問いしるべ
問いから始める物理 回転と剛体

回転と剛体

モーメントの計算と点の選び方

著者:柚木芹香

モーメントの符号と点の選び方を整理して,例題でつり合いの式を立てます.

定理 数学の道具:モーメントの計算

計算の手順 点 O を原点にとり,位置 (x,y) に働く力 (Fx,Fy) のモーメントは

NO=xFy−yFx

である.反時計回りが正,時計回りが負.腕の長さ d を使うときは,回る向きを見て ±dF とする.作用線が O を通れば d=0 でモーメントは0.

点の選び方は自由 力の和が 0 のとき,点 O のまわりのモーメントの和と,別の点 O′(座標 (a,b))のまわりの和は等しい.

証明. O′ を原点としたときの座標は (xi−a, yi−b) なので

∑NO′=∑[(xi−a)Fiy−(yi−b)Fix]=∑NO−a∑Fiy+b∑Fix

∑F=0 なら,右辺の第2項と第3項が0になって ∑NO′=∑NO.よって ∑NO=0 なら,どの点のまわりでも 0 である.

練習 1.

  1. 点 (3,0)m に力 (0,5)N が働くとき,原点のまわりのモーメントを求めよ.

  2. 点 (0,2)m に力 (4,0)N が働くとき,原点のまわりのモーメントを求めよ.

答え:(1) 3×5−0×0=15Nm(反時計回り).(2) 0×0−2×4=−8Nm(時計回り).

練習 2. 原点のまわりのモーメントを求めよ.(1) 点 (2,1)m に力 (3,4)N.(2) 点 (−0.50,0)m に力 (0,−10)N.(3) 点 (1,0)m に (0,5)N,点 (−1,0)m に (0,−5)N(合力0の偶力).

答え:(1) 2×4−1×3=5Nm.(2) (−0.50)×(−10)−0=5.0Nm(反時計回り).(3) 5+5=10Nm.偶力のモーメントは,どの点のまわりでも同じになる.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

長さ 4.0m,質量 10kg の一様な板を,左端から 1.5m の位置の支点 P にのせ,シーソーにした.左端に質量 30kg の子が座り,右端に質量 m の子が座って,板が水平につり合った.重力加速度を g とする.

水平な板,支点 P,左端の子と右端の子を描き,左端から支点までの距離と板の長さを寸法線で示す. 水平な板,支点 P,左端の子と右端の子を描き,左端から支点までの距離と板の長さを寸法線で示す.
  1. m を求めよ.

  2. 支点が板に及ぼす力を求めよ.また,左端のまわりでも確かめよ.

解答を見る

考え方 回転しない条件は,未知の力(支点の力)が通る P のまわりで立てる.

  1. P のまわりで,子A(左,距離 1.5m)は反時計回り,板の重心(右へ 0.50m)と子B(右へ 2.5m)は時計回りにモーメントをもつ.

30g×1.5=10g×0.50+mg×2.5

より 45=5+2.5m,m=16kg.

  1. 鉛直方向のつり合いから,支点の力は (30+10+16)g=56g≈5.5×102N(上向き).左端のまわりでは 56g×1.5=84g と 10g×2.0+16g×4.0=84g が等しく,つり合う.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

質量 4.0kg,長さ l の一様な棒の一端 O が,壁にちょうつがいで取り付けてある(ちょうつがいは自由に回り,力を及ぼす).棒は水平で,他端 B に質量 2.0kg のおもりをつるし,B を壁の上の点と糸で結んだところ,糸は水平と 30∘ の角をなした.g=9.8ms−2 とする.

壁,水平な棒,端 B のおもり,B から壁へ斜め上に伸びる糸(30^{\circ})を描く.ちょうつがい O に向きが未知の力を点線の矢印で示す. 壁,水平な棒,端 B のおもり,B から壁へ斜め上に伸びる糸(30^{\circ})を描く.ちょうつがい O に向きが未知の力を点線の矢印で示す.
  1. 糸の張力を求めよ.

  2. ちょうつがいが棒に及ぼす力の水平成分と鉛直成分を求めよ.

  3. 糸が耐えられる張力が 100N までのとき,つるせるおもりの質量の最大値を求めよ.

解答を見る

考え方 O のまわりでモーメントを立てると,ちょうつがいの力が式から消える.張力は成分に分けて使う.

  1. O のまわりで,張力の鉛直成分 Tsin⁡30∘(腕 l)は反時計回り,棒の重力(腕 l/2)とおもりの重力(腕 l)は時計回りである.

Tsin⁡30∘×l=4.0g×l2+2.0g×l

より 0.50T=4.0g,T=8.0g≈78N.l は消える.

  1. 水平方向:張力の壁に向かう成分 Tcos⁡30∘ を打ち消すため,ちょうつがいの力は H=Tcos⁡30∘≈68N(壁から離れる向き).鉛直方向:V+Tsin⁡30∘=(4.0+2.0)g より V=2.0g≈20N(上向き).

  2. おもりを M とすると,O のまわりで 0.50T=(2.0+M)g.T=100N で 2.0+M=509.8≈5.1.M≈3.1kg.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

長さ 5.0m,質量 10kg の一様なはしごを,なめらかな壁に床と 60∘ の角で立てかけた.床との静止摩擦係数は 0.40 である.質量 60kg の人がはしごに沿って登る.

壁に立てかけたはしごと,下端から s の位置の人を描き,床と壁からの力,はしごと人の重力を示す. 壁に立てかけたはしごと,下端から s の位置の人を描き,床と壁からの力,はしごと人の重力を示す.
  1. 人が下端から s の位置まで登ったとき,壁からの垂直抗力 N2 を求めよ.

  2. はしごが滑らずに人が登れる最大の s を求めよ.

  3. 人がはしごの上端まで登っても滑らないためには,静止摩擦係数がいくら以上であればよいか.

解答を見る

考え方 下端 A のまわりでモーメントを立てると,床からの力が消える.滑る限界は f=μN1.

  1. 鉛直方向:N1=(10+60)g=70g.水平方向:f=N2.A のまわりの腕の長さは,N2 が 5.0sin⁡60∘,はしごの重力が 2.5cos⁡60∘,人の重力が scos⁡60∘.

N2×5.0sin⁡60∘=(10g×2.5+60g×s)cos⁡60∘

より N2=(25+60s)g5.0tan⁡60∘.

  1. 滑らない条件 f=N2≤0.40N1=28g に入れると,25+60s≤28×5.0×3≈242.よって s≤3.6m(はしごの長さの約0.7倍).

  2. s=5.0m とすると N2=(25+300)g5.03≈37.5g.37.5g≤μ×70g より μ≥0.54.

ポイント ここまでのまとめ

  • モーメントは NO=xFy−yFx(反時計回りが正).腕の長さを使うときは回る向きで符号を決める.

  • 合力が 0 なら,モーメントの和は点の選び方によらない.

  • 未知の力が多く通る点(支点,ちょうつがい,はしごの下端)を選ぶと,式が簡単になる.