問いしるべ
問いから始める物理 電流と磁場

電流と磁場

磁気の力の正体の例題

著者:柚木芹香

同じ現象を2つの系で解き,力の大きさは違っても運動の予測は一致することを確かめます.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

断面積 1.0mm2 の長い銅線に,大きさ I=10A の電流が流れている.導線は止まっている系 K で電気的に中性とし,導線外部の電場は無視する.銅の伝導電子の数密度は n=8.5×1028m−3 とする.導線から距離 r=1.0cm の所を,陽子が電流と同じ向きに,導線と平行に速さ u=1.0×106ms−1 で飛んでいる.電気素量 e=1.6×10−19C,c=3.0×108ms−1,μ0=4π×10−7NA−2,1/(2πε0)=1.8×1010Nm2C−2 とする.

  1. 導線が止まっている系 K で,陽子に働く力の大きさと向きを求めよ.

  2. 伝導電子の線電荷密度の大きさ λ0 と,伝導電子の速さ v を求めよ.

  3. 陽子と一緒に動く系 K' での導線の正味の線電荷密度 λ′ を,x が十分小さいときの 1/1−x≈1+x/2 を使って u2/c2 や uv/c2 の1次まで求め,λ′=−Iu/c2 となることを示せ.

  4. K' で陽子に働く力を求め,(1) と比べよ.また,|λ′|/λ0 を求めよ.

系 K では導線のイオンが静止し,電子は左向きに速さ v で流れる.電流 I と陽子の速さ u は右向き.陽子は導線から距離 r にある.系 K′ では陽子が静止し,イオンと電子はともに左へ流れる.力や正味の電荷密度の答えは示していない. 系 K では導線のイオンが静止し,電子は左向きに速さ v で流れる.電流 I と陽子の速さ u は右向き.陽子は導線から距離 r にある.系 K′ では陽子が静止し,イオンと電子はともに左へ流れる.力や正味の電荷密度の答えは示していない.
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考え方 K では磁気力だけ,K' では陽子が止まっているので電気力だけを考える.K' で導線が帯電して見える量を,イオンと電子の密度の変化から求める.

  1. 磁場は B=μ0I2πr=2.0×10−7×101.0×10−2=2.0×10−4T である.陽子に働く力の大きさは

F=euB=1.6×10−19×1.0×106×2.0×10−4=3.2×10−17N

である.正電荷が電流と同じ向きに動くことは,導線と同じ向きの電流があることと同じなので,平行な電流が引き合うのと同様に,力は導線に向かう向きである.

  1. λ0=neS(S は断面積)より

λ0=8.5×1028×1.6×10−19×1.0×10−6≈1.4×104Cm−1

である.I=λ0v より,丸める前の λ0 を使うと v=10/(1.36×104)=7.4×10−4ms−1 である.

  1. K で,イオンは止まり,伝導電子は電流と逆向き,つまり陽子と逆向きに速さ v で動いている.K' では,イオンは速さ u で動くので,密度は

λ0(1−u2c2)−1/2≈λ0(1+u22c2)

である.伝導電子は,止まって見える系での密度の大きさが λ01−v2/c2≈λ0(1−v2/(2c2)) で,K' では速さ u+v で動く(速度の合成の式の分母 1+uv/c2 による違いは,さらに高い次数の量なので捨てる).密度の大きさは

λ0(1−v22c2)(1+(u+v)22c2)≈λ0(1+u22c2+uvc2)

である.v2 の項は打ち消し合った.正味の線電荷密度は

λ′≈λ0(1+u22c2)−λ0(1+u22c2+uvc2)=−λ0uvc2=−Iuc2

で,導線は負に帯電して見える.数値は λ′=−10×1.0×106/(9.0×1016)=−1.1×10−10Cm−1 である.

  1. K' で陽子は止まっているので,磁気力は働かず,電場

E′=|λ′|2πε0r=1.1×10−10×1.8×10101.0×10−2=2.0×102Vm−1

による力 eE′=3.2×10−17N が,負に帯電した導線に向かう向きに働く.(1) と一致する.文字のままでも eE′=eIu2πε0c2r=euμ0I2πr=euB である.正確には K' の力は K の γ 倍だが,γ−1≈u2/(2c2)=5.6×10−6 は有効数字2桁では見えない.また

|λ′|λ0≈IuneSc2=10×1.0×1061.36×104×9.0×1016≈8.2×10−15

で,正負の電荷のごくわずかな不釣り合いが,(1) の磁気力の全部を担っている.

