問いしるべ
問いから始める物理 電磁波(発展)

電磁波(発展)

放射と散乱の例題

著者:柚木芹香

本体の節の3つの結果を使います.放射の強さの向きによる分布 I=I⟂sin2⁡θ と全電力 P=8π3r2I⟂,レイリー散乱の ω4 則と弱まり方 I=I0e−Nσscd,そして「加速度の視線に沿う成分は放射しない」という横向きの性質です.どの例題でも,答えを出したあとで近似の条件を点検してください.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直に立てた短い送信アンテナが,振動数 100MHz の電波を平均電力 P=1.0kW で放射している.アンテナは振動する小さな双極子とみなせ,地面の影響は無視する.ε0=8.85×10−12Fm−1,c=3.0×108ms−1 とする.

  1. アンテナから水平に r=10km 離れた地点での電波の平均の強さと,電場の振幅を求めよ.

  2. アンテナから同じ距離 10km で,水平から 60∘ 上を見上げた向きにある飛行機での強さは,(1) の何倍か.

    1. の地点で,長さの短いまっすぐな受信アンテナを使う.アンテナを電波の進む向きに垂直な面の中で鉛直から角 φ だけ傾けると,受信電力は鉛直のときの何倍になるか.受信電力が最大になる向きも答えよ.

鉛直な送信アンテナから水平にr = 10 km離れた受信点と,同じ距離で水平から60°上にある飛行機を示す.水平の視線とz軸は直角で,飛行機への視線とz軸のなす角をθで示す.下段は地上の受信点を電波の進む向きに見た図で,受信アンテナは電波に垂直な面内で鉛直からφだけ傾いている. 鉛直な送信アンテナから水平にr = 10 km離れた受信点と,同じ距離で水平から60°上にある飛行機を示す.水平の視線とz軸は直角で,飛行機への視線とz軸のなす角をθで示す.下段は地上の受信点を電波の進む向きに見た図で,受信アンテナは電波に垂直な面内で鉛直からφだけ傾いている.
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考え方 小さな双極子の強さは軸との角 θ について I=I⟂sin2⁡θ,全電力は P=8π3r2I⟂.アンテナは鉛直なので,軸はz軸である.受信アンテナでは,導線に沿う電場の成分だけが電子を動かす.

  1. 水平な向きは θ=90∘ なので,平均の強さは

I⟂=3P8πr2=3×1.0×1038π×(1.0×104)2=1.2×10−6Wm−2

である.正弦波の強さは I=ε0cE02/2 なので

E0=2I⟂ε0c=2×1.19×10−68.85×10−12×3.0×108=3.0×10−2Vm−1

となる.

  1. 水平から 60∘ 上の向きは,z軸との角が θ=30∘ である.距離が同じなので,強さの比は sin2⁡30∘/sin2⁡90∘=1/4 で,0.25 倍である.真上(θ=0)では電波はほとんど届かない.

  2. 水平な向きに届く放射の電場は,z軸を含み視線に垂直な向き,つまり鉛直である.受信アンテナの導線に沿う成分は E0cos⁡φ なので,アンテナに生じる起電力は cos⁡φ 倍,受信電力は電場の2乗に比例して cos2⁡φ 倍になる.最大になるのは送信アンテナと平行な鉛直の向き(φ=0)で,φ=90∘(水平)では受信できない.

確かめ:波長は λ=c/ν=3.0m で,r/λ≈3×103 は十分大きいので遠方場の式が使える.小さな双極子の式はアンテナの長さが波長より十分短いときのもので,実際によく使う半波長のアンテナでは向きによる分布が少し鋭くなるが,軸の向きに放射が無く赤道面で最大という性質は同じである.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

空気の分子によるレイリー散乱を考える.青い光(波長 450nm)と赤い光(波長 700nm)を比べる.

  1. 同じ強さで入射したとき,1個の分子が散乱する電力の比(青/赤)を求めよ.

  2. 鉛直に大気全体を通るとき,青い光の Nσscd は 0.21 である.赤い光の Nσscd を求め,太陽が真上にあるときにまっすぐ地上に届く割合を,それぞれの色について求めよ.

  3. 夕方,太陽の光が大気を通る道のりが真上のときの20倍になったとする.光路に沿った平均の分子数密度は,真上のときと同じとする.まっすぐ届く割合をそれぞれの色について求め,届いた光の赤と青の強さの比が,太陽を出たときの何倍になるかを答えよ.

左は太陽が真上にあり,大気を短い道で通って地上の観測者へ届く.右は地平線近くから斜めに入り,大気の中を長く進む.丸い地球の外側に薄い大気の層を示し,道の途中から青い光が横へ散乱する矢印を添える.大気の厚さと道の長さは模式的である. 左は太陽が真上にあり,大気を短い道で通って地上の観測者へ届く.右は地平線近くから斜めに入り,大気の中を長く進む.丸い地球の外側に薄い大気の層を示し,道の途中から青い光が横へ散乱する矢印を添える.大気の厚さと道の長さは模式的である.
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考え方 可視光の角振動数は空気の分子の固有角振動数より十分小さいので,σsc∝ω4∝λ−4.まっすぐ届く割合は e−Nσscd で,道のりが20倍なら指数も20倍になる.

