問い
ギターの弦をはじくと,弦は決まった高さの音を出します.指で強くはじいても弱くはじいても,ピックで弾いても指で弾いても,音の高さは変わりません.変わるのは,フレットを押さえて弦の長さを変えたときと,糸巻きを回して張力を変えたときだけです.弦の上を伝わる波は,第1題材で見たように,どんな形でもどんな振動数でも進めるはずでした.それなのに,弦が鳴るときだけ振動数が決まってしまうのはなぜでしょうか.
考えてみる
はじいた弦の形は,波動方程式に従って左右に分かれて進みます.無限に長い弦ならそのまま遠くへ去るだけですが,ギターの弦は両端を留めてあるので,波は端に着くたびに跳ね返ります.長さ 𝑙 の弦を速さ 𝑣 の波が往復すると,かかる時間は 2𝑙/𝑣 です.あとで見るように,固定した端で跳ね返るたびに波形は上下が裏返るので,往復して2回裏返った波形は元と同じ形で戻ってきます.すると弦の運動は,はじき方によらず周期 2𝑙/𝑣 で繰り返すはずで,振動数は 𝑣/(2𝑙) に決まりそうです.
この見通しは正しいのですが,これだけでは「端でどう跳ね返るのか」「振動数 𝑣/(2𝑙) の何倍の音が混ざるのか」「指で軽く触れると何が変わるのか」が分かりません.端で何が起こるかを式にし,行きの波と帰りの波を重ねる必要があります.
境界条件と反射
𝑥 ≤0 にある弦を,正弦波 𝑦𝑖 =𝐴sin(𝜔𝑡 −𝑘𝑥) が右へ進み,端 𝑥 =0 に着くとします.跳ね返った波は左へ進むので,同じ振動数で 𝑦𝑟 =𝐵sin(𝜔𝑡 +𝑘𝑥) と置きます.弦の変位は重ね合わせ 𝑦 =𝑦𝑖 +𝑦𝑟 です.𝐵 を決めるのは,端で何が決まっているか,つまり境界条件です.
固定端では,端が動かないので,すべての時刻で 𝑥 =0 の変位が0です.𝑦(0,𝑡) =(𝐴 +𝐵)sin𝜔𝑡 =0 から 𝐵 = −𝐴 で,反射波は 𝑦𝑟 = −𝐴sin(𝜔𝑡 +𝑘𝑥) =𝐴sin(𝜔𝑡 +𝑘𝑥 +𝜋).反射で位相が 𝜋 ずれ,山は谷になって戻ります.
自由端は,質量の無視できる小さな輪に弦を結び,輪を滑らかな縦の棒に通したものです.輪にはたらく横向きの力は張力 𝑆 の横成分 −𝑆𝜕𝑦𝜕𝑥 だけで,質量0の輪に力が残れば加速度が無限大になるので,端では 𝜕𝑦𝜕𝑥 =0(傾きが0)です.𝜕𝑦𝜕𝑥 =𝑘(𝐵 −𝐴)cos𝜔𝑡 が 𝑥 =0 で0になるから 𝐵 =𝐴 で,反射波は位相を変えずに戻ります.
パルスで考えると,固定端の反射は,端の向こう側から上下を裏返した鏡像のパルスが近づいてきて,元のパルスと重なっていく様子と同じです.端ではちょうど打ち消し合って変位が0に保たれます.自由端では裏返さない鏡像が近づき,端で重なって変位が一時的に2倍になります.
[図:固定端と自由端で反射するパルス]初期状態では左の山形パルスが右へ進み,右の点線の鏡像は左へ進む.上段の鏡像は上下が逆,下段は同じ向きである.時刻を進めると,実線の和は固定端で変位0,自由端で傾き0を保ちながら反射する.
初期状態では左の山形パルスが右へ進み,右の点線の鏡像は左へ進む.上段の鏡像は上下が逆,下段は同じ向きである.時刻を進めると,実線の和は固定端で変位0,自由端で傾き0を保ちながら反射する.
気柱の中の音でも同じことが言えます.音の変位を 𝜉 とすると,第1題材で見た圧力のずれは 𝛿𝑝 = −𝛾𝑝𝜕𝜉𝜕𝑥 でした.管の閉口端では空気が壁より先へ動けないので 𝜉 =0 で,変位について固定端と同じです.そこでは 𝜕𝜉𝜕𝑥 は0とは限らず,圧力は大きく変わります.開口端では管の中の空気が大気につながっているので 𝛿𝑝 =0,つまり 𝜕𝜉𝜕𝑥 =0 で,変位について自由端と同じです.閉口端は変位の節で圧力の腹,開口端は変位の腹で圧力の節になります.圧力の波で見ると,閉口端では同じ位相で,開口端では位相が 𝜋 ずれて反射します.
