問いしるべ
問いから始める物理 電磁誘導と交流

電磁誘導と交流

運動起電力の例題

著者:柚木芹香

導体の運動と回路を連立する典型的な設定を,例題で解きます.どの例題でも,回路の式,運動方程式,エネルギーの収支の3つをそろえて確かめます.回路自身の電流が作る磁場(自己誘導)と摩擦は無視します.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

水平と角 θ をなす斜面に,間隔 l の2本の平行なレールが斜面に沿って置かれ,上端は抵抗 R で結ばれています.斜面に垂直な一様な磁場 B の中で,質量 m の導体棒をレールに垂直に置き,静かに放します.棒はレールに垂直なまま滑り,抵抗 R 以外の抵抗は無視します.重力加速度を g とします.

斜面に沿う図と横からの図.間隔lのレールの上端を抵抗Rで結び,質量mの棒が斜面を下る.磁場Bは斜面に垂直で,斜面の傾きはθである. 斜面に沿う図と横からの図.間隔lのレールの上端を抵抗Rで結び,質量mの棒が斜面を下る.磁場Bは斜面に垂直で,斜面の傾きはθである.
  1. 棒の速さが v のときの電流と運動方程式を書き,終端速度 vt を求めよ.m=0.020kg,l=0.50m,B=0.40T,R=0.50Ω,θ=30∘,g=9.8ms−2 で値を求めよ.

  2. 放してからの速さ v(t) を求めよ.

  3. 放してから斜面に沿って距離 s だけ滑る間に,抵抗を通った電荷と発生したジュール熱を求めよ.s は十分大きく,棒はすでに終端速度に達しているとする.

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考え方 運動起電力 vBl で電流を出し,電流が受ける力を運動方程式に入れる.形は第4章の空気抵抗と同じである.

  1. 起電力は vBl だから I=vBl/R.棒が受ける磁気力の大きさは IBl=B2l2v/R で,レンツの法則により斜面を上る向きである.斜面を下る向きを正として

mdvdt=mgsin⁡θ−B2l2Rv

である.右辺が0になる速さが終端速度で,vt=mgRsin⁡θ/(B2l2).数値を入れると

vt=0.020×9.8×0.50×0.50(0.40×0.50)2ms−1≈1.2ms−1

である.

  1. τ=mR/(B2l2) とおくと,運動方程式は dvdt=−(v−vt)/τ となる.v(0)=0 より v=vt(1−e−t/τ).数値では τ=0.25s である.

  2. 電荷は q=∫Idt=BlR∫vdt=BlsR で,回路の磁束の変化量 Bls を R で割ったものに等しい.エネルギーの収支は,重力のした仕事が運動エネルギーとジュール熱になるので

Q≈mgssin⁡θ−12mvt2

である.

確かめ:終端速度では I=mgsin⁡θ/(Bl) で,I2R=m2g2Rsin2⁡θB2l2=mgsin⁡θ⋅vt となり,重力の仕事率がすべて熱になっている.回路の大きさを 0.5m 程度とすると自己インダクタンスは 10−6H 程度で,L/R≈2×10−6s は τ=0.25s よりずっと短いので,自己誘導を無視してよい.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

水平な2本の平行なレールの上に,質量 m1 の棒1と質量 m2 の棒2をレールに垂直に置きます.鉛直な一様な磁場 B があり,回路の抵抗は2本の棒の抵抗の和 R だけです.初め棒2は静止しており,時刻0に棒1に右向きの速さ u を与えます.以後は両方の棒が自由に動くものとし,棒どうしの衝突は起こらないとします.

初期状態で棒1だけが右向きの速さuをもつ.左はどこでも間隔lのレール,右は棒2の側の間隔がl/2のレールである.磁場Bは鉛直下向きで,紙面の奥向きを⊗で示す. 初期状態で棒1だけが右向きの速さuをもつ.左はどこでも間隔lのレール,右は棒2の側の間隔がl/2のレールである.磁場Bは鉛直下向きで,紙面の奥向きを⊗で示す.
  1. レールの間隔がどこでも l のとき,2本の棒の運動量の和が保存されることを示し,十分時間がたった後の速さを求めよ.

  2. 2本の棒の速さの差 w=v1−v2 の時間変化と,発生するジュール熱の総量を求めよ.

  3. 棒1の所のレールの間隔が l,棒2の所の間隔が l/2 で,2つの部分はレールに垂直な短い導線の段でつながっているとする.棒はそれぞれの部分から出ないとして,十分時間がたった後の速さと発生する熱を求め,運動量の和が保存されない理由を述べよ.

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考え方 2本の棒は同じ回路にあるので同じ電流が流れる.力の比はそれぞれの長さの比で決まる.終わりの状態は電流が0,つまり2つの起電力が打ち消し合う状態である.

  1. 2本とも右へ動くと,回路を貫く磁束は Bl(v2−v1) の速さで変わる.したがって電流の大きさは I=Bl(v1−v2)/R で,棒1には左向き,棒2には右向きに,同じ大きさ IBl の力が働く.

m1dv1dt=−IBl,m2dv2dt=IBl

を足すと ddt(m1v1+m2v2)=0 で,運動量の和は保存する.電流が0になる終わりの状態では v1=v2 だから,共通の速さは V=m1u/(m1+m2) である.

