問い
晴れた日の空は青く,夕日は赤く見えます.太陽の光はいろいろな色を含んだ白い光で,空気は無色透明な気体です.それなのに,太陽から離れた方向の空からは青い光が届き,地平線近くの太陽からは赤い光が届きます.空気は光に何をしていて,なぜ色によって振る舞いが違うのでしょうか.
考えてみる
空気の分子が光を「はね返している」と考えたくなります.しかし分子の大きさ 10−10 m は光の波長 4 ×10−7 ∼7 ×10−7 m の数千分の1しかなく,小石が波をはね返すような描像では色による違いも出てきません.
前の題材では,真空を電場と磁場が 𝐸 =𝑐𝐵 を保って伝わることを見ました.では,その波を最初に作るのは何でしょうか.止まった電荷や一定の速さで動く電荷は,クーロンの場を作り,持ち運ぶだけです.波を出すのは加速する電荷です.光が分子に当たると,分子の中の電子が光の電場で揺すられて加速し,四方へ新しい電磁波を出します.これが散乱です.散乱の強さが色でどう変わるかを知るには,加速する電荷がどんな場を出すかを知る必要があります.
加速する電荷が作る場
静止していた電荷 𝑞 が,時刻0から短い時間 𝜏 だけ加速度 𝑎 で加速され,その後は小さな速さ 𝑣 =𝑎𝜏 で等速に動くとします.電荷の様子が変わったという知らせは速さ 𝑐 で広がります.時刻 𝑡 には,半径 𝑐𝑡 より外の場はまだ「止まった電荷」のクーロンの場で,中心は元の位置です.半径 𝑐(𝑡 −𝜏) より内側の場は「動いている電荷」のクーロンの場で,中心は今の電荷の位置です.その間の厚さ 𝑐𝜏 の殻の中で,電気力線は2つをつなぐためにほぼ横向きに折れ曲がります.
[図:加速した電荷の力線と広がる殻]初期状態はt = 24τ,v/c = 0.06で,正の電荷は右へ動く.外側の力線は元の位置,内側は現在の電荷を中心とし,厚さcτの殻で接続する.時刻を進めると殻の半径ctが増え,拡大図で横向きと半径方向の電場の比が増す.力線は低速近似の模式図で,拡大図のずれはvt sinθで近似する.
初期状態はt = 24τ,v/c = 0.06で,正の電荷は右へ動く.外側の力線は元の位置,内側は現在の電荷を中心とし,厚さcτの殻で接続する.時刻を進めると殻の半径ctが増え,拡大図で横向きと半径方向の電場の比が増す.力線は低速近似の模式図で,拡大図のずれはvt sinθで近似する.
加速度の向きと観測の向きのなす角を 𝜃 とします.殻の中で力線は,横方向に 𝑣𝑡sin𝜃 だけずれながら,半径方向に 𝑐𝜏 だけ進みます.力線の傾きが電場の横の成分 𝐸⟂ と半径方向の成分 𝐸𝑟 の比なので
𝐸⟂𝐸𝑟=𝑣𝑡sin𝜃𝑐𝜏=𝑎𝑡sin𝜃𝑐
です.殻の中でも半径方向の成分はクーロンの場 𝐸𝑟 =𝑞/(4𝜋𝜀0𝑟2) と同じで,𝑟 =𝑐𝑡 を使うと
𝐸⟂=𝑞𝑎sin𝜃4𝜋𝜀0𝑐2𝑟
が出ます.クーロンの場は 1/𝑟2 で弱まりますが,この横向きの場は 1/𝑟 でしか弱まりません.遠くでは横向きの場が圧倒的に強く,これが放射の場です.
法則 加速する電荷の放射の場
電荷 𝑞 が加速度 𝒂 で運動するとき,距離 𝑟 の遠方の点の電場は
𝑬rad(𝑡)=−𝑞𝒂⟂(𝑡−𝑟/𝑐)4𝜋𝜀0𝑐2𝑟,|𝑬rad|=|𝑞||𝒂(𝑡−𝑟/𝑐)|sin𝜃4𝜋𝜀0𝑐2𝑟
である.𝒂⟂ は加速度のうち観測の向きに垂直な成分,𝜃 は加速度と観測の向きのなす角.磁場は大きさ 𝐸rad/𝑐 で,電場と進む向きの両方に垂直.
