問いしるべ
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運動を記述する

ベクトルの道具

著者:柚木芹香

前の節で,位置と変位をベクトルで表しました.ここでは,ベクトルを成分で計算する道具を整え,例題で使います.

定理 数学の道具:ベクトルの成分計算と内積

定義 ベクトル A の x 成分を Ax,y 成分を Ay として A=(Ax,Ay) と書く.空間ではさらに Az を加える.

成分での計算 A=(Ax,Ay),B=(Bx,By),実数 k について

A±B=(Ax±Bx, Ay±By),kA=(kAx, kAy)

和と差は,同じ成分どうしを足し引きするだけである.

大きさ 三平方の定理より

A=|A|=Ax2+Ay2(空間では Ax2+Ay2+Az2)

向き x 軸の正の向きから反時計回りに測った角を θ とすると,

Ax=Acos⁡θ,Ay=Asin⁡θ,tan⁡θ=AyAx

(tan⁡θ から角を決めるときは,成分の符号で象限を確かめる.)

単位ベクトル 大きさ1のベクトル.x,y 軸の正の向きの単位ベクトルを ex=(1,0),ey=(0,1) と書くと,A=Axex+Ayey である.また A≠0 と同じ向きの単位ベクトルは A/A である.

内積(スカラー積)の定義 成分で

A⋅B=AxBx+AyBy(空間では +AzBz)

と定める.結果はベクトルではなくただの数である.

導出:内積と角 A−B の大きさの2乗を成分で展開すると

|A−B|2=(Ax−Bx)2+(Ay−By)2=|A|2+|B|2−2A⋅B

一方,A,B のなす角を θ とすると,この3辺 |A|,|B|,|A−B| の三角形に余弦定理を使って

|A−B|2=|A|2+|B|2−2|A||B|cos⁡θ

2式を比べて

A⋅B=|A||B|cos⁡θ

したがって,A⟂B(A,B≠0)と A⋅B=0 は同値である.

練習.

  1. A=(1,2),B=(3,−1) のとき,A+2B,|A|,A⋅B を求めよ.また,なす角 θ の余弦を求めよ.

  2. A=(2,k) と B=(3,−1) が垂直になるように k を定めよ.

  3. A=(3,4) と同じ向きの単位ベクトルを求めよ.また,大きさ 10,x 軸から反時計回りに 150∘ の向きのベクトルの成分を求めよ.

  4. 空間のベクトル A=(1,2,2),B=(2,−1,2) について,|A|,A⋅B,なす角 θ を求めよ.

  5. A=(2,1),B=(−1,3) のとき,|A−B| を,成分から直接と,|A|2+|B|2−2A⋅B からの2通りで求めよ.

答え:(1) A+2B=(7,0),|A|=5,A⋅B=3−2=1.|B|=10 なので cos⁡θ=1/(510)=1/(52)≈0.14(θ≈82∘). (2) A⋅B=6−k=0 より k=6. (3) |A|=5 なので (0.6, 0.8).(10cos⁡150∘, 10sin⁡150∘)=(−53, 5)≈(−8.7, 5). (4) |A|=3,A⋅B=2−2+4=4,|B|=3 なので cos⁡θ=49≈0.44,θ≈64∘. (5) A−B=(3,−2) より 13.別の方法では 5+10−2×1=13 で,同じく 13≈3.6.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

ドローンが出発点Oから,東から北へ 30∘ の向きに 80m 飛び,次に西へ 50m 飛んだ.出発点から見た最終位置の変位の大きさと向きを求めよ.東を x 軸,北を y 軸の正の向きとする.

原点から東より北へ30°の向きに80 m,次に西へ50 m進む経路を示す. 原点から東より北へ30°の向きに80 m,次に西へ50 m進む経路を示す.
解答を見る

考え方 2回の移動をそれぞれ成分で書き,足せば合成した変位が成分で得られる.

1回目の変位は

d1=(80cos⁡30∘, 80sin⁡30∘)m=(403, 40)m≈(69.3, 40)m

2回目は西向きなので d2=(−50, 0)m.したがって合成した変位は

d=d1+d2=(403−50, 40)m≈(19.3, 40)m

大きさは

d=19.32+402m≈44m

向きは,x 軸(東)から北へ測った角 θ について tan⁡θ=40/19.3≈2.07 より θ≈64∘.

答え:東から北へ約 64∘ の向きに約 44m.なお,道のりは 80+50=130m であり,変位の大きさより大きい.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

座標が x 軸東向き,y 軸北向きの地図上で,点Pの位置ベクトルが rP=(1, 2)km,点Qの位置ベクトルが rQ=(4, 6)km である.

東向きをx,北向きをyとしてP(1,2)とQ(4,6)を示す. 東向きをx,北向きをyとしてP(1,2)とQ(4,6)を示す.
  1. PからQへの変位 Δr の成分,大きさ,および向きの単位ベクトルを求めよ.

  2. 原点を点Pに移した座標系(軸の向きは同じ)で,Qの位置ベクトルを求めよ.(1) の変位と比べて,何がいえるか.

解答を見る

考え方 変位は「終点の位置ベクトル−始点の位置ベクトル」.原点を替えても,この差は変わらないはずである.

Δr=rQ−rP=(4−1, 6−2)km=(3, 4)km

大きさは 32+42=5km.向きの単位ベクトルは Δr/5=(3/5, 4/5)=(0.6, 0.8).これは東から北へ約 53∘ の向きである.

  1. 新しい座標系の原点はPなので,Qの新しい位置ベクトルは PからQへのベクトルそのもので (3, 4)km.Pの新しい位置ベクトルは 0.

比べると,Qの位置ベクトル(座標)は原点の取り方で (4,6) から (3,4) に変わったが,PからQへの変位は (3,4)km のまま変わっていない.位置の成分は座標系に依存し,変位は依存しない.

ポイント ここまでのまとめ

  • 和・差・実数倍は成分ごとに計算する.大きさは A=Ax2+Ay2,向きは Ax=Acos⁡θ,Ay=Asin⁡θ.

  • A≠0 と同じ向きの単位ベクトルは A/A.零ベクトルには向きがない.

  • 内積 A⋅B=AxBx+AyBy=|A||B|cos⁡θ はただの数で,A,B≠0 のとき,0なら垂直である.なす角を扱うときも両方が零ベクトルでないとする.

  • 2回の移動の合成は,それぞれを成分に分けて足す.変位は「終点−始点」の成分で,原点の取り方によらない.