問いしるべ
問いから始める物理 原子核と素粒子

原子核と素粒子

原子核の大きさとクーロンエネルギーの例題

著者:柚木芹香

原子核の問題では,長さを fm,エネルギーを MeV,質量を u で量ると,数値が1から1000くらいに収まって見通しがよくなります.J や kg に直すのは最後だけにしましょう.ここでは,原子核の密度,陽子どうしのクーロンエネルギー,ラザフォードの散乱による原子核の大きさの上限の3つを練習します.

ポイント 原子核の見積もりで使う値

  • 1fm=10−15m,1MeV=1.602×10−13J,1u=1.66×10−27kg.

  • 原子核の半径 R=r0A1/3,r0=1.2fm.

  • 電荷 Z1e と Z2e が距離 r 離れているときのクーロンの位置エネルギーは keZ1Z2e2/r で,kee2=1.44MeVfm を使う.

  • 静止エネルギーは (1u)c2=931.5MeV,mpc2=938.3MeV.運動エネルギー K が mc2 の 1 % 程度までなら,ニュートン力学の式 K=mv2/2 を使ってよい.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

原子核の半径を R=r0A1/3,r0=1.2fm とし,原子核の質量を A×1.66×10−27kg とする.

  1. 鉄の原子核 2656Fe とウランの原子核 92238U の半径を求めよ.また,それぞれの密度を求めよ.

  2. 鉄の金属の密度は 7.9×103kgm−3 である.鉄の金属の体積のうち,原子核が占める割合を求めよ.電子の質量は無視してよいことも確かめよ.電子の質量は 9.1×10−31kg である.

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考え方 体積は R3∝A なので,密度は A によらない.金属の質量はほとんど原子核の質量だから,金属の密度と原子核の密度の比が,原子核の占める体積の割合になる.

  1. 561/3=3.83,2381/3=6.20 より,

RFe=1.2×3.83fm=4.6fm,RU=1.2×6.20fm=7.4fm

である.密度は

ρ0=A×1.66×10−27kg4π3r03A=1.66×10−27kg4π3×(1.2×10−15m)3=2.3×1017kgm−3

で,A が約分されるので鉄もウランも同じ値になる.

  1. 金属の体積 V の中の原子核の全体積を VN とすると,金属の質量はほぼ原子核の質量 ρ0VN に等しいので,

VNV=7.9×1032.3×1017=3.4×10−14

である.原子1個あたりの電子の質量と原子核の質量の比は

26×9.1×10−3156×1.66×10−27=2.5×10−4

なので,電子の質量を無視した誤差は 0.03 % 程度である.

確かめ:割合の 1/3 乗 (3.4×10−14)1/3=3.2×10−5 は,原子核の半径と原子の間隔の比の目安である.4.6fm/(3.2×10−5)=1.4×10−10m となり,鉄の原子の大きさ(約 10−10m)と同じ桁で,物質はほとんどすき間でできていることが分かる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

陽子の質量を mp,mpc2=938MeV とし,kee2=1.44MeVfm,1MeV=1.60×10−13J,ボルツマン定数を kB=8.62×10−5eVK−1 とする.

  1. 中心間の距離 1.0fm の陽子2個のクーロンの位置エネルギーを MeV と J で求めよ.また,水素原子の陽子と電子(距離 5.3×10−11m)のクーロンの位置エネルギーの大きさを eV で求め,比べよ.

  2. 遠く離れた陽子2個を,同じ速さで正面から近づける.核力が働き始める中心間距離を 2.0fm とし,そこまで近づくのに必要な陽子1個の初めの運動エネルギーと速さを求めよ.ニュートン力学で扱ってよいかも確かめよ.

  3. 気体の陽子の平均の運動エネルギー 3kBT/2 が(2)の値に等しくなる温度を求めよ.

遠く離れた2個の陽子が,同じ速さ v で正面から近づく.下段は,問題で指定された核力が働き始める中心間距離2.0 fmを示す. 遠く離れた2個の陽子が,同じ速さ v で正面から近づく.下段は,問題で指定された核力が働き始める中心間距離2.0 fmを示す.
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考え方 kee2=1.44MeVfm を使えば,距離を fm で割るだけで位置エネルギーが MeV で出る.(2)は2個の運動量の和が0なので,最も近づいたとき2個とも止まり,運動エネルギーがすべて位置エネルギーに変わる.

  1. 陽子2個では

U=kee2r=1.44MeVfm1.0fm=1.4MeV=2.3×10−13J

である.水素原子では 5.3×10−11m=5.3×104fm なので,

|UH|=1.44×106eVfm5.3×104fm=27eV

である.距離の比 5.3×104 がそのままエネルギーの比になり,原子核では原子より5桁ほど大きいエネルギーが出入りする.

