問い
この章では,自由な粒子のラグランジアン 12𝑚𝑣2 を,ガリレイ変換の対称性から導きました.ところが前の題材で,慣性系の間の本当の関係はガリレイ変換ではなく,ローレンツ変換だと分かりました.対称性を取り替えたら,自由な粒子のラグランジアンはどう変わるのでしょうか.そして,そこからどんな力学が出てくるのでしょうか.
考えてみる
「空間と時間の対称性」の題材では,2つの慣性系のラグランジアンが全微分しか違わない,という条件から 𝐿 =12𝑚𝑣2 を導きました.今度は,同じ考えをローレンツ変換で行います.ただ,計算でやるより早い道があります.作用 𝑆 そのものを,どの慣性系で計算しても同じ値になる量で作ればよいのです.
自由な粒子の経路に対して,どの慣性系で計算しても同じになる量は何でしょうか.前の題材で見つけた,粒子が持つ時計の刻む時間,つまり固有時です.
自由な粒子のラグランジアン
自由な粒子の作用を,経路に沿った固有時に比例するとおきます.
𝑆=−𝛼∫d𝜏=−𝛼∫√1−𝑣2𝑐2d𝑡
𝛼 は粒子ごとの定数です.d𝜏 は,どの慣性系で計算しても同じなので,この作用は相対性原理を満たしています.時間で積分する形に直すと,ラグランジアンは 𝐿 = −𝛼√1−𝑣2/𝑐2 です.
𝛼 を決めるために,速さが 𝑐 よりずっと小さい場合を考えます.√1−𝑣2/𝑐2 ≈1 −𝑣22𝑐2 なので
𝐿≈−𝛼+𝛼2𝑐2𝑣2
です.定数 −𝛼 は運動に影響しません.残りが,ガリレイの世界で導いた 12𝑚𝑣2 に一致するには,𝛼 =𝑚𝑐2 でなければなりません.
定理 相対論の自由な粒子のラグランジアン
𝐿=−𝑚𝑐2√1−𝑣2𝑐2
𝑣 が 𝑐 よりずっと小さいとき,定数を除いて 12𝑚𝑣2 に戻る.
対称性をガリレイ変換からローレンツ変換に替えると,自由な粒子のラグランジアンも替わり,それがそのまま新しい力学になります.ガリレイの力学は,その 𝑣 が 𝑐 よりずっと小さいときの近似でした.
作用に負号が付いているので,作用が最小になる経路は,固有時が最大になる経路です.自由な粒子は,2つの出来事の間を,持っている時計がいちばん長く時を刻む道すじで進みます.地球に残った人と,宇宙船で往復してきた人が再会すると,加速しなかった地球の人のほうが年をとっている,という「双子のパラドックス」の答えがここにあります.
[図:往復する宇宙船の固有時]例として地球の10年間に,宇宙船が速さ0.60cで5年ずつ往復する.点の間隔は両者とも固有時1年.地球の10目盛りに対し宇宙船は8目盛りとなる.折り返しは瞬間的な方向転換として描く.
運動量とエネルギー
「対称性と保存則」の題材で見たように,一般化運動量とエネルギーは,ラグランジアンから決まります.
𝒑=𝜕𝐿𝜕𝒗=𝑚𝒗√1−𝑣2/𝑐2=𝛾𝑚𝒗,𝐸=𝒑⋅𝒗−𝐿=𝑚𝑐2√1−𝑣2/𝑐2=𝛾𝑚𝑐2
(計算は数学の節).空間と時間が一様なら,ネーターの定理から,閉じた系の運動量の和とエネルギーの和が保存します.保存則の成り立つ理由は,ガリレイの世界と同じです.変わったのは,運動量とエネルギーの式の形です.
定理 相対論の運動量とエネルギー
𝒑=𝛾𝑚𝒗,𝐸=𝛾𝑚𝑐2,𝐸2=(𝑝𝑐)2+(𝑚𝑐2)2
この式から,次のことが分かります.