開口端の条件は近似です.管の口の外の空気も少しは押し動かされるので,圧力がちょうど大気圧になる面は口よりわずかに外にあります.この補正を開口端補正といい,半径 𝑟 の管ではおよそ 0.6𝑟 です.管の半径が波長よりずっと小さいときに,この簡単な補正で足ります.
定常波
固定端に入射した波と反射波を足すと,三角関数の差を積に直して
𝑦=𝐴sin(𝜔𝑡−𝑘𝑥)−𝐴sin(𝜔𝑡+𝑘𝑥)=−2𝐴sin𝑘𝑥cos𝜔𝑡
となります.この式では,場所の関数 sin𝑘𝑥 と時間の関数 cos𝜔𝑡 が分かれています.どの点も同じ振動数で振動し,振幅 2𝐴|sin𝑘𝑥| だけが場所によって違い,波形はどちらへも進みません.このような波を定常波といいます.
振幅が0の点を節,最大の点を腹といいます.固定端の場合,節は 𝑘𝑥 = −𝑛𝜋,つまり端から 𝜆/2 ごとにあり,腹はその中央です.隣り合う節と腹の間隔は 𝜆/4 です.節をはさんだ両側は逆向きに振れ,節と節の間はすべて同じ向きに振れます.媒質の速度は 𝜕𝑦𝜕𝑡 =2𝐴𝜔sin𝑘𝑥sin𝜔𝑡 で,弦全体がまっすぐになる瞬間(cos𝜔𝑡 =0)に,腹の点が最も速く動きます.自由端の場合は 𝑦 =2𝐴cos𝑘𝑥sin𝜔𝑡 で,端が腹になり,端から 𝜆/4 の所に最初の節があります.
[図:入射波と反射波からできる定常波]初期状態はωt = π/6.右へ進む入射波を青の点線,左へ進む反射波を赤の点線,和を実線で示す.時刻を変えても黒い節は動かず,橙の印の腹がその場で振動する.節の間隔はλ/2,節と腹の間隔はλ/4である.
初期状態はωt = π/6.右へ進む入射波を青の点線,左へ進む反射波を赤の点線,和を実線で示す.時刻を変えても黒い節は動かず,橙の印の腹がその場で振動する.節の間隔はλ/2,節と腹の間隔はλ/4である.
定常波では,右向きと左向きに同じ大きさのエネルギーが流れているので,平均すると正味のエネルギーは運ばれません.エネルギーは節と節の間に閉じ込められ,運動のエネルギーと弾性のエネルギーの間を行き来します.
弦のモード
両端 𝑥 =0 と 𝑥 =𝑙 を固定した弦を考えます.𝑥 =0 が節になる定常波は 𝑦 =𝐶sin𝑘𝑥cos(𝜔𝑡 +𝜙) と書けます.𝑥 =𝑙 も節であるには sin𝑘𝑙 =0,つまり 𝑘𝑙 =𝑛𝜋(𝑛 =1,2,3,…)でなければなりません.波数が飛び飛びの値に限られ,𝜔 =𝑣𝑘 から振動数も決まります.
定理 両端固定の弦のモード
長さ 𝑙 の弦で許される定常波は
𝜆𝑛=2𝑙𝑛,𝑓𝑛=𝑛𝑣2𝑙=𝑛2𝑙√𝑆𝜇(𝑛=1,2,3,…)
である.𝑛 =1 を基本振動,𝑛 ≥2 を 𝑛 倍振動という.𝑛 番目のモードには腹が 𝑛 個あり,弦の長さは半波長の整数倍になっている.
[図:両端固定の弦の4つのモード]n = 1,2,3,4のモードを上から並べる.黒い点が節,橙の丸が腹である.両端は節で,腹がn個ある.青線は最大変位の瞬間,薄い線は半周期後を表し,長さlは半波長λₙ/2のn倍である.
1つ1つのモードは,振動数 𝑓𝑛 で単振動する1つの振動子です.第7章の連成振動では,𝑁 個のおもりをばねでつなぐと 𝑁 個の基準振動ができました.弦はおもりを細かくした極限なので,基準振動が無限にあり,それが 𝑓𝑛 の並びです.波動方程式は線形なので,弦のどんな運動もモードの重ね合わせで書けます.どのモードの周期も 1/𝑓1 =2𝑙/𝑣 の整数分の1なので,全体は周期 2𝑙/𝑣 で繰り返します.はじいた直後の形がどうであっても,聞こえる音の高さは基本振動数 𝑓1 で決まり,はじき方で変わるのはモードの混ざり方,つまり音色です(次の題材).
