問いしるべ
問いから始める物理 対称性から組み立てる力学(発展)

対称性から組み立てる力学(発展)

相対論の運動量とエネルギーの計算

著者:柚木芹香

相対論のラグランジアンから運動量とエネルギーを出す計算と,エネルギーと運動量の関係を確かめます.γ を含む式は,γ のままで計算を進め,最後に数値を入れると楽です.

定理 数学の道具:1−v2/c2 の微分

v2=vx2+vy2+vz2 について,合成関数の微分により

∂∂vx1−v2c2=12(1−v2c2)−1/2⋅(−2vxc2)=−γvxc2

これを使うと,L=−mc21−v2/c2 から ∂L/∂vx=γmvx で,p=γmv です.エネルギーは

E=p⋅v−L=γmv2+mc2γ=γm[v2+c2(1−v2c2)]=γmc2

です.1γ=γ(1−v2c2) を使いました.

定理 数学の道具:エネルギーと運動量の関係

E2−(pc)2=γ2m2c4−γ2m2v2c2=γ2m2c4(1−v2c2)=(mc2)2

また,pc2=Ev,つまり v=pc2E である.

練習1 v=0.60c の粒子の運動エネルギーは,静止エネルギーの何倍か.12mv2 と比べよ.

練習2 E=pc の粒子の速さを,v=pc2/E から求めよ.

答え 練習1:γ=1.25 なので (γ−1)mc2=0.25mc2.12mv2=0.18mc2 で,相対論の値のほうが大きい.練習2:v=pc2/(pc)=c.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

静止していた電子(質量 9.1×10−31kg)を加速して,運動エネルギーを 1.6×10−13J にした.c=3.0×108ms−1 とする.

  1. 静止エネルギーと γ を求めよ.

  2. 電子の速さを c を単位として求めよ.運動エネルギーを 12mv2 として速さを出すと,どうなるか.

解答を見る

考え方 運動エネルギーは (γ−1)mc2.γ が分かれば β=1−1/γ2.

  1. mc2=9.1×10−31×(3.0×108)2≈8.2×10−14J.γ=1+1.6×10−138.2×10−14≈2.95.

  2. β=1−1/2.952≈1−0.115≈0.94.速さは 0.94c.12mv2 とすると v=2×1.6×10−13/9.1×10−31≈5.9×108ms−1 で,光の速さの約2倍という,ありえない値になる.

確かめ:運動エネルギーが静止エネルギーと同じ程度になると,ガリレイの力学の式は使えない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 m の2つの粒子が,ある慣性系で逆向きにどちらも速さ 0.60c で進み,正面衝突してくっついた.

  1. くっついた粒子の速さと質量 M を求めよ.

  2. 衝突前の運動エネルギーの和と,Mc2−2mc2 を比べよ.

同じ質量mの2粒子が互いに向かって速さ0.60cで進む.下段は合体後の1粒子を速度矢印なしで示す.合体後の質量Mやエネルギーは示していない. 同じ質量mの2粒子が互いに向かって速さ0.60cで進む.下段は合体後の1粒子を速度矢印なしで示す.合体後の質量Mやエネルギーは示していない.
解答を見る

考え方 運動量の和とエネルギーの和が保存する.質量の和は保存しない.

  1. 運動量の和は衝突前に0なので,くっついた粒子は止まっている.エネルギーの和は 2γmc2=2×1.25mc2=2.5mc2 で,止まっている粒子のエネルギーは Mc2 なので M=2.5m.

  2. 衝突前の運動エネルギーの和は 2(γ−1)mc2=0.50mc2.Mc2−2mc2=0.50mc2 で等しい.

確かめ:ガリレイの力学では,運動エネルギーは熱などに変わって「消え」,質量は 2m のままだった.相対論では,熱も含めたすべてのエネルギーが質量として数えられる.ふつうの衝突では増える質量がごくわずかなので,気づかないだけである.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の宇宙船が,静止の状態から,地上の系で一定の力 F=mg(g=9.8ms−2)を受け続ける.

  1. 時刻 t の速さ v を求めよ.

  2. v=0.99c になるまでの時間を求めよ(年で答えよ).ガリレイの力学で計算した時間と比べよ.c=3.0×108ms−1,1年 =3.16×107s とする.

細い直線はg = 9.8 m s⁻²で計算したガリレイの予測v = gt.水平な点線はv = c.相対論での曲線や到達時間の答えは描いていない. 細い直線はg = 9.8 m s⁻²で計算したガリレイの予測v = gt.水平な点線はv = c.相対論での曲線や到達時間の答えは描いていない.
解答を見る

考え方 運動方程式 dp/dt=F から p=Ft.p=γmv を v について解く.

  1. γβ=gtc(β=v/c).γβ=β/1−β2 を β について解くと

v=gt1+(gt/c)2

t が小さければ v≈gt,t→∞ で v→c.

  1. β=0.99 では γβ=0.99/1−0.9801≈7.02.t=7.02×3.0×1089.8≈2.15×108s≈6.8 年.ガリレイの力学では t=0.99c/g≈3.0×107s≈0.96 年.

確かめ:速くなるほど,同じ力で同じだけ運動量が増えても,速さはわずかしか増えない.v は決して c に届かない.

ポイント ここまでのまとめ

  • L=−mc21−v2/c2 を微分して p=γmv,E=p⋅v−L=γmc2.

  • E2−(pc)2=(mc2)2,v=pc2/E.

  • 運動エネルギー (γ−1)mc2 が静止エネルギーと同じ程度になると,12mv2 は使えない.

  • 衝突では運動量とエネルギーの和が保存し,質量の和は保存しない.

  • 一定の力では p=Ft で運動量は増え続けるが,速さは c に近づくだけ.