問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

圧力と浮力

著者:柚木芹香

問い

深さ 1m まで水を入れた,断面積 1cm2 の細い管と,同じ深さの広いプールがあります.管の底とプールの底では,水の圧力は同じでしょうか.上に向かって広がる花瓶のような容器や,上に向かってすぼまる容器ではどうでしょうか.容器の形が違えば,入っている水の重さもまるで違います.

同じ深さの4つの容器を示す模式図. 同じ深さの4つの容器を示す模式図.

考えてみる

素直に考えると,底が受ける力は「その上にある水の重さ」です.まっすぐな管や水槽なら,底の上にある水の重さを底の面積で割ると,太さによらず同じ値になります.ところが上に広がる容器では,底の上にある水は底の面積より広く,重さも大きくなります.上にすぼまる容器では逆に少なくなります.「上にある水の重さ」で決まるなら,容器の広がり方によって底の圧力が違うはずです.

困るのは,容器の壁も水を押していることです.斜めの壁は水を斜めに押し,その鉛直成分が水を支えたり押し下げたりします.底に働く力を知るには,水全体の重さではなく,水の中の各点で「面をどれだけ強く押すか」を考える必要があります.

圧力

定義 圧力

面に垂直に働く力の大きさ F を,その面の面積 S で割った量

p=FS

を圧力という.単位は Pa=Nm−2(パスカル)である.

静止している水や空気(流体)は,接する面を,面に垂直な向きにだけ押します.面に沿った向きの力があれば,流体はその向きに流れ出してしまい,静止していられないからです.さらに,流体の中の1点での圧力は,面をどの向きに置いても同じ値になります(次の節で,小さな三角柱のつり合いから確かめます).ですから「この点の圧力」と,向きを言わずに1つの数で言えます.

地上の空気も圧力をもちます.これが大気圧で,海面でおよそ p0=1.013×105Pa です.1m2 の面を約 1×105N,質量にして約 10t の重さで押す強さです.それでも私たちがつぶれないのは,体の内側の液体や空気も同じくらいの圧力で外へ押し返しているからです.

深さと圧力

水の中に,鉛直な円柱の形をした部分を頭の中で切り出します.断面積は S,上面は水面に,下面は深さ h にあるとします.この水の柱は静止しているので,力のつり合いがなりたちます.働く力は次の4つです.

  • 上面を大気が押す力 p0S(下向き)

  • 下面を下の水が押す力 pS(上向き)

  • 側面をまわりの水が押す力(側面に垂直なので水平で,鉛直成分は無い)

  • 柱の重力 ρShg(下向き.ρ は水の密度)

鉛直方向のつり合い pS=p0S+ρShg より,次の関係が出ます.

法則 静止した液体の圧力

密度 ρ の液体が静止しているとき,液面(圧力 p0)から深さ h の点の圧力は

p=p0+ρgh

である.同じ液体がつながっていれば,同じ深さの点の圧力は等しい.

静止した液柱の力のつり合いを示す模式図. 静止した液柱の力のつり合いを示す模式図.

同じ深さの2点は,水平な柱を切り出せば,両端の力のつり合いから圧力が等しいとわかります.重力は鉛直なので,水平方向の式に入らないからです.水の密度 1.0×103kgm−3 では,ρg≈9.8×103Pam−1 で,深さ約 10m ごとに大気圧1つ分ずつ圧力が増えます.

これで問いに答えられます.底の圧力は深さ h だけで決まり,容器の太さや形にはよりません.上に広がる容器では,斜めの壁が水を上へ支えていて,底はその分を負担しません.上にすぼまる容器では,斜めの壁が水を下へ押していて,底は水の重さより大きな力を受けます.底が受ける力は (p0+ρgh)×(底の面積) で,水の重さとは一致しなくてよいのです.パスカルの樽が裂けたのも,細い管でも水面が高くなれば,樽の中の圧力が深さの分だけ上がるからです.

液面の圧力を Δp だけ上げると,p=p0+ρgh の p0 が増えるので,液体の中のすべての点で圧力が同じ Δp だけ上がります.これをパスカルの原理といいます.断面積 S1,S2 の2本のピストンを液体でつなぐと,同じ高さで圧力が等しいことから F1S1=F2S2 となり,小さな力で大きな力を出せます.車のブレーキや油圧ジャッキの原理です.

浮力

液体の中に,底面積 S,高さ l の直方体を,上面を水平にして沈めます.上面の深さを d とします.4つの側面には水平な力が働きますが,向かい合う面は同じ深さの範囲にあるので,力は打ち消し合います.残るのは上面と下面の力で,上向きを正とすると

{p0+ρg(d+l)}S−(p0+ρgd)S=ρSlg=ρVg

です(V=Sl は直方体の体積).深さ d も大気圧 p0 も消え,押しのけた液体の体積だけが残りました.

直方体の表面を押す圧力を示す模式図. 直方体の表面を押す圧力を示す模式図.

形が直方体でないときは,次のように考えます.物体を取り去り,その場所を同じ形の液体で満たしたとします.この液体はまわりと同じで,静止しています.ですから,まわりの液体がこの「液体のかたまり」の表面を押す力の和は,かたまりの重力 ρVg とつり合っていて,鉛直上向きに ρVg です.表面を押す力は,表面の形と位置だけで決まり,中身が何であるかによりません.中身を元の物体に戻しても,表面には同じ力が働きます.

法則 アルキメデスの原理

流体の中にある物体は,物体が押しのけた流体の重さに等しい大きさの,鉛直上向きの力を受ける.これを浮力という.物体が押しのけた体積を V,流体の密度を ρ とすると,浮力の大きさは

F=ρVg

である.一部だけが沈んでいるときは,V は沈んでいる部分の体積である.

浮力は「物体のまわりの流体が表面を押す力」の合計で,新しい種類の力ではありません.ですから,物体の下面が容器の底にぴったり密着して下に液体が回り込まないときは,下から押す力が無くなり,この式は使えません.

密度 ρs,体積 V の物体を液体に全部沈めると,上向きの合力は (ρ−ρs)Vg です.ρs<ρ なら浮き上がり,ρs>ρ なら沈みます.浮かんで静止したとき,沈んでいる体積を V′ とすると ρV′g=ρsVg で,沈んでいる割合は V′V=ρsρ です.氷(917kgm−3)が海水(1025kgm−3)に浮くと,割合は約0.89です.つり合いの位置からさらに y だけ沈めると,浮力は沈んだ体積の分だけ増えます.この増えた浮力が押し戻す力になって,浮かんだ物体は上下に振動します.これは第7章の「いろいろな単振動」で扱います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 圧力は,面に垂直に働く力を面積で割った量 p=F/S(単位 Pa)で,静止した流体の中では面の向きによらない.

  • 静止した液体の中で,液面から深さ h の点の圧力は p=p0+ρgh.小さな液柱のつり合いから出る.

  • 問いの答え:同じ深さなら,細い管の底でもプールの底でも,形の違う容器の底でも圧力は同じ.底が受ける力は水の重さと一致するとは限らず,差は斜めの壁が負担している.

  • 浮力は表面を押す力の合計で,大きさは押しのけた流体の重さ ρVg(アルキメデスの原理).物体を同じ形の流体で置き換える考えで,どんな形にも使える.

  • 液面の圧力の増加は,液体のすべての点に伝わる(パスカルの原理).