問いしるべ
問いから始める物理 光

光

光の偏光

著者:柚木芹香

問い

晴れた日に湖の岸から水面を眺めると,空の光が照り返してまぶしく,水の中はよく見えません.ところが偏光サングラスをかけると,照り返しだけがすっと消え,水底の石や泳ぐ魚が見えてきます.ふつうのサングラスは全体を暗くするだけなのに,偏光サングラスはなぜ照り返しだけを選んで消せるのでしょうか.サングラスをかけたまま首を横に傾けると,照り返しがまた戻ってくるのはなぜでしょうか.

考えてみる

光の強さを減らすだけなら,色のついたガラスで足ります.照り返しだけを選んで消すには,照り返しの光が,水の中から来る光や空から直接来る光と何か違う性質をもっていなければなりません.照り返しも元は空の光で,色で選んでいるのではありません.

首を傾けると結果が変わることが手がかりです.光の進む向きを軸にして回すと何かが変わるのなら,光は進む向きに垂直な面の中に「向き」をもっていることになります.音の波は空気の粗密が進む向きに伝わる縦波で,進む向きのまわりに回しても何も変わりません.第26章で見たように,電磁波は電場 E と磁場 B が進む向きに垂直な横波です.進む向きに垂直な面の中で,電場がどちらを向いて振動するかという自由度が残ります.これが偏光です.

偏光の種類

定義 偏光

光の電場が振動する向きを偏光の向きという.電場がいつも1本の直線に沿って振動する光を直線偏光,電場の先端が円を描いて回る光を円偏光,楕円を描く光を楕円偏光という.磁場の向きは電場と進む向きから決まるので,偏光は電場の向きで表す.

z 方向に進む光の電場は,x 成分と y 成分の2つの正弦波の重ね合わせで書けます.

Ex=Axcos⁡(ωt−kz),Ey=Aycos⁡(ωt−kz−δ)

2つの成分の位相差 δ が0か π なら,Ey/Ex はいつも一定で,電場は直線に沿って振動します.直線偏光です.Ax=Ay で δ=π/2 なら,z=0 で Ex=Axcos⁡ωt,Ey=Axsin⁡ωt となり,電場は大きさを変えずに,光を迎える向きから見て反時計回りに回ります.円偏光は,同じ振幅で位相が 90∘ ずれた2つの直線偏光の和です.それ以外の組み合わせは楕円偏光になります.第7章の複素数で書けば,複素振幅の比 Aye−iδ/Ax が実数なら直線偏光,±i なら円偏光です.

[図:位相差と振幅比で変わる偏光]

初期状態はδ=π/2,A_y/A_x=1,ωt=π/4の円偏光である.z=0の面を光を迎える向きから見て,xを右,yを上に取る.位相差δと振幅比A_y/A_xを変えると,電場の先端の軌跡が直線,楕円,円に変わる.時刻ωtで電場の位置を確かめられる.

太陽や電球が出す光は,干渉の題材で見たように,たくさんの原子がばらばらに出した短い波の集まりです.偏光の向きも位相も,10−14s 程度より長い時間では保たれず,でたらめに入れ替わります.目や検出器は光の周期よりはるかに長い時間で平均するので,どの向きの成分も同じ強さに見えます.このような光を自然光(偏光していない光)といいます.自然光は,強さが半分ずつで,互いに位相の関係をもたない x 偏光と y 偏光の和と考えてかまいません.

偏光板とマリュスの法則

偏光板は,ある向きの電場の成分だけを通す板です.よく使われるのは,ヨウ素を含ませた高分子の鎖を一方向にそろえたものです.鎖に沿った電場は鎖の中の電子を鎖に沿って揺らし,そのエネルギーは吸収されてしまいます.鎖に垂直な電場では電子が動けないので,光はそのまま通ります.通す向きを透過軸といいます.マイクロ波では,波長より狭い間隔で平行に張った金属線が同じ働きをし,透過軸は線に垂直です.

振幅 E0 の直線偏光が,偏光の向きと角 θ をなす透過軸の偏光板に入るとします.電場を透過軸に沿う成分 E0cos⁡θ と,それに垂直な成分 E0sin⁡θ に分けると,通るのは前者だけです.第26章で見たとおり,光の強さは電場の振幅の2乗に比例します(I=12cε0E02).