確かめ:陽子を伝導電子と同じ向きに飛ばすには u を −v にすればよく,λ′≈λ0v2/c2 となって本文の結果に一致する.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

2本の細い電子線が,間隔 d で平行に,同じ向きに速さ v で進んでいる.実験室系 K での各電子線の線電荷密度の大きさを λ,電子の質量を m,電荷を −e とし,γ=1/1−v2/c2 とする.各電子線の太さと,電子線が自分自身に及ぼす力は無視する.

  1. K で,一方の電子線の電子が他方の電子線から受ける電気力の大きさ FE と磁気力の大きさ FB を求めよ.また,比 FB/FE と,合力の大きさ F を求め,合力の向きを答えよ.

  2. 電子と一緒に動く系 K0 で,同じ電子に働く力の大きさ F0 を求め,F=F0/γ となることを確かめよ.

  3. 電子線が K で距離 L 進む間に,最初は横向きの速度をもたない電子が横にずれる距離を,K と K0 で別々に求め,一致することを示せ.ずれは d に比べて十分小さく,K0 での横向きの速さは光速より十分小さいとする.

  4. λ=1.0×10−10Cm−1,d=1.0mm,v=0.60c のとき,FE,FB,F を求めよ.e=1.6×10−19C,1/(2πε0)=1.8×1010Nm2C−2 とする.

線電荷密度 −λ の2本の電子線が,間隔 d を保って右へ速さ v で進む.下の電子線の1個を橙の輪で示す.問題で求める電気力と磁気力の向き,大きさ,比は示していない. 線電荷密度 −λ の2本の電子線が,間隔 d を保って右へ速さ v で進む.下の電子線の1個を橙の輪で示す.問題で求める電気力と磁気力の向き,大きさ,比は示していない.
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考え方 K では電場と磁場の両方を,K0 では電子が止まっているので電場だけを考える.横にずれる距離は系によらないので,(3) で2つの系の予測を比べる.

  1. 一方の電子線は,距離 d の所に電場 E=λ2πε0d と,大きさ λv の電流による磁場 B=μ0λv2πd を作る.

FE=eλ2πε0d,FB=evB=μ0eλv22πd=FEv2c2

である(μ0ε0=1/c2).電気力は反発,磁気力は同じ向きの電流どうしなので引力である.比は FB/FE=v2/c2 で,合力は

F=FE(1−v2c2)=FEγ2

の反発である.

  1. K での密度 λ は,止まって見える密度の γ 倍だったので,K0 での密度は λ/γ である.K0 では電子が止まっているので磁気力は働かず,

F0=eλ/γ2πε0d=FEγ

である.したがって F=FE/γ2=F0/γ で,横向きの力の変換に一致する.

  1. K:横向きの運動量は py=γmw(w は横向きの速さ)で,d がほぼ一定なので F も一定であり,γmw=Ft.ずれは Δy=Ft22γm で,t=L/v を入れると

Δy=F2γmL2v2=F0L22γ2mv2

である.

K0:電子は止まった状態から動き出すので,ふつうの運動方程式で Δy=F0τ22m である.K0 では長さ L の装置がローレンツ収縮で L/γ に縮み,速さ v で通り過ぎるので,かかる時間は τ=L/(γv) である.これは K での時間 L/v の 1/γ 倍で,時間の遅れとも合う.よって

Δy=F02mL2γ2v2

で,K の結果と一致する.力の大きさは違うが,ずれの予測は同じである.

  1. FE=1.6×10−19×1.0×10−10×1.8×10101.0×10−3=2.9×10−16N である.v2/c2=0.36 より FB=0.36FE=1.0×10−16N,F=0.64FE=1.8×10−16N である.

確かめ:v が c に比べて十分小さいと FB/FE→0,F→FE で,ふつうのクーロン力に戻る.逆に v→c では F→0 で,λ,d,L を一定にすると,(3) のずれは 1/(γ3v2) に比例して小さくなる.速い電子線ほど広がりにくく,加速器で光速に近い粒子の束を細く保ちやすいのはこのためである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 導線の系の磁気力は,電荷の系では導線が帯電して見えることによる電気力になる.帯電の割合は 10−15 程度でも,打ち消し合いの後に残るので力として見える.

  • 速さ u の電荷から見た導線の線電荷密度は λ′≈−Iu/c2 で,その電気力は K の磁気力 euB に一致する.

  • 平行に進む電子線では,磁気力は電気力の v2/c2 倍で,合力は FE/γ2=F0/γ になる.

  • 力の大きさは系によって違ってよい.比べるべきは,横にずれる距離などの運動の予測である.