問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

圧力の微分方程式と浮力の例題

著者:柚木芹香

前の節では,深さ h の水柱のつり合いから p=p0+ρgh を出しました.ここでは,柱をごく薄くして圧力の変わり方を微分で書き,密度が場所で変わる場合にも使える形にします.また,面のあちこちで違う圧力を足し合わせて力を出す方法を確かめます.そのあと,浮力の例題を解きます.

定理 数学の道具:圧力の微分方程式

鉛直上向きに z 軸をとる.流体の中に,断面積 S,高さ Δz の薄い円柱を切り出す.下面(高さ z)の圧力を p(z),上面の圧力を p(z+Δz),その範囲の密度を ρ とすると,鉛直方向のつり合いは

p(z)S−p(z+Δz)S−ρSΔzg=0

である.SΔz で割って Δz→0 とすると

dpdz=−ρg

を得る.上へ行くほど,その高さの密度に比例した割合で圧力が減る.

密度が一定のとき. 液面 z=0 で p=p0 とし,両辺を z から 0 まで積分すると p0−p(z)=−ρg(0−z),すなわち p(z)=p0−ρgz.深さ h=−z を使えば p=p0+ρgh で,前の節と一致する.

密度が場所で変わるとき. 液体が層になっていれば層ごとに傾きが変わり,空気のように密度が圧力に比例すれば右辺に p が入る(温度が一定の気体で密度が圧力に比例することは,ここでは事実として使う).

練習 1. 温度が一定の空気の密度を ρ=ρ0p0p(ρ0=1.2kgm−3,p0=1.0×105Pa は地表の値)とする.高さ z での圧力を求め,z=3.8km での p/p0 を見積もれ.

答え:dpdz=−pH,H=p0ρ0g≈8.5×103m.空気抵抗の節の変数分離と同じ形で,p=p0e−z/H.z=3.8km では e−0.45≈0.64.実際の大気は上空ほど冷たいので,この式は目安である.

定理 数学の道具:面にわたって力を足す

圧力が面の上で場所によって違うときは,面を小さな部分に分け,各部分の力 pΔS を足して,部分を細かくした極限(積分)をとる.力はベクトルなので,向きの違う面の力は成分ごとに足す.前の節の直方体では,上面と下面の圧力が一定なので「圧力 × 面積」で済み,側面の水平な力は向かい合う面どうしで打ち消し合った.

向きによらないこと. 流体の中に,直角をはさむ2辺が a(水平)と b(鉛直),斜辺が c=a2+b2,奥行きが L の小さな三角柱を考える.底面,鉛直な面,斜面の圧力をそれぞれ p1,p2,p3 とする.斜面の力は面に垂直で,その水平成分は p3cL⋅bc=p3bL,鉛直成分は p3cL⋅ac=p3aL である.つり合いは

p2bL=p3bL,p1aL=p3aL+12abLρg

で,p2=p3,p1=p3+12ρgb.三角柱を小さくして b→0 とすると p1=p2=p3 となる.重力は体積に比例し,面の力は面積に比例するので,小さくするほど重力が効かなくなるのである.斜面の傾きは自由に選べるので,1点での圧力は面の向きによらない.

小さな三角柱に働く圧力を示す模式図. 小さな三角柱に働く圧力を示す模式図.

練習 2. 幅 w=10m の鉛直な水門の片側に,深さ h=4.0m まで水がある.大気圧は両側で打ち消すとして,水が水門を押す力を求めよ.

答え:深さ y の幅 w,高さ dy の帯が受ける力は ρgywdy.F=∫0hρgwydy=12ρgwh2=12×1.0×103×9.8×10×4.02≈7.8×105N.

練習 3. 水槽の鉛直な側面に,幅 3.0m,高さ 2.0m の長方形の窓があり,窓の上端は水面から深さ 1.0m にある.大気圧は打ち消すとして,水が窓を押す力を求めよ.

答え:F=∫1.03.0ρg(3.0)ydy=ρg×3.0×3.02−1.022=1.0×103×9.8×12≈1.2×105N.窓の中心の深さ 2.0m の圧力に面積 6.0m2 を掛けたものと同じである.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

底面が 0.10m×0.10m の正方形で,高さ 0.20m の直方体の木片(密度 6.0×102kgm−3)を,底面を水平にして水(密度 1.0×103kgm−3)に浮かべる.g=9.8ms−2 とする.

