問いしるべ
問いから始める物理 光子と電子の波

光子と電子の波

光子の例題

著者:柚木芹香

光子の問題では,光子1個について成り立つ式(エネルギー hν,運動量 h/λ,光電効果の式,保存則)と,光子の数を数える式(強さや電力を1個のエネルギーで割る)を分けて考えるのが基本です.ここでは,測定からプランク定数を決める問題,コンプトン散乱の数値,太陽光の光子を数える問題の3つを練習します.

ポイント 光子の計算の手順

  1. 光子1個のエネルギーは E=hc/λ.hc=1240eVnm を使うと電子ボルトですぐ出る.1eV=1.60×10−19J.

  2. 光子の数の流れ(毎秒の個数)は,電力やエネルギーの流れを光子1個のエネルギーで割って求める.

  3. 衝突や吸収では,エネルギーと運動量をともに保存させる.光子の運動量は h/λ,電子のエネルギーは Ee2=(mc2)2+(pec)2 で,運動エネルギーが mc2=511keV より十分小さければ pe2/(2m) でよい.

数値計算では h=6.63×10−34Js,c=3.00×108ms−1,e=1.60×10−19C,m=9.11×10−31kg を使います.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

ある金属を陰極にした光電管に,水銀灯から取り出した4本の単色光を順に当て,それぞれの阻止電圧の大きさ Vs を測ったところ,次の表のようになった.接触電位差は補正済みとする.

波長(nm)

546.1

435.8

404.7

365.0

Vs(V)

0.27

0.85

1.06

1.40

  1. それぞれの光の振動数を求め,Vs と振動数 ν の関係をグラフに表すとどうなるか述べよ.

  2. グラフからプランク定数 h と,この金属の仕事関数 W(eV 単位)を求めよ.

  3. 光の強さを2倍にしたとき,および仕事関数が 0.50eV 大きい金属に替えたとき,グラフはそれぞれどう変わるか.

上段は問題文で与えられた4つの波長と阻止電圧の表.下段は横軸が振動数ν(10¹⁴ Hz),縦軸が阻止電圧Vₛ(V)の作図用座標軸.振動数への換算,測定点の配置,直線と切片は読者が求める. 上段は問題文で与えられた4つの波長と阻止電圧の表.下段は横軸が振動数ν(10¹⁴ Hz),縦軸が阻止電圧Vₛ(V)の作図用座標軸.振動数への換算,測定点の配置,直線と切片は読者が求める.
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考え方 光電効果の式 eVs=hν−W から,Vs は ν の1次関数で,傾きが h/e,横軸との交点が限界振動数 ν0=W/h である.測った点に直線を合わせ,傾きと切片を読む.

  1. ν=c/λ より,順に

5.49×1014,6.88×1014,7.41×1014,8.22×1014Hz

である.Vs=(h/e)ν−W/e なので,点はほぼ1本の直線に乗る.

  1. 振動数を丸めずに,両端の2点から傾きを求めると

he≈1.40−0.27(8.21918−5.49350)×1014Vs≈4.15×10−15Vs

である.よって,丸める前の傾きに e を掛けると h≈6.63×10−34Js である.中の2点も,この直線からのずれは 0.006V 以下で,4点すべてに最小2乗法で直線を合わせても傾きは測定の精度内で一致する.

横軸との交点は,ν=5.49×1014Hz の点から Vs を 0.27V 下げる所なので

ν0≈5.49×1014−0.274.15×10−15≈4.84×1014Hz

である.仕事関数は W=hν0 で,W/e=(h/e)ν0≈2.01V,すなわち W≈2.01eV である.

  1. 強さを2倍にしても光子1個のエネルギーは変わらないので,Vs は変わらず,グラフは同じ直線のままである(飽和電流が2倍になるだけである).仕事関数が 0.50eV 大きい金属では,傾き h/e は同じで,光電子が出る範囲では直線が下へ 0.50V 平行に移る.限界振動数は Δν0=0.50/(4.15×10−15)=1.2×1014Hz だけ大きくなり 6.0×1014Hz になるので,546.1nm(5.49×1014Hz)の光では光電子が出なくなる.

