問い
木の枝に猿がぶら下がっています.離れた地面にいる猟師が,猿を狙って銃を構えました.猟師は猿をまっすぐ狙っていますが,弾が出る瞬間に猿は驚いて枝から手を離し,真下に落ち始めました.弾は重力で曲がりながら飛ぶので,猿のいた位置には届かないはずです.ところが猿も落ちています.
[図:猟師と木の枝の猿]左下に猟師が立ち,銃口から右上の枝にぶら下がる猿の最初の位置へ向けて,狙う向きに直線を引く.水平面とのなす角はθ.銃口から猿の最初の位置までの水平距離がL,高さがH.猿の真下には落下の経路を赤い破線の矢印で示す.弾の軌道は描かない.
弾は猿に当たるでしょうか.それとも上を通り過ぎるのでしょうか.弾の速さで答えは変わるでしょうか.まず予想を立ててみてください.
考えてみる
手がかりは,重力が弾にも猿にもはたらくことです.重力がなければ,弾は狙った向きに一直線に進み,動かない猿に当たります.重力があると,弾は直線から下へ,猿も元の位置から下へずれます.そのずれはどちらも,時間 𝑡 の間に 12𝑔𝑡2 で同じ大きさです.重力がなければ弾と猿は出会う時刻があるので,その時刻には両方が同じだけ下へずれ,やはり出会うはずです.
確かめるには,運動を水平方向と鉛直方向に分けて考えます.水平方向は等速,鉛直方向は 𝑔 の等加速度になります.この考え方で弾の運動を調べ,次の節の例題1で式を使って確かめます.
水平と鉛直の独立
物体を斜めに投げると,その位置は平面(水平方向と鉛直方向)の中を動きます.座標軸を水平に 𝑥 軸,鉛直上向きに 𝑦 軸をとり,加速度の成分は
𝑎𝑥=0,𝑎𝑦=−𝑔
です.水平方向には何も加速するものがなく,鉛直方向には重力加速度 𝑔 だけが下向きにあります.空気抵抗は無視します.2つの方向は互いに影響しないので,それぞれを「等加速度運動と自由落下」の節の等加速度運動として別々に扱えます.これを独立といいます.
実験でも確かめられます.同じ高さから一方の球を静かに放し,同時にもう一方を水平に弾き出すと,2つの球は同時に床に着きます.連続写真に撮ると,2つの球は常に同じ高さにあり,弾き出した球が一定の間隔で横へ進んでいくのが見えます.水平に動いていても,鉛直方向の落ち方は変わらないのです.
法則 放物運動(水平投射・斜方投射)
原点から,水平面と角 𝜃 をなす向きに,初速度の大きさ 𝑣0 で投げたとき,時刻 𝑡 の速度と位置は
𝑣𝑥=𝑣0cos𝜃,𝑣𝑦=𝑣0sin𝜃−𝑔𝑡
𝑥=𝑣0cos𝜃⋅𝑡,𝑦=𝑣0sin𝜃⋅𝑡−12𝑔𝑡2
[図:斜方投射の軌道と速度の成分]原点から斜め上に投げた物体の放物線の軌道を,水平方向をx,鉛直上向きをyとして描く.スライダーで射出角θを変えられ,初期状態はθ=60°.軌道上の等しい時間間隔の5点に速度ベクトルを青い矢印で示し,その水平成分と鉛直成分を破線で示す.水平成分は5点とも同じ長さで,鉛直成分は上向きから最高点で0になり下向きに変わる.破線の軌道は45°の場合で,到達距離Rが最大.目盛はv0²/gを単位とする.
原点から斜め上に投げた物体の放物線の軌道を,水平方向をx,鉛直上向きをyとして描く.スライダーで射出角θを変えられ,初期状態はθ=60°.軌道上の等しい時間間隔の5点に速度ベクトルを青い矢印で示し,その水平成分と鉛直成分を破線で示す.水平成分は5点とも同じ長さで,鉛直成分は上向きから最高点で0になり下向きに変わる.破線の軌道は45°の場合で,到達距離Rが最大.目盛はv0²/gを単位とする.
