問いしるべ
問いから始める物理 運動量と質点系

運動量と質点系

ロケットと質量が変わる系

著者:柚木芹香

問い

宇宙は真空です.地面も空気も無く,ロケットが押せるものは何もありません.それなのにロケットは加速できます.なぜでしょうか.

もう一つ考えてみましょう.ロケットは燃料を燃やしたガスを,ロケットに対して秒速 3km で後ろへ噴き出します.ロケットは,この噴射速度 3kms−1 より大きな速さで進めるでしょうか(初め静止していた座標系で測ります).

考えてみる

「ガスが地面や空気を押して進む」と考えると,真空で進める理由が説明できません.けれども,ボートの上から荷物を後ろへ投げると,ボートが前へ動く経験があります.押す相手は外にいなくてもよく,投げたものそのものが相手になります.

投げられた荷物は後ろ向きの運動量を持ちます.ボートと荷物をひとまとめにした系には外から力が働かないので,系全体の運動量は変わりません.荷物が後ろ向きの運動量を得た分だけ,ボートは前向きの運動量を得ます.ロケットも同じで,ガスを投げ続ける船だと思えばよいのです.

ただし困ることがあります.ロケットはガスを出すたびに軽くなるので,質量 m が一定という前提の ma=F をそのまま使えません.そこで,ごく短い時間 dt の間の運動量の出入りを調べます.

微小時間の運動量の収支

直線上を進むロケットを考え,進む向きを正とします.時刻 t に質量 m,速度 v だったとします.外力は無いとします.dt の間に,ロケットはガスを後ろへ噴射し,質量が dm だけ変わります.ガスを出すので dm は負の数で,噴き出したガスの質量は −dm です.ガスは,ロケットに対して速さ u で後ろへ出ていきます.この u を噴射速度といいます.

時刻 \(t\) と \(t+dt\) の2コマ.上のコマは質量 \(m\) で速度 \(v\) のロケット.下のコマは質量 \(m+dm\) で速度 \(v+dv\) のロケットと,後ろへ出ていく質量 \(-dm\) のガス.ガスの速度 \(v-u\) を矢印で示す. 時刻 \(t\) と \(t+dt\) の2コマ.上のコマは質量 \(m\) で速度 \(v\) のロケット.下のコマは質量 \(m+dm\) で速度 \(v+dv\) のロケットと,後ろへ出ていく質量 \(-dm\) のガス.ガスの速度 \(v-u\) を矢印で示す.

噴射の前後で,ロケットとガスを合わせた運動量は変わりません.地面から見たガスの速度は v−u なので

mv=(m+dm)(v+dv)+(−dm)(v−u)

です.右辺を展開すると

mv=mv+mdv+vdm+dmdv−vdm+udm

となり,mv と vdm が消えて

mdv+dmdv+udm=0

が残ります.dmdv は微小量どうしの積で,ほかの項よりずっと小さいので落とします(理由は次の節で確かめます).

法則 ロケットの運動方程式

外力が無いとき

mdv=−udm

がなりたつ.u はロケットに対するガスの噴射速度で,dm<0 なので右辺は正,つまりロケットは加速する.

両辺を dt で割ると mdvdt=u(−dmdt) です.右辺は,ロケットが受ける前向きの力と見なせます.

F=u(−dmdt)

で,噴射速度と毎秒の噴射質量の積です.これを推力といいます.噴射速度が大きく,たくさん噴き出すほど,推力が大きくなります.

ツィオルコフスキーの式

加速度は a=um(−dmdt) で,質量が減ると増えるなど,一般には一定とは限りません.そこで mdv=−udm を dv=−udmm と書き,両辺を積分します.最初の質量を m0,速度を 0,いまの質量を m,速度を v とし,u は一定とすると

∫0vdv′=−u∫m0mdm′m′⟹v=−uln⁡mm0

です.

公式 ツィオルコフスキーの式

v=uln⁡m0m

最終的な速さは,噴射速度と,質量が何分の1になったか(質量比 m0/m)の対数だけで決まる.

速度比v/uは質量比m₀/mの対数であり,曲線は(1,0)から始まる. 速度比v/uは質量比m₀/mの対数であり,曲線は(1,0)から始まる.

質量比と速さの関係は次のとおりです.

m0/m

2

e(≈2.7)

10

100

v/u

0.69

1

2.3

4.6

質量比が e を超えれば,ロケットの速さは(初め静止していた座標系で測って)噴射速度 u より大きくなります.これは質量の約63 %(1−1/e)を噴き出せば達成されます.問いに答えると,u=3.0kms−1 で質量が 1/10 になれば v=3.0×ln⁡10≈6.9kms−1 で,噴射速度 3.0kms−1 の2倍以上です.

また,この式から,速さを増すには噴射速度を上げるのが効くとわかります.質量比で稼ぐには,v を2倍にするために質量比を2乗しなければならず,なかなか効きません.

重力があるとき

地表近くで初速度0から鉛直上向きに飛び,噴射速度 u と重力加速度 g は一定,空気抵抗は無いとします.ロケットには重力 mg が下向きに働きます.dt の間に重力の力積 −mgdt が加わるので

mdv=−udm−mgdt⟹dv=−udmm−gdt

です.噴射を始めてから時間 t たったときの速さは

v=uln⁡m0m−gt

となります.重力の分 gt だけ損をするので,燃焼時間が長いほど不利です.燃焼時間が 150s なら gt≈1.5kms−1 を失います.ロケットが短い時間に一気に燃料を使うのはこのためです.

質量が減るもう一つの例

砂を積んだ台車が,滑らかな水平面を一定の速さ v で進んでいます.台車の底の穴から砂がこぼれ続けるとき,台車の速さはどうなるでしょうか.

水平面を速さ \(v\) で進む台車と,底の穴から真下にこぼれ落ちる砂.こぼれる瞬間の砂は台車と同じ水平速度 \(v\) を持つ. 水平面を速さ \(v\) で進む台車と,底の穴から真下にこぼれ落ちる砂.こぼれる瞬間の砂は台車と同じ水平速度 \(v\) を持つ.

こぼれた砂は,離れる瞬間に台車と同じ水平の速度を持っています.ロケットの式でいえば,ガスの噴射速度が u=0 の場合なので,mdv=0 で台車の速さは変わりません.

ポイント ここまでのまとめ

  • ロケットはガスを後ろへ噴射し,その反作用で進む.ロケットとガスを合わせた運動量は保存し,押す相手は噴射したガスなので,地面や空気のような外の相手は要らず,真空でも進める.

  • 外力が無いとき mdv=−udm.推力は(噴射速度)×(毎秒の噴射質量)である.

  • 噴射速度 u が一定なら v=uln⁡(m0/m).質量比が e を超えれば,噴射速度 u より大きな速さで進める.u=3.0kms−1 で質量が 1/10 になれば約 6.9kms−1 である.

  • 鉛直上向きに飛び,g が一定で空気抵抗が無く,初速度0,u が一定なら v=uln⁡(m0/m)−gt で,燃焼時間が長いほど損をする.

  • 質量が変わる物体では,持ち去られた分や付け加わった分の運動量も数える.