問いしるべ
問いから始める物理 全範囲の総合演習

全範囲の総合演習

熱と分子の総合問題(2)

著者:柚木芹香

引っ張り,粘性のある流れ,振動の緩和,温度の調節の4題です.力学(第4・6・7章)と熱(第15〜18章)を中心に,測定(第14章),音と分子振動(第25・29章)も使います.散逸と,応答が安定かどうかを調べてください.

総合演習 33

オリジナル ★★★★☆

引くと冷える線の弾性と損失

金属線の長さを ℓ,引張力を F,温度を T とし,弾性範囲の自由エネルギーを

G(T,F)=G0(T)−Fℓ0[1+α(T−T0)]−F22K,dG=−SdT−ℓdF

とします.S はエントロピー,K は等温の弾性係数,C=−Td2G0dT2 は一定の熱容量です.一様な温度・応力で,ℓ0=0.50m,K=5.6×104Nm−1,C=0.48JK−1,α=2.4×10−5K−1,T0=300K とします.

長さℓの金属線を右向きの力Fで引く.温度計は線の温度Tを示す.小問(3)では温度T₀の熱源から線への熱流を−Hθとし,θ=T−T₀である. 長さℓの金属線を右向きの力Fで引く.温度計は線の温度Tを示す.小問(3)では温度T₀の熱源から線への熱流を−Hθとし,θ=T−T₀である.
  1. ℓ(T,F) と dS を導き,F=0,T=T0 から可逆断熱で F1=20N まで引いたときの温度変化と伸びを求めよ.

  2. T0 で予張力をかけた平衡のまわりの等温・断熱の微小な弾性係数を求めよ.χ=Kα2ℓ02T0/C で正の断熱弾性係数をもつ条件を示せ.

  3. 熱源 T0 からの熱流を −Hθ(H>0,θ=T−T0)とし,伸びの変動を x=Re⁡(Xeiωt) とする.力の複素振幅 F^ と X の比を求め,振幅一定で1周期の損失が最大になる ω を求めよ.予張力を上回る変動と線の慣性は除く.

解答を見る

考え方

自由エネルギーの模型から熱膨張と弾性を連立する.

  1. a=αℓ0 とおく.微分して

ℓ=ℓ0+a(T−T0)+FK,S=−dG0dT+aF,dS=CTdT+adF.

dS=0 を積分して,Cln⁡(Tf/T0)+aF1=0.よって Tf=T0e−aF1/C,伸びは F1/K+a(Tf−T0) である.aF1/C=5.0×10−4 より,ΔT=−0.15K,伸びは 3.6×10−4m.

  1. dℓ=adT+dF/K より,等温では係数は K.断熱では dT=−aT0dF/C を代入して

dℓ=1−χKdF,KS=K1−χ.

0≤χ<1 が必要である.

  1. 変動を f と書くと f=K(x−aθ).熱収支は T0dSdt=−Hθ だから

Cdθdt+aT0dfdt=−Hθ.

θ=Re⁡(Θeiωt) として,[H+iωC(1−χ)]Θ=−iωaT0KX.消去すると

F^X=KH+iωCH+iωC(1−χ).

周期平均は fdxdt―=(ω/2)Im⁡(F^X∗).周期 2π/ω を掛けて

Wloss=π|X|2KχωCHH2+ω2C2(1−χ)2.

z=ωC(1−χ)/H とおくと z/(1+z2) が z=1 で最大となり,ω∗=H/[C(1−χ)],Wmax=πKχ|X|2/[2(1−χ)].両周波数極限で等温・断熱に戻り,損失は0になる.|θ|/T0,|x|/ℓ0 が十分小さく,音の伝播・温度一様化の時間が 1/ω より短い範囲で使う.

総合演習 34

オリジナル ★★★★☆

液面の記録から見えないすき間を測る

断面積 A の容器から大液槽へ,液体が幅 b,高さ δ,長さ d の水平なすき間を流れます.両口は水没し,液面差 h による圧力差は Δp=ρgh です.両液面は大気に開き,液槽の液面は一定です.粘性率 η 一定の層流で,入口の影響を無視します.壁面の流速は0,せん断応力は ηdvdz です.z は中央から高さ方向に測ります.

A=1.0×10−4m2,b=3.0×10−2m,d=2.0×10−2m,ρ=1.0×103kgm−3,η=2.0×10−2Pas,g=9.8ms−2 とします.

t

h

0s

0.200m

60s

0.100m

120s

0.050m

断面積Aの容器と液面一定の大液槽を,両口が水没した水平流路でつなぐ.両液面は大気に開き,液面差はhである.拡大した流路断面に幅b,高さδと,中央を原点とする高さ方向の座標zを示す.流路の長さはdである. 断面積Aの容器と液面一定の大液槽を,両口が水没した水平流路でつなぐ.両液面は大気に開き,液面差はhである.拡大した流路断面に幅b,高さδと,中央を原点とする高さ方向の座標zを示す.流路の長さはdである.
  1. 薄い流体層のつり合いから v(z) と体積流量 q を導け.

