問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

束縛条件とアトウッドの機械

著者:柚木芹香

前の節で学んだ垂直抗力と張力を使って,糸でつながれた物体の運動を調べます.鍵になるのは,糸の長さが一定という束縛条件です.例題1では,その前に,ロープでつながった馬と荷車で,軽いロープが力をそのまま伝えることと,作用反作用の対の見分け方を確かめます.

数学の道具

糸の一端は天井に固定され,動滑車の下をくぐって上に戻り,天井の定滑車を越えて下がり,質量 m2 の物体につながる.動滑車には質量 m1 の物体が吊るされている.天井から動滑車の中心までの距離 x1 と,定滑車から物体までの距離 x2 を,ともに下向きに測る.糸は動滑車の両側で2本の線になる. 糸の一端は天井に固定され,動滑車の下をくぐって上に戻り,天井の定滑車を越えて下がり,質量 m2 の物体につながる.動滑車には質量 m1 の物体が吊るされている.天井から動滑車の中心までの距離 x1 と,定滑車から物体までの距離 x2 を,ともに下向きに測る.糸は動滑車の両側で2本の線になる.

定理 数学の道具:束縛条件(糸の長さと加速度の関係)

物体どうしが糸でつながれていたり,面に沿って動いたりするとき,それぞれの加速度は独立ではなく,関係をもつ.この関係を作る基本は,糸の長さが一定ということである.

定滑車 固定された滑車にかけた糸の両端の物体の位置を,下向きに x1,x2 と測る.糸の長さが一定なので x1+x2=一定 である.時間で2回微分すると a1+a2=0 となり,一方が下がると,他方は同じだけ上がる.

動滑車 天井に一端を固定した糸を動滑車の下にくぐらせ,反対側を天井の高さにある定滑車を通して別の物体につなぐ(上の図).天井から動滑車の中心までの距離を x1,定滑車から物体までの距離を x2 とすると,糸は動滑車の両側で2本の線になるので,全長は 2x1+x2+(一定) である.微分して

2a1+a2=0

となる.動滑車に吊るされた物体が d 下がると,反対側の物体は 2d 上がる.また,質量の無視できる動滑車は張力 T の糸2本に上向きに引かれてつり合うので,吊るされた物体を引き上げる力は 2T である.

手順

  1. 動く物体の位置を同じ向きの座標で表す.

  2. 糸の長さが一定という条件や,面から離れないという条件を,位置の式として書く.

  3. その式を時間で2回微分して,加速度の関係を得る.

  4. 各物体の運動方程式と連立させる.未知数(加速度と力)の数と,式の数を数えて確かめる.

練習. (1) 上の動滑車の装置で,動滑車に吊るされた物体が下向きに 0.50ms−2 で加速している.反対側の物体の加速度を求めよ.(2) 同じ装置で,反対側の物体を一定の速さ 0.60ms−1 で引き下ろすと,動滑車に吊るされた物体はどの向きに,どれだけの速さで動くか.

答え:(1) 2a1+a2=0 より a2=−1.0ms−2,すなわち上向きに 1.0ms−2.(2) 2v1+v2=0 で v2=+0.60ms−1(下向き)なので v1=−0.30ms−1,上向きに 0.30ms−1.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

質量 mh=400kg の馬が,質量 mc=200kg の荷車を,水平な地面の上で軽いロープで引いている.荷車は地面から進行方向と逆向きに一定の抵抗力 f=300N を受ける.馬と荷車は,進行方向に加速度 a=0.50ms−2 で動いている.ロープが荷車を引く力の大きさを T,地面が馬に及ぼす前向きの力の大きさを R とする.ロープは軽く,馬の足以外の地面の力は無視する.

  1. T を求めよ.

  2. R を求めよ.

  3. 荷車が馬を引き返す力の大きさは,T と比べてどうか.それなのに加速できる理由を,一文で述べよ.

馬がロープで荷車を引く.荷車の抵抗f,張力T,地面が馬を押す力Rを示す. 馬がロープで荷車を引く.荷車の抵抗f,張力T,地面が馬を押す力Rを示す.
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考え方 馬と荷車をそれぞれ別の物体として扱い,それぞれに運動方程式を立てる.進行方向を正とする.

  1. 荷車に働く水平方向の力は,前向きの T と,後ろ向きの f である.運動方程式は mca=T−f なので

T=f+mca=300+200×0.50=400N

である.

  1. 馬に働く水平方向の力は,前向きの R と,ロープが馬を引き返す後ろ向きの力である.ロープが荷車を引く力の反作用は,荷車がロープを引く力で,ロープに働く.ロープが軽いので,ロープの運動方程式から,ロープの両端に働く力は等しい(この節の本体).よって,ロープが馬を引き返す力の大きさも T である.運動方程式は mha=R−T なので

R=T+mha=400+400×0.50=600N

である.

  1. 荷車は,ロープを通じて馬を T,すなわち 400N で引き返していて,馬がロープを通じて荷車を引く力と大きさが等しい.馬と荷車は直接触れていないので,この2力は作用反作用の対そのものではない.「荷車とロープ」「ロープと馬」の2組の対と,軽いロープの運動方程式を合わせて,等しいといえる.それでも加速できるのは,この2つの力が別々の物体に働いており,馬には地面から受ける前向きの力 R=600N も働いているからである.

検算として,系全体で考える.外力は R−f=600−300=300N,一方 (mh+mc)a=600×0.50=300N で,確かに一致する.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

軽い糸の両端に質量 M と m(M>m)の物体をつけ,固定された滑らかな滑車にかけたものを,アトウッドの機械という.静かに放したときの加速度の大きさ a と,糸の張力 T を求めよ.また,M=m と M≫m の場合を調べよ.

