問いしるべ
問いから始める物理 回転と剛体

回転と剛体

転がりの束縛条件と例題

著者:柚木芹香

滑らずに転がる条件を微分で扱い,並進と回転のエネルギーが分かれる理由を確かめます.そのあと例題に進みます.

数学の道具

定理 数学の道具:束縛条件の微分とエネルギーの分離

束縛条件の微分. 半径 R の円板が右へ滑らずに転がるとする.回転角 θ を時計回りに測ると,中心の位置は x=Rθ である.時間で微分すると

v=x˙=Rω,a=x¨=Rα

となる.これは「接点の速度が0」という条件を,中心の位置と回転角の関係として書いたものである.円周上の各点の速度と,最初に接点だった点が描くサイクロイドは,前の題材「剛体の平面運動」の例題で求めた(接点で0,頂点で 2v).

エネルギーの分離. 質点 mi の速度を,重心の速度 vG と重心に対する速度 ui の和 vi=vG+ui で表すと

K=∑12mi|vG+ui|2=12MvG2+vG⋅∑miui+∑12miui2

である.重心に対する位置の質量加重平均は0だから,その時間微分 ∑miui も0で,真ん中の項は消える.剛体では ui=riω(ri は重心を通る回転軸からの距離)なので,最後の項は 12IGω2 である.

練習 1. 質量 3.0kg,半径 0.20m の一様な円板が,滑らずに速さ 2.0ms−1 で転がっている.角速度と運動エネルギーを求めよ.

答え:ω=v/R=10rads−1,K=12×3.0×2.02+12×(12×3.0×0.202)×102=9.0J.

練習 2. (1) 質量 2.0kg の薄い輪(I=MR2)が速さ 1.0ms−1 で滑らずに転がっている.運動エネルギーを,重心の分と回転の分に分けて求めよ.(2) 一様な円板(I=12MR2)が,高さ 0.30m の斜面を静止から滑らずに転がり下りた.下での速さを求めよ.

答え:(1) 重心の分 12×2.0×1.02=1.0J,回転の分 12MR2(v/R)2=1.0J,合計 2.0J.(2) Mgh=12Mv2+12⋅12MR2(v/R)2=34Mv2 より v=4gh/3≈2.0ms−1.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

質量 2.0kg,半径 0.10m の一様な球が,傾き 30∘ の斜面を滑らずに転がり降りる.g=9.8ms−2 とする.

  1. 重心の加速度の大きさと,球の角加速度を求めよ.

  2. 摩擦力の大きさと,必要な静止摩擦係数の最小値を求めよ.

傾き 30^\circ の斜面を転がる球.重力 Mg,垂直抗力 N,斜面に沿って上向きの静止摩擦力 f を描く. 傾き 30^\circ の斜面を転がる球.重力 Mg,垂直抗力 N,斜面に沿って上向きの静止摩擦力 f を描く.
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考え方 重心の運動方程式と重心まわりの回転の運動方程式を立て,a=Rα で結ぶ.球では IG=25MR2 である.

  1. 斜面に沿って下向きを正とする.Ma=Mgsin⁡θ−f,25MR2α=fR,α=a/R より f=25Ma.よって

a=57gsin⁡30∘=3.5ms−2,α=aR=35rads−2
  1. f=25×2.0×3.5=2.8N.垂直抗力は N=Mgcos⁡θ≈17N だから,μ≥fN≈0.17(27tan⁡30∘ と同じ)である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

質量 M=0.20kg,外半径 R=0.040m,軸の半径 r=0.010m のヨーヨーがある.軸に巻いた糸の端を固定して手を離すと,糸がほどけながら真下に落ちる.ヨーヨーは一様な円板(I=12MR2)と見なし,糸の厚さは無視する.g=9.8ms−2 とする.

加速度の大きさと糸の張力を求めよ.

糸を軸に巻いたヨーヨーと,上で固定された糸.重力 Mg が重心に,張力 T が糸のほどける点に働く.軸の半径 r と外半径 R を示す. 糸を軸に巻いたヨーヨーと,上で固定された糸.重力 Mg が重心に,張力 T が糸のほどける点に働く.軸の半径 r と外半径 R を示す.
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考え方 糸のほどける点は,その瞬間は動かない.重心の速さは v=rω,加速度は a=rα である.

下向きを正とする.Ma=Mg−T,Iα=Tr,a=rα より T=Ir2a.

a=g1+I/(Mr2),IMr2=R22r2=8.0

だから a=9.89.0≈1.1ms−2.T=M(g−a)≈1.7N である.落ちて失った位置エネルギーの 89 は回転に使われる.

例題 3

オリジナル ★★★★☆

水平な台の上に,質量 M,半径 R の一様な球が静止している.台との動摩擦係数は μ′=0.20 である.ビリヤードのキューで球の中心の高さを水平に突き,初速 v0=3.5ms−1 を与える(回転は与えない).球は最初は滑り,やがて滑らずに転がり始める.g=9.8ms−2 とする.

  1. 転がり始めるまでの時間と,そのときの速さを求めよ.

  2. 中心より b だけ高い位置を突くと,突いた直後から滑らずに転がった.b を求めよ.

台の上の球を水平に突くキューの図.(1) は中心の高さを,(2) は中心より b だけ上を突く.球に働く動摩擦力 f の向きも示す. 台の上の球を水平に突くキューの図.(1) は中心の高さを,(2) は中心より b だけ上を突く.球に働く動摩擦力 f の向きも示す.
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考え方 滑っている間は,一定の動摩擦力 μ′Mg が働く.並進と回転の運動方程式から v(t) と ω(t) を求め,v=Rω となる時刻を探す.

  1. 進む向きを正とする.摩擦力は逆向きで,Mv˙=−μ′Mg,25MR2ω˙=μ′MgR.よって

v=v0−μ′gt,ω=5μ′g2Rt

v=Rω とおくと v0−μ′gt=52μ′gt で

t=2v07μ′g≈0.51s,v=57v0=2.5ms−1

である.

  1. 突いたときの力積を J とすると,Mv0=J,Iω0=Jb.v0=Rω0 より 25MR2⋅v0R=Mv0b,すなわち b=25R である.

ポイント ここまでのまとめ

  • 滑らずに転がる条件 x=Rθ を微分して v=Rω,a=Rα.

  • 運動エネルギーは,重心の 12Mv2 と重心まわりの回転 12IGω2 の和に分かれる.

  • 斜面を転がる球は a=57gsin⁡θ.ヨーヨーは a=g/(1+I/(Mr2)).

  • 初めに回転していない一様な球が,水平な粗い床の上で滑りから転がりに変わるとき,v=57v0 になる(円板なら 23v0,輪なら 12v0 で,物体の形と初めの回転で変わる).