となる.

  1. 最終質量 3M0/8 に一度で変えると ε=v02/2−G(3M0/8)/r0=GM0/(8r0)>0 で脱出する.遠点で減らす方がエネルギー増加 GΔM/r は小さい.

ゆっくり減る場合にも ℓ は保存する.円軌道の関係 ℓ2=GMr から Mr=M0r0.従って rf=8r0/3.ケプラーの周期 T=2πr3/(GM) より Tf/T0=(M0/Mf)2=64/9.drdt=−rdMdt/M が公転速度より十分小さいには,|dMdt|/(Mω) が十分小さくで滑らかな変化を要する.さらに m/M と GM/(rc2)(c は光速)が小さいことを要する.急変は放出物質の通過時間が公転時間より十分短い極限の模型である.

総合演習 27

オリジナル ★★★★★

励起のしきい値と,戻ってくる光子のエネルギー

中性粒子 m が静止核 M を励起する反応 a+A→a+A∗ を考えます.粒子は変わらず,励起核の静止質量は M∗=M+Δ/c2 です.運動学的なしきい値だけを扱います.

相対論では E2=(pc)2+(mc2)2,全系の不変量 E2−c2|P|2,光子の E=pc を使えます.m=3.00u,M=12.0u,Δ=3.00MeV,1uc2=931.5MeV とします.

  1. 質量増加を慣性に入れない非相対論近似で,しきい入射エネルギー K∗,共通速度,各粒子の並進エネルギーを求めてください.

  2. 不変量から相対論的なしきい値を求め,(1)との差を数値で評価してください.

  3. しきい値で生じた核が,他の粒子と相互作用せずに光子1個を放出して基底状態に戻ります.核の静止系の光子エネルギー Eγ′,実験室で進行方向・逆方向の値 E+,E− を求め,E+>Δ の理由を説明してください.光子のローレンツ変換は E±=γEγ′(1±β),β=v/c,γ=1/1−β2 と与えます.

中性粒子a,質量mが,静止した標的核A,質量Mへ入射する.反応はa + A → a + A*.別の小図に励起核A*の進行方向と,進行方向および逆方向の検出器を示す.励起核の静止質量はM_* = M + Δ/c²である. 中性粒子a,質量mが,静止した標的核A,質量Mへ入射する.反応はa + A → a + A*.別の小図に励起核A*の進行方向と,進行方向および逆方向の検出器を示す.励起核の静止質量はM_* = M + Δ/c²である.
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考え方

重心運動のエネルギーを除いて励起へ回せる量を求め,光子放出では核の反跳を数える.

  1. 入射運動量を p,衝突後の速度を v1,v2 とする.mv1+Mv2=p の下で,運動エネルギーは

12mv12+12Mv22=p22(m+M)+mM2(m+M)(v1−v2)2.

最小は共通速度 V=p/(m+M) のときである.p2=2mK より励起の上限は MK/(m+M) なので

K∗=(1+mM)Δ=3.75MeV.

速度は V=2mK∗/(m+M).並進エネルギーは粒子が m2K∗/(m+M)2=0.150MeV,核が mMK∗/(m+M)2=0.600MeV で,励起と合わせて 3.75MeV に戻る.

  1. 入射エネルギーは mc2+K で,p2c2=K(K+2mc2).初期の不変量は

[(m+M)c2+K]2−p2c2=(m+M)2c4+2Mc2K.

終状態の重心系で相対運動0が最小で,値は [(m+M)c2+Δ]2.等置して

K∗=(1+mM)Δ+Δ22Mc2≃3.75MeV.

差を評価するために桁を残した計算値は 3.750403MeV で,補正は 4.03×10−4MeV である.

  1. 励起核の静止系で,基底核の反跳運動量の大きさも Eγ′/c だから

M∗c2=Eγ′+M2c4+(Eγ′)2.

移項して2乗し,Eγ′=(M∗2−M2)c2/(2M∗)=Δ(2Mc2+Δ)/[2(Mc2+Δ)].共通速度は重心速度なので

β=pc(m+M)c2+K∗,pc=K∗(K∗+2mc2).