  1. 全運動量は0なので,最も近づいたとき2個とも止まる.エネルギー保存から,1個の初めの運動エネルギーを K として

2K=kee22.0fm=0.72MeV,K=0.36MeV

である.K/(mpc2)=0.36/938=3.8×10−4 は 1 % よりずっと小さいので,ニュートン力学でよい.K=mpv2/2 より

vc=2Kmpc2=0.72938=2.8×10−2,v=8.3×106ms−1

である.

  1. 3kBT/2=0.36×106eV より

T=2×0.36×106eV3×8.62×10−5eVK−1=2.8×109K

である.

確かめ:太陽の中心の温度は約 1.6×107K で,この値の200分の1ほどしかない.それでも太陽で陽子どうしの核融合が起こるのは,速さの分布の裾にある速い陽子と,クーロン障壁をすり抜けるトンネル効果(第4の題材で言葉だけ触れる)のためである.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

運動エネルギー K=7.7MeV の α 粒子 24He を,金の原子核 79197Au に正面から当てる.α 粒子と金の原子核は球対称な電荷分布をもち,質量はそれぞれ 4u,197u とする.kee2=1.44MeVfm,(1u)c2=931.5MeV とし,原子の電子の影響は無視する.

  1. 金の原子核が動かないとして,α 粒子が最も近づいたときの中心間距離 d0 を求めよ.

  2. 金の原子核の反跳を考えると,最も近づいたときの中心間距離 d はいくらか.

  3. このエネルギーでの散乱はクーロン力だけで説明できた.このことから金の原子核の半径について何がいえるか.また,R=r0A1/3(r0=1.2fm)で2つの原子核の表面が接するまで正面衝突で近づけるには,α 粒子の運動エネルギーをいくら以上にすればよいか.

上段は速さ v₀,運動エネルギー K = 7.7 MeVのα 粒子が,初め止まっている金の原子核へ向かう条件を示す.電荷はそれぞれ2eと79e,質量は4 uと197 uである.下段は未知の中心間距離 d で,両者が同じ速度 V で動いている様子を示す. 上段は速さ v₀,運動エネルギー K = 7.7 MeVのα 粒子が,初め止まっている金の原子核へ向かう条件を示す.電荷はそれぞれ2eと79e,質量は4 uと197 uである.下段は未知の中心間距離 d で,両者が同じ速度 V で動いている様子を示す.
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考え方 最も近づくのは,2つの原子核の相対速度が0になる瞬間である.金の原子核が動かなければ運動エネルギーがすべて位置エネルギーになるが,反跳を考えると,運動量保存のため全体の重心の運動エネルギーは位置エネルギーに変えられない.球対称な電荷分布どうしの力は,重ならない限り中心に電荷を集めた点電荷どうしの力に等しい.

  1. エネルギー保存から K=ke(2e)(79e)/d0 なので

d0=158×1.44MeVfm7.7MeV=29.5fm≈30fm

である.K/(mαc2)=7.7/(4×931.5)=2.1×10−3 なので,ニュートン力学でよい.

  1. α 粒子の質量を m,金の原子核の質量を M とする.最も近づいたとき両者は同じ速度 V で動くので,運動量保存より mv0=(m+M)V である.このときの運動エネルギーは

12(m+M)V2=mm+M⋅12mv02=mm+MK

なので,位置エネルギーに変わるのは KM/(m+M) である.したがって

d=158kee2K⋅m+MM=d0(1+mM)=29.5fm×(1+4197)=30.1fm

である.反跳の補正は 2 % で,d≈30fm は変わらない.

  1. α 粒子は金の原子核の中心から 30fm まで近づいても,クーロン力しか受けていない.核力は表面が触れ合うほど近づかないと働かないので,金の原子核の半径と α 粒子の半径の和は 30fm より小さい.つまり 30fm が半径の上限である.

R=r0A1/3 では RAu=1.2×1971/3fm=7.0fm,Rα=1.2×41/3fm=1.9fm で,接するときの距離は 8.9fm である.(2)と同じ式で d=8.9fm とおくと

K=158kee2d(1+mM)=158×1.448.9×1.020MeV=26MeV

以上が必要である.

確かめ:26MeV でも K/(mαc2)=7×10−3 で,ニュートン力学の範囲に入る.最も近い距離 30fm は原子の大きさ 10−10m=105fm よりずっと小さく,この距離での核間のクーロンエネルギーに比べて電子による遮蔽の寄与は小さいので,電子を無視したのは妥当である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子核の密度は A によらず約 2.3×1017kgm−3 で,物質の体積のうち原子核が占めるのは 10−14 程度にすぎない.

  • kee2=1.44MeVfm を使うと,fm の距離のクーロンエネルギーはすぐ MeV で求まる.原子核のエネルギーは原子の 105∼106 倍である.

  • 正面衝突で最も近づくのは相対速度が0になる瞬間で,標的の反跳を入れると K を KM/(m+M) に置き換える.

  • 散乱がクーロン力だけで説明できる最も近い距離は,原子核の半径の上限を与える.

  • 運動エネルギーが静止エネルギーの 1 % 程度までなら,ニュートン力学で扱える.