問い
カメラのフラッシュは,1000分の1秒ほどの間,暗い部屋を昼のように照らします.ところが,その電源は単3電池2本ほどです.同じ電池に豆電球を直接つないでも,ぼんやり光るだけです.電池をそのままつないだのでは出せない明るさを,フラッシュはどうやって一瞬に出しているのでしょうか.
考えてみる
明るさを決めるのは,エネルギーの量ではなく仕事率です.フラッシュ1回のエネルギーは 10 J ほどで,単3電池1本のエネルギー(104 J ほど)に比べればわずかです.困るのは,それを 10−3 s ほどで出すと仕事率が 104 W ほどになることです.電池には内部抵抗 𝑟 があり,最初の題材で見たとおり,外の抵抗をどう選んでも,取り出せる仕事率は E2/(4𝑟)(外の抵抗を 𝑟 にしたとき)を超えません.E =3 V,𝑟 =0.3 Ω なら 7.5 W で,3桁以上足りません.
そこで,電池から少しずつエネルギーを受け取ってためておき,一度に出す入れ物が要ります.それがコンデンサーです.第20章で見たとおり,電圧 𝑉 まで充電した容量 𝐶 のコンデンサーは,極板の間の電場に 12𝐶𝑉2 のエネルギーをためています.問題は,ためるのと出すのにどれだけ時間がかかり,その間にどれだけエネルギーを失うかです.コンデンサーがあると,電流は時間とともに変わります.
コンデンサーを含む回路の決まり
電荷は極板の間を渡りません.理想的なコンデンサーでは電場は極板の間だけにあり,向かい合う極板の電荷は +𝑞 と −𝑞 です.+𝑞 の極板へ電流 𝐼 が流れ込むと 𝑞 が増え,反対側の極板からは同じ電流が流れ出ます.極板の間の電場の線積分が電圧 𝑣 =𝑞/𝐶 です.時間とともに変わる電圧は小文字の 𝑣,一定の電圧は大文字の 𝑉 で書きます.
電荷の配置がゆっくり変わるなら,各瞬間の電場はその瞬間の電荷が作る静電場とほとんど同じで,保存場です.だから各瞬間にキルヒホッフの第2法則が使え,コンデンサーは電圧 𝑣 =𝑞/𝐶 の素子として一周の和に入ります.電流が極板の間で途切れて見えることは,第24章で「足りなかった1項」として見直します.
ポイント コンデンサーを含む回路の決まり
コンデンサーの電圧は 𝑣 =𝑞/𝐶,+𝑞 の極板へ流れ込む電流は 𝐼 =d𝑞/d𝑡.
各瞬間に,キルヒホッフの2つの法則が成り立つ.
抵抗を通る電流は有限なので,𝑞 と 𝑣 は切り替えの瞬間に跳ばない(電流は跳んでよい).直後の未充電のコンデンサーは導線と同じ.
十分時間がたつと,コンデンサーへ流れ込む電流は0になる(電荷が0になるとは限らない).
電源や他の導体から切り離された導体部分(孤立部分)では,そこにつながる極板の電荷の和(符号つき)が変わらない.
充電と時定数
起電力 E の電池(内部抵抗は 𝑅 に含める),抵抗 𝑅,未充電のコンデンサー 𝐶 を直列につなぎ,時刻0にスイッチを入れます.
[図:コンデンサーの充電回路]電池ℰ,閉じたスイッチ,抵抗R,コンデンサーCを直列につなぐ.電流Iが上側の極板へ流れ込み,極板の電荷は+qと−q,電圧はvである.
閉じた道を一周すると E =𝑅𝐼 +𝑞/𝐶 で,𝐼 =d𝑞/d𝑡 を入れると
𝑅𝐶d𝑞d𝑡=𝐶E−𝑞
です.直後は 𝑞 =0 で 𝐼 =E/𝑅 です.電荷がたまると抵抗にかかる電圧 E −𝑞/𝐶 が下がり,電流が減って充電は遅くなります.これは第4章の線形の空気抵抗の運動方程式 𝑚𝑏d𝑣d𝑡 =𝑚𝑔𝑏 −𝑣 と同じ形で,速さが終端速度に近づくように,電荷は 𝐶E に近づきます.解は数学の節で求めます.
