問いしるべ
問いから始める物理 仕事とエネルギー

仕事とエネルギー

ポテンシャル図と2次の近似

著者:柚木芹香

前の節では結果だけを述べた「安定点の近くの放物線」の根拠として,2次の近似を導き,例題を解きます.

数学の道具

定理 数学の道具:2次の近似(テイラー展開の入口)

関数 f(x) が x=a の近くで滑らかなとき,h=x−a が小さければ

f(a+h)≈f(a)+f′(a)h+12f″(a)h2

がなりたつ.

導出. f(a+h)=c0+c1h+c2h2+⋯ と表せるとする.h=0 を代入して c0=f(a),1回微分して h=0 とおき c1=f′(a),2回微分して h=0 とおき 2c2=f″(a) を得る.h が小さければ,3次以上の項は無視できる.

この考え方を高次の項まで続けたものをテイラー展開という.|h| が十分小さいとき,よく使う2次までの近似は

関数

近似

eh

1+h+h22

cos⁡h

1−h22

sin⁡h

h

(1+h)n

1+nh+n(n−1)2h2

である.

練習 1. 1+x を2次まで近似し,それを使って 1.1 の近似値を求めよ.

答え:1+x2−x28.x=0.1 を入れて 1.04875(真の値は 1.04881⋯)

練習 2. U(x)=U0(1−cos⁡xL)(U0,L は正の定数)を x=0 の近くで2次まで近似し,復元力の係数 k(F≈−kx)を求めよ.

答え:cos⁡xL≈1−x22L2 より U≈U02L2x2.よって k=U0L2(U″(0) と一致する)

練習 3. 11+x を2次まで近似し,11.1 の近似値を求めよ.

答え:f′=−1(1+x)2,f″=2(1+x)3 より 1−x+x2.x=0.1 で 0.91(真の値は 0.9090⋯)

練習 4. U(x)=Ax2−Bx(x>0,A,B は正の定数)の極小の位置 x0 と,その近くの復元力の係数 k=U″(x0) を求めよ.

答え:U′=−2Ax3+Bx2=0 より x0=2AB.U″=6Ax4−2Bx3 に入れて k=3B48A3−2B48A3=B48A3(正なので安定)

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の粒子が,ポテンシャルエネルギー U(x)=ax4−bx2(a,b は正の定数)の力を受けて x 軸上を動く.

  1. つり合いの位置を求め,それぞれ安定か不安定かを答えよ.

  2. 原点を速さ v0 で通過する粒子の動く範囲を求めよ.

  3. 右側の谷の底付近での小さな運動について,復元力を F≈−k(x−x1) と書くとき,k を求めよ.ただし x1 は谷の底の位置とする.

四次ポテンシャルU=ax⁴−bx²とエネルギー線を示す.谷底と転回点には未知の位置を表す記号だけを付ける. 四次ポテンシャルU=ax⁴−bx²とエネルギー線を示す.谷底と転回点には未知の位置を表す記号だけを付ける.
解答を見る

考え方 (1) は U′=0 を解き,U″ の符号を見る.(2) は E を原点での運動エネルギーから決め,U=E を解く.(3) は k=U″(x1) である.

  1. dUdx=4ax3−2bx=2x(2ax2−b) である.これが0になるのは

x=0,x=±x1,x1=b2a

の3点.d2Udx2=12ax2−2b なので

  • x=0:U″=−2b<0 より不安定(山の頂).

  • x=±x1:U″=12a⋅b2a−2b=4b>0 より安定(谷の底).そこでの U の値は −b24a である.

  1. 原点で U(0)=0 なので,全エネルギーは E=12mv02>0 である.転回点は ax4−bx2=E の解で,x2 について2次方程式を解くと(正の解を採って)

xt2=b+b2+4aE2a=b+b2+2amv022a

である.E>0 なので山の頂を越えられ,粒子は −xt≤x≤xt を往復する.

  1. k=U″(x1)=4b である.

なお,−b24a<E<0 なら U≤E の領域は左右の谷に分かれ,粒子は片方の谷に閉じ込められる.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

2つの原子の間のポテンシャルエネルギーが,距離 r の関数として

U(r)=−Ar6+Br12(A,B は正の定数)

で表されるとする.

  1. 平衡の距離 r0 と結合エネルギー ε を,A,B で表せ.

  2. 平衡点付近の復元力の係数 k=U″(r0) を,ε と r0 で表せ.

  3. アルゴン原子の間では ε=1.7×10−21J,r0=0.38nm 程度である.k の値を求めよ.

原子間ポテンシャルの谷底.\(U(r)=-A/r^6+B/r^{12}\) のグラフ.\(r=r_0\) で最小値 \(-\varepsilon\) をとる.平衡点付近の放物線による近似を破線で重ねて描く. 原子間ポテンシャルの谷底.\(U(r)=-A/r^6+B/r^{12}\) のグラフ.\(r=r_0\) で最小値 \(-\varepsilon\) をとる.平衡点付近の放物線による近似を破線で重ねて描く.
解答を見る

考え方 (1) は dUdr=0 を解く.(2) は2階微分に (1) の関係を代入し,A,B を ε,r0 に置き換える.

  1. dUdr=6Ar7−12Br13=0 より r06=2BA,すなわち r0=(2BA)1/6 である.このとき

U(r0)=−Ar06+Br012=−A22B+A24B=−A24B

なので,結合エネルギーは ε=A24B である.

  1. d2Udr2=−42Ar8+156Br14 である.(1) より B=Ar062 なので

U″(r0)=−42Ar08+78Ar08=36Ar08

また ε=A2r06 より A=2εr06 であるから

k=36⋅2εr06r08=72εr02

である.k>0 で,安定な点である.

  1. k=72×1.7×10−21(0.38×10−9)2≈0.85Nm−1 である.この値を使う単振動の周期は,第7章で求める.

ポイント ここまでのまとめ

  • 関数は小さな h=x−a について f(a+h)≈f(a)+f′(a)h+12f″(a)h2 と近似できる.安定点(U″(x0)>0)では U′=0 なので U≈U(x0)+12U″(x0)(x−x0)2,復元力の係数は k=U″(x0) である.

  • ポテンシャル図は,つり合い(U′=0),安定性(U″ の符号),転回点(U=E)の順に読む.

  • 原子間ポテンシャル −A/r6+B/r12 では,平衡の距離は r06=2B/A,結合エネルギーは A2/(4B),復元力の係数は 72ε/r02 となる.