法則 マリュスの法則

強さ I0 の直線偏光が,偏光の向きと角 θ をなす透過軸の理想的な偏光板を通ると,透過光の強さは

I=I0cos2⁡θ

で,透過光は透過軸の向きの直線偏光になる.自然光が理想的な偏光板を通ると,強さは半分の I0/2 になる.

自然光の場合は,偏光の向きがでたらめに入れ替わるので,cos2⁡θ の平均 1/2 が残ります.2枚の偏光板の透過軸を直交させると(直交ニコル),1枚目を通った光は2枚目で cos2⁡90∘=0 となり,真っ暗になります.

[図:偏光板の透過軸への射影とマリュスの法則]

初期状態では2枚目の透過軸が鉛直から45°傾き,1枚目を通った光の強さの半分が透過する.上段の板と電場は光に垂直な面を正面から描いたもの.θを変えると,電場E_0の透過軸への射影E_0 cosθと,相対的な透過光の強さcos²θが変わる.

ここで「理想的」とは,透過軸に沿う成分を損失なく通し,垂直な成分を完全に止めることです.実際の偏光板は,透過軸に沿う光でも1割ほどを吸収し,垂直な成分もわずかに通します.また,強さの式は光の周期にわたって平均した値なので,偏光板を回すなら,その角速度が光の角振動数より十分小さいことが前提です.

反射光の偏光

偏光サングラスの話に戻るために,水面やガラスで反射した光の偏光を考えます.第26章と同じく,光の進む向きと境界面の法線を含む面を入射面とし,電場が入射面に垂直な成分をs偏光,入射面内にある成分をp偏光と呼びます.水面に斜めに入る光では,s偏光の電場は水平です.

第26章で見たように,反射率は偏光によって違い,p偏光の反射率はある入射角(ブルースター角)で0になります.理由を思い出しておきます.反射光は,屈折光の電場に揺すられた水の中の電子が出す光です.p偏光では,電子は入射面内で屈折光の進む向きに垂直に揺れ,揺れる電荷はその向きには光を出しません.反射光の向きが屈折光の向きと直交していれば,反射光の向きはちょうど電子の揺れる向きと重なり,p偏光の反射光は出られなくなります.

入射面を紙面とする.入射光は空気から水へ進み,反射光と屈折光は直交する.屈折光のp偏光で揺れる電子の振動方向は,屈折光に垂直で反射方向と平行である.s偏光の電場は紙面に垂直な点で示す.θ_1とθ_2はそれぞれ法線から測る. 入射面を紙面とする.入射光は空気から水へ進み,反射光と屈折光は直交する.屈折光のp偏光で揺れる電子の振動方向は,屈折光に垂直で反射方向と平行である.s偏光の電場は紙面に垂直な点で示す.θ_1とθ_2はそれぞれ法線から測る.

反射光と屈折光が直交する条件は θ1+θ2=90∘ で,屈折の法則に sin⁡θ2=cos⁡θ1 を入れると,第26章のブルースター角が出ます.

定理 ブルースター角

屈折率 n1 の媒質から n2 の媒質へ入る光のp偏光の反射率は,入射角が

tan⁡θB=n2n1

を満たすとき0になる.このとき反射光と屈折光は直交し,自然光を入れても反射光はs偏光(電場が入射面に垂直)だけの直線偏光になる.

空気から水(n=1.33)なら θB=53∘ です.ちょうどこの角でなくても,その前後の広い範囲でp偏光の反射率はs偏光よりずっと小さいので,水面や道路の照り返しは,電場が水平な向きに強く偏っています.この結論は,表面が平らで,吸収の小さい(屈折率が実数とみなせる)物質の場合のものです.金属の反射では,p偏光の反射率は小さくなっても0にはなりません.

散乱光の偏光

青空の光も偏光しています.第26章で見たように,遠くの電荷が出す光の電場は,電荷の加速度のうち,見る向きに垂直な成分に比例します.空気の分子の電子は日光の電場 E に沿って揺れるので,向き s(単位ベクトル)に散乱される光の電場は

E−(E⋅s)s

に比例します.太陽と直角の向きの空を見ると,日光の電場のうち見る向きに沿った成分は散乱光に寄与せず,散乱光は太陽・散乱する場所・観測者を含む面に垂直な直線偏光になります.