𝑞=𝐶E(1−𝑒−𝑡/𝑅𝐶),𝐼=E𝑅𝑒−𝑡/𝑅𝐶
定義 時定数
抵抗 𝑅 とコンデンサー 𝐶 の回路で,𝜏 =𝑅𝐶 を時定数という.単位は ΩF =(V/A)(C/V) =s.時間 𝜏 で,目標の値との差が 𝑒−1 ≈0.37 倍に縮む(63 % まで進む).5𝜏 で差は 1 % 以下になる.
𝑅 が大きいと電流が小さく,𝐶 が大きいと多くの電荷が要るので,どちらも充電を遅くします.最初の題材の衝突時間と同じ文字ですが,ここからの 𝜏 は時定数です.
[図:充電の曲線と時定数]初期状態はR=1 MΩ,C=1 μF,ℰ=6 V,τ=1 s.上のq–tの曲線はCℰに近づき,初めの接線は時刻τでCℰに届く.下のI–tの曲線は0へ減る.RとCを変えると共通の時間軸上でτと曲線が変わる.
初期状態はR=1 MΩ,C=1 μF,ℰ=6 V,τ=1 s.上のq–tの曲線はCℰに近づき,初めの接線は時刻τでCℰに届く.下のI–tの曲線は0へ減る.RとCを変えると共通の時間軸上でτと曲線が変わる.
放電
電圧 𝑉0 のコンデンサーを,時刻0に抵抗 𝑅 だけにつなぎます.一周すると 0 =𝑅𝐼 +𝑞/𝐶 なので 𝑅𝐶d𝑞/d𝑡 = −𝑞 で
𝑞=𝐶𝑉0𝑒−𝑡/𝑅𝐶,𝐼=d𝑞d𝑡=−𝑉0𝑅𝑒−𝑡/𝑅𝐶
です.𝐼 <0 は,電流が +𝑞 の極板から流れ出る向きであることを表します.抵抗で出る熱は
∫∞0𝑅𝐼2d𝑡=𝑉20𝑅∫∞0𝑒−2𝑡/𝑅𝐶d𝑡=𝑉20𝑅⋅𝑅𝐶2=12𝐶𝑉20
で,ためていたエネルギーがすべて熱になります.𝑅 を小さくすると,同じエネルギーを短い時間で出すので仕事率が大きくなります.
切り替えのある回路
抵抗がいくつもあっても,コンデンサーが1つなら,残りの回路はテブナンの定理で起電力 𝑉th と内部抵抗 𝑅th の電源1つにまとめられ,上の充電と同じ形になります.
定理 コンデンサーが1つの回路の時間変化
抵抗と電源とコンデンサー1つの回路で,切り替えの後の電圧,電荷,電流は,どれも
𝑥(𝑡)=𝑥∞+(𝑥0−𝑥∞)𝑒−𝑡/𝜏,𝜏=𝑅th𝐶
で変わる.𝑥0 は切り替えの直後の値,𝑥∞ は十分時間がたった後の値,𝑅th はコンデンサーの両端から見た回路の抵抗(理想電源は導線に置き換える)である.
直前の電荷から直後の電流を求め,コンデンサーへの電流を0として十分後の値を求め,𝑅th から時定数を出せば,途中の変化も決まります.コンデンサーが2つ以上あるときは,孤立部分の電荷の和が変わらないことで前後をつなぎます.例は数学の節で扱います.
充電のエネルギーの収支
充電で電池がする仕事と,コンデンサーにたまるエネルギーを比べます.電池は電荷 𝐶E を電位差 E だけ持ち上げるので,仕事は 𝑊 =E ⋅𝐶E =𝐶E2 です.たまるのは 𝑈 =12𝐶E2 なので,残りの 12𝐶E2 は抵抗で熱になります.放電と同じように ∫𝑅𝐼2d𝑡 を計算しても,𝑅 が消えて同じ値になります.その理由は,電荷を少しずつ運ぶと考えると分かります.電荷が 𝑞 のとき,次の d𝑞 を運ぶと,電池は Ed𝑞 の仕事をし,コンデンサーは 𝑣d𝑞 =(𝑞/𝐶)d𝑞 を受け取り,差 (E −𝑣)d𝑞 が抵抗で熱になります.電荷が電位差 E −𝑣 を「落ちる」ときに熱が出るのです.どれも 𝑞 だけで決まり,𝑅 は「どれだけ速く運ぶか」を変えるだけです.
