問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

熱と分子の総合問題(1)

著者:柚木芹香

気体の流出,イオン,音速,相転移の4題です.熱(第15〜18章)を,測定(第14章),電磁気(第20・21章),音(第25章),2状態系(第30章)と組み合わせます.使う関係式は問題の中にも示します.最後の小問では,模型の適用条件を調べてください.

総合演習 29

オリジナル ★★★★☆

小孔が選ぶ分子と,壁が支える温度

容積 V の固定容器に,分子質量 m の単原子理想気体を N0 個,温度 T0=320K で入れます.外側は真空,壁は断熱し,面積 S の薄い孔を時刻0に開きます.気体は一様で,流出より速く熱平衡に戻るとします.孔の法線を x 方向とし,独立な成分の確率密度は

f(vj)=m2πkBTe−mvj2/(2kBT),j=x,y,z

とします.孔径 d,自由行程 λ,容器長 ℓ は 1≫d/λ,1≫λ/ℓ を満たします.

  1. 単位時間当たりの流出数と平均運動エネルギーを求めよ.α>0 に対し ∫0∞v2j+1e−αv2dv=j!/(2αj+1)(j=0,1)を用いてよい.

  2. 壁の熱容量を無視し,N(t),温度 T(t)を求めよ.初期の単位時間当たりの流出数は N0/τ0 とする.

  3. 壁が気体と同温で熱容量 Cw 一定なら T(N) を求めよ.Cw=3N0kB/2 で N=N0/8 の温度を熱容量0の場合と比較し,壁を無視できる条件を示せ.

容積Vの固定容器内に分子数N,温度Tの気体があり,断熱壁の面積Sの小孔の外側は真空である.孔の外向き法線をx方向とし,入射速度成分v_x,v_y,v_zを別の模式図に示す.初期条件はN_0,T_0=320 Kであり,小問(3)では壁の熱容量C_wを考える. 容積Vの固定容器内に分子数N,温度Tの気体があり,断熱壁の面積Sの小孔の外側は真空である.孔の外向き法線をx方向とし,入射速度成分v_x,v_y,v_zを別の模式図に示す.初期条件はN_0,T_0=320 Kであり,小問(3)では壁の熱容量C_wを考える.
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考え方

理想気体の分布を到達速度で重み付けし,開放系の収支を立てる.

  1. 到達する層の厚さは vxdt である.n=N/V,α=m/(2kBT) とおくと,流出率 J は

J=Sn∫0∞vxf(vx)dvx=Snαπ12α=SNVkBT2πm.

流出集団では ⟨vx2⟩out=(1/(2α2))/(1/(2α))=1/α.横成分は各 1/(2α) だから,平均エネルギーは m(1/α+2/(2α))/2=2kBT.

  1. dN<0 として,剛体容器の収支は

d(32NkBT)=2kBTdN,dTT=dN3N,TT0=(NN0)1/3.

τ0=(V/S)2πm/(kBT0),q=N/N0 とおけば,dqdt=−q7/6/τ0.積分して 6(q−1/6−1)=t/τ0 より

NN0=(1+t6τ0)−6,TT0=(1+t6τ0)−2.
  1. 気体と壁を合わせ,d(3NkBT/2+CwT)=2kBTdN とすると

(3N+2CwkB)dTT=dN,TT0=(3N+2Cw/kB3N0+2Cw/kB)1/3.

壁ありで T=T0(9/16)1/3≃264K,熱容量0なら T=T0/2=160K.壁を無視する条件は 1≫2Cw/(3NkB) で,N の減少で破れる.Cw→∞ では等温へ近づく.τ0 は時間の次元を持ち,流出中も 1≫d/λ,1≫λ/ℓ と,平衡化時間が流出時間より短い条件が必要である.

総合演習 30

オリジナル ★★★★☆

衝突するイオンの移動度と拡散の分解能

中性気体に,質量 m=3.32×10−26kg,電荷 +e のイオンを希薄に入れます.T=320K です.衝突確率は短時間 dt に dt/τ,衝突直後の速度は平均0の熱分布に戻るとします.イオン間の相互作用と空間電荷を無視します.x 方向の電場を E,平均速度を u とします.e=1.60×10−19C,kB=1.38×10−23JK−1 とします.

  1. 平均速度の式と,定常速度 u=βE の移動度を求めよ.

  2. 次の測定で ∑i(ui−βEi)2 を最小にし,β,τ と β の標準不確かさを求めよ.電場の誤差は無視し,各速度の独立な標準不確かさを σu=0.006ms−1 とする.

