問いしるべ
問いから始める物理 測定と不確かさ(発展)

測定と不確かさ(発展)

不確かさの伝わり方と偏微分

著者:柚木芹香

前の節では,不確かさの伝わり方の規則を使いました.この節では,その規則を微分から導きます.2つ以上の量に関係する関数を1つずつの量について微分する「偏微分」を,ここで導入します.

定理 数学の道具:1次近似と偏微分

どんな指数でも (xn)′=nxn−1. 第3章では n が自然数の場合を示した.第2章の一次近似 (1+ε)n≈1+nε(ε が十分小さいとき.n は負でも分数でもよい)を使うと,x>0 で

(x+h)n−xnh=xnh[(1+hx)n−1]≈xnh⋅nhx=nxn−1

となり,h→0 で同じ公式が成り立つ.たとえば (T−2)′=−2T−3,(l)′=12l.

1次近似. y=f(x) で x が Δx だけ変わると,Δy≈f′(x)Δx.Δx が小さいほど良く成り立つ(接線で曲線を近似している).

偏微分. 2つの量 x1,x2 で決まる y=f(x1,x2) で,x2 を定数とみて x1 で微分したものを,x1 による偏微分といい ∂f∂x1 と書く.x2 による偏微分も同様である.たとえば g(l,T)=4π2lT−2 では

∂g∂l=4π2T2,∂g∂T=−8π2lT3

2つの量が同時に変わるとき. x1 と x2 が Δx1,Δx2 だけ変わるとき,まず x1 だけを変え,次に x2 を変えると考えると

Δy≈∂f∂x1Δx1+∂f∂x2Δx2

となる(2段目の偏微分を取る点が Δx1 だけずれる違いは,Δx1Δx2 の程度で,1次の近似では無視できる).

独立な不確かさの合成. 両辺を2乗して,多数回の繰り返しについて平均する.Δx1 と Δx2 が独立なら,前の題材と同じく交差項 Δx1Δx2 の平均は0なので

uc(y)2=(∂f∂x1)2u(x1)2+(∂f∂x2)2u(x2)2

量が3つ以上でも同じ形に項を足す.y=x1±x2 なら偏微分は ±1 で,和・差の規則になる.y=Cx1px2q なら ∂y∂x1=pyx1,∂y∂x2=qyx2 なので,両辺を y2 で割ると積・商・べきの規則になる.

練習. 長方形の板の縦が a=20.0cm(u=0.1cm),横が b=30.0cm(u=0.1cm)である.面積 S=ab の合成標準不確かさを,偏微分の式と相対不確かさの式の2通りで求めよ.

答え:∂S∂a=b=30.0cm,∂S∂b=a=20.0cm より uc(S)=(30.0×0.1)2+(20.0×0.1)2=13=3.6cm2.相対では 0.52+0.3332=0.60 % で,600×0.0060=3.6cm2.一致する.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

前の節の問いの値 l=0.7989m,u(l)=0.0010m,T=1.7940s,u(T)=0.00165s を使う.g=4π2l/T2 の偏微分を数で求め,長さと周期のそれぞれが g に与える不確かさと,合成標準不確かさ uc(g) を求めよ.前の節の相対不確かさによる結果と一致することを確かめよ.

解答を見る

考え方 偏微分に各量の標準不確かさを掛けたものが,その量の寄与である.寄与どうしを2乗の和で合わせる.

∂g∂l=4π2T2=39.483.2184=12.27s−2,∂g∂T=−8π2lT3=−2gT=−10.92ms−3

長さの寄与は 12.27×0.0010=0.0123ms−2,周期の寄与は 10.92×0.00165=0.0180ms−2.合わせて

uc(g)=0.01232+0.01802=0.022ms−2

確かめると,相対不確かさでは 0.01239.800=0.125 %,0.01809.800=0.184 % で,前の節の内訳の表と一致する.偏微分の単位も確かめておく.∂g∂l に m を,∂g∂T に s を掛けると,どちらも ms−2 になる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

振り子のおもりの密度を求める.質量は電子てんびん(表示 0.1g 刻み)で m=66.9g,直径はノギス(0.05mm 刻み)で D=25.40mm と読んだ.どちらも,読みの不確かさは表示の刻みの半分 a に一様に散らばるとして,標準不確かさを a/3 とする.

