問いしるべ
問いから始める物理 確率振幅から組み立てる量子力学(発展)

確率振幅から組み立てる量子力学(発展)

電子の干渉と経路の観測の演習

著者:柚木芹香

同じ検出結果へ至る経路を,装置に残る記録まで含めて比べてください.確率の足し算と振幅の足し算を使い分け,位置と運動量の不確かさも数量で確かめましょう.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

粒子を1個ずつ送る装置で,検出領域 D へ至る2経路の振幅を ϕ1=1/5,ϕ2=2i/5 とする.これらは経路を選ぶ確率も含む振幅である.

  1. 経路の記録が残らない場合と,経路を完全に区別する記録が残る場合の検出確率を求めよ.

  2. 第2経路の位相だけを変えて ϕ2=−2/5 とした場合も求めよ.多数の粒子の検出確率が同じなら,経路の記録の有無を判定できるか.

粒子源から分かれた2経路が検出領域Dへ合流する.第1経路の振幅はφ₁=1/5,第2経路はφ₂=2i/5で,位相調整によりφ₂=−2/5に変える. 粒子源から分かれた2経路が検出領域Dへ合流する.第1経路の振幅はφ₁=1/5,第2経路はφ₂=2i/5で,位相調整によりφ₂=−2/5に変える.
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考え方
記録がなければ和の絶対値を2乗し,記録があれば各絶対値の2乗を足す.

  1. 記録なしでは P=|(1+2i)/5|2=(1+4)/25=1/5.記録ありでも P=1/25+4/25=1/5 である.位相差が π/2 なので干渉項が0になる.

  2. 記録なしでは P=|(1−2)/5|2=1/25,記録ありでは P=1/5 のままである.したがって1つの位相で確率が一致しても判定できず,位相を変えた比較が必要になる.1個の検出は点状でも,繰り返した分布に干渉が現れる.どの確率も0と1の間にあり,残りは D 以外への検出に対応する.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

間隔 d の2つの開口から距離 L のスクリーンへ電子を送る.横座標を x,波長を λ とし,2経路の振幅の大きさは等しい.相対位相は 2πdx/(λL)+δ と与える.δ は経路の記録を残さず挿入する位相である.

  1. δ を0から π/3 に変えたとき,同じ番号の明線はどちらへ,縞間隔の何倍だけ動くか.

  2. 電子を静止から加速する電圧を V から 4V に変え,δ=π/3 を保つ.各電圧で δ=0 の位置を基準にした,位相挿入による明線の移動距離の大きさは何倍になるか.両電圧で非相対論的な運動を仮定し,p=2meV,λ=h/p を使ってよい.

間隔dの2開口から距離Lのスクリーンへ向かう経路を示す.片経路に位相δを挿入し,スクリーン上の正のx方向を上向きに示す. 間隔dの2開口から距離Lのスクリーンへ向かう経路を示す.片経路に位相δを挿入し,スクリーン上の正のx方向を上向きに示す.
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考え方
明線の番号は相対位相が 2π の何倍かで決める.番号を固定して位相挿入の前後を比べる.

  1. 整数 n に対して 2πdxn/(λL)+δ=2πn より,xn=(n−δ/(2π))λL/d.縞間隔は w=λL/d なので,Δxn=−w/6.負の x 方向へ縞間隔の 1/6 だけ動く.

  2. 運動量は2倍,波長は半分になるので,w も |Δxn| も半分になる.縞間隔に対する割合は変わらない.幾何学の近似には d/L と |x|/L が十分小さいこと,加速の式には eV/(mc2) が十分小さいことが必要であり,4V でも確かめる.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

等しい強さの2経路を持つ装置で,全粒子の割合 f に対して完全な経路記録が残り,残りには記録が残らないとする.記録による損失はない.位相差 δ ごとに同数の粒子を送り,検出領域 D の計数を得た.記録がない粒子だけなら期待計数は C(1+cos⁡δ),記録がある粒子だけなら C である.

δ

0

π/2

π

計数

680

400

120

  1. 混合した期待計数の式を作り,C,f を推定せよ.

  2. 各計数にはそれぞれ ±20 の幅があるとする.f の推定値が取りうる範囲を,最大・最小計数の比から求めよ.記録を読み出さなければ縞は元へ戻るか.