軌道の式
𝑡 を消すと軌道の形が分かります.𝑡 =𝑥𝑣0cos𝜃 を 𝑦 の式に入れて
𝑦=𝑥tan𝜃−𝑔2𝑣20cos2𝜃𝑥2
です.𝑦 は 𝑥 の2次式で,上に凸の放物線です.1cos2𝜃 =1 +tan2𝜃 を使った形も書いておきます.
𝑦=𝑥tan𝜃−𝑔𝑥22𝑣20(1+tan2𝜃)
最高点と到達距離
最高点は 𝑣𝑦 =0 の瞬間です.𝑣0sin𝜃 −𝑔𝑡 =0 より,最高点に達する時刻と高さは
𝑡1=𝑣0sin𝜃𝑔,𝐻=𝑣20sin2𝜃2𝑔
で,最高点の速度は水平成分 𝑣0cos𝜃 だけです.次に,投げた高さまで戻る時刻は,鉛直投げ上げと同じく最高点に達する時刻の2倍で,
𝑇=2𝑣0sin𝜃𝑔
です.この間に水平方向へ進む距離,つまり到達距離は
𝑅=𝑣0cos𝜃⋅𝑇=2𝑣20sin𝜃cos𝜃𝑔=𝑣20sin2𝜃𝑔
です.最後の変形には2倍角の公式 sin2𝜃 =2sin𝜃cos𝜃 を使いました(次の節で復習します).
たとえば 𝑣0 =20 ms−1,𝜃 =30∘ なら,滞空時間は約2.0 s,最高点の高さは約5.1 m,到達距離は約35 m です.同じ初速で最も遠くへ飛ばすと約41 m(𝜃 =45∘)になります.
最大の到達距離と2つの角
𝑅 =𝑣20sin2𝜃𝑔 は sin2𝜃 =1,すなわち 𝜃 =45∘ のとき最大で,最大の到達距離は 𝑣20𝑔 です.また,ある到達距離 𝑅(𝑅 <𝑣20/𝑔)を与える角は2つあります.sin2𝜃 =sin(180∘ −2𝜃) =sin2(90∘ −𝜃) なので,𝜃 と 90∘ −𝜃 は同じ到達距離を与えます.
[図:同じ到達距離を与える2つの投射角]同じ初速の大きさv0で,投射角がθと90°−θの2本の放物線を描く.初期状態はθ=30°(青,低い軌道)と60°(橙,高い軌道).2本は同じ点に着地し,到達距離Rは等しいが,60°のほうが高く上がる.スライダーで低い方の角θを変えると,着地点は2本とも同じまま,高さと滞空時間の比がtanθに応じて変わる.目盛はv0²/gを単位とする.
同じ初速の大きさv0で,投射角がθと90°−θの2本の放物線を描く.初期状態はθ=30°(青,低い軌道)と60°(橙,高い軌道).2本は同じ点に着地し,到達距離Rは等しいが,60°のほうが高く上がる.スライダーで低い方の角θを変えると,着地点は2本とも同じまま,高さと滞空時間の比がtanθに応じて変わる.目盛はv0²/gを単位とする.
角 𝜃 で投げたときの滞空時間と最高点の高さを 𝑇1, 𝐻1,角 90∘ −𝜃 で投げたときを 𝑇2, 𝐻2 とすると,それらの比は 𝑇1 :𝑇2 =tan𝜃 :1,𝐻1 :𝐻2 =tan2𝜃 :1 です.𝑇 は sin𝜃 に,𝐻 は sin2𝜃 に比例し,sin(90∘ −𝜃) =cos𝜃 だからです.大きい角で投げたほうが高く上がり,時間もかかります.
ポイント ここまでのまとめ
水平方向は等速,鉛直方向は加速度 −𝑔 の等加速度運動で,2つは互いに影響しない.
軌道は 𝑦 が 𝑥 の2次式になる放物線.最高点では 𝑣𝑦 =0 だが,水平成分 𝑣0cos𝜃 は残る.
最高点の高さは 𝑣20sin2𝜃2𝑔,到達距離は 𝑅 =𝑣20sin2𝜃𝑔.𝜃 =45∘ で最大 𝑣20𝑔,𝜃 と 90∘ −𝜃 は同じ到達距離を与える.
問いの答え:弾も猿も,同じ時間に同じだけ 12𝑔𝑡2 落ちるので,弾は速さによらず猿に当たる(式での確認は次の節).ただし猿が地面に着く前に限る.