左はノギスの外側の測定面で球を挟む図.赤い印が測定面と球の接点.右は同じ球を電子てんびんに載せる図.読みの値や密度は示さない. 左はノギスの外側の測定面で球を挟む図.赤い印が測定面と球の接点.右は同じ球を電子てんびんに載せる図.読みの値や密度は示さない.
  1. 密度 ρ=6mπD3 を求めよ.

  2. m と D の標準不確かさを求め,ρ の相対標準不確かさへのそれぞれの寄与と,ρ の合成標準不確かさを求めよ.

解答を見る

考え方 ρ∝m1D−3 なので,直径の相対不確かさは3倍に効く.

  1. D=2.540cm として,ρ=6×66.9π×2.5403=401.451.48=7.797gcm−3.

  2. u(m)=0.053=0.029g,u(D)=0.0253=0.0144mm.寄与は,質量が 0.02966.9=0.043 %,直径が 3×0.014425.40=0.170 %.合わせて 0.0432+0.1702=0.176 %,uc(ρ)=7.797×0.00176=0.014gcm−3.結果は ρ=7.797(14)gcm−3 である.直径の読みの相対不確かさ(0.057 %)は質量(0.043 %)と同じ程度なのに,3乗で効くので寄与は4倍になる.確かめとして,鉄の密度はおよそ 7.8gcm−3 で,鉄の球として妥当である.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

支点の位置がはっきり分からない振り子で,メートル尺の目盛りを使い,おもりの上端の位置を2通りに変えて周期を測る.上端の読みの差を Δl′=l1′−l2′ とすると,支点の位置もおもりの半径も差では消えて,g=4π2Δl′T12−T22 となる.各読みの標準不確かさは 0.0005m,各周期の標準不確かさは 0.0017s で,すべて独立とする.

  1. l1′=1.200m,T1=2.211s,l2′=0.200m,T2=0.928s のとき,g と uc(g) を求めよ.

  2. 2つの長さを近づけて l1′=0.800m,T1=1.807s,l2′=0.600m,T2=1.572s としたときの g の相対標準不確かさを求め,(1) と比べよ.

解答を見る

考え方 分子の差と分母の差のそれぞれに和・差の規則を使い,最後に商の規則で合わせる.支点の位置のように両方の読みに同じだけ入るずれは,差を取ると消える.

  1. 分子:Δl′=1.000m,u(Δl′)=2×0.0005=0.00071m,相対 0.071 %.分母:T12−T22=4.8885−0.8612=4.0273s2.u(T2)=2Tu(T) より u(T12)=0.0075s2,u(T22)=0.0032s2.差の不確かさは 0.00752+0.00322=0.0082s2,相対 0.20 %.よって

g=4π2×1.0004.0273=9.803ms−2

相対標準不確かさは 0.0712+0.202=0.21 % なので,uc(g)=0.021ms−2 である.

  1. Δl′=0.200m で相対 0.35 %.T12−T22=3.2652−2.4712=0.7941s2,不確かさは (2×1.807×0.0017)2+(2×1.572×0.0017)2=0.0081s2,相対 1.03 %.合わせて 0.352+1.032=1.08 % で,(1) の約5倍になる.差の不確かさはあまり変わらないのに,差そのものが小さくなったからである.近い値どうしの差は相対不確かさが大きくなるので,2つの長さはできるだけ離す.確かめとして,(2) の値から計算すると g=9.94ms−2 で,9.80ms−2 との差 0.14ms−2 は,その不確かさ 0.11ms−2 と同じ程度である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 一次近似から,どんな指数 n でも (xn)′=nxn−1.

  • 偏微分は,ほかの量を定数とみて1つの量で微分したもの.Δy≈∑∂f∂xkΔxk.

  • 独立なら uc(y)2=∑(∂f∂xk)2u(xk)2.和・差,積・商・べきの規則はこの特別な場合である.

  • 同じずれが両方に入る量どうしの差では,そのずれが消える.ただし近い値の差は相対不確かさが大きい.