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[図:アトウッドの機械]

天井から吊るした滑らかな定滑車に軽い糸がかかり,左端に質量 M の物体,右端に質量 m の物体がついている.M の方が重く,M が下がる向きに加速度 a(緑)で動く.糸の張力 T は両側で同じ大きさで,M には重力 Mg が下向きに,T が上向きに働き,Mg の方が大きい.m では T の方が mg より大きい.スライダーで M と m の比を変えると,力の矢印の長さと a,T の値が変わり,比が 1 のとき a は 0,比が大きいほど a は g に近づく.

考え方 M が下向きに加速度 a で動くとき,糸は伸びないので,m は同じ大きさ a で上向きに動く(束縛条件).軽い糸の張力は,糸のどこでも同じ T である.

M は下向き,m は上向き(それぞれ動く向き)を正として,運動方程式は

Ma=Mg−T,ma=T−mg

である.2式を足すと T が消えて (M+m)a=(M−m)g となり,

a=M−mM+mg,T=2MmM+mg

を得る.M=m なら a=0,T=mg で,つり合っている.M≫m なら a→g で,M は自由落下に近くなり,張力は T→2mg である.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

軽い糸の両端に質量 0.30kg と 0.20kg の物体をつけ,固定された滑らかな滑車にかけた.はじめ2つの物体は同じ高さで静止している.静かに手を離すと,重い方の物体が降下し始める.

  1. 加速度の大きさと,糸の張力を求めよ.

  2. 重い方の物体が,はじめの位置から 0.50m 下がるまでの時間を求めよ.

  3. 滑車を吊るしている部材が滑車を支える力の大きさを求め,2つの物体の重力の和と比べよ.

天井から軽い棒で吊るされた滑らかな滑車に軽い糸がかかり,左に質量 0.30 kg の物体,右に質量 0.20 kg の物体が,同じ高さに吊るされている. 天井から軽い棒で吊るされた滑らかな滑車に軽い糸がかかり,左に質量 0.30 kg の物体,右に質量 0.20 kg の物体が,同じ高さに吊るされている.
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考え方 糸は軽く,滑車は滑らかなので,張力は糸のどこでも同じである.糸の長さが一定なので,2つの物体の加速度の大きさは等しい.各物体の運動方程式を立て,連立させる.

  1. M=0.30kg,m=0.20kg として,例題 2 の結果を使う.

a=M−mM+mg=0.100.50×9.8≈2.0ms−2,T=2MmM+mg=2×0.30×0.200.50×9.8≈2.4N
  1. 初速度0の等加速度運動なので,0.50=12at2,すなわち

t=2×0.501.96≈0.71s
  1. 軽い滑車は,糸から下向きに T ずつ,あわせて 2T の力を受ける.力がつり合うので,部材が支える力は 2T≈4.7N である.重力の和は (M+m)g≈4.9N で,それより小さい.重い方が下向きに加速しているぶん,糸が支える力が減るからである.

例題 4

オリジナル ★★★☆☆

傾き 30∘ の滑らかな固定斜面の上に,質量 2.0kg の物体Aが置かれている.Aは軽い糸で,斜面の上端にある滑らかな定滑車を通して,斜面の外に吊るされた質量 3.0kg の物体Bとつながっている.Aは斜面に沿って動き,糸は斜面と平行である.はじめ静止していたものを放した.

  1. Aの加速度の大きさと,糸の張力を求めよ.

  2. Aが斜面から受ける垂直抗力を求めよ.

傾き 30° の固定された斜面の上端に定滑車がある.斜面上の質量 2.0 kg の物体 A から出た糸が,斜面に平行に滑車まで伸び,滑車を越えて鉛直に下がって,質量 3.0 kg の物体 B につながる. 傾き 30° の固定された斜面の上端に定滑車がある.斜面上の質量 2.0 kg の物体 A から出た糸が,斜面に平行に滑車まで伸び,滑車を越えて鉛直に下がって,質量 3.0 kg の物体 B につながる.
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考え方 Aが斜面を上がる向きとBが下がる向きは同時に起こり,糸の長さが一定なので,加速度の大きさは等しい.A,Bそれぞれの運動方程式を立てて連立させる.

加速度の大きさを a,張力を T,Aの質量を m=2.0kg,Bの質量を M=3.0kg とし,Aが斜面を上る向きと,Bが下がる向きを正とする.

  1. Aについて,斜面に沿って上向きの力は T,下向きの力は mgsin⁡30∘ だから

ma=T−mgsin⁡30∘

Bについて

Ma=Mg−T

2式を足して T を消すと (m+M)a=Mg−mgsin⁡30∘ となり

a=M−msin⁡30∘M+mg=3.0−1.05.0×9.8≈3.9ms−2

T=M(g−a) から

T=3.0×(9.8−3.92)≈18N
  1. Aの斜面に垂直な向きには加速度がないので,N=mgcos⁡30∘=2.0×9.8×32≈17N である.

ポイント ここまでのまとめ

  • アトウッドの機械では a=M−mM+mg,T=2MmM+mg.極端な場合(M=m,M≫m)で検算する.

  • 糸の長さが一定という条件を2回微分すると加速度の関係が得られる.動滑車がある場合は 2a1+a2=0 のように係数がつき,吊るされた物体を引く力は 2T である.

  • 未知数の数と式の数を数えてから連立させる.

  • 軽いロープでつながった2物体では,ロープが両端で同じ大きさの力を伝える.それは第3法則ではなく,ロープの運動方程式による.作用反作用の対は「荷車とロープ」「ロープと馬」の2組である.