崩壊の法則を微分方程式として解き,平均寿命,片対数グラフ,親核と娘核が続けて崩壊するときの式をまとめます.
定理 数学の道具:指数関数的な減衰
𝜆 >0 を定数として
d𝑁d𝑡=−𝜆𝑁,𝑁(0)=𝑁0
の解は 𝑁 =𝑁0𝑒−𝜆𝑡 である.変数分離で d𝑁/𝑁 = −𝜆 d𝑡 とし,両辺を積分すると ln(𝑁/𝑁0) = −𝜆𝑡 となる(第21章のコンデンサーの放電と同じ形).
半減期. 𝑒−𝜆𝑇1/2 =1/2 から 𝑇1/2 =ln2/𝜆.よって 𝑒−𝜆𝑡 =(1/2)𝑡/𝑇1/2 である.
平均寿命. 時刻 𝑡 から 𝑡 +d𝑡 の間に崩壊する割合は 𝜆𝑒−𝜆𝑡d𝑡 なので,崩壊までの時間の平均は
𝜏=∫∞0𝑡𝜆𝑒−𝜆𝑡d𝑡=(−𝑡𝑒−𝜆𝑡)∫∣∞0+∫∞0𝑒−𝜆𝑡d𝑡=1𝜆
である(部分積分).𝜏 は,初めの減り方 𝜆𝑁0 のまま減り続けたら0になる時刻でもある.
崩壊した数. 時刻 𝑡1 から 𝑡2 の間に崩壊する数は 𝑁(𝑡1) −𝑁(𝑡2) で,測定時間 Δ𝑡 が半減期より十分短ければ 𝜆𝑁(𝑡1)Δ𝑡 で近似できる.
練習1 半減期 8.0 日 の核が 𝑁0 個ある.20 日 後に残る割合と,平均寿命を求めよ.
答え (1/2)20/8.0 =2−2.5 ≈0.18.𝜏 =8.0/ln2 日 ≈12 日.
定理 数学の道具:片対数グラフ
𝑁 =𝑁0𝑒−𝜆𝑡 の自然対数をとると
ln𝑁=ln𝑁0−𝜆𝑡
で,縦軸を ln𝑁 にしたグラフは傾き −𝜆 の直線になる.放射能や一定の時間幅の計数も 𝑁 に比例するので同じ傾きになる.片対数方眼紙なら,値が半分になる時間の幅から半減期が読める.
バックグラウンドを含む総計数は「指数関数+定数」なので直線にならず,先に正味の計数にしてから対数をとる.半減期の違う2種類の核が混ざると,グラフは折れ曲がり,後には長い方の直線だけが残る.
[図:2種類の核の計数を片対数グラフで分ける]青線は半減期の違う2種類の核の正味計数の自然対数である.後半の長い半減期の成分を緑の直線として前へ延ばす.その成分を対数をとる前の正味計数から差し引くと,残りは橙の短い半減期の直線となる.赤い点線はバックグラウンドを含む総計数で,後半は一定の背景へ近づいて曲がる.時間と成分の大きさは説明用の値である.
ln𝐶 の不確かさは 𝐶 の相対的な不確かさ 1/√𝐶 なので,計数が小さい後半の点ほど大きく,直線を引くときは前半の点を重く見ます.
親核と娘核の崩壊
親核P(崩壊定数 𝜆𝑃)が崩壊して娘核D(崩壊定数 𝜆𝐷)になり,Dがさらに崩壊するとします.DはPの崩壊で作られた分だけ増え,自分の崩壊の分だけ減るので
d𝑁𝑃d𝑡=−𝜆𝑃𝑁𝑃,d𝑁𝐷d𝑡=𝜆𝑃𝑁𝑃−𝜆𝐷𝑁𝐷
です.2つ目は積分因子を使って解きます.
定理 数学の道具:生成と崩壊がある1階の微分方程式
d𝑦d𝑡+𝑘𝑦=𝑔(𝑡)
の両辺に 𝑒𝑘𝑡 を掛けると,左辺は d(𝑒𝑘𝑡𝑦)/d𝑡 にまとまる(積の微分).よって
𝑒𝑘𝑡𝑦(𝑡)=𝑦(0)+∫𝑡0𝑒𝑘𝑠𝑔(𝑠)d𝑠
である.𝑔 が一定値 𝑔0 で 𝑦(0) =0 なら,𝑦 =𝑔0𝑘(1−𝑒−𝑘𝑡) となり,𝑔0/𝑘 に時定数 1/𝑘 で近づく.
親子の崩壊では 𝑁𝑃 =𝑁0𝑒−𝜆𝑃𝑡,𝑁𝐷(0) =0,𝜆𝑃 ≠𝜆𝐷 として,𝑘 =𝜆𝐷,𝑔 =𝜆𝑃𝑁0𝑒−𝜆𝑃𝑡 とおくと
𝑁𝐷=𝜆𝑃𝑁0𝜆𝐷−𝜆𝑃(𝑒−𝜆𝑃𝑡−𝑒−𝜆𝐷𝑡)
です.放射能の比は
𝜆𝐷𝑁𝐷𝜆𝑃𝑁𝑃=𝜆𝐷𝜆𝐷−𝜆𝑃(1−𝑒−(𝜆𝐷−𝜆𝑃)𝑡)
です.