  2. h(t) を求め,表から δ を推定せよ.液面差の誤差 0.001m だけを考え,両端の値による推定の相対誤差上限も1次で求めよ.

  3. 液面差が4分の1になるまでの散逸を求めよ.すき間の高さを半分にした場合の所要時間と総散逸も比べよ.瞬時に流速分布が整う近似も検算せよ.

解答を見る

考え方

定常流を仮定し,圧力仕事と体積保存を使う.

  1. 厚さ dz の層の力のつり合いより ηd2vdz2=−Δp/d.中央で dvdz=0,両壁で v=0 より

v(z)=Δp2ηd(δ24−z2),q=b∫−δ/2δ/2v(z)dz=bδ3ρgh12ηd.
  1. Adhdt=−q より h=h0e−t/τ,τ=12ηdA/(bδ3ρg).ln⁡h と t は直線で,中間点も一致する.τ=120s/ln⁡4=86.6s なので

δ=(12ηdAbρgτ)1/3≃2.7×10−4m.

対数比の誤差は両端の相対誤差の和以下.τ の相対誤差上限は (0.001/0.200+0.001/0.050)/ln⁡4=0.018,δ は3分の1の 0.0060 である.

  1. 散逸率は圧力仕事率 P=Δpq=−ρgAhdhdt である.積分して

Eloss=ρgA2(h02−hf2)=1.8×10−2J.

半分のすき間では τ と時間は8倍だが,総散逸は同じ位置エネルギー差となる.速度分布が整う時間は ρδ2/η 程度で,ρδ2/(ητ)=4.1×10−5.初期の平均流速 q/(bδ)=0.029ms−1 から ρv¯δ/η=0.39,δ/d=0.013 であり,層流の近似と整合する.運動エネルギーと圧力仕事の比は v¯2/(2gh0)=2.1×10−4 程度で小さい.

総合演習 35

オリジナル ★★★★★

分子の中が温まると音が遅くなる

剛体の断熱容器に2原子分子の理想気体を ν=0.010mol 入れます.並進・回転の熱容量は 5νR/2 です.各分子の振動準位は Ej=(j+1/2)kBΘ(j=0,1,…,Θ=600K)で,振動の温度 Tv における確率は Pj=(1−q)qj,q=e−Θ/Tv です.初め T0=150K で平衡にあり,短い加熱で並進・回転だけを T1=900K にします.以後,熱・仕事の出入りなしに振動へエネルギーが移ります.解離・電子励起は無視します.

R=8.31Jmol−1K−1,kB=1.38×10−23JK−1 を使います.振動のエントロピーは Sv=−νR∑jPjln⁡Pj で計算します.

初めはT₀=150 Kで平衡にあり,短い加熱で並進・回転だけをT₁=900 Kにする.加熱直後の振動温度はTᵥ=T₀で,以後は断熱容器内で振動へエネルギーが移る.振動準位Eⱼ=(j+1/2)k_BΘは等間隔で,Θ=600 Kである. 初めはT₀=150 Kで平衡にあり,短い加熱で並進・回転だけをT₁=900 Kにする.加熱直後の振動温度はTᵥ=T₀で,以後は断熱容器内で振動へエネルギーが移る.振動準位Eⱼ=(j+1/2)k_BΘは等間隔で,Θ=600 Kである.
  1. Uv(Tv) と Sv(Tv) を求めよ.零点エネルギーを除いて表せ.

  2. 終温度 Tf を求めよ.加熱直後から平衡までのエントロピー増加を求め,エントロピー最大となる理由も示せ.

  3. 平衡後の音の周期に比べ,振動緩和が遅い場合と速い場合の音速比を求めよ.v2=γRTf/Mmol,γ=1+R/CV を使い,CV はモル定積熱容量,Mmol はモル質量とする.

解答を見る

考え方

緩和前は二つの集団に別々の温度を割り当て,準位の確率から熱容量を出す.

  1. 等比級数を微分すると ∑jjqj=q/(1−q)2 なので,j¯=q/(1−q)=1/(eΘ/Tv−1).零点エネルギーを除いて

Uv=νRΘeΘ/Tv−1,SvνR=−ln⁡(1−q)−j¯ln⁡q=Θ/TveΘ/Tv−1−ln⁡(1−e−Θ/Tv).

Tv→0 で両者は0,高温では Uv≃νRTv に近づく.

  1. 定積・断熱のエネルギー保存より

52Tf+ΘeΘ/Tf−1=52T1+ΘeΘ/T0−1.

