この節では,第5章の重心 𝒓G を 𝑹,その速度を 𝑽 と書きます.
問い
質量が同じ2台の車が,どちらも速さ 𝑣 で正面衝突し,ぐしゃりと潰れて一体になりました.別の場面では,止まっている同じ車に,同じ質量の車が速さ 2𝑣 でぶつかり,やはり一体になりました.どちらの場面でも,近づく速さ(相対速度)は 2𝑣 で同じです.潰れたり熱になったりして失われるエネルギーは,同じでしょうか.それとも,速い車がぶつかる後者のほうが大きいでしょうか.
考えてみる
質量を 𝑚,衝突の向きを正とします.運動量保存則から,一体になった車の速度は,前者では 𝑚𝑣−𝑚𝑣2𝑚 =0,後者では 𝑚⋅2𝑣2𝑚 =𝑣 です.前者は止まり,後者は 𝑣 で進み続けます.
運動エネルギーで数えると,前者は衝突前に 2 ×12𝑚𝑣2 =𝑚𝑣2,衝突後に0です.後者は衝突前が 12𝑚(2𝑣)2 =2𝑚𝑣2,衝突後が 12(2𝑚)𝑣2 =𝑚𝑣2 です.引き算すると,どちらも 𝑚𝑣2 が失われています.偶然でしょうか.
速度は見る座標系で変わり,運動エネルギーも座標系で変わります.後者は,前者を速さ 𝑣 で動く人から見た場面にほかなりません.それでも失われた量が同じなのは,座標系によらない何かが衝突を決めているからです.それが何かを,第5章の分解から探します.
重心の運動エネルギーと相対運動のエネルギー
第5章で見たように,外力が無い2体の運動は,重心の運動 𝑀¨𝑹 =𝑭外 と,相対位置 𝒓 =𝒓1 −𝒓2 の運動 𝜇¨𝒓 =𝑭 に分かれました.全質量 𝑀 =𝑚1 +𝑚2,換算質量 𝜇 =𝑚1𝑚2𝑚1+𝑚2 です.位置を重心とのずれで書くと,速度も 𝒗1 =𝑽 +𝑚2𝑀𝒗rel,𝒗2 =𝑽 −𝑚1𝑀𝒗rel に分かれます.𝒗rel =𝒗1 −𝒗2 は相対速度です.これを運動エネルギーに入れると,運動エネルギーも分かれます.
法則 運動エネルギーの分解(2体)
𝐾=12𝑚1𝑣21+12𝑚2𝑣22=12𝑀𝑉2+12𝜇𝑣2rel
第1項は重心の運動エネルギー,第2項は相対運動のエネルギーである.
[図:速度を重心運動と相対運動に分ける]同じ重心速度Vに,重心系で反対向きの速度を足す.例としてm₁=2m₂を描く.
第1項は 𝑽 だけ,第2項は 𝒗rel だけで決まります.外力が無ければ,第5章のとおり 𝑽 は変わりません.衝突や分裂で出入りできる運動エネルギーは,相対運動のエネルギーだけです.
相対運動のエネルギー保存
相対運動の方程式 𝜇¨𝒓 =𝑭 は,質量 𝜇 の1つの物体の運動方程式と同じ形です.この章の「仕事と運動エネルギー」でしたように,両辺に 𝒗rel =˙𝒓 を掛けて時間で積分すると,仕事と運動エネルギーの定理が出ます.
Δ(12𝜇𝑣2rel)=∫𝑭⋅d𝒓
力 𝑭 が保存力で,ポテンシャルエネルギー 𝑈(𝑟) を持つなら,
12𝜇𝑣2rel+𝑈(𝑟)=一定
です.質量を 𝜇 に,速さを相対速度に読み替えるだけで,これまでのエネルギー保存則とポテンシャル図が,2つの物体の相対運動にそのまま使えます.外力が無ければ 12𝑀𝑉2 も一定なので,全体の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和も保存します.
衝突で失われるエネルギー
衝突の前後で 12𝑀𝑉2 は変わらないので,失われるのは相対運動のエネルギーだけです.第5章の反発係数 𝑒 は,正面衝突で相対速度の大きさが 𝑒 倍になることを表すので,失われるエネルギーは次のようになります.
法則 衝突で失われるエネルギー
Δ𝐾=12𝜇𝑣2rel−12𝜇(𝑒𝑣rel)2=12𝜇(1−𝑒2)𝑣2rel
弾性衝突(𝑒 =1)では0,完全非弾性衝突(𝑒 =0)では 12𝜇𝑣2rel が全部失われる.
これが問いの答えです.どちらの場面も 𝜇 =𝑚2,𝑣rel =2𝑣,𝑒 =0 なので,失われるのは 12 ⋅𝑚2 ⋅(2𝑣)2 =𝑚𝑣2 で,同じです.後者は,衝突前の運動エネルギー 2𝑚𝑣2 のうち 𝑚𝑣2 が車の前進(重心の運動)に残っただけです.
ポイント ここまでのまとめ
外力が無い2体の運動エネルギーは 𝐾 =12𝑀𝑉2 +12𝜇𝑣2rel と,重心の分と相対運動の分に分かれる.
相互作用が保存力 𝑈(𝑟) なら,12𝜇𝑣2rel +𝑈(𝑟) が一定.ポテンシャル図は相対運動に使える.
衝突や分裂で出入りできるのは相対運動の分だけで,衝突で失われるのは 12𝜇(1 −𝑒2)𝑣2rel.
問いの答え:どちらの衝突でも失われるエネルギーは 𝑚𝑣2 で同じである.