問いしるべ
問いから始める物理 回転と剛体

回転と剛体

転がりの演習

著者:柚木芹香

重心の並進と重心まわりの回転を分け,接点が滑るかどうかを先に確かめてください.摩擦力の向きは重心の速度だけで決めず,接点で起こりそうな相対運動から考えましょう.

演習 1

オリジナル ★★☆☆☆

質量 M,半径 R の一様な円柱が,角 θ(0<θ<π/2) の斜面を静止から滑らずに転がる.IG=MR2/2 とする.

  1. 加速度と摩擦力を求めよ.

  2. 必要な静止摩擦係数の最小値と,高さ h 下がったときの速さを求めよ.

傾きθの斜面上に円柱M,Rを描き,重心の落下高さhを示す.摩擦の向きは描かない. 傾きθの斜面上に円柱M,Rを描き,重心の落下高さhを示す.摩擦の向きは描かない.
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考え方 斜面下向きの並進と,斜面を下る回転を正にとる.摩擦力は回転を増すために斜面上向きに働くと仮定し,符号を確かめる.

  1. Ma=Mgsin⁡θ−f,(MR2/2)α=fR,a=Rα なので f=Ma/2.したがって a=2gsin⁡θ/3,f=Mgsin⁡θ/3.正の値なので仮定した向きでよい.重力と垂直抗力は重心のまわりのトルクを持たない.

  2. N=Mgcos⁡θ と f≤μN より μmin=tan⁡θ/3.エネルギー保存は Mgh=12Mv2+12(MR2/2)(v/R)2=3Mv2/4 なので v=4gh/3.摩擦係数が最小値未満なら滑りが生じ,この解答の束縛条件は使えない.また摩擦が働いていても,静止した斜面上の接点の速度は0なので,摩擦力による全仕事は0である.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 M,半径 R の一様な球と細い輪を,同じ速さ v0 で同じ斜面へ滑らずに転がり上がらせる.始めの角速度はともに v0/R.静止摩擦は十分で,転がり抵抗はない.

  1. 各物体の重心が上がる最大高さを求めよ.

  2. 上昇中の摩擦力の向きを説明し,最高点で回転だけが残らない理由を述べよ.

上り斜面に入る球と輪を別々の小図に描き,どちらにも斜面上向きの初速度v₀を示す. 上り斜面に入る球と輪を別々の小図に描き,どちらにも斜面上向きの初速度v₀を示す.
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考え方 同じ重心速度でも回転エネルギーは形によって違う.滑らない限り並進と回転は同時に止まるため,初めの全運動エネルギーを位置エネルギーに変えられる.

  1. IG=kMR2 とすれば初めのエネルギーは M(1+k)v02/2.よって h=(1+k)v02/(2g).球は k=2/5 なので h球=7v02/(10g),輪は k=1 なので h輪=v02/g.輪のほうが高く上がる.下りの競走で球が速いこととは初期条件が違う.

  2. 摩擦力は斜面上向きである.上昇する回転を減らすトルクを与え,並進の減速と回転の減速を対応させる.摩擦を除けば重力は重心を減速させるが回転を減らせず,接点は斜面下向きに滑ろうとする.最高点でも v=Rω が成立するので,v=0 なら ω=0.その瞬間にも斜面下向きの加速度は残り,続いて転がり下りる.

演習 3

オリジナル ★★★☆☆

質量 M,半径 R の一様な円柱を粗い水平床に置き,中心に一定の水平右向き力 F>0 を加える.初め静止しており,滑らずに転がるとする.

  1. 重心の加速度と摩擦力を求めよ.

  2. 滑らないための F の条件を静止摩擦係数 μ で表し,中心が距離 s 進む間のエネルギー収支を示せ.

水平床上の円柱と,中心Gに作用する右向きの力Fを描く.摩擦力の向きは示さない. 水平床上の円柱と,中心Gに作用する右向きの力Fを描く.摩擦力の向きは示さない.
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考え方 中心に加えた力は重心まわりのトルクを持たない.転がる回転を作るのは床の摩擦力である.

  1. 摩擦を左向きに f とおくと Ma=F−f,(MR2/2)α=fR,a=Rα.よって a=2F/(3M),f=F/3 で,摩擦は左向きである.もし摩擦がなければ中心だけが加速し,円柱は回転を始めずに右へ滑る.摩擦力はその接点の相対運動を抑える向きに働いている.

  2. N=Mg より F/3≤μMg,すなわち F≤3μMg.静止から距離 s 進むと v2=2as=4Fs/(3M).全運動エネルギーは 3Mv2/4=Fs となり,外力 F の仕事に等しい.並進には (F−f)s=2Fs/3,回転には fRθ=Fs/3 が配分される.摩擦による並進と回転への寄与は互いに相殺し,摩擦力の全仕事は0となる.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 M,半径 R の一様な円柱を,回転させずに右向きの速さ v0 で粗い水平床へ置く.動摩擦係数は μ′>0,IG=MR2/2 とする.空気抵抗と転がり抵抗はない.

  1. 滑りが止まるまでの時間と,そのときの重心の速さを求めよ.

  2. 失われた力学的エネルギーを求め,滑りが止まった後の摩擦力を答えよ.

床に置かれた円柱の初速度v₀と初期角速度ω₀=0を示す.接点と中心Gを明示する. 床に置かれた円柱の初速度v₀と初期角速度ω₀=0を示す.接点と中心Gを明示する.
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考え方 滑っている間は v=Rω を使えない.並進と回転を別々に解き,接点の相対速度が0になる時刻を求める.時計回りの角速度を正にする.

  1. 摩擦は左向きに μ′Mg なので v=v0−μ′gt,ω=2μ′gt/R.接点の速度は v−Rω=v0−3μ′gt で,ts=v0/(3μ′g) に0になる.そのとき vs=2v0/3,ωs=2v0/(3R).接点の速度はこの時刻まで正であり,摩擦の向きを途中で変える必要はない.

  2. 初めは K0=Mv02/2,最後は Ks=3Mvs2/4=Mv02/3.したがって損失は Mv02/6.摩擦係数は滑る時間を変えるが,この損失には現れない.滑りが止まった後は水平外力がなく,Ma=−f,Iα=fR,a=Rα を同時に満たすのは a=f=0 である.したがって一定速度で転がり続け,摩擦力は0となる.

ポイント 教える人へ

  • 滑りがある区間とない区間を,接点の相対速度で区切らせる.

  • 上り斜面でも摩擦が上向きになる理由を,回転の減速から説明させる.

  • 摩擦の全仕事と,並進エネルギーだけの変化を混同させない.

  • 転がっていることだけを根拠に,摩擦力が必ず存在すると考えさせない.