指で軽く触れた点は,振れられないので節になります.弦の長さの 1/3 の点に触れると,その点が節であるモード,つまり 𝑛 =3,6,9,… だけが残り,基本振動の3倍の音が出ます.これがきりたんの話した「ハーモニクス」です.
第7章の共鳴も,モードごとに起こります.弦を振動数 𝑓 で揺すると,𝑓 がどれかの 𝑓𝑛 に近いとき,そのモードの振幅が大きくなります.振動子が1つの場合と違って,共鳴する振動数がたくさんあるのが弦や気柱の特徴です.弦を一方の端の近くで揺すって共鳴させるのがメルデの実験で,揺する端の振幅は小さいので,近似的に節とみなせます.
ここまでの近似の条件も確かめておきます.波動方程式を使えるのは,弦の傾きが十分小さく(振幅と波数の積 𝐴𝑘 が小さく),張力が一定とみなせるときです.また,固定端は端の支えが弦に比べて十分重く硬いという近似です.本物のギターではブリッジがわずかに動き,その動きが胴を揺らして音を大きくしています.完全な固定端なら,弦のエネルギーは外へ出ていきません.
気柱のモード
管の中の空気の変位 𝜉 にも同じ考え方が使えます.閉口端を 𝑥 =0 とすると 𝜉 =𝐴sin𝑘𝑥cos𝜔𝑡 で,開口端 𝑥 =𝑙 で変位が腹,つまり cos𝑘𝑙 =0 です.
定理 気柱のモード(開口端補正を無視)
閉管(一端が閉じ,他端が開く):𝑘𝑙 =(2𝑛−1)𝜋2 より 𝑓 =(2𝑛−1)𝑣4𝑙(𝑛 =1,2,…).基本振動の奇数倍だけが出る.
開管(両端が開く):両端とも変位の腹なので 𝑓 =𝑛𝑣2𝑙(𝑛 =1,2,…).すべての整数倍が出る.
開口端補正 Δ𝑙 を入れるときは,開いた端ごとに 𝑙 に Δ𝑙 を足す.
[図:閉管と開管の変位と圧力の振幅]左右に閉管と開管の低い3つのモードを並べる.変位ξの振幅の上下の包絡線は青の実線,圧力のずれδpは赤の点線で,縦の尺度はそれぞれ規格化している.閉口端は変位の節・圧力の腹,開口端は変位の腹・圧力の節になる.開口端補正は無視する.
同じ長さなら,閉管の基本振動数は開管の半分で,音は1オクターブ低くなります.クラリネットが同じくらいの長さのフルートより低い音を出し,奇数倍の音が強いのはこのためです.
2次元の膜でも,周りを固定すると飛び飛びのモードができます.太鼓の膜では,節は点ではなく線(節線)になり,モードの振動数は基本振動の整数倍に並びません.太鼓の音の高さがはっきりしないのはそのためです.金属板に砂をまいて揺すると,砂が節線に集まってクラドニ図形が見えます.
[図:円形膜の低いモードとクラドニ図形]周りを固定した円形膜の低い4つのモードを示す.内部の節線は,なし,直径1本,直径2本,同心円1本で,振動数は基本振動の約1.000,1.593,2.136,2.295倍である.+と−は同じ瞬間の変位の向きを示す.右の正方形の板は砂が節線に集まるクラドニ図形の模式図である.
平面の波の反射と屈折
水面の波のように平面に広がる波では,同じ位相の点を結んだ線(波面)が進みます.ホイヘンスの原理では,波面の上の各点から小さな円い波(素元波)が出て,それらに共通に接する線が次の波面になると考えます.
[図:素元波の共通接線と屈折波面]初期状態では入射角θ₁ = 35°,速さの比v₂/v₁ = 0.70で,屈折波は法線に近づく.境界に到着した点から順に緑の素元波が広がり,橙の共通接線が屈折波面になる.入射角,速さの比,経過時刻を変えると波面の形成と屈折角θ₂の変化が分かる.
初期状態では入射角θ₁ = 35°,速さの比v₂/v₁ = 0.70で,屈折波は法線に近づく.境界に到着した点から順に緑の素元波が広がり,橙の共通接線が屈折波面になる.入射角,速さの比,経過時刻を変えると波面の形成と屈折角θ₂の変化が分かる.
速さ 𝑣1 の領域から 𝑣2 の領域へ,入射角 𝜃1(波の進む向きと境界の法線のなす角)で波が入るとします.境界の点は1つの振動数で揺れるので,振動数は両側で同じです.さらに,境界に沿って並ぶ波面の間隔も両側で等しくなければ,境界で波がつながりません.その間隔は 𝜆1/sin𝜃1 と 𝜆2/sin𝜃2 なので,次の関係が出ます.同じ領域へ戻る反射波は速さが変わらないので,反射角は入射角に等しくなります.