娘の方が速く崩壊する(𝜆𝐷 >𝜆𝑃)と,比は 𝜆𝐷/(𝜆𝐷 −𝜆𝑃) に近づき,親と娘は同じ速さで減ります(過渡平衡).
さらに 𝜆𝑃/𝜆𝐷 が十分小さいと比は1で,親と娘の放射能が等しくなります(永続平衡).𝑔 を一定とした上の式のとおり,娘は時定数 1/𝜆𝐷 で平衡に近づきます.
𝜆𝐷 <𝜆𝑃 なら平衡にならず,親が先になくなり娘が残ります.
[図:親と娘の半減期の比と放射平衡]初期状態ではT_D/T_P = 0.020,娘の初期核数は0である.青い実線は親の放射能λ_P N_P,橙の破線は娘の放射能λ_D N_Dを,初めの親の放射能λ_P N₀で割った片対数グラフである.娘は0から増え,親の直線に寄り添う.半減期の比を変えると,永続平衡に近い場合,過渡平衡,平衡なしの違いが分かる.0は対数目盛に描けないので,娘の曲線は表示範囲に入ったところから見える.
初期状態ではT_D/T_P = 0.020,娘の初期核数は0である.青い実線は親の放射能λ_P N_P,橙の破線は娘の放射能λ_D N_Dを,初めの親の放射能λ_P N₀で割った片対数グラフである.娘は0から増え,親の直線に寄り添う.半減期の比を変えると,永続平衡に近い場合,過渡平衡,平衡なしの違いが分かる.0は対数目盛に描けないので,娘の曲線は表示範囲に入ったところから見える.
例題
遺跡の木炭から炭素 4.0 g を取り出し,検出効率 0.50 の検出器で 10 h 測ったところ,総計数は5400であった.試料を除いて同じ時間測ったバックグラウンドの計数は3300であった.今の植物の炭素 1 g あたりの 146C の放射能を 0.23 Bq,半減期を5730年とし,1 h =3600 s とする.木が切られたときの炭素 1 g あたりの放射能は今の植物と同じで,その後の炭素の出入りはないものとする.
木炭の炭素 1 g あたりの放射能と,木が切られてからの年数を求めよ.
計数の不確かさをそれぞれの計数の平方根として,年数の不確かさを求めよ.
[図:炭素試料あり・なしの計数測定]左は木炭から取り出した炭素4.0 gを測る配置で,検出効率0.50,測定時間10 h,総計数5400である.右は試料を除いた配置で,検出効率0.50,同じ10 hのバックグラウンド計数3300である.周囲や宇宙線からの放射線は両方の測定で数えられる.
解答を見る
考え方 正味の計数を検出効率と時間と質量で割れば,1 g あたりの放射能になる.測定時間10 h は半減期よりずっと短いので,その間の放射能は一定とみてよい.年数は放射能の比の対数で決まり,対数の不確かさは比の相対的な不確かさに等しい.
正味の計数は 𝑆 =5400 −3300 =2100.1 g あたりの放射能は
𝑆𝜀Δ𝑡𝑚=21000.50×3.6×104s×4.0g=2.9×10−2Bqg−1
である.今の植物との比は 𝑟 =2.92 ×10−2/0.23 =0.127 なので
𝑡=5730ln2ln1𝑟年=8.27×103×2.06年≈1.7×104年
である.
𝑆 の不確かさは 𝜎𝑆 =√5400+3300 ≈93 で,相対的には 93/2100 =0.044.𝑡 =(𝑇1/2/ln2)ln(1/𝑟) で 𝑟 は 𝑆 に比例するので,𝜎𝑡 =(𝑇1/2/ln2) 𝜎𝑆/𝑆 =8.27 ×103 ×0.044 年 ≈3.7 ×102 年.よって 𝑡 =(1.71 ±0.04) ×104 年 である.
確かめ:𝑟 =0.127 は 1/8 に近いので,年数は3半減期 1.72 ×104 年 に近い.不確かさの大半はバックグラウンドから来ていて,正味の計数がバックグラウンドより小さい試料では,バックグラウンドを長く測ることが効く.なお,𝜎𝑆/𝑆 が十分小さいので,ln を1次で近似した誤差の伝え方が使える.
23892U だけからなる試料 1.00 mg の放射能を測ると 12.4 Bq であった.アボガドロ定数を 6.02 ×1023 mol−1,モル質量を 238 gmol−1,1年を 3.16 ×107 s とする.
試料の核の数と崩壊定数を求め,半減期を年で表せ.
この半減期を,放射能の時間変化を片対数グラフにして求めることはできるか.1年の測定で放射能が何割変わるかから考えよ.
