問いしるべ
問いから始める物理 確率振幅から組み立てる量子力学(発展)

確率振幅から組み立てる量子力学(発展)

2つの穴と不確定性の例題

著者:柚木芹香

本体の節の振幅の規則と不確定性原理を,数で確かめます.使った近似と,それが破れる場合も確かめてください.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

静止した電子を電圧 V=100V で加速し,間隔 d=1.0μm の2つの細いすき間に通して,距離 L=1.0m のスクリーンで検出する.すき間1だけを開けたときと,すき間2だけを開けたときの,スクリーンの中央付近での検出確率をそれぞれ P1,P2 とし,x によらないとみなす.電子の質量 m=9.1×10−31kg,e=1.6×10−19C,h=6.6×10−34Js とする.

  1. 2つの道すじの振幅を ϕ1=P1eiα1,ϕ2=P2eiα2 と書く.両方を開けたときの検出確率を,位相差 δ=α2−α1 を使って表せ.

  2. P1=P2 のとき,スクリーン上の縞の間隔を求めよ.

  3. すき間2を細くして P2=P1/4 にした.縞の明るい所と暗い所の検出確率の比を求めよ.また,縞を1周期にわたって平均した確率を P1 で表せ.

電圧Vで加速した電子が,間隔dの2つのすき間のある壁から距離Lのスクリーンへ向かう.スクリーン中央をx=0とし,正のxを上向きにとる.2つのすき間から位置xへ至る道すじと,対応する振幅φ₁,φ₂を示す. 電圧Vで加速した電子が,間隔dの2つのすき間のある壁から距離Lのスクリーンへ向かう.スクリーン中央をx=0とし,正のxを上向きにとる.2つのすき間から位置xへ至る道すじと,対応する振幅φ₁,φ₂を示す.
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考え方 どちらのすき間を通ったかの記録は残らないので振幅を足してから2乗する.位相差は道のりの差を波長で割って 2π を掛けたものである.

  1. |ϕ1+ϕ2|2=(ϕ1+ϕ2)(ϕ1∗+ϕ2∗) なので

P12=P1+P2+P1P2(eiδ+e−iδ)=P1+P2+2P1P2cos⁡δ
  1. 運動量は p=2meV=2×9.1×10−31×1.6×10−19×100≈5.4×10−24kgms−1,波長は λ=h/p≈1.2×10−10m である.d と x が L より十分小さいとき,道のりの差は dx/L で δ=2πdx/(λL)(定数を除く).δ が 2π 変わる間隔は

w=λLd≈1.2×10−10×1.01.0×10−6=1.2×10−4m

で,およそ 0.12mm である.

  1. 明るい所は cos⁡δ=1 で Pmax=P1(1+14+2×12)=94P1,暗い所は cos⁡δ=−1 で Pmin=P1(1+14−1)=14P1.比は 9:1 である.cos⁡δ の1周期の平均は0なので,平均の確率は P1+P2=54P1 になる.

確かめ:(3) の平均は,片方ずつ開けたときの和に一致する.干渉は確率を作ったり消したりせず,明るい所と暗い所に配り直すだけである.P2→0 なら縞は消えて P12=P1.近似の条件は d/L=1.0×10−6 が十分小さいことと,eV/(mc2)=100eV/(5.1×105eV)≈2×10−4 が十分小さく非相対論の p=2meV を使えることである.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

例題1の装置で,すき間のすぐ後ろに波長 λγ の光を当て,散乱された光子からどちらのすき間を通ったかを調べる.光で区別できる位置の細かさはおよそ λγ で,2つのすき間を区別するには λγ が d より短くなければならないとする.光子1個を散乱した電子は,スクリーンに平行な向き(x の向き)の運動量が −h/λγ から h/λγ の間のどれかの値 q だけ変わり,その値は等しい確からしさでばらつくとする.電子の運動量を p,ド・ブロイ波長を λ=h/p とする.h/λγ は p より十分小さく,スクリーンに垂直な運動量は p のままで,中央付近の各縞が同じ量だけずれると近似する.

  1. 運動量が q だけ変わった電子について,縞の位置は x の向きにいくらずれるか.そのずれは縞の間隔 w=λL/d の何倍か.

  2. すべての電子が光子を1個ずつ散乱したとき,縞を作る項 cos⁡δ は cos⁡δ⋅sin⁡χ0χ0 に変わることを示せ.ここで χ0=2πd/λγ である.

  3. 2つのすき間を区別できる λγ<d のとき,縞はどうなるか.また λγ を d よりずっと長くすると縞はどうなり,そのとき道すじは区別できるか.

すき間を出た電子に光源から波長λγの光を当てる.入射光子は右から左へ進み,散乱光子は右下へ出る一例を描く.電子の入射運動量pは右向き,横向きの変化qは正のx方向である上向きで,電子は少し上へ偏向する.右の2本の帯は散乱前とqが正の電子の縞の比較で,移動量の式や目盛りは付けていない. すき間を出た電子に光源から波長λγの光を当てる.入射光子は右から左へ進み,散乱光子は右下へ出る一例を描く.電子の入射運動量pは右向き,横向きの変化qは正のx方向である上向きで,電子は少し上へ偏向する.右の2本の帯は散乱前とqが正の電子の縞の比較で,移動量の式や目盛りは付けていない.
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考え方 横向きの運動量の変化 q は進む向きを q/p だけ傾けるので,スクリーンでの到着位置がずれる.ずれが電子ごとにばらつくと,ずれた縞が重なってぼける.