  1. 散乱電力は σscI なので,比は

σsc(450nm)σsc(700nm)=(700450)4=5.9

である.

  1. 赤い光の Nσscd は 0.21/5.86=0.036 である.まっすぐ届く割合は,青が e−0.21=0.81,赤が e−0.036=0.96 である.真上の太陽はほとんど白く見え,散乱された約2割の青い光が空を青くする.

  2. 指数が20倍になるので,青は e−4.2=0.015,赤は e−0.72=0.49 である.届いた光の赤と青の比は,太陽を出たときの 0.49/0.015≈33 倍になる.青い光はほとんど散乱されて抜け落ち,夕日は赤く見える.

確かめ:空気の分子の固有振動の波長を 100nm 程度とすると,分母の (ω02−ω2)2 による補正は青で 1/(1−(100/450)2)2=1.11,赤で 1.04 倍である.(1) の比は 6.2 程度に増すが,ω4 則で大筋は正しい.散乱光がまた別の分子で散乱されてビームに戻る分は無視したが,まっすぐ届く光の量を問う限りこれでよい.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

太陽が西の地平線にあるとき,真上の空を見る.太陽の光は偏光しておらず,空の光は空気の分子で1回だけ散乱された光とする.

  1. 真上の空の光の電場はどの向きに振動しているか.偏光板の透過軸を水平面内で回すと,透過する光の強さはどう変わるか.透過軸と南北の向きのなす角を φ として答えよ.偏光板は電場のうち透過軸に沿う成分だけを通す.

  2. 一般に,入射の向きと視線のなす角(散乱の角)を Θ とする.入射光を,散乱の面(入射の向きと視線を含む面)に垂直な電場をもつ光と,散乱の面内に電場をもつ光の,同じ強さの2つに分けて考え,それぞれの散乱光の強さの比を求めよ.

  3. 散乱の角が Θ=60∘ の方向の空を偏光板を通して見る.偏光板を回したときの透過光の強さの最大と最小の比を求めよ.また,偏光度 Imax−IminImax+Imin を求めよ.

上段では,西の地平線の太陽から東へ進む光が観測者の真上の分子に当たり,散乱光が下向きに進む.散乱光の電場は南北向きで,紙面に垂直である.下段では,入射方向の延長と散乱方向のなす角Θを示し,入射光の電場を散乱面内と散乱面に垂直な2成分に分ける.⊙と⊗は紙面の手前向きと奥向きを示す. 上段では,西の地平線の太陽から東へ進む光が観測者の真上の分子に当たり,散乱光が下向きに進む.散乱光の電場は南北向きで,紙面に垂直である.下段では,入射方向の延長と散乱方向のなす角Θを示し,入射光の電場を散乱面内と散乱面に垂直な2成分に分ける.⊙と⊗は紙面の手前向きと奥向きを示す.
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考え方 分子の中の電子は入射光の電場の向きに揺れ,加速度の視線に垂直な成分だけが視線の向きへ放射する.強さは,揺れの向きと視線のなす角を α として sin2⁡α に比例する.

  1. 入射光は東向きに進むので,電子は入射の向きに垂直な面,つまり南北と上下を含む面の中で揺れる.視線は上下の向きなので,上下の揺れは観測者に向けて放射しない.届くのは南北の揺れによる放射だけで,真上の空の光の電場は南北に振動する直線偏光である.偏光板を通るのは Ecos⁡φ の成分なので,透過光の強さは cos2⁡φ に比例する.透過軸が南北のとき最も明るく,東西のとき真っ暗になる.

  2. 散乱の面に垂直な電場で揺れる電子は,揺れの向きが視線と常に垂直(α=90∘)なので,散乱光の強さは sin2⁡90∘=1 に比例する.散乱の面内の電場は入射の向きに垂直なので,視線に垂直な成分の大きさは |cos⁡Θ| 倍で,強さは cos2⁡Θ に比例する.入射光の2つの部分は同じ強さなので,散乱光の強さの比は(面に垂直):(面内)=1:cos2⁡Θ である.

  3. 2つの部分は位相が無関係なので強さを足せ,偏光板を回したときの最大は面に垂直な成分だけを通すとき,最小は面内の成分だけを通すときである.Θ=60∘ では cos2⁡Θ=1/4 なので,最大と最小の比は 4 である.偏光度は

1−cos2⁡Θ1+cos2⁡Θ=1−1/41+1/4=0.60

となる.

確かめ:Θ=90∘ では偏光度は1となり (1) と一致する.Θ=0(太陽の方向)では0で,偏光していない.実際の空では,何回も散乱された光や地面からの反射光が混じり,分子の形も球対称でないので,90∘ の方向でも偏光度は0.7程度にとどまる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 小さな双極子の放射は,軸の向きに0,軸に垂直な向きに最大で,I=I⟂sin2⁡θ,P=8π3r2I⟂.受信アンテナは届く電場の向きにそろえる.

  • レイリー散乱では青は赤の約6倍強く散乱される.道のりが長いと e−Nσscd の指数が大きくなり,夕日では青がほとんど抜け落ちる.

  • 散乱光の偏光は,入射光を散乱の面に垂直な部分と面内の部分に分けると分かる.強さの比は 1:cos2⁡Θ で,90∘ の方向で完全な直線偏光になる.