β=0.010362,Eγ′=2.999598MeV より E+=3.03MeV,E−=2.97MeV.核の静止系では反跳により Eγ′<Δ だが,実験室では前向き放出によって核の並進エネルギーの一部も光子へ渡る.

非相対論近似には K/(mc2) と Δ/(Mc2) が小さいことを要し,ともに 0.002 未満.Δ→0 でしきい値と光子エネルギーは0へ戻る.

総合演習 28

オリジナル ★★★★★

可変長振り子の仕事と,振幅が増える限界

鉛直面内の小球 m を軽い可変長棒で固定支点につなぎます.棒は押す力も伝え,長さを ℓ と qℓ(0<q<1)に切り替えます.切り替えは角度を変えず,前後の半径速度は0です.操作は十分速く重力の角方向の力積を無視します.駆動装置の仕事を含め,装置内の散逸を無視します.重力加速度は g です.

長さ ℓ,角度 0<θ0<π から静かに放し,最下点で qℓ に縮め,次の転回点で伸ばします.

  1. 短縮前後の接線速度の比と転回角 θ1 を,小角近似なしで求め,転回条件も示してください.

  2. 短縮・伸長の各仕事とその和を求めてください.m=0.50kg,ℓ=2.0m,q=0.90,θ0=0.30rad,g=9.8ms−2 で θ1 と正味の仕事を計算してください.

  3. 長い状態の転回点から最下点へ戻る間だけ,転回点の振動エネルギーの割合 1−r を失う模型へ変えます.0<r<1 とし,他の区間に散逸はありません.縮める直前の最下点のエネルギー En の漸化式と増幅条件を求めてください.r=0.96 で必要な短縮割合 1−q の下限を評価し,無限に続く指数増幅が物理的に成立するか調べてください.

左に長さℓの棒,小球m,鉛直から測った初期角θ_0を示す.中央は最下点でℓからqℓへの短縮,右は次の転回点でqℓからℓへの伸長.切り替え中は棒の角度を変えない.破線の小球は切り替え前,実線の小球は切り替え後で,角度と長さの比は模式的に描く. 左に長さℓの棒,小球m,鉛直から測った初期角θ_0を示す.中央は最下点でℓからqℓへの短縮,右は次の転回点でqℓからℓへの伸長.切り替え中は棒の角度を変えない.破線の小球は切り替え前,実線の小球は切り替え後で,角度と長さの比は模式的に描く.
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考え方

操作には角運動量保存,長さ一定の区間にはエネルギー保存を使う.

  1. 最下点を基準とし,E0=mgℓ(1−cos⁡θ0).最下点で mv02/2=E0,短縮中は mℓv0=mqℓv1 なので v1/v0=1/q.短い状態の上昇では

E0q2=mgqℓ(1−cos⁡θ1),1−cos⁡θ1=1−cos⁡θ0q3.

従って θ1=arccos⁡[1−(1−cos⁡θ0)/q3].有限時間で上昇中に転回する条件は 1−cos⁡θ0<2q3.等号では上端へ無限時間で近づき,超えると回転して転回操作ができない.

  1. 最下点で縮めると運動エネルギーは E0 から E0/q2,高さは ℓ(1−q) だけ増す.従って

Ws=E0(q−2−1)+mgℓ(1−q).

転回点では伸長前後の速度0で,高さの変化から Wl=−mgℓ(1−q)cos⁡θ1.(1)で加えると

W=E0(q−2−1)+mgℓ(1−q)(1−cos⁡θ1)=E0(q−3−1).

伸長後のエネルギーの増加に等しい.

E0=0.43770J より θ1≈0.35rad,W≈0.16J.

  1. 操作後の転回点のエネルギーは En/q3.帰り道の散逸後は

En+1=rq3En,En=(rq3)nE0.

E0 は最初の最下点の値である.増幅条件は q<r1/3,すなわち 1−q>1−r1/3.r=0.96 では下限は 0.01352,約1.4 %.

転回には En<2mgℓq3 が必要であり,倍率が1を超えると有限回後に手順が止まる.角振幅の倍率 r/q3 は角振幅の2乗が十分小さい範囲の近似である.瞬間切り替えには操作時間 τs に対する τsg/(qℓ) も小さいことを要する.q→1 で装置の仕事は0,倍率は r となり,駆動なしの減衰へ戻る.