この式で読むべき点は3つです.1つめは遅れで,時刻 𝑡 の場は光が距離 𝑟 を進む時間 𝑟/𝑐 だけ前の加速度で決まります.2つめは横向きで,加速度のうち視線に沿う成分は放射を作らず,加速度の向き(𝜃 =0)には何も放射されません.3つめは1/𝑟 で,強さは 1/𝑟2 で弱まり,半径 𝑟 の球面全体を通るエネルギーの流れは 𝑟 によりません.エネルギーが電荷から離れて,どこまでも運ばれていくのです.
この式が使えるのは,電荷の速さが 𝑐 より十分小さく(そうでないと場の形が歪む),距離 𝑟 が電荷の動く範囲や波長より十分大きい(遠方場)ときです.近い所では,クーロンの場や,同じく 1/𝑟2 で弱まる別の項も効きます.
放射の向きとラーモアの式
放射の場が運ぶエネルギーの流れ(ポインティングベクトルの大きさ)は,𝐵 =𝐸/𝑐 から 𝐸𝐵/𝜇0 =𝜀0𝑐𝐸2 です.したがって,遠方の強さは
𝐼(𝑟,𝜃)=𝜀0𝑐𝐸2rad=𝑞2𝑎2sin2𝜃16𝜋2𝜀0𝑐3𝑟2
で,加速度の向きを軸とするドーナツ形に広がります.全放射電力は,これを半径 𝑟 の球面で積分します.𝜃 と 𝜃 +d𝜃 の間の帯の面積は 2𝜋𝑟2sin𝜃 d𝜃 で,∫𝜋0sin3𝜃 d𝜃 =4/3 なので
𝑃=∫𝜋0𝐼⋅2𝜋𝑟2sin𝜃d𝜃=𝑞2𝑎216𝜋2𝜀0𝑐3⋅2𝜋⋅43=𝑞2𝑎26𝜋𝜀0𝑐3
です.同じ計算から,赤道(𝜃 =90∘)での強さを 𝐼⟂ とすると 𝐼 =𝐼⟂sin2𝜃,𝑃 =8𝜋3𝑟2𝐼⟂ という関係も分かります.
定理 ラーモアの式
非相対論的に運動する電荷 𝑞 が,加速度 𝑎 のときに全方向へ放射する電力は
𝑃=𝑞2𝑎26𝜋𝜀0𝑐3
放射の強さの向きによる分布は sin2𝜃 に比例する.
アンテナは,この放射を意図して起こす装置です.まっすぐな導線に角振動数 𝜔 の交流を流すと,中の電子が往復して加速します.電荷 𝑞 が 𝑥 =𝑥0cos𝜔𝑡 と振動すれば加速度は −𝜔2𝑥 で,cos2 の時間平均が 1/2 なので,双極子モーメントの振幅を 𝑝0 =𝑞𝑥0 として
⟨𝑃⟩=𝑞2𝜔4𝑥2012𝜋𝜀0𝑐3=𝑝20𝜔412𝜋𝜀0𝑐3
です(⟨𝑃⟩ は時間平均).同じ振幅でも振動数が2倍なら放射は16倍です.アンテナの向きには電波が出ず,垂直な向きに一番強く出ます.この式は,𝑥0 が波長 𝜆 =2𝜋𝑐/𝜔 より十分小さい場合(小さな双極子)に使えます.
[図:双極子放射の角度分布と横向きの電場]z軸に沿う小さな双極子を中心に,放射の強さI⊥ sin²θを極座標の半径で示す.z軸のまわりに回転するとドーナツ形になり,軸方向は0,赤道面で最大となる.遠方の電場は視線に垂直で,正の電荷の加速度が+z向きの瞬間にはその垂直成分と逆向きになる.