  1. 傾きは q/p なので,スクリーンでのずれは Δx=Lq/p である.縞の間隔との比は

Δxw=Lq/pλL/d=qdλp=qdh

で,位相に直すと χ=2πqd/h だけずれる.q の範囲 |q|≤h/λγ に対して |χ|≤2πd/λγ=χ0.

  1. χ は −χ0 から χ0 の間に一様にばらつくので,干渉の項を平均すると

12χ0∫−χ0χ0cos⁡(δ−χ)dχ=sin⁡(δ+χ0)−sin⁡(δ−χ0)2χ0=cos⁡δ⋅sin⁡χ0χ0

である.

  1. λγ<d なら χ0>2π で,ずれの幅が縞の間隔を超える.|sin⁡χ0/χ0|≤1/χ0<1/(2π)≈0.16 なので,縞の濃淡は元の 16 % 以下に潰れ,χ0 が大きいほど P1+P2 に近づく.逆に λγ を d よりずっと長くすると χ0 は小さく,sin⁡χ0/χ0→1 で縞は戻る.このときは光で見える位置の細かさ λγ が d より粗く,どちらのすき間か区別できない.

確かめ:この近似では,縞を壊す度合いは d/λγ だけで決まり,電子の速さによらない.道すじが分かるほど細かく見ると,縞1周期のずれに相当する h/d 程度以上の運動量のばらつきが生じる.これは Δx∼d と Δp∼h/d の組で,不確定性原理の見積もりと同じ形である.q の一様な分布は模型で,分布の形を変えると干渉の項の平均も変わる.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

水素原子の電子が,原子核(陽子)のまわりの半径 a ほどの範囲にいるとする.運動量のばらつきを ℏ/a と見積もり,エネルギーを

E(a)=ℏ22ma2−e24πε0a

とおく.m=9.11×10−31kg,e=1.60×10−19C,ℏ=1.055×10−34Js,4πε0=1.113×10−10C2N−1m−2 とする.

  1. E(a) を最小にする a と,そのときのエネルギーを求め,数値を m と eV で答えよ.

  2. 電子を,質量が電子の 207 倍で電荷が同じミュー粒子に置き換えた原子では,a とエネルギーはそれぞれ何倍になるか.原子核の質量は十分大きいとする.

  3. この見積もりで非相対論の運動エネルギーを使ってよいか確かめよ.

横軸は電子のいる範囲の半径a,縦軸はエネルギーE.正の運動エネルギーℏ²/(2ma²),負の位置エネルギー−e²/(4πε₀a),その和E(a)の概形を示す.和が最も低くなる位置に印を付け,数値の目盛りは付けていない. 横軸は電子のいる範囲の半径a,縦軸はエネルギーE.正の運動エネルギーℏ²/(2ma²),負の位置エネルギー−e²/(4πε₀a),その和E(a)の概形を示す.和が最も低くなる位置に印を付け,数値の目盛りは付けていない.
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考え方 閉じこめるほど運動エネルギーが上がり,近づくほど位置エネルギーが下がる.2つの項の a への依存の仕方が違うので,和に最小がある.

  1. dEda=−ℏ2ma3+e24πε0a2=0 より

a0=4πε0ℏ2me2=1.113×10−10×(1.055×10−34)29.11×10−31×(1.60×10−19)2≈5.31×10−11m

a→0 でも a→∞ でも E は最小より大きい(a→0 で正の無限大,a→∞ で0)ので,これが最小である.最小では e24πε0a0=ℏ2ma02 なので

Emin=−ℏ22ma02=−me42(4πε0)2ℏ2≈−2.17×10−18J

で,途中で丸めずに計算し,1.60×10−19 で割って −13.5eV ほどである.

  1. a0∝1/m なので 1/207 倍(2.57×10−13m ほど),Emin=−me42(4πε0)2ℏ2∝m なので 207 倍になる.

  2. 運動エネルギーは 13.5eV ほどで,電子の静止エネルギー mc2=5.1×105eV と比べた比 2.6×10−5 が十分小さいので,非相対論でよい.速さに直すと v/c≈2K/(mc2)≈7.3×10−3(K は運動エネルギー)である.ミュー粒子でも運動エネルギーと静止エネルギーがともに 207 倍になるので,この比は同じである.

確かめ:得た a0 と Emin は,第29章のボーア模型の半径とエネルギーにちょうど一致する.一致は係数がたまたま合ったためで,確かに言えるのは桁と,それが ℏ を含んで初めて決まることである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 2つの振幅の和の確率は P1+P2+2P1P2cos⁡δ.縞の平均は P1+P2 で,干渉は確率を配り直すだけ.

  • 縞の間隔は λL/d(d と x が L より十分小さいとき).

  • 道すじを光で見るには λγ が d より短い必要があり,そのとき光子が与える運動量で縞は潰れる.

  • 不確定性による運動エネルギーとクーロンの位置エネルギーのつり合いで,原子の大きさ 5×10−11m とエネルギー −13.5eV ほどが見積もれる(ボーア模型と同じ値).