静止エネルギー:止まっている粒子(𝑣 =0)も 𝐸 =𝑚𝑐2 のエネルギーを持つ.𝑣 が 𝑐 よりずっと小さいとき 𝐸 ≈𝑚𝑐2 +12𝑚𝑣2 で,運動エネルギーは 𝐸 −𝑚𝑐2 =(𝛾 −1)𝑚𝑐2.
光速の壁:𝑣 →𝑐 で 𝛾 →∞ なので,𝐸 も 𝑝 も限りなく大きくなる.質量のある粒子を光の速さまで加速するには,無限のエネルギーが要る.
質量のない粒子:𝑚 =0 なら 𝐸 =𝑝𝑐 で,𝐸 と 𝑝 が有限なら 𝑣 =𝑐 でなければならない.光は,このような粒子(光子)の集まりと見なせる.
質量はエネルギーの一つの形
ガリレイの世界では,閉じた系の質量は粒子の質量の和でした.相対論では,保存するのはエネルギーの和で,質量の和ではありません.同じ質量 𝑚 の2つの粒子が逆向きに同じ速さで衝突してくっつくと,できた1つの粒子は止まっていて,そのエネルギーは衝突前の 2𝛾𝑚𝑐2 に等しいので,質量は 2𝛾𝑚 です.衝突前の運動エネルギーが,くっついた粒子の質量に変わったのです.逆に,原子核が分裂すると,分裂後の質量の和は少しだけ小さくなり,その差 Δ𝑚 に 𝑐2 を掛けた分のエネルギーが出てきます.
力の中での運動
外から与えられた場の中では,ガリレイの世界と同じように位置エネルギーを引いて,𝐿 = −𝑚𝑐2√1−𝑣2/𝑐2 −𝑈(𝒓) とします.オイラー=ラグランジュ方程式は
dd𝑡(𝛾𝑚𝒗)=−𝜕𝑈𝜕𝒓
で,運動量の時間変化が力に等しい,という形になります.一定の力 𝐹 で押し続けると,運動量は 𝑝 =𝐹𝑡 と時間に比例して増え続けますが,速さは 𝑐 に近づくだけで,𝑐 を超えません(数学の節の例題).
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対称性をローレンツ変換に替えると,自由な粒子の作用は固有時に比例するしかなく,ラグランジアンは −𝑚𝑐2√1−𝑣2/𝑐2 になります.そこから運動量 𝛾𝑚𝒗,エネルギー 𝛾𝑚𝑐2,静止エネルギー 𝑚𝑐2 が出てきて,物体が光の速さを超えられないことも分かります.𝑣 が 𝑐 よりずっと小さいときは,この章の前半で導いたガリレイの力学に戻ります.どちらの力学も,「対称性が決めた自由な粒子のラグランジアン」と「停留作用の原理」から組み立てられているのです.
ポイント ここまでのまとめ
相対性原理を満たす自由な粒子の作用は,固有時に比例する:𝑆 = −𝑚𝑐2∫d𝜏,𝐿 = −𝑚𝑐2√1−𝑣2/𝑐2.
𝑣 が 𝑐 よりずっと小さいとき,定数を除いて 12𝑚𝑣2 に戻る.ガリレイの力学はその近似.
自由な粒子は固有時が最大になる道すじを進む(双子のパラドックス).
運動量 𝒑 =𝛾𝑚𝒗,エネルギー 𝐸 =𝛾𝑚𝑐2,𝐸2 =(𝑝𝑐)2 +(𝑚𝑐2)2.静止エネルギー 𝑚𝑐2.
保存するのはエネルギーの和で,質量の和ではない.質量はエネルギーの一つの形.
場の中では d(𝛾𝑚𝒗)/d𝑡 = −𝜕𝑈/𝜕𝒓.押し続けても速さは 𝑐 を超えない.