[図:充電のエネルギーを表す二つの面積]横軸q,縦軸は電圧.水平線ℰと直線v=q/Cで作る長方形の下側の三角形がコンデンサーのエネルギー,上側が抵抗の熱を表し,どちらも½Cℰ²である.
損失を減らすには,E −𝑣 をいつも小さく保てばよいのです.電源の電圧を少しずつ上げていくと,図の上の三角形が細い三角形の列に変わり,熱が減ります.代わりに時定数よりずっと長い時間がかかります.有限の温度差で熱を流すと不可逆になり,準静的に流せば可逆に近づく(第16章)のと同じ構造です.一方,𝑅 →0 としても損失は消えません.時定数が短すぎると次に述べる近似が成り立たなくなり,エネルギーは火花や電磁波として出ていきます.
集中定数回路として扱える条件
ここまで,導線の電流はどこでも同じで,電場は各瞬間の静電場と同じ,と扱ってきました.これが最初の題材の最後で触れた集中定数回路の近似です.実際には電荷の配置の変化は光の速さ 𝑐 で伝わり,大きさ ℓ の回路を伝わるのに ℓ/𝑐 かかります.これが 𝜏 よりずっと短ければ,遅れを無視できます.
ポイント 集中定数回路として扱える条件
無次元量 ℓ/(𝑐𝜏) が1よりずっと小さいこと.電子の衝突時間(10−14 s ほど)が 𝜏 よりずっと短く各瞬間にオームの法則が成り立つこと,自己誘導(第23章)が無視できることも前提にしている.
ℓ =0.1 m,𝜏 =1 ms なら ℓ/(𝑐𝜏) ≈3 ×10−7 で,十分に成り立ちます.信号が 10−9 s ほどで変わるコンピューターの回路では比が 0.3 ほどになり,導線を伝わる波として扱う必要があります.
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フラッシュの中のコンデンサーは,たとえば 𝐶 =150 𝜇F で,電池の電圧を上げる回路によって 𝑉0 =300 V まで充電され,12𝐶𝑉20 ≈6.8 J をためます.電池から取り出せる仕事率は数 W なので,充電には数秒かかり,続けて光らせるときに少し待たされます.
光らせるときは,コンデンサーを放電管(キセノンガスを封じた管)につなぎます.放電管をおおまかに 2 Ω ほどの抵抗とみなすと,時定数は 𝜏 =2 ×1.5 ×10−4 =3 ×10−4 s で,最初の仕事率は 𝑉20/𝑅 ≈4.5 ×104 W です.数秒かけてためたエネルギーを1000分の1秒ほどで出すので,仕事率は電池だけの場合の数千倍になります.ためる時間と出す時間を,別々の時定数で選べるのです.
ポイント ここまでのまとめ
コンデンサーの電荷と電圧は切り替えの瞬間に跳ばない.十分後はコンデンサーへの電流が0.
充電は 𝑞 =𝐶E(1 −𝑒−𝑡/𝑅𝐶),放電は 𝑞 =𝐶𝑉0𝑒−𝑡/𝑅𝐶.時定数 𝜏 =𝑅𝐶 で,目標との差が 𝑒−1 倍に縮む.抵抗が多い回路では 𝜏 =𝑅th𝐶.
一定の起電力で充電すると,電池の仕事の半分が熱になり,その量は 𝑅 によらない.電源の電圧をゆっくり上げると損失は減る.
集中定数回路の近似は ℓ/(𝑐𝜏) が1よりずっと小さいときに成り立つ.
フラッシュは,数秒かけてコンデンサーにためた数 J を,小さい抵抗を通して1000分の1秒ほどで出す.