E/(Vm−1)

u/(ms−1)

1.00×103

0.300

2.00×103

0.600

3.00×103

0.900

  1. 数密度 n(x) の粒子流を jN=nβE−Ddndx とする.熱平衡で n∝exp⁡[−eV(x)/(kBT)],E=−dVdx から D を導け.電場 2.00×103Vm−1 で,薄い初期層を平均距離 L=1.00×10−2m 運ぶ時間と位置の標準偏差を求めよ.幅を L/10 未満にする電場と,熱分布を保つ弱電場の条件を比べよ.

中性気体中の電荷+eのイオンを薄い初期層として描く.電極間の電場Eはx方向を向き,初期層から観測面までの距離はLである.小問(3)の条件はE=2.00×10^3 V m^−1,L=1.00×10^−2 mである. 中性気体中の電荷+eのイオンを薄い初期層として描く.電極間の電場Eはx方向を向き,初期層から観測面までの距離はLである.小問(3)の条件はE=2.00×10^3 V m^−1,L=1.00×10^−2 mである.
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考え方

衝突による平均速度の減少を数え,平衡での粒子流0から拡散係数を決める.

  1. 衝突しない間の加速は eE/m,衝突による平均速度の減少は udt/τ である.従って

dudt=eEm−uτ,ust=eτmE,β=eτm.
  1. 二乗和の β による微分を0とすると,∑iEiui=β∑iEi2.誤差を重み Ei/∑jEj2 で足すと

β=∑iEiui∑iEi2=3.00×10−4m2V−1s−1,σβ2=σu2∑iEi2.

σβ=1.6×10−6m2V−1s−1,τ=mβ/e=6.23×10−11s.

  1. 平衡分布を微分すると dndx=neE/(kBT).jN=0 より D=βkBT/e=kBTτ/m である.分散は 2Dt 増し,

D=8.28×10−6m2s−1,tL=LβE=1.67×10−2s,σx=2DtL=5.25×10−4m.

幅の条件 2DL/(βE)<L2/100 は E>200kBT/(eL)=5.52×102Vm−1.移動度と拡散係数が比例するため τ は消える.

熱速度を vth=3kBT/m,飛行距離を λ=vthτ とすると,弱電場には 1≫eEλ/(kBT) が必要である.最大測定電場でもこの比は 4.3×10−3 で,幅の条件と両立する.D は面積毎時間の次元を持ち,拡散模型には tL/τ≫1 と 1≫λ/L が必要である.

総合演習 31

オリジナル ★★★★★

臨界点で音が止まるとは限らない

一様な1相のファン・デル・ワールス気体です.モル体積 w,モル質量 μ,内部エネルギー um に対し,

p=RTw−b−aw2,um=CVT−aw,wc=3b,Tc=8a27Rb.

を与えます.モル定積熱容量 CV>0 は定数,w>b,密度は ρ=μ/w.粘性を無視し,音速の2乗は対応する過程の dpdρ とします.

  1. 可逆断熱変化の dTdw を第一法則から求め,断熱音速 vS と等温の速さ vT を導け.

  2. w=wc,T=(1+ϵ)Tc で両速さを求め,ϵ→0+ の違いを説明せよ.a/b=9.0×103Jmol−1,μ=0.044kgmol−1,CV=3R/2,ϵ=0.040 として数値も求めよ.

  3. 波の角振動数 ω,局所平衡化時間 τi,熱交換時間 τh で両過程の条件を示せ.臨界点での断熱温度変化をモル体積変化 δw で表し,線形近似の条件を示せ.

1相の気体中の縦波を,粒子の密な圧縮部と疎な希薄部で示す.下の模式図はモル体積w,温度Tの局所の気体要素であり,破線は体積変化δwを表す.外界との熱交換を双方向の矢印で示し,熱交換時間をτ_hとする. 1相の気体中の縦波を,粒子の密な圧縮部と疎な希薄部で示す.下の模式図はモル体積w,温度Tの局所の気体要素であり,破線は体積変化δwを表す.外界との熱交換を双方向の矢印で示し,熱交換時間をτ_hとする.
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考え方

断熱線と等温線の傾きを別々に求める.

  1. モルあたり dum=−pdw とすると,CVdT+adw/w2=−[RT/(w−b)−a/w2]dw.引力の項が相殺され,dTdw=−RT/[CV(w−b)] となる.従って

(∂p∂w)T=−RT(w−b)2+2aw3,(dpdw)S=−RT(w−b)2(1+RCV)+2aw3.

dρdw=−μ/w2 より,δp=v2δρ の係数は

vT2=w2μ[RT(w−b)2−2aw3],vS2=w2μ[RT(w−b)2(1+RCV)−2aw3].
  1. w=3b と RTc=8a/(27b) を代入すると

vT2=2a3μbϵ,vS2=2a3μb[ϵ+RCV(1+ϵ)].