確かめ:求めた h は既知の値 6.63×10−34Js と有効数字の範囲で一致する.なお実際の光電管では,陰極と集電極の金属が違うと両者の間に接触電位差が生じ,測った Vs 全体が一定量ずれる.このずれは直線を平行に動かすだけなので,傾きから求める h には影響しないが,切片から求める W には影響する.測定から h を決めるのに傾きを使うのはこのためである.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

波長 λ=71.0pm(1pm=10−12m)のX線を炭素の塊に当て,散乱されたX線を調べる.炭素の外側の電子は,静止した自由な電子とみなす.

  1. 入射方向から 90∘ の向きと,真後ろ(180∘)の向きに散乱されたX線の波長を求めよ.

  2. 真後ろに散乱された場合について,反跳した電子の運動エネルギーを keV 単位で求めよ.また,この電子を相対論を使わずに扱ってよいか,電子の運動量から確かめよ.

波長λ = 71.0 pmのX線を左から炭素に当てる.上段は入射方向に対して90°の検出器,下段は180°の検出器を示す別々の配置.入射は青,散乱は緑の矢印で,180°では同じ直線上を逆向きに進む. 波長λ = 71.0 pmのX線を左から炭素に当てる.上段は入射方向に対して90°の検出器,下段は180°の検出器を示す別々の配置.入射は青,散乱は緑の矢印で,180°では同じ直線上を逆向きに進む.
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考え方 コンプトン散乱の式 λ′−λ=hmc(1−cos⁡ϕ) で波長を求め,電子のエネルギーはエネルギー保存で光子のエネルギーの差として求める.相対論が要るかは,電子の運動エネルギーと静止エネルギー mc2 を比べて判断する.

  1. コンプトン波長は

hmc=6.63×10−349.11×10−31×3.00×108m=2.43pm

である.ϕ=90∘ では 1−cos⁡ϕ=1 なので λ′=71.0+2.43=73.4pm,ϕ=180∘ では 1−cos⁡ϕ=2 なので λ′=71.0+4.85=75.9pm である.

  1. 光子のエネルギーは,与えられた h,c,e を使い,途中の値を丸めずに求めると

E=hcλ≈17.5keV,E′=hcλ′≈16.4keV

である.電子の運動エネルギーは,エネルギー保存より

K=E−E′=1.12keV

である(差をとるので,途中の値は丸めずに計算した).

真後ろの散乱では,入射光子の運動量 h/λ が,逆向きの光子の運動量 h/λ′ と前向きの電子の運動量 pe に分かれるので,pe=h/λ+h/λ′ である.c を掛けると pec=E+E′=33.9keV で,これは mc2=511keV より十分小さい.非相対論の式で運動エネルギーを計算すると

K=pe22m=(pec)22mc2=(33.9keV)22×511keV=1.12keV

となり,上の値と一致する.K/(mc2)=2×10−3 なので,相対論を使わずに扱ってよい.

確かめ:(1) のずれは ϕ だけで決まり,入射波長によらない.(2) で光子の失ったエネルギー 1.12keV は入射エネルギーの 6.4 % で,波長が 6.8 % 伸びたことと合う(E∝1/λ).炭素の外側の電子をつなぎとめるエネルギーは 10eV 程度で,電子が受け取る 1keV よりずっと小さいので,電子を自由とみなす近似も成り立つ.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

地球の公転軌道の位置で太陽光に垂直な面が受ける光の強さは S=1.36×103Wm−2 である.太陽光の波長には幅があるが,ここではすべて波長 550nm の光子とみなす.

  1. 光子1個のエネルギーと運動量を求め,太陽光に垂直な 1m2 の面を毎秒通過する光子の数を求めよ.

  2. 太陽光を完全に反射する薄い膜(ソーラーセイル)を,太陽光に垂直に広げる.面積 1m2 あたりに働く力を,光子の数と1個の運動量の変化から求めよ.また,その結果が光子の波長を何と仮定したかによらないことを示せ.

  3. 面積 1.0×104m2,質量(膜と積み荷の合計)50kg のソーラーセイルが,地球の公転軌道の位置にある.光の圧力による加速度を求め,太陽の重力による加速度 5.93×10−3ms−2 と比べよ.この比は太陽からの距離によるか.また,光の圧力が重力とつり合うには,面積 1m2 あたりの質量をいくらにすればよいか.