原子の電子を振動子とみる
原子の中の電子は原子核に引かれて束縛されています.第7章のように,電子を固有角振動数 𝜔0 のばねでつながれた振動子とみなします.電子の質量を 𝑚,電荷を −𝑒,入射光の電場を 𝐸0cos𝜔𝑡 とすると
𝑚d2𝑥d𝑡2+𝑚𝜔20𝑥=−𝑒𝐸0cos𝜔𝑡
です.減衰は小さいとして省きます.第7章の方法で,𝑥 を 𝑋𝑒𝑖𝜔𝑡 の実部,電場を 𝐸0𝑒𝑖𝜔𝑡 の実部として代入すると 𝑚(𝜔20 −𝜔2)𝑋 = −𝑒𝐸0 なので
𝑋=−𝑒𝐸0𝑚(𝜔20−𝜔2)
です.加速度の振幅は 𝜔2|𝑋| なので,揺すられた電子の平均放射電力は
⟨𝑃⟩=𝑒26𝜋𝜀0𝑐3⋅𝜔4|𝑋|22=𝑒4𝐸20𝜔412𝜋𝜀0𝑚2𝑐3(𝜔20−𝜔2)2
です.これを入射光の強さ 𝐼 =𝜀0𝑐𝐸20/2 で割ると,電子1個が入射光から取り除いて四方へ送り出す分を面積で表した量になります.これを散乱断面積といいます.
定義 散乱断面積
入射光の強さ 𝐼 と,1個の散乱体が散乱する平均電力 ⟨𝑃⟩ の比 𝜎sc =⟨𝑃⟩/𝐼.束縛された電子の模型では
𝜎sc=𝑒46𝜋𝜀20𝑚2𝑐4⋅𝜔4(𝜔20−𝜔2)2
空気の分子の電子の固有振動は紫外線の領域にあり,可視光では 𝜔 が 𝜔0 より十分小さいので,分母はほぼ 𝜔40 で 𝜎sc ∝𝜔4 になります.これをレイリー散乱といいます.波長でいえば 𝜆−4 に比例し,青い光(450 nm)は赤い光(700 nm)の (700/450)4 ≈6 倍も強く散乱されます.逆に,束縛のない自由な電子(𝜔0 =0)では 𝜎sc は振動数によらない一定値になります.
散乱体が数密度 𝑁 で不規則に並ぶ気体では,分子ごとの散乱光の位相はそろわないので強さをそのまま足せます.厚さ d𝑧 の層では,単位面積あたり 𝑁d𝑧 個の分子がそれぞれ 𝜎sc𝐼 の電力を横へ散らすので,まっすぐ進む光は d𝐼 = −𝑁𝜎sc𝐼d𝑧 だけ弱まり,厚さ 𝑑 を通ると 𝐼 =𝐼0𝑒−𝑁𝜎sc𝑑 になります.
この模型が使えるのは,𝜔 が 𝜔0 に近すぎず(共鳴の近くでは省いた減衰が効く),散乱体が波長より十分小さい(中の電子が同じ位相で揺れる)ときです.雲の水滴は波長より大きいので,色によらずに散乱して白く見えます.
散乱光の偏光
太陽の光は,電場の向きがいろいろに入りまじった偏光していない光です.真横(散乱の角 90∘)から散乱光を見るとします.入射光は横波なので,電子が揺すられる向きは入射の向きに垂直な面の中に限られます.そのうち視線に沿う揺れは,放射の「横向き」の性質から視線の向きへは何も出しません.残るのは入射の向きと視線の両方に垂直な揺れだけなので,真横に散乱された光はその向きに電場をもつ直線偏光になります.偏光サングラスで空の明るさが変わるのはこのためです.散乱の角が 90∘ からずれると,偏光は部分的になります.
[図:90°散乱で残る電場の向き]左から右へ進む偏光していない光の電場を,紙面内の上下方向と紙面に垂直な方向に分ける.分子から上へ進む散乱光には紙面に垂直な電場だけが残る.上下の揺れは視線に沿うため上へは放射しない.⊙と⊗は手前向きと奥向きを表す.
屈折率の起源
前へ出る散乱光は,どの分子からのものも入射光と位相がそろって足し合わされます(横へ出る光は位相がそろわず,ガラスのように密な物質では打ち消し合います).これが物質の中で光が遅く進む理由です.