左辺は単調増加し,T0<Tf<T1 に唯一の根をもつ.二分法で Tf=720K.s(T)=Sv(T)/(νR) とおくと

ΔS=νR[52ln⁡TfT1+s(Tf)−s(T0)]=4.7×10−2JK−1.

並進・回転の温度を Te,振動への移動を dE とすると dS=(1/Tv−1/Te)dE.両熱容量は正だから係数は移動とともに減り,共通温度で0となって最大を与える.

  1. x=Θ/Tf とおき,微分すると

CVv=Rx2ex(ex−1)2=0.944R.

速い音を h,遅い音を l とする.速い音では占有数が固定され,CV,h=5R/2,γh=7/5.遅い音では CV,l=5R/2+CVv,γl=1.290 なので

vhvl=1.4001.290=1.042.

1≫|δp|/p,1≫ωτc(衝突時間 τc)が必要である.音の角振動数を ω,振動緩和時間を τv とすると ωτv≫1 と 1≫ωτv が各極限の条件で,中間では減衰も伴う.

総合演習 36

オリジナル ★★★★★

蒸気圧の温度調節器は振動しても安定か

液体と飽和蒸気を封じたじゃばらが冷却弁を開きます.有効面積は A,外圧は pe,変位 x≥0 に対する閉じる力は F0+κx です.共存時のモルギブズエネルギーは両相で等しく,dg=−sdT+wdp,蒸発時の sv−sl=L/T を使えます.蒸気は理想気体,液体体積は無視でき,モル蒸発熱 L は一定です.Tr=340K,pr=1.00×105Pa です.

L=3.20×104Jmol−1,R=8.31Jmol−1K−1,A=4.0×10−4m2,pe=pr,F0=12N,κ=3.0×103Nm−1 とします.

温度Tの物体内に液体と飽和蒸気を封じたじゃばらを置く.有効面積Aの端面が正の変位xで冷却弁を開き,外圧pₑと閉じる力F₀+κxを受ける.入力はP,周囲への熱流はH(T−Tₐ),弁による冷却はBxで,Tₐ=300 Kである. 温度Tの物体内に液体と飽和蒸気を封じたじゃばらを置く.有効面積Aの端面が正の変位xで冷却弁を開き,外圧pₑと閉じる力F₀+κxを受ける.入力はP,周囲への熱流はH(T−Tₐ),弁による冷却はBxで,Tₐ=300 Kである.
  1. 飽和圧 ps(T),開き始めの温度,T∗=360K の平衡変位 x∗ を求めよ.

  2. 装置の温度は CdTdt=P−H(T−Ta)−Bx に従うとします.C=200JK−1,H=4.0WK−1,B=4.0×103Wm−1,Ta=300K です.定常温度 T∗ の電力と,瞬時に動く弁による減衰時間を求めよ.

  3. 弁の摩擦による遅れを τdxdt+x=xeq(T) とします.xeq は(1)の平衡変位,τ>0 です.振動を伴う τ の範囲と,振動が成長する可能性を調べよ.機械的仕事・摩擦熱は無視し,C は相変化も含む局所的な有効熱容量です.

解答を見る

考え方

両相の平衡を仮定し,温度と変位を連立する.

  1. 共存曲線で dgv=dgl なので,(wv−wl)dp=(sv−sl)dT.wv=RT/p を代入すると

dpsps=LRT2dT,ps=prexp⁡[LR(1Tr−1T)].

開き始めに A(ps−pe)=F0 である.よって

Ton=[1Tr−RLln⁡pe+F0/Apr]−1=348K.

開放時は xeq=[A(ps−pe)−F0]/κ.ps(T∗)=1.876×105Pa,x∗=7.7×10−3m となる.

  1. 定常収支より P=H(T∗−Ta)+Bx∗=2.7×102W.平衡での D=dxeqdT は

D=Aps(T∗)LκRT∗2=7.43×10−4mK−1.

θ=T−T∗,ξ=x−x∗ として,瞬時には ξ=Dθ.よって Cdθdt=−(H+BD)θ,減衰時間は C/(H+BD)=29s.

  1. 線形化で Cdθdt=−Hθ−Bξ,τdξdt=Dθ−ξ.eλt に比例する解を代入し,消去すると

λ2+(HC+1τ)λ+H+BDCτ=0.

r=BD/H,u=Hτ/C とすると,判別式が負になる条件は (u+1)2<4(1+r)u.境界は u±=(1+r±r)2 だから,数値では 10.5s<τ<238s で振動する.どの τ>0 でも根の和は負,積は正で,根の実部は負となり,成長は起こらない.|ξ|/x∗,L|θ|/(RT∗2) が十分小さく,蒸気の平衡化が応答より速い範囲で使う.液体消失や弁の閉鎖で模型が変わる.