問いしるべ
問いから始める物理 回転と剛体

回転と剛体

平面での外積と瞬間回転中心

著者:柚木芹香

前の節の v=V+ω×r′ を手早く計算するために,角速度ベクトルが紙面に垂直なときの外積を成分で確かめます.そのあと,瞬間回転中心を座標で求める方法を用意し,例題に進みます.

定理 数学の道具:紙面に垂直なベクトルとの外積

xy 平面内のベクトル r=(x,y,0) と ez=(0,0,1) の外積は,成分の式から

ez×r=(0⋅0−1⋅y,  1⋅x−0⋅0,  0)=(−y,x,0)

である.これは r を反時計回りに90度回したベクトルで,長さは |r| のまま変わらない.したがって ω×r=ωez×r は,r を90度回して ω 倍したベクトルである.ω<0(時計回り)なら,逆向きになる.

もう一度回すと ez×(ez×r)=(−x,−y,0)=−r で,180度回して元の逆向きになる.前の節の向心の項 ω×(ω×r′)=−ω2r′ はこれである.

速度の式の導出. r′=r(cos⁡φ,sin⁡φ,0) で r が一定,φ˙=ω なら,合成関数の微分で

r˙′=rω(−sin⁡φ,cos⁡φ,0)=ωez×r′

となる.

瞬間回転中心を座標で求める. 基準点 O′ の位置 rO′,速度 V,角速度 ω≠0 がわかっているとき,V+ωez×r′=0 の両辺に左から ez× を掛けると ez×V−ωr′=0 なので

rI=rO′+ez×Vω

である.作図で垂線の交点を探すことの計算版である.

練習 1. 反時計回りに ω=2.0rads−1 で回る剛体の基準点 O′ が原点にあり,速度は V=(1.0,0)ms−1 である.点 (0,1.0)m の速度と,瞬間回転中心の位置を求めよ.

答え:ω×r′=2.0×(−1.0,0) より,速度は (1.0−2.0,0)=(−1.0,0)ms−1.ez×V=(0,1.0) なので,rI=(0,0.50)m.I をはさんで,O′ と点 (0,1.0) の速度は逆向きである.

練習 2. 半径 0.50m の車輪の中心が原点にあり,速度 V=(2.0,0)ms−1,角速度 ωz=−4.0rads−1(時計回り)である.最上点 (0,0.50) と最下点 (0,−0.50) の速度,および瞬間回転中心を求めよ.

答え:ωzez×(0,0.50)=−4.0×(−0.50,0)=(2.0,0) より最上点は (4.0,0)ms−1.最下点は (2.0,0)+(−2.0,0)=0.rI=ez×Vωz=(0,2.0)−4.0=(0,−0.50)m で最下点に一致し,滑らずに転がっている.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

長さ 5.0m のはしごが,なめらかな鉛直の壁と床にもたれている.ある瞬間,下端 B は壁から 3.0m,上端 A は床から 4.0m の所にあり,B は壁から離れる向きに一定の速さ 0.60ms−1 で引かれている.壁と床の交点を原点 O,床に沿って壁から離れる向きを x 軸,鉛直上向きを y 軸とする.

  1. 瞬間回転中心 I の位置と,はしごの角速度を求めよ.

  2. 上端 A と,はしごの真ん中の点 M の速度を求めよ.

  3. 上端 A の加速度を求めよ.

速度を求めるはしごの配置を示す模式図. 速度を求めるはしごの配置を示す模式図.
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考え方 両端の速度の向きは壁と床で決まるので,垂線の交点で I が求まる.加速度は,B を基準点にして a=A+αez×r′−ω2r′ を使う.

  1. B を通る鉛直線と A を通る水平線の交点は I=(3.0,4.0)m.IB =4.0m なので |ω|=0.604.0=0.15rads−1.B から A へのベクトル (−3.0,4.0) は,倒れるにつれて −x の向きへ寝ていくので,回転は反時計回りで ω=+0.15rads−1 である.