薄い板(厚さ Δ𝑧,電子の数密度 𝑁)を考えます.板の中の電子は一斉に速度 d𝑥/d𝑡 で揺れるので,板には単位幅あたり 𝐾 = −𝑁𝑒Δ𝑧d𝑥/d𝑡 の面電流が流れます.前の題材と同じく,アンペール・マクスウェルの法則を板を囲む長方形の道に使うと,板の両側の磁場は 𝜇0𝐾/2,電場は 𝑐 倍の 𝜇0𝑐𝐾/2 =𝐾/(2𝜀0𝑐) で,電流と逆向きです.板が出す波の複素振幅は,d𝑥/d𝑡 の複素振幅 𝑖𝜔𝑋 を使って
𝐸plate=−𝐾2𝜀0𝑐=𝑁𝑒Δ𝑧⋅𝑖𝜔𝑋2𝜀0𝑐=−𝑖𝜔𝑁𝑒2Δ𝑧2𝜀0𝑚𝑐(𝜔20−𝜔2)𝐸0
です.−𝑖 が付いているので,板から出る波は入射光より位相が 90∘ 遅れています.
一方,屈折率 𝑛 の板を通ると,光は真空より 𝜔(𝑛 −1)Δ𝑧/𝑐 だけ余分に位相が遅れます.遅れが小さければ 𝐸0𝑒−𝑖𝜔(𝑛−1)Δ𝑧/𝑐 ≈𝐸0 −𝑖𝜔(𝑛−1)Δ𝑧𝑐𝐸0 で,入射光に 90∘ 遅れた小さな波を足したものと同じ形です.2つを比べると
𝑛=1+𝑁𝑒22𝜀0𝑚(𝜔20−𝜔2)
が出ます.
[図:板からの波を足した複素振幅]入射光の複素振幅E₀は実軸の正方向である.ω < ω₀の場合,板の波Eplateは−iの方向を向き,E₀の先端から下へ足される.和は時計回りにわずかに回り,eⁱωᵗの表現で位相の遅れを示す.
ポイント 屈折率の起源と分散
物質の中の電子が入射光に揺すられて出す波は,前方では入射光に 90∘ 遅れて足され,光の位相を遅らせる.これが屈折率 𝑛 >1 の正体で,希薄な気体では 𝑛 −1 は 𝑁 に比例し,𝜔 が 𝜔0 に近づくほど大きくなる.
可視光では 𝜔0 に近い紫の光ほど屈折率が大きく,プリズムで色が分かれます(分散).𝜔 >𝜔0 では 𝑛 <1 で,X 線に対するガラスの屈折率は1よりわずかに小さくなります(位相の速さ 𝑐/𝑛 は 𝑐 を超えますが,信号やエネルギーが 𝑐 より速く伝わるわけではありません).この式は,周りの分子が作る場を無視できる希薄な物質で,共鳴から離れた振動数に使えます.
問いに戻る
空気の分子の中の電子は,太陽の光に揺すられて四方へ光を出し直します.その強さは 𝜔4 に比例するので,青い光は赤い光の約6倍も強く散乱され,太陽から離れた方向の空は散乱された青い光で満たされます.夕方は光が大気を斜めに長く通るので,途中で青い光が抜け落ち,まっすぐ届くのは赤い光が中心になります.太陽から 90∘ 離れた方向の空の光は,放射の横向きの性質のために強く偏光しています.
ポイント ここまでのまとめ
加速する電荷は遠方に 𝑬rad = −𝑞𝒂⟂(𝑡 −𝑟/𝑐)/(4𝜋𝜀0𝑐2𝑟) の横向きの場を作る.遅れ 𝑟/𝑐 があり,1/𝑟 で弱まるのでエネルギーが遠くへ運ばれる.
放射の強さは sin2𝜃 に比例し,全電力はラーモアの式 𝑃 =𝑞2𝑎2/(6𝜋𝜀0𝑐3).振動する双極子では 𝜔4 に比例する.
束縛された電子の散乱断面積は 𝜔4/(𝜔20 −𝜔2)2 に比例し,𝜔 が 𝜔0 より十分小さいとレイリー散乱になって青い光ほど強く散る.空が青く,夕日が赤い.真横に散乱された光は直線偏光する.
前方への散乱光が入射光に 90∘ 遅れて足されることが屈折率の起源で,𝑛 =1 +𝑁𝑒2/(2𝜀0𝑚(𝜔20 −𝜔2)).