  1. 水面から木片の底面までの深さ(喫水)を求めよ.また,底面の圧力と大気圧の差から,木片を押し上げる力を計算し,重力とつり合っていることを確かめよ.

  2. 木片の上面の中央におもりを載せる.上面がちょうど水面にそろうおもりの質量を求めよ.

木片の喫水と上に載せるおもりを示す模式図. 木片の喫水と上に載せるおもりを示す模式図.
解答を見る

考え方 浮かんで静止しているので,重力と浮力がつり合う.浮力は沈んでいる部分の体積で決まる.側面の力は水平で打ち消し合うので,底面の力だけで確かめられる.

  1. 底面積を S=1.0×10−2m2,喫水を d とすると,1.0×103×Sdg=6.0×102×S×0.20×g より

d=6.0×1021.0×103×0.20=0.12m

底面の圧力は大気圧より ρgd=1.0×103×9.8×0.12≈1.18×103Pa だけ高く,上面には大気圧がかかるので,押し上げる力は 1.18×103×1.0×10−2≈12N.木片の質量は 6.0×102×2.0×10−3=1.2kg で,重力も 1.2×9.8≈12N である.

  1. 全体が沈むと浮力は 1.0×103×2.0×10−3×g,すなわち質量 2.0kg 分の重さである.木片とおもりの合計がこれに等しいので,おもりは 2.0−1.2=0.80kg である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

容器に水(密度 ρw=1.0×103kgm−3)を入れ,その上に水と混ざらない油(密度 ρo=8.0×102kgm−3)を十分な厚さで重ねる.1辺 a の立方体(密度 ρs=9.0×102kgm−3)を入れると,上面を水平にして,油と水の境目にまたがって静止した.

  1. 立方体の高さのうち,水の中にある割合 x を求めよ.

  2. 油を取り除くと,立方体は水面に浮く.水の中にある割合は (1) より大きいか小さいか.油が上から押さえつけるという考えと比べて説明せよ.

油と水の境目にある立方体を示す模式図. 油と水の境目にある立方体を示す模式図.
解答を見る

考え方 上面と下面の圧力の差を,層ごとの ρg×(厚さ) の和で求める.側面の力は水平で打ち消し合う.

  1. 上面から下面まで,油の中を (1−x)a,水の中を xa 下るので,下面と上面の圧力の差は ρog(1−x)a+ρwgxa である.これに面積 a2 を掛けた力が重力 ρsa3g とつり合うので

ρo(1−x)+ρwx=ρs,x=ρs−ρoρw−ρo=900−8001000−800=0.50

である.浮力は「押しのけた油の重さ+押しのけた水の重さ」になっていて,アルキメデスの原理と同じ形である.

  1. 油が無ければ,沈む割合は ρs/ρw=0.90 で,(1) より大きい.たしかに油は上面を押し下げるが,同じ油の重さは下の水の圧力も高めて,下面を押し上げる.上面より上にある油の分は,上面と下面に同じ圧力として加わって打ち消し合う.残るのは,立方体の上部と同じ高さにある油の層の分で,これは下面だけに加わる.その大きさは立方体の上部が押しのけた油の重さで,上向きである.だから油を重ねると,立方体は浮き上がる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 薄い流体の柱のつり合いから dpdz=−ρg(z は上向き).密度一定なら積分して p=p0+ρgh.密度が変われば,層ごとに傾きが変わる.

  • 場所で違う圧力から力を出すには,面を分けて pΔS を足し,積分する.鉛直な壁では F=12ρgwh2.

  • 小さな三角柱では,重力は体積に,面の力は面積に比例するので,小さくした極限で圧力は面の向きによらない.

  • 浮力の問題は,重力と浮力(と糸やばねの力)のつり合いを書く.重なった液体では,浮力は押しのけた各液体の重さの和になる.上の液体が上面を押す分は,下面の圧力も同じだけ高めるので打ち消し合う.