  1. 2つの式から dwdt=−IBl(1m1+1m2)=−B2l2μRw.ここで μ=m1m2/(m1+m2) は換算質量(第5章)である.よって w=ue−t/τ,τ=μR/(B2l2).熱は運動エネルギーの減少で

Q=12m1u2−12(m1+m2)V2=12μu2

である.直接積分しても ∫0∞I2Rdt=B2l2u2R∫0∞e−2t/τdt=B2l2u2τ2R=12μu2 で一致する.

  1. 磁束の変化の速さは B(lv1−lv2/2) の大きさで,電流が0になる終わりの状態では v2=2v1 である.棒1に働く力は IBl,棒2に働く力は IBl/2 だから,J=Bl∫Idt とおくと

m1(v1−u)=−J,m2v2=J2

である.v2=2v1 を使って J=4m2v1,したがって

v1=m1um1+4m2,v2=2m1um1+4m2

となる.運動量の和は m1u(m1+2m2)/(m1+4m2) で,初めの m1u より小さい.2本の棒に働く力の大きさが違い,差の分の力は段の導線に働くからである.段の導線にはレールに垂直な電流が流れ,レールに沿った向きの力を受けるが,段は固定されているので,その運動量は地面へ逃げる.熱は

Q=12m1u2−12m1v12−12m2v22=2m1m2u2m1+4m2

である.

確かめ:(3) で m2→0 なら Q→0,v1→u で,軽い棒2が抵抗なく速さ 2u についていく.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直な一様な磁場 B の中で,長さ a,質量 m の一様な導体棒OPが,端Oを通る鉛直な軸のまわりに水平面内で回ります.端Pは半径 a の円形のレールに接して滑り,Oとレールの間を抵抗 R でつなぎます.R 以外の抵抗と摩擦は無視します.時刻0に棒の角速度は ω0 で,その後は外から力を加えません.

長さaの棒OPが中心Oのまわりに角速度ωで回り,Pが円形レールに接する.固定された抵抗RがOとレールを結ぶ.磁場Bは紙面の奥向きである.Oからの配線とレールの交差は絶縁し,レールの上端で外部回路につなぐ. 長さaの棒OPが中心Oのまわりに角速度ωで回り,Pが円形レールに接する.固定された抵抗RがOとレールを結ぶ.磁場Bは紙面の奥向きである.Oからの配線とレールの交差は絶縁し,レールの上端で外部回路につなぐ.
  1. 角速度が ω のときの起電力を,棒の中の電荷に働く力から求め,磁束の法則でも確かめよ.

  2. 棒に働く磁気力のトルクを求め,角速度 ω(t) を求めよ.Oのまわりの棒の慣性モーメントは ma2/3 である.

  3. 止まるまでに棒が回る角度と,発生するジュール熱の総量を求めよ.

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考え方 棒の各部分の速さは中心からの距離に比例するので,v×B を棒に沿って積分する.トルクも同じように積分する.

  1. Oから r の所の速さは ωr で,電荷は棒に沿って単位電荷あたり ωrB の力を受ける.

E=∫0aωrBdr=12Bωa2

磁束の法則では,回路(O,棒,レールの弧,抵抗)が囲む扇形の面積が毎秒 a2ω/2 ずつ変わるので,磁束の変化の速さは Ba2ω/2 で一致する.回路の各部分が導体と一緒に動くように道を選んでいるので,法則が使える.電流は I=Bωa2/(2R) である.

  1. 長さ dr の部分に働く力は棒に垂直で大きさ IBdr,向きはレンツの法則により回転を妨げる向きである.トルクの大きさは

∫0aIBrdr=12IBa2=B2a44Rω

である.回転の運動方程式 ma23dωdt=−B2a44Rω より,ω=ω0e−t/τ,τ=4mR3B2a2 である.

  1. 回る角度は ∫0∞ωdt=ω0τ=4mRω03B2a2.熱は初めの回転の運動エネルギーで,Q=12⋅ma23ω02=ma2ω026 である.

確かめ:直接積分すると ∫0∞I2Rdt=B2a44R∫0∞ω2dt=B2a44R⋅ω02τ2=ma2ω026 で一致する.磁場が強いほど早く止まるが,熱の総量は B にも R にもよらない.

ポイント ここまでのまとめ

  • 回路の式(起電力=電圧降下)と導体の運動方程式を連立する.磁気力は速さに比例する抵抗力として働く.

  • 通った電荷は ∫Idt で,磁束の変化量を抵抗で割ったものになる.

  • 2本の棒が同じ幅なら運動量の和が保存する.幅が違うと固定された導線にも力が働き,保存しない.終わりの状態は起電力が打ち消し合う状態である.

  • 回転する棒の起電力は Bωa2/2.エネルギーの収支(外力や重力の仕事=運動エネルギーの変化+熱)で答えを確かめる.