問いしるべ
問いから始める物理 対称性から組み立てる力学(発展)

対称性から組み立てる力学(発展)

対称性と保存則

著者:柚木芹香

問い

物体がどんなに複雑に動いても,変わらない量があります.前の章では,エネルギー,運動量,角運動量が保存することを,運動方程式から1つずつ確かめました.しかし,なぜこの3つなのでしょうか.保存する量は,ほかにもあるのでしょうか.そして,どんなときに保存しなくなるのでしょうか.

考えてみる

前の題材までに,すでに1つの例を見ています.自由な粒子のラグランジアン 12mv2 は位置によらないので,オイラー=ラグランジュ方程式から ∂L/∂v=mv が一定になりました.L がある座標によらないことは,その座標の向きに系をずらしても何も変わらない,という対称性です.対称性が,保存する量を生んでいるように見えます.これを一般の形にします.

一般化運動量

定義 一般化運動量

一般化座標 qi に対して

pi=∂L∂q˙i

を,qi の一般化運動量という.ラグランジアンが qi を含まないとき,qi を循環座標という.

オイラー=ラグランジュ方程式は p˙i=∂L/∂qi と書けます.したがって,循環座標の一般化運動量は保存します.L=12m(r˙2+r2θ˙2)−U(r) のように中心からの距離だけによる位置エネルギーなら,θ が循環座標で,pθ=mr2θ˙ が保存します.第8章の面積速度一定(ケプラーの第2法則)は,これです.

時間の一様性とエネルギー

閉じた系では時間が一様なので,ラグランジアンは時刻 t を直接含みません.このとき,運動に沿った L の時間微分は

dLdt=∑i(∂L∂qiq˙i+∂L∂q˙iq¨i)=∑i(p˙iq˙i+piq¨i)=ddt∑ipiq˙i

です.2つ目の等号でオイラー=ラグランジュ方程式 ∂L/∂qi=p˙i を使いました.したがって次の量が保存します.

定理 エネルギーの保存

ラグランジアンが時刻を直接含まないとき

E=∑ipiq˙i−L

は運動の間一定である.これを系のエネルギーという.

閉じた系 L=∑a12mava2−U では,∑apa⋅va=∑amava2 なので

E=∑a12mava2+U

です.第1項を運動エネルギー K と呼びます.L=K−U で U に負号を付けたのは,エネルギーが K+U という和になるようにするためでした.第6章の力学的エネルギー保存は,時間の一様性の結果です.

空間の一様性と運動量

前の題材で,閉じた系の位置エネルギーは平行移動で変わらず,∑a∂U/∂ra=0 でした.各粒子のオイラー=ラグランジュ方程式 p˙a=−∂U/∂ra(pa=mava)を足すと

ddt∑apa=0

です.P=∑amava を系の運動量といい,これが保存します.

空間の等方性と角運動量

閉じた系を,ある軸のまわりに小さな角 δφ だけ丸ごと回します.軸の向きの単位ベクトルを n とすると,各粒子の位置と速度は

δra=δφn×ra,δva=δφn×va

だけ変わります.空間が等方なら,このとき L は変わりません.L の変化を計算し,オイラー=ラグランジュ方程式 ∂L/∂ra=p˙a を使うと(数学の節)

0=δL=δφn⋅ddt∑ara×pa

となります.どの軸 n についても成り立つので,M=∑ara×pa が保存します.これが系の角運動量です.

薄い粒子の集まりと濃い粒子の集まりは変換前後の同じ系.時刻のずらしは配置を変えず,平行移動と回転は系の形を保つ.それぞれE,運動量P,角運動量Mの保存に対応する. 薄い粒子の集まりと濃い粒子の集まりは変換前後の同じ系.時刻のずらしは配置を変えず,平行移動と回転は系の形を保つ.それぞれE,運動量P,角運動量Mの保存に対応する.

ネーターの定理

ここまでの3つは,同じ形の定理の例です.

定理 ネーターの定理

一般化座標の小さな変換 qi→qi+εηi(q,t)(ε は小さな定数)で,ラグランジアンの変化が全微分 εdΛ/dt になるとき(0でもよい)

Q=∑ipiηi−Λ

は運動の間一定である.

平行移動では η は移動の向き,回転では n×ra で,どちらも Λ=0 です.証明は数学の節で行います.Λ を許しておくと,次の4つ目の保存則も同じ形で扱えます.

ガリレイ変換と重心の運動

閉じた系を,小さな速度 ε で動く慣性系から見ると,各粒子の位置は ra→ra−εt と変わります.このとき U は変わらず,運動エネルギーの部分は,前の題材で見たように全微分 −ddt(ε⋅∑amara) だけ変わります(ε の2次は無視します).ネーターの定理を当てはめると

∑amara−Pt=一定

が得られます.全質量 M=∑ama と重心 R=∑amara/M で書くと,MR=Pt+一定,つまり重心は等速直線運動をします.

ポイント 時間と空間の対称性が生む保存量

  • 時間の一様性 → エネルギー(1個)

  • 空間の一様性 → 運動量(3成分)

  • 空間の等方性 → 角運動量(3成分)

  • ガリレイの相対性 → 重心の等速運動(3成分)

合わせて10個.閉じた系では,相互作用の形によらずに,必ずこれらが保存する.

対称性が破れると

保存則は,対称性があるときにだけ成り立ちます.系が外から与えられた場の中にあると,対称性の一部が破れます.地表付近で U=mgz の場の中にある物体では,鉛直方向にずらすと U が変わるので,運動量の z 成分は保存しません.水平方向の成分と,鉛直な軸のまわりの角運動量は保存します.場が時間とともに変わるなら,エネルギーも保存しません.

逆に,対称性だけでは相互作用の形 U は決まりません.対称性が教えてくれるのは,どんな U であっても成り立つ保存則までです.U が万有引力なのか,ばねなのかは,自然を調べて決めるしかありません.

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エネルギー,運動量,角運動量が保存するのは,時間が一様で,空間が一様で等方だからです.ガリレイの相対性からは,重心の等速運動という4つ目の保存則も出てきて,閉じた系の保存量は合わせて10個あります.場の中の物体のように対称性が破れると,それに対応する保存則も成り立たなくなります.

ポイント ここまでのまとめ

  • 一般化運動量 pi=∂L/∂q˙i.L が qi を含まなければ pi が保存する.

  • ネーターの定理:L が変換で全微分 εdΛ/dt しか変わらなければ,∑ipiηi−Λ が保存する.

  • 時間の一様性からエネルギー E=∑ipiq˙i−L=K+U,空間の一様性から運動量 P,等方性から角運動量 M,ガリレイの相対性から重心の等速運動が出る.合わせて10個.

  • 対称性が破れると,対応する保存則も破れる.対称性だけでは相互作用の形は決まらない.