問い
ここまでの題材で,振り子の長さは 𝑙 =0.7989 m(標準不確かさ 𝑢(𝑙) =0.0010 m.支点の位置の見きわめが主),周期は 𝑇 =1.7940 s(𝑢(𝑇) =0.0017 s)と分かりました.ここから
𝑔=4𝜋2𝑙𝑇2=9.800ms−2
と計算できます.長さにも周期にも不確かさがあるのだから,𝑔 にも不確かさがあるはずです.それはどれだけでしょうか.また,𝑔 をもっと確かにしたいとき,長さと周期のどちらを測り直すのがよいでしょうか.
考えてみる
𝑢(𝑙) =0.0010 m と 𝑢(𝑇) =0.0017 s をそのまま足すことはできません.単位が違うからです.比べるには,値に対する割合(相対標準不確かさ)𝑢(𝑥)/|𝑥| にします.長さは 0.00100.7989 =0.125 %,周期は 0.001651.794 =0.092 % です(途中の計算では1桁多く 𝑢(𝑇) =0.00165 s を使います).
では,𝑔 の相対不確かさは 0.125 +0.092 % でよいのでしょうか.2つ気になることがあります.𝑔 の式には 𝑇 が2乗で入っているので,周期のずれは2倍に効きそうです.また,長さのずれと周期のずれは互いに関係なく出るので,両方が同時に最大の向きにずれることはまれで,単純に足すと大きすぎそうです.
1つの量から計算するとき
量 𝑥 から 𝑦 =𝑓(𝑥) を計算するとします.𝑥 が小さく Δ𝑥 だけずれると,𝑦 のずれは,グラフの接線で近似して Δ𝑦 ≈𝑓′(𝑥) Δ𝑥 です(第3章の微分).ずれが小さければ,ずれは傾き 𝑓′(𝑥) 倍されて伝わります.したがって
𝑢(𝑦)=|𝑓′(𝑥)|𝑢(𝑥)
です.特に 𝑦 =𝐶𝑥𝑛(𝐶 は定数)なら 𝑓′(𝑥) =𝑛𝐶𝑥𝑛−1 =𝑛𝑦/𝑥 なので(𝑛 が負や分数でもこの微分の公式が成り立つことは,次の節で確かめます)
𝑢(𝑦)|𝑦|=|𝑛|𝑢(𝑥)|𝑥|
となり,相対不確かさが |𝑛| 倍になります.𝑇2 の相対不確かさは 𝑇 の2倍,√𝑙 なら半分です.
[図:接線を通して伝わる不確かさ]曲線の接点で,横軸の±u(x)を接線へ投影し,縦軸の±u(y)を読む.接点を右へ動かすと傾きが増し,縦の幅が広がる.初期状態は緩やかな部分と急な部分の間.
曲線の接点で,横軸の±u(x)を接線へ投影し,縦軸の±u(y)を読む.接点を右へ動かすと傾きが増し,縦の幅が広がる.初期状態は緩やかな部分と急な部分の間.
2つ以上の量から計算するとき
長さのずれと周期のずれのように,互いに関係なく出るずれを独立といいます.前の題材の数学の節で,独立なずれの和は,2乗の平均が足し算になることを見ました(交差項の平均が0になるから).同じ理由で,独立な不確かさは2乗して足し,平方根を取って合わせます.
公式 不確かさの伝わり方(独立な場合)
(𝑢(𝑦)𝑦)2=(𝑝𝑢(𝑥1)𝑥1)2+(𝑞𝑢(𝑥2)𝑥2)2
こうして合わせた不確かさを合成標準不確かさ 𝑢c(𝑦) という.
和・差では不確かさそのものを,積・商では相対不確かさを合わせます.導き方は次の節で示します.
𝑔 の不確かさ
𝑔 =4𝜋2𝑙 𝑇−2 は 𝑝 =1,𝑞 = −2 の形です.
量 | 相対標準不確かさ | 指数 | 𝑔 への寄与 |
|---|
𝑙 | 0.125 % | 1 | 0.125 % |
𝑇 | 0.092 % | −2 | 0.184 % |
合成 | | | √0.1252+0.1842 =0.223 % |
よって 𝑢c(𝑔) =9.800 ×0.00223 =0.022 ms−2 です.周期の相対不確かさは長さより小さいのに,2乗で効くので,寄与は周期のほうが大きくなりました.
このような表を不確かさの内訳といいます.内訳を作ると,どこを良くすればよいかが分かります.長さの不確かさを半分にしても,合成は √0.06252+0.1842 =0.194 % にしかなりません.周期の不確かさを半分にすれば √0.1252+0.0922 =0.155 % になります.2乗の和では,大きいほうの寄与が全体を決めるので,一番大きな寄与から減らすのが近道です.周期なら,前の題材で見たように,まとめて測る周期の数を増やすのが効きます.
報告の書き方と有効数字
不確かさは1桁か2桁で書き,値はその桁にそろえて丸めます.この実験の結果は
𝑔 =9.800 ms−2,合成標準不確かさ 0.022 ms−2
と書きます.短く 𝑔 =9.800(22) ms−2 とも書き,括弧の中は最後の2桁に対する標準不確かさです.± を使うときは,それが何の不確かさかを必ず書き添えます.
第1章の有効数字の規則「掛け算・割り算は桁数の最も少ないものに合わせる」は,相対不確かさの伝え方を大まかにしたものです.桁数は相対不確かさのおおよその目安だからです.ただし,規則はべきの倍率(𝑇2 で2倍)も2乗の和も見ないので,大まかにしか合いません.4桁の 0.7989 と 1.794 から規則どおりに4桁の 9.800 を書くと,最後の桁まで確かに見えますが,実際には小数第2位がもう 0.02 ほど違いうるのです.
最後に,結果を基準の値と比べます.合成標準不確かさに係数 𝑘(包含係数.ふつう 𝑘 =2)を掛けたものを拡張不確かさ 𝑈 =𝑘𝑢c といいます.𝑘 =2 では 𝑈 =0.044 ms−2 で,正規分布なら約 95 % の確からしさで値が入る範囲の目安になります.東京付近の重力加速度 9.798 ms−2 は 9.800 ±0.044 の範囲に入るので,この実験は基準の値と合っているといえます.差が 𝑈 よりずっと大きければ,見落とした系統誤差を疑います.
ポイント ここまでのまとめ
1つの量からなら 𝑢(𝑦) =|𝑓′(𝑥)|𝑢(𝑥).べき 𝑥𝑛 では相対不確かさが |𝑛| 倍になる.
独立な不確かさは2乗の和の平方根で合わせる.和・差では不確かさそのもの,積・商・べきでは相対不確かさを合わせる.
内訳の表を作り,一番大きな寄与から減らす.有効数字の規則は,この伝え方の大まかな版である.
問いの答え:𝑔 =9.800 ms−2,合成標準不確かさ 0.022 ms−2.周期の寄与(0.184 %)が長さ(0.125 %)より大きいので,周期を良くするのが先である.