臨界点では vT→0,一方 vS→2aR/(3μbCV).断熱圧縮で温度が上がるため,等温の圧力応答が0でも復元力が残る.数値は vT≃74ms−1,vS≃3.2×102ms−1.臨界点の断熱値は 3.0×102ms−1 である.

  1. 局所平衡には 1≫ωτi が必要である.ωτh≫1 なら断熱,1≫ωτh なら等温へ近づく.中間では位相差と減衰が生じ,両速さの平均では表せない.

断熱の式を積分すると T(w−b)R/CV=一定.臨界点で δT/T≃−Rδw/[CV(wc−b)] だから,s=δw/wc とすると δT/T≃−3Rs/(2CV).線形近似には 1≫|s| と 1≫3R|s|/(2CV) が必要である.希薄な極限 w/b≫1,1≫a/(RTw) では vS2→(1+R/CV)RT/μ となり,理想気体の断熱音速に戻る.

総合演習 32

オリジナル ★★★★★

固めて冷やす物質と,スピンの二つの状態

A3A223He を参考にした模型物質で,モルエントロピーは液体が sl=RT/Θ,無磁場の固体が ss=Rln⁡2,モル体積差は Δw=wl−ws>0 一定です.適用範囲は 0.030K≤T≤0.140K とし,エントロピーの圧力依存と,界面・装置の熱容量は無視します.Θ=0.200K,Δw=1.50×10−6m3mol−1,R=8.31Jmol−1K−1 とします.

  1. モル自由エネルギーを gl,gs とし,dg=−sdT+wdp,gl=gs から共存圧力 pm(T) の傾きを導け.圧力が最小になる温度と,Ti=0.100K から Tf=0.0600K への共存圧力の変化を求めよ.

  2. 物質量 ν=0.0200mol の液体を Ti の共存圧力から,可逆断熱で固める.固体の割合を x とし,T(x) と Tf に達する割合を求めよ.また Ti を保って全量を固める場合の吸熱を求め,冷却の理由を説明せよ.

  3. 固体原子の独立な2状態を磁場で −ε,+ε に分ける.確率は P±=e∓y/(ey+e−y),y=ε/(kBT),モルエントロピーは −R∑±P±ln⁡P± とする.液体への磁場の影響は無視し,磁場一定で固体のエントロピーを導き,ε/kB=0.100K のとき,磁場下の共存圧で Ti から微小量を断熱固化し,冷えるか判定せよ.

圧力pを受けるピストンをもつ断熱容器内に液相と固相を模式的に描き,温度Tと固体の割合xを記す.右側は磁場によって分かれた固体原子の二つの準位で,上が+ε,下が−εである. 圧力pを受けるピストンをもつ断熱容器内に液相と固相を模式的に描き,温度Tと固体の割合xを記す.右側は磁場によって分かれた固体原子の二つの準位で,上が+ε,下が−εである.
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考え方

可逆断熱で全エントロピーを保存し,2状態の占有からエントロピーを数える.

  1. 共存曲線で dgl=dgs とすると,(wl−ws)dp=(sl−ss)dT だから

dpmdT=RΔw(TΘ−ln⁡2).

傾きが負から正へ変わる最小は T∗=Θln⁡2=0.139K.傾きを積分すると

pm(Tf)−pm(Ti)=RΔw[Tf2−Ti22Θ−(Tf−Ti)ln⁡2]=6.50×104Pa.

冷やすには共存圧力を上げる.

  1. 可逆断熱なら,全エントロピー ν[(1−x)sl+xss] は初期の νRTi/Θ に等しい.従って

(1−x)TΘ+xln⁡2=TiΘ,T(x)=Ti−xΘln⁡21−x,xf=Ti−TfΘln⁡2−Tf=0.509.

dTdx=(Ti−Θln⁡2)/(1−x)2<0 なので固化で冷える.等温固化では,吸熱は

Q=νTi(ss−sl)=νRTi(ln⁡2−TiΘ)=3.21×10−3J>0.

等温では固化で増すエントロピーを吸熱で,断熱では液体の冷却で補う.Q には体積仕事の分も含む.

  1. Z=ey+e−y とおく.ln⁡P±=∓y−ln⁡Z,P−−P+=tanh⁡y なので

ss(T)=R[ln⁡(ey+e−y)−ytanh⁡y].

y=0 で Rln⁡2 に戻り,分裂で占有が偏ると減る.x=0 で全エントロピー一定を微分すると

RΘdT+[ss(Ti)−sl(Ti)]dx=0,dTdx∫|x=0=ΘR[sl(Ti)−ss(Ti)].

磁場下では y=1,ss/R=0.365,sl/R=0.500.dTdx>0 で,無磁場と逆に昇温する.圧力差の次元はエネルギー毎体積である.等確率の近似には 1≫ε/(kBT) が必要であり,この模型を絶対零度まで延長できない.