等しい強さの2経路が検出領域Dへ合流する.経路記録装置と位相差δの調整部を示す.全粒子の割合fに記録が残り,記録による損失はない. 等しい強さの2経路が検出領域Dへ合流する.経路記録装置と位相差δの調整部を示す.全粒子の割合fに記録が残り,記録による損失はない.
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考え方
記録のある組とない組の間では確率を足す.縞の最大値と最小値の和は全体の強さ,差は干渉の強さを表す.

  1. 割合で重みを付けて N(δ)=(1−f)C(1+cos⁡δ)+fC=C[1+(1−f)cos⁡δ].C=(680+120)/2=400,1−f=(680−120)/(680+120)=0.70 より f=0.30.中間の位相でも N=400 と一致する.

  2. 最大計数を M,最小計数を m と書くと f=2m/(M+m).これは m とともに増え,M とともに減るので,fmin=200/800=0.25,fmax=280/800=0.35.両端とも中間計数の幅とも両立する.記録を読まないだけでは経路は依然区別でき,縞は元へ戻らない.この範囲は与えた計数幅によるものであり,信頼水準を指定した統計区間ではない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

電子と質量 M=2.0×10−18kg の微粒子について,進行方向の位置の標準偏差を Δx=2.0×10−8m 以下,速さ v0=1.0×105ms−1 に対する速度の標準偏差を v0/100 以下にしたい.ΔxΔp≥ℏ/2,Δp=mΔv とする.電子の質量は m=9.1×10−31kg,ℏ=1.1×10−34Js,c=3.0×108ms−1 である.

  1. 指定した位置幅での Δv の下限をそれぞれ求め,2条件が両立するか調べよ.

  2. 電子について速度幅の条件を保つなら,位置幅の上限を少なくともいくらまで緩める必要があるか.

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考え方
位置幅を狭めるほど運動量幅の下限が上がる.測定器の性能だけでなく,状態そのものが条件を満たせるか調べる.

  1. Δv≥ℏ/(2mΔx).電子の下限は 1.1×10−34/(2×9.1×10−31×2.0×10−8)=3.0×103ms−1.微粒子では 1.4×10−9ms−1 である.要求する 1.0×103ms−1 に比べ,電子では両立しない.微粒子では不確定性による禁止はなく,等号を満たす状態なら両立する.

  2. Δx≥ℏ/(2m×103ms−1)=6.0×10−8m なので,上限を少なくともこの値まで緩める必要がある.位置と運動量の積の単位は Js で整合し,v0/c=3.3×10−4 は十分小さく,非相対論的な関係を使える.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

質量 m,縦方向の運動量 p の粒子束を,横方向に標準偏差 a の状態に整えて距離 L だけ飛ばす.初期の横位置と横運動量の相関は0,Δpx=ℏ/(2a),縦速度は p/m とする.この模型では,スクリーン上の横位置の分散は初期分散と横速度による変位の分散の和になる.

  1. スクリーン上の標準偏差 σ を a で表し,最小にする a と最小値を求めよ.

  2. その最適値の2倍の a にした場合の σ の倍率を求めよ.飛行中の横広がりを近軸で扱える条件も述べよ.

質量m,縦運動量pの粒子束を初期面から距離Lのスクリーンへ送る.初期面の横位置の標準偏差aを中心から片側の寸法で示す. 質量m,縦運動量pの粒子束を初期面から距離Lのスクリーンへ送る.初期面の横位置の標準偏差aを中心から片側の寸法で示す.
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考え方
絞ると初期位置の幅は減るが,横運動量の幅は増える.独立な2つの広がりを分散で足す.

  1. 飛行時間は t=mL/p,横速度幅は ℏ/(2ma).したがって σ2=a2+(ℏL/(2pa))2.b=ℏL/(2p) とおくと dσ2da=2a−2b2/a3.正の停留点は a∗2=b で,両端では分散が発散するので最小である.a∗=ℏL/(2p),σmin=ℏL/p.

  2. a=2a∗ では σ2=4b+b/4=17b/4 より,σ/σmin=17/8.狭くしすぎても広くしすぎても最適から外れる.近軸条件は Δpx/p=ℏ/(2ap) が十分小さいことで,最適幅ではその2乗が ℏ/(2pL) になる.b は長さの2乗の次元を持ち,得た幅の次元も整合する.

ポイント 教える人へ

  • 確率が一致する1つの測定だけで,干渉の有無を決められるか問いかける.

  • 経路記録を読まないことと,記録が存在しないことを区別させる.

  • 計数の和・差が表す量を説明させ,誤差幅の端で検算させる.

  • 不確定性の幅を標準偏差として扱い,近軸条件を運動量の比で確認させる.