太陽から右へ進む光が,光に垂直な鏡の膜で真後ろへ反射する.矢印は光の進む向きで,実際には同じ経路を往復する光を上下に分けて描く.波長550 nm,光の強さS = 1.36 × 10³ W m⁻²と,設問(3)で与えられた面積・質量を示す.入射光子の運動量は +h/λ,反射後は −h/λ.光の圧力は太陽から遠ざかり,重力は太陽へ向かう.力と加速度の大きさは描かない. 太陽から右へ進む光が,光に垂直な鏡の膜で真後ろへ反射する.矢印は光の進む向きで,実際には同じ経路を往復する光を上下に分けて描く.波長550 nm,光の強さS = 1.36 × 10³ W m⁻²と,設問(3)で与えられた面積・質量を示す.入射光子の運動量は +h/λ,反射後は −h/λ.光の圧力は太陽から遠ざかり,重力は太陽へ向かう.力と加速度の大きさは描かない.
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考え方 光の強さ S は「光子1個のエネルギー」×「単位面積を毎秒通る光子の数」である.力は,膜が単位時間に光子から受け取る運動量として数える.反射では光子の運動量の向きが逆になるので,1個あたり 2h/λ を受け取る.

  1. 光子1個のエネルギーと運動量は

E=hcλ=6.63×10−34×3.00×108550×10−9J=3.62×10−19J (2.26eV)
p=hλ=6.63×10−34550×10−9kgms−1=1.21×10−27kgms−1

である.1m2 を毎秒通る光子の数は

J=SE=1.36×1033.62×10−19m−2s−1=3.76×1021m−2s−1

である.

  1. 膜に垂直に当たって真後ろへ反射する光子1個の運動量の変化の大きさは 2h/λ で,膜はその反作用として同じ大きさの力積を光の進む向きに受ける.面積 1m2 あたりの力(圧力)は

P=J⋅2hλ≈9.07×10−6Nm−2

である.文字のまま計算すると

P=Shc/λ⋅2hλ=2Sc

となり,λ は消える.波長が短い光子は1個の運動量が大きいが,同じ強さなら数がちょうどその分だけ少ないからである.これは第26章で電磁波から求めた,完全に反射する面の光の圧力 2S/c と一致する.

  1. 膜に働く力は F=PA=9.07×10−6×1.0×104N=9.1×10−2N で,加速度は

a=F50=1.8×10−3ms−2

である.太陽の重力による加速度との比は,丸める前の加速度を使うと a/(5.93×10−3ms−2)≈0.31 である.光の強さ S も重力も太陽からの距離の2乗に反比例するので,この比は距離によらない.

光の圧力と重力がつり合うのは,面積 1m2 あたりの質量を σ として 2S/c=σgs(gs=5.93×10−3ms−2)のときなので

σ=2Scgs=2×1.36×1033.00×108×5.93×10−3kgm−2=1.53×10−3kgm−2

である.つまり 1m2 あたり 1.53g まで軽くする必要がある.

確かめ:(3) のセイルは 1m2 あたり 5g で,つり合いの値の約3倍重いので,比が 1.53/5≈0.31 になることと合う.ここでは膜がつねに太陽光に垂直で,光を完全に反射するとした.光を吸収する黒い膜なら1個あたりの運動量の変化は h/λ で,力は半分になる.また太陽光を1つの波長で代表させたが,(2) で見たとおり力は S だけで決まるので,この近似は (2)(3) の結果に影響しない.影響するのは (1) の光子1個のエネルギー・運動量と光子の数である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 光電効果の Vs と ν のグラフは傾き h/e の直線で,傾きからプランク定数,横軸との交点から限界振動数と仕事関数が決まる.光の強さはグラフを変えない.

  • コンプトン散乱の波長のずれは hmc(1−cos⁡ϕ) で,コンプトン波長 2.43pm が目安になる.

  • 反跳電子のエネルギーは光子のエネルギーの差で求め,mc2=511keV と比べて相対論が要るかを判断する.

  • 光の強さを光子1個のエネルギーで割ると光子の数の流れになり,それに1個の運動量の変化を掛けると光の圧力になる.結果は波長によらず,第26章の S/c(吸収),2S/c(反射)と一致する.