左から進む日光が分子に当たり,真下の観測者へ散乱される.日光の電場のうち観測方向sに沿う成分は,その方向への散乱に寄与しない.紙面に垂直な成分だけが散乱光に残る.⊙は紙面の手前向きの電場を表す. 左から進む日光が分子に当たり,真下の観測者へ散乱される.日光の電場のうち観測方向sに沿う成分は,その方向への散乱に寄与しない.紙面に垂直な成分だけが散乱光に残る.⊙は紙面の手前向きの電場を表す.

実際の空では,一度散乱された光がさらに散乱されたり,地面で反射されたりするので,太陽と直角の向きでも偏光は完全ではなく,偏光している割合は最大でも7割ほどです.それでも偏光フィルターを回すと,太陽と直角の空が暗くなる向きがはっきり分かります.

複屈折と波長板(発展)

方解石や水晶のような結晶,引き伸ばしたプラスチックでは,電場の向きによって屈折率が違います.これを複屈折といいます.屈折率の小さい向きを進相軸,大きい向きを遅相軸と呼びます.厚さ d の板を,2つの軸の屈折率が ns,nf の板として光が垂直に通ると,2つの向きの成分の間に

δ=2πλ0(ns−nf)d

の位相差が生じます(λ0 は真空中の波長).δ=π/2 となる板を 1/4 波長板といい,軸と 45∘ をなす直線偏光を入れると,同じ振幅で位相が 90∘ ずれた2成分になるので,円偏光が出てきます.δ=π の 1/2 波長板は,軸と角 α をなす直線偏光を,反対側の −α の直線偏光に変えます.偏光の向きを 2α だけ回す板です.水晶では ns−nf≈0.009 なので,黄色の光(λ0=590nm)の 1/4 波長板の厚さは約 16μm です.

[図:1/4波長板で変わる偏光]

初期状態では進相軸と45°をなす直線偏光が1/4波長板を通り,円偏光になる.板の軸と出射光の電場の軌跡を,光を迎える向きから見た面で示す.入射方向を軸に近づけると楕円偏光になり,軸と平行なら直線偏光になる.時刻ωtで先端の位置を確かめられる.

砂糖の水溶液のように,分子の形が鏡に映すと重ならない(右手と左手のような)物質を通ると,直線偏光の向きが光路の長さと濃度に比例して回ります.これを旋光といい,回る角を測ると濃度が分かります.

液晶ディスプレイは偏光を巧みに使っています.棒状の液晶分子は複屈折をもち,2枚のガラスの間で分子の向きが少しずつ 90∘ ねじれるように並べてあります.ねじれがゆるやかで,複屈折による位相差が十分大きいとき,直線偏光の向きは分子のねじれについて回り,90∘ 回って出てきます.両側に透過軸を直交させた偏光板を置けば,光は通り,画素は明るく見えます.電圧をかけると分子が電場の向きに立ち,偏光は回らなくなって,2枚目の偏光板で止められます.画素ごとの電圧で回る角を調節し,明暗を作るのです.

問いに戻る

水面の照り返しは,入射角がブルースター角 53∘ の前後のとき,ほとんどs偏光,つまり電場が水平な直線偏光です.偏光サングラスのレンズは,透過軸を鉛直にした偏光板です.照り返しの水平な電場は透過軸に垂直なので,マリュスの法則で cos2⁡90∘=0 となり,ほとんど通りません.一方,水の中から来る光や景色からの光は自然光に近いので,半分が通ります.照り返しだけが選ばれて消えるのはこのためです.首を角 α だけ傾けると,透過軸と照り返しの電場のなす角が 90∘−α になり,照り返しの sin2⁡α の割合が通ってしまいます.スマホの画面が暗くなる角度があるのも,液晶の画面から出る光が直線偏光だからです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 光は横波なので,電場の振動する向きという自由度をもつ.これが偏光で,直線偏光・円偏光・楕円偏光がある.円偏光は位相が 90∘ ずれた同じ振幅の2つの直線偏光の和である.

  • 自然光は偏光の向きがでたらめに入れ替わる光で,強さが半分ずつの無相関な2つの直線偏光の和とみなせる.

  • 偏光板は透過軸の成分だけを通す.マリュスの法則 I=I0cos2⁡θ.自然光は半分になる.

  • ブルースター角 tan⁡θB=n2/n1 ではp偏光が反射されず,反射光は電場が入射面に垂直な直線偏光になる.照り返しは電場が水平に偏っているので,透過軸が鉛直な偏光サングラスで消える.

  • 散乱光の電場は入射光の電場の,見る向きに垂直な成分に比例し,太陽と直角の空の光は強く偏光している.