問いしるべ
問いから始める物理 対称性から組み立てる力学(発展)

対称性から組み立てる力学(発展)

小さな変換と保存量の計算

著者:柚木芹香

ネーターの定理の証明と,回転で角運動量が出てくる計算を確かめます.使うのは,オイラー=ラグランジュ方程式と,外積の性質だけです.

定理 数学の道具:ネーターの定理の証明

変換 qi→qi+εηi(q,t) で,q˙i は q˙i+εη˙i に変わる(η˙i は運動に沿った ηi の時間微分).ε について1次で

δL=ε∑i(∂L∂qiηi+∂L∂q˙iη˙i)=ε∑i(p˙iηi+piη˙i)=εddt∑ipiηi

2つ目の等号でオイラー=ラグランジュ方程式を使った.これが εdΛ/dt に等しいので,ddt(∑ipiηi−Λ)=0.

証明の中でオイラー=ラグランジュ方程式を使ったことに注意します.保存則は,実際の運動に沿ってだけ成り立ちます.

定理 数学の道具:外積の3つの積

3つのベクトルについて a⋅(b×c)=b⋅(c×a)=c⋅(a×b) が成り立つ(順に回しても同じ).また a×a=0.

回転の計算をします.δra=δφn×ra,δva=δφn×va のとき,∂L/∂ra=p˙a,∂L/∂va=pa を使って

δL=δφ∑a[p˙a⋅(n×ra)+pa⋅(n×va)]=δφn⋅∑a(ra×p˙a+va×pa)

です(3つの積を順に回しました).かっこの中は ddt(ra×pa) です.これで本体の節の式が出ました.閉じた系では pa=mava なので va×pa=0 ですが,この計算はそれを使わなくても成り立ちます.

練習1 L=12m(x˙2+y˙2)−U(y) で保存する一般化運動量を答えよ.

練習2 L=12mx˙2−U(x,t) で,U が t を含むとき,E=12mx˙2+U の時間変化が ∂U/∂t に等しいことを示せ.

答え 練習1:x が循環座標なので px=mx˙.練習2:dE/dt=mx˙x¨+∂U/∂xx˙+∂U/∂t.方程式 mx¨=−∂U/∂x から最初の2項が打ち消し合い,dE/dt=∂U/∂t.時間の一様性が破れた分だけ,エネルギーが変わる.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

平面上の質量 m の粒子が,原点からの距離 r だけで決まる位置エネルギー U(r) の中を動く.

  1. 極座標でラグランジアンを書き,保存する一般化運動量を答えよ.

  2. エネルギー E を r,r˙ と (1) の保存量 pθ で表し,r の運動が1次元の運動と同じ形になることを示せ.

例として曲がった軌跡上のPを描く.緑は動径方向の成分ṙ(この点では内向き),橙は反時計回りの成分rθ̇,青はその和の速度v.保存量の式は示していない. 例として曲がった軌跡上のPを描く.緑は動径方向の成分ṙ(この点では内向き),橙は反時計回りの成分rθ̇,青はその和の速度v.保存量の式は示していない.
解答を見る

考え方 U は θ を含まないので,θ が循環座標.エネルギーの式から θ˙ を消す.

  1. L=12m(r˙2+r2θ˙2)−U(r).θ が循環座標なので,pθ=mr2θ˙ が保存する.

  2. L は時刻を含まないので

E=prr˙+pθθ˙−L=12mr˙2+12mr2θ˙2+U(r)

θ˙=pθ/(mr2) を代入すると

E=12mr˙2+pθ22mr2+U(r)

これは,位置エネルギー Ueff(r)=pθ22mr2+U(r) の中を1次元で動く粒子のエネルギーと同じ形である.

確かめ:第10章の実効ポテンシャルと同じ式になる(第10章では角運動量を L と書いた).

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

地表付近(U=mgz,z は鉛直上向き)で,質量 0.50kg の小球を,原点から水平な x 方向に 4.0ms−1,鉛直上向きに 3.0ms−1 の速度で投げた.g=9.8ms−2 とする.

  1. 10個の保存量のうち,この運動で保存するものをすべて挙げ,対応する対称性を答えよ.

  2. 投げた直後と 0.50s 後で,運動量の x 成分と z 成分,エネルギーを求めて比べよ.

解答を見る

考え方 U=mgz は,水平方向の平行移動,鉛直な軸のまわりの回転,時刻のずらしで変わらない.鉛直方向の平行移動と,水平な軸のまわりの回転では変わる.

  1. 時刻をずらしても U は変わらないので,エネルギーが保存.水平に平行移動しても変わらないので,運動量の x,y 成分が保存.鉛直な軸(z 軸)のまわりに回しても変わらないので,角運動量の z 成分が保存.運動量の z 成分と,角運動量の x,y 成分は保存しない.重心の等速運動は,水平方向については成り立つ.

  2. 投げた直後:px=0.50×4.0=2.0kgms−1,pz=0.50×3.0=1.5kgms−1,E=12×0.50×(4.02+3.02)+0=6.25J.

0.50s 後:vz=3.0−9.8×0.50=−1.9ms−1,z=3.0×0.50−4.9×0.502=0.275m.px=2.0kgms−1(同じ),pz=0.50×(−1.9)=−0.95kgms−1(変わった).

E=12×0.50×(4.02+1.92)+0.50×9.8×0.275≈4.90+1.35=6.25J

で同じ.

確かめ:pz の変化 −2.45kgms−1 は −mg×0.50s に等しい.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

z 軸を中心とするらせん状の場の中を,質量 m の粒子が動く.位置エネルギーは,粒子を z 軸のまわりに角 α だけ回し,同時に z 方向に h2πα だけずらしても変わらない(h はらせんの1巻きのピッチ).ただし,回すだけ,ずらすだけでは変わる.

  1. このねじれた動かし方について,ネーターの定理の η を書け.

  2. 保存する量を,角運動量の z 成分 Mz と運動量の z 成分 Pz で表せ.

解答を見る

考え方 小さな角 ε だけ回してずらすと,δr=ε(ez×r+h2πez).L は変わらないので Λ=0.

  1. η=ez×r+h2πez.

  2. 保存量は

Q=p⋅η=p⋅(ez×r)+h2πpz=ez⋅(r×p)+h2πpz=Mz+h2πPz

確かめ:Mz と Pz は別々には保存しないが,この組み合わせは保存する.対称性があれば,それが見慣れたものでなくても,保存量が1つ見つかる.h→0 なら z 軸のまわりの回転の対称性になり,Mz の保存に戻る.

ポイント ここまでのまとめ

  • ネーターの定理は,オイラー=ラグランジュ方程式を使えば数行で証明できる.保存則は実際の運動に沿って成り立つ.

  • 回転の計算では,外積の3つの積を順に回す性質を使う.

  • 中心からの距離だけによる位置エネルギーでは pθ=mr2θ˙ とエネルギーが保存し,r の運動は実効ポテンシャルの中の1次元の運動になる.

  • 場の中では,場が持つ対称性の分だけ保存量が残る.らせんのような見慣れない対称性からも保存量が出る.