  2. B を基準点にし,ez×(−3.0,4.0)=(−4.0,−3.0) を使うと

vA=(0.60,0)+0.15×(−4.0,−3.0)=(0,−0.45)ms−1

で,A は真下へ 0.45ms−1.M へは r′=(−1.5,2.0) なので

vM=(0.60,0)+0.15×(−2.0,−1.5)=(0.30,−0.225)ms−1

速さは約 0.38ms−1(=0.15×IM)で,向きは OM に垂直(内積 1.5×0.30−2.0×0.225=0)である.

    1. と同じく IB は A の高さ yA に等しいので,どの瞬間も ω=uyA(u=0.60ms−1)である.これを微分し,y˙A=−0.45ms−1 だから

α=−uy˙AyA2=0.60×0.454.02≈1.69×10−2rads−2

B の加速度は0なので

aA=α(−4.0,−3.0)−0.152(−3.0,4.0)=(0,−0.14)ms−2

x 成分は接線の項と向心の項で打ち消し合い,A は壁に沿って下向きに加速する.B を一定の速さで引いても,A はしだいに速くなる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

半径 R の円板が,水平な床の上を滑らずに右へ転がっている.中心 G の速度は右向きに一定の V である.滑らないとは,床に接している円板の点の速度が0であることとする.

  1. 円板の角速度を求めよ.

  2. 時刻 t=0 に床に接していた円周上の点 P は,円板が時計回りに角 θ だけ回ったとき,中心から見て r′=(−Rsin⁡θ,−Rcos⁡θ) の所にある.P の速度と速さを求め,P と接点を結ぶ線分に P の速度が垂直なことを確かめよ.必要なら 1−cos⁡θ=2sin2⁡θ2 を使ってよい.

  3. 接点にある円板の点の加速度を求めよ.

転がる円板の円周上の点を示す模式図. 転がる円板の円周上の点を示す模式図.
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考え方 中心を基準点にして v=V+ω×r′ を使う.接点の速度が0という条件から ω が決まる.

  1. 接点は中心から r′=(0,−R).ez×(0,−R)=(R,0) なので,接点の速度は (V+ωR,0).これが0だから ω=−VR,すなわち時計回りに VR である.

  2. ez×r′=(Rcos⁡θ,−Rsin⁡θ) なので

vP=(V,0)−VR(Rcos⁡θ,−Rsin⁡θ)=V(1−cos⁡θ,sin⁡θ)

速さは V2−2cos⁡θ=2V|sin⁡θ2| で,θ=0(接点)で0,θ=π(頂点)で 2V.接点から P へのベクトルは r′−(0,−R)=(−Rsin⁡θ,R−Rcos⁡θ) で,vP との内積は −RVsin⁡θ(1−cos⁡θ)+RV(1−cos⁡θ)sin⁡θ=0.接点が瞬間回転中心である.

P の位置 (Rθ−Rsin⁡θ,R−Rcos⁡θ)(中心は Rθ 進む)を微分しても同じ速度になる.P が描くこの曲線をサイクロイドという.

  1. V が一定で α=0 なので,向心の項だけが残る.a=−ω2(0,−R)=(0,V2R).接点の点は,速度は0でも,上向きに V2R の加速度をもつ.

ポイント ここまでのまとめ

  • ez×(x,y)=(−y,x):紙面に垂直な角速度との外積は,ベクトルを反時計回りに90度回して ω 倍する.2回回すと −r.

  • 瞬間回転中心は,2点の速度に垂直な直線の交点(2本が平行なら,その瞬間は並進).座標では rI=rO′+ez×Vω.

  • はしごの真ん中の点は円の接線の向きに動き,転がる円板の縁の点はサイクロイドを描いて速さ 2V|sin⁡(θ/2)| で動く.

  • 瞬間回転中心にある点は,速度が0でも加速度は0とは限らない(転がる円板の接点は上向きに V2/R).