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考え方 半減期が長すぎて減り方が見えない核は,核の数 𝑁 と放射能 𝜆𝑁 を別々に求め,その比で 𝜆 を決める.
𝑁 =1.00×10−3238 ×6.02 ×1023 =2.53 ×1018.
𝜆=R𝑁=12.42.53×1018s−1=4.90×10−18s−1
𝑇1/2=ln2𝜆=1.41×1017s=4.47×109年
である.
1年で放射能は 𝑒−𝜆𝑡 倍になり,𝜆𝑡 =4.90 ×10−18 ×3.16 ×107 =1.55 ×10−10 だけ相対的に減る.これは 1.55 ×10−9 割である.これを測るには,計数の相対的な不確かさ 1/√𝐶 をこれより小さく,つまり 𝐶 >1/(𝜆𝑡)2 ≈4.2 ×1019 にしなければならず,できない.片対数グラフの方法は使えない.
確かめ:地球の年齢(約46億年)と同じほどの半減期なので,23892U は地球ができたときの約半分が今も残っている.
22688Ra(半減期 1.60 ×103 年)1.00 g を,ラドンを除いた直後に容器に密閉した.22688Ra は α 崩壊して 22286Rn(半減期 3.82 日)になる.観測期間はラジウムの半減期より十分短く,ラジウムの放射能は一定と見なす.ラジウムのモル質量を 226 gmol−1,アボガドロ定数を 6.02 ×1023 mol−1,1年を 3.16 ×107 s,標準状態の気体の数密度を 2.69 ×1025 m−3 とする.
22688Ra の放射能を求めよ.
十分時間がたったとき,容器の中の 22286Rn の原子の数と,それが標準状態で占める体積を求めよ.
22286Rn の放射能が (2) の平衡の値の99 %になるまでの日数を求めよ.
[図:密閉容器内のRaから生じるRn]ラドンを除いた直後に,ラジウムRaの試料1.00 gを容器に密閉する.Raは半減期1600年でα崩壊してRnとなり,Rn気体が容器内に生じる.Rnは半減期3.82日でさらに崩壊する.粒子の数や容器の大きさは模式的で,求める核数・体積・日数は示さない.
解答を見る
考え方 親の半減期1600年は娘の3.82日より5桁長いので,数週間の間,親の数は一定とみなせる.娘は一定の割合 𝜆𝑃𝑁𝑃 で作られ,生成と崩壊がつり合う永続平衡へ近づく.
𝑁𝑃 =6.02×1023226 =2.66 ×1021,𝜆𝑃 =ln21600×3.16×107s =1.37 ×10−11 s−1.放射能は
R𝑃=𝜆𝑃𝑁𝑃=3.65×1010Bq
である.
平衡では 𝜆𝐷𝑁𝐷 =𝜆𝑃𝑁𝑃.𝜆𝐷 =ln23.82×8.64×104s =2.10 ×10−6 s−1 なので
𝑁𝐷=R𝑃𝜆𝐷=3.65×10102.10×10−6=1.74×1016
である.体積は,丸める前の 𝑁𝐷 を用いて 𝑉 =𝑁𝐷/(2.69 ×1025 m−3) =6.46 ×10−10 m3,つまり 0.646 mm3 ほどにすぎない.
𝑁𝐷 =𝜆𝑃𝑁𝑃𝜆𝐷(1−𝑒−𝜆𝐷𝑡) で,1 −𝑒−𝜆𝐷𝑡 =0.99 となるのは
𝑡=ln100𝜆𝐷=ln100ln2×3.82日≈25.4日
のときである.
確かめ:𝜆𝑃/𝜆𝐷 =6.5 ×10−6 は十分小さく,25.4日の間に親が減る割合 𝜆𝑃𝑡 ≈3 ×10−5 も無視できるので,親を一定とした近似は正しい.過渡平衡の式の比 𝜆𝐷/(𝜆𝐷 −𝜆𝑃) も1と 10−5 以下しか違わない.
ポイント ここまでのまとめ
d𝑁/d𝑡 = −𝜆𝑁 の解は 𝑁0𝑒−𝜆𝑡.半減期 𝑇1/2 =ln2/𝜆,平均寿命 𝜏 =1/𝜆(部分積分で示せる).
片対数グラフで ln𝑁 は傾き −𝜆 の直線.バックグラウンドは先に引き,2種類の核が混ざると折れ曲がる.
半減期が長すぎる核は,核の数と放射能の比 𝜆 =R/𝑁 から崩壊定数を決める.
娘核は d𝑁𝐷/d𝑡 =𝜆𝑃𝑁𝑃 −𝜆𝐷𝑁𝐷 に従い,積分因子 𝑒𝜆𝐷𝑡 で解ける.親の方が十分長寿命なら,娘は時定数 1/𝜆𝐷 で永続平衡 𝜆𝑃𝑁𝑃 =𝜆𝐷𝑁𝐷 に近づく.