法則 屈折の法則
sin𝜃1sin𝜃2=𝑣1𝑣2=𝜆1𝜆2
振動数は境界の両側で変わらない.
式で書くと,平面に広がる正弦波は,進む向きの単位ベクトルの成分を使って 𝑦 =𝐴sin[𝜔𝑡−𝑘(𝑥sin𝜃+𝑧cos𝜃)] です(𝑧 軸を境界の法線,𝑥 軸を境界に沿ってとる).境界 𝑧 =0 で入射波と屈折波の位相がいつも合うことは,境界に沿う波数の成分が等しいこと,𝑘1sin𝜃1 =𝑘2sin𝜃2 と同じです.
2つの波源の干渉
水面の2点 S1,S2 から,同じ振動数の波を出します.点 P までの距離を 𝑟1,𝑟2 とし,P での2つの波を 𝑦1 =𝐴1sin(𝜔𝑡 −𝑘𝑟1),𝑦2 =𝐴2sin(𝜔𝑡 −𝑘𝑟2 +𝛼) とします.𝛼 は波源の初期位相の差です.前の題材の複素数の足し算から,合成の振幅 𝐵 は
𝐵2=𝐴21+𝐴22+2𝐴1𝐴2cos𝛿,𝛿=𝑘(𝑟1−𝑟2)+𝛼
です.位相差 𝛿 は,経路差による分 𝑘(𝑟1 −𝑟2) =2𝜋(𝑟1 −𝑟2)/𝜆 と,初期位相の差 𝛼 の和です.
ポイント 2つの波源の干渉の条件
強め合う:𝛿 =2𝑚𝜋,弱め合う:𝛿 =(2𝑚 +1)𝜋(𝑚 は整数).
同位相の波源(𝛼 =0)なら,経路差 |𝑟1−𝑟2| が 𝑚𝜆 で強め合い,(𝑚 +1/2)𝜆 で弱め合う.逆位相(𝛼 =𝜋)なら逆になる.
弱め合う所の振幅は |𝐴1−𝐴2| で,振幅が等しいときだけ0になる.
経路差が一定の点を結ぶと,S1,S2 を焦点とする双曲線になります.水面では,弱め合う双曲線に沿って水面がほとんど揺れない線(節線)が並んで見えます.実際の水面の波は広がるにつれて振幅が小さくなるので,2つの波源から遠さが違う点では振幅がずれ,節線の上でも完全には0になりません.
[図:円い波の重なりと双曲線の節線]同位相の波源S₁,S₂から出る円い波の山を実線,谷を点線で示す.青と緑は各波源の波,橙の双曲線は山と谷が重なる節線である.緑の一点鎖線の垂直二等分線では2波が強め合う.図は振幅が等しい場合を示す.
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弦の上の波は,両端で跳ね返り,行きの波と帰りの波が重なって定常波を作ります.両端が節であるという境界条件を満たすのは,弦の長さが半波長の整数倍のときだけで,振動数は 𝑓𝑛 =𝑛𝑣/(2𝑙) の飛び飛びの値に限られます.どんなはじき方でも弦の運動はこれらのモードの重ね合わせで,全体は周期 2𝑙/𝑣 で繰り返すので,音の高さは基本振動数 𝑓1 =12𝑙√𝑆/𝜇 で決まります.フレットを押さえて 𝑙 を短くするか,糸巻きで 𝑆 を大きくすると,音は高くなります.はじく強さで変わるのは振幅だけで,はじく場所で変わるのはモードの混ざり方です.
ポイント ここまでのまとめ
固定端(変位0)では反射波の位相が 𝜋 ずれ,自由端(傾き0)では同じ位相で戻る.気柱の閉口端は変位の節・圧力の腹,開口端は変位の腹・圧力の節.
逆向きに進む同じ振幅の波の和は定常波で,節の間隔は 𝜆/2,節と腹の間隔は 𝜆/4.
両端固定の弦と開管は 𝑓𝑛 =𝑛𝑣/(2𝑙),閉管は 𝑓 =(2𝑛 −1)𝑣/(4𝑙).開口端補正は開いた端ごとに 𝑙 に足す.
モードは1つ1つが振動子で,弦や気柱は多くの振動数で共鳴する.ギターの音の高さは基本振動数で決まる.
屈折では振動数が変わらず sin𝜃1/sin𝜃2 =𝑣1/𝑣2.2つの波源の干渉は,経路差の位相に初期位相の差を足して判定する.