問いしるべ
問いから始める物理 万有引力と天体

万有引力と天体

単位ベクトルの微分と極座標の加速度

著者:柚木芹香

前の節で図から読んだ単位ベクトルの微分を成分で確かめ,加速度と面積速度の式を導きます.

定理 数学の道具:単位ベクトルの微分

角が時間とともに変わるとき. θ が時刻 t の関数なら,cos⁡θ は合成関数である.第3章の連鎖律で y=cos⁡u,u=θ(t) とすると

ddtcos⁡θ=−θ˙sin⁡θ,ddtsin⁡θ=θ˙cos⁡θ

となる.θ=ωt なら第3章の ddtcos⁡ωt=−ωsin⁡ωt に戻り,θ=t2 なら ddtcos⁡t2=−2tsin⁡t2 である.

単位ベクトルの微分. 成分ごとに微分すると

e˙r=(−θ˙sin⁡θ, θ˙cos⁡θ)=θ˙eθ,e˙θ=(−θ˙cos⁡θ, −θ˙sin⁡θ)=−θ˙er

er⋅er=1 を微分すると 2er⋅e˙r=0 となるように,長さが変わらないベクトルの微分は,もとのベクトルに垂直である.

練習 1. (1) θ=3t2 のとき,t=1 での e˙r を eθ で表せ.(2) r=2t,θ=t で動く点の t=1 での速さを求めよ.

答え:(1) θ˙=6t より 6eθ.(2) v=2er+2teθ より 22.

練習 2. (1) r=1.0,θ=2t の点の速度と加速度を er,eθ で表せ.(2) r=t2,θ=t の点の t=1 での速さを求めよ.

答え:(1) v=rθ˙eθ=2.0eθ,a=−rθ˙2er=−4.0er(等速円運動).(2) v=r˙er+rθ˙eθ=2er+1eθ より 5.

加速度の式を導く

v=r˙er+rθ˙eθ を項ごとに積の微分で微分します.第2項は r,θ˙,eθ の3つの積なので,1つずつ微分して足します.

ddt(r˙er)=r¨er+r˙θ˙eθ,ddt(rθ˙eθ)=r˙θ˙eθ+rθ¨eθ−rθ˙2er

足して向きごとにまとめると a=(r¨−rθ˙2)er+(rθ¨+2r˙θ˙)eθ です.r˙θ˙ が2回現れたのが 2r˙θ˙ の2の出どころです.ddt(r2θ˙)=2rr˙θ˙+r2θ¨ なので,eθ 成分は 1rddt(r2θ˙) とも書けます.

直交座標からも確かめられます.x=rcos⁡θ を2回微分すると x¨=(r¨−rθ˙2)cos⁡θ−(rθ¨+2r˙θ˙)sin⁡θ で,y¨ も同様です.これは er,eθ の x 成分にそれぞれの係数を掛けた和で,上の結果と一致します.

面積速度との関係

第8章の面積速度 12(xy˙−yx˙) に,x˙=r˙cos⁡θ−rθ˙sin⁡θ,y˙=r˙sin⁡θ+rθ˙cos⁡θ を代入すると,r˙ の項は打ち消し合って

xy˙−yx˙=r2θ˙

となります.面積速度は 12r2θ˙ で,前の節の扇形の考え方と一致します.逆に,直交座標で与えられた運動の θ˙ を,角を求めずに θ˙=xy˙−yx˙r2 と計算することもできます.

面積速度を表す細い扇形を示す模式図. 面積速度を表す細い扇形を示す模式図.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

なめらかな水平の板の穴 O に通した糸の先に質量 m の小球を結び,穴の下で糸を一定の速さ u で引き続ける.小球の O からの距離は r=r0−ut で,t=0 での角速度は ω0 である.

一定の速さで糸を引く小球を示す模式図. 一定の速さで糸を引く小球を示す模式図.
  1. 角速度 θ˙ と糸の張力 T を r で表せ.

  2. 運動エネルギー K の増える割合が,糸の力の仕事率に等しいことを確かめよ.

解答を見る

考え方 糸の力は O を向くので r2θ˙ が一定.張力は er 成分の運動方程式から出す.

  1. r2θ˙=r02ω0 より θ˙=r02ω0r2.r˙=−u,r¨=0 なので,m(r¨−rθ˙2)=−T より T=mrθ˙2=mr04ω02r3.

  2. K=12m(r˙2+r2θ˙2)=12m(u2+r04ω02r2).u は一定なので,連鎖律で dKdt=12mr04ω02⋅(−2r3)r˙=mr04ω02ur3.糸の力の仕事率は −Ter⋅v=−Tr˙=Tu で,(1)の T を入れると一致する.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

水平面内で,質量 m の小さな台車 P が,一定の角速度 ω で回る棒に沿って,中心 O から一定の速さ u で外へ走る.P の位置は r=ut,θ=ωt である.

回る棒に沿って走る台車を示す模式図. 回る棒に沿って走る台車を示す模式図.
  1. P の速度と加速度を er,eθ で表せ.

  2. P に働く力の合力の eθ 成分を求め,それを及ぼしているものを答えよ.

解答を見る

考え方 r˙=u,r¨=0,θ˙=ω,θ¨=0 を極座標の式に入れる.

  1. v=uer+uωteθ,a=−uω2ter+2uωeθ.軌跡 r=uωθ は,1周ごとに 2πuω ずつ広がるうずまきである.

  2. Fθ=2muω.角速度が一定でも,外へ出るほど回る向きの速さ rω が増えるので,回る向きの力が要る.それを及ぼすのは棒で,棒が P を回る向きに押している.この 2muω は,第11章で回る棒の上から見た運動を考えるとき,もう一度現れる.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

力を受けない点 P が,時刻 t に (b, v0t)(b>0)にあり,直線 x=b の上を一定の速さ v0 で進む.原点 O を中心とする極座標で見る.

等速直線運動の面積速度を示す模式図. 等速直線運動の面積速度を示す模式図.
  1. r2θ˙ が一定であることを示し,図の三角形を使って面積速度が一定であることを説明せよ.

  2. r¨ は0でないのに,r¨−rθ˙2=0 であることを確かめよ.

解答を見る

考え方 r2θ˙=xy˙−yx˙ を使えば角を求めずにすむ.r=b2+v02t2 は連鎖律で微分する.

  1. x˙=0,y˙=v0 より r2θ˙=bv0 で一定.時間 Δt に P が進む区間 v0Δt を底辺とする三角形の高さは,いつも O から直線までの距離 b なので,面積は 12bv0Δt で変わらない.力が0は中心力の特別な場合である.

  2. r˙=v02tr.積の微分と ddt1r=−r˙r2 を使って

r¨=v02r−v02tr˙r2=v02(r2−v02t2)r3=b2v02r3

一方 θ˙=bv0r2 より rθ˙2=b2v02r3 で,r¨−rθ˙2=0 となり,力が無いことと合う.r¨ だけを動径方向の加速度と思うと,ありもしない力を考えてしまう.

ポイント ここまでのまとめ

  • 連鎖律で ddtcos⁡θ=−θ˙sin⁡θ.これから e˙r=θ˙eθ,e˙θ=−θ˙er.

  • 速度を積の微分でもう一度微分すると,r˙θ˙ が2回現れて a=(r¨−rθ˙2)er+(rθ¨+2r˙θ˙)eθ.

  • xy˙−yx˙=r2θ˙.面積速度は 12r2θ˙ で,中心力なら一定.

  • 動径方向の加速度は r¨ ではなく r¨−rθ˙2 である.