問いしるべ
問いから始める物理 測定と不確かさ(発展)

測定と不確かさ(発展)

ばらつきと偏り

著者:柚木芹香

問い

前の題材の振り子(l=0.7989m)で,10周期の時間 t10 を,同じ人が同じやり方で10回測りました.結果は次のとおりです(説明のために作った例の値です).

回

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

t10[s]

17.91

18.00

17.95

17.86

17.99

17.93

18.01

17.90

17.97

17.88

同じものを同じように測ったのに,値は 17.86s から 18.01s まで散らばっています.どれが正しい値なのでしょうか.正しい値は,このどれかなのでしょうか.

考えてみる

10個の値のどれかを選ぶ理由はありません.どれも同じ手順で得た,同じ資格を持つ値です.そこで平均を取るのは自然ですが,2つの疑問が残ります.1つは,平均がどれだけ確かなのかです.10個の値の散らばりが 0.15s ほどあるからといって,平均も 0.15s ほど違いうるのでしょうか.もう1つは,10個すべてが同じ向きにずれていたら,平均してもそのずれは見えない,ということです.散らばりは表から見えますが,全体の偏りは表を見ても分かりません.この節では,この2つを分けて考えます.

誤差と不確かさ

測る量のほんとうの値を真の値といい,測定値と真の値の差を誤差といいます.ところが,真の値を知る方法はないので,誤差そのものも知ることができません.知ることができるのは,「測った結果がどれだけ疑わしいか」です.これを数で表したものが不確かさです.測定の結果は,値と不確かさの組で報告します.

計測の国際的な指針(GUM と呼ばれます)は,この区別を大切にしています.「誤差が 0.02」とは言えませんが,「不確かさが 0.02」とは言えます.

平均とばらつき

N 個の測定値 x1, …, xN の平均を

x¯=1N∑i=1Nxi

とします.各値の平均からのずれ xi−x¯ を偏差といいます.偏差は正にも負にもなり,その和は必ず0なので,ばらつきの大きさは偏差の2乗を使って測ります.

定義 標準偏差

測定値 x1, …, xN の標準偏差を

s=1N−1∑i=1N(xi−x¯)2

で定める.1回の測定値が,平均のまわりにどれだけ散らばるかの目安である.

N ではなく N−1 で割る理由は,次の節で説明します.問いのデータでは t¯10=17.940s,s=0.052s です(計算は次の節).

測定を何回も繰り返すと,値のヒストグラムは,平均のところが高い釣り鐘の形に近づくことが多く,この形を正規分布といいます.正規分布では,平均から ±s の範囲に約 68 %,±2s の範囲に約 95 % の値が入ります.問いのデータでも,偏差が ±0.052s 以内の値は10個中6個,±0.104s 以内は10個すべてです.

[図:測定値のばらつきと平均の不確かさ]

初期状態は本文の10回の測定で,平均17.940 s,標準偏差約0.052 s,平均の標準不確かさ約0.0165 s.青の帯は平均±s,緑の帯は平均±s/√N.回数を追加するとヒストグラムと帯が変わる.11回目以降は固定した乱数の種による模擬測定.

平均はどれだけ確かか

s は1回の測定値の散らばりです.平均は,散らばった値を N 個まとめたものなので,1回の値よりも散らばりにくくなります.10回の平均を取る実験を何度も繰り返したとすると,平均の値どうしの散らばりは s よりずっと小さく,およそ s/N になります.理由は次の節で示します.

定義 標準不確かさ

不確かさを標準偏差の形で表したものを標準不確かさといい,u(x) と書く.評価の方法は2つある.

  • タイプA:繰り返し測定の統計から求める.N 回の平均の標準不確かさは u(x¯)=sN.

  • タイプB:それ以外の情報(目盛り・分解能,測定器の仕様,過去の経験など)から求める.

問いのデータでは u(t¯10)=0.05210=0.017s です.10周期で割ると,周期は T=1.7940s,標準不確かさは u(T)=0.0017s となります.問いへの答えは,「どれか1つが正しい値なのではなく,平均 17.940s が最も信じられる値で,その標準不確かさが 0.017s」です.

N で減るということは,不確かさを半分にするには回数を4倍に,110 にするには100倍にしなければならないということです.回数を増やす効き目は,だんだん小さくなります.

偶然誤差と系統誤差

定義 偶然誤差と系統誤差

測るたびに向きも大きさも変わるずれを偶然誤差,同じ条件で測るといつも同じ向きに同じくらい出るずれを系統誤差という.繰り返して平均すると偶然誤差の影響は 1/N で小さくなるが,系統誤差は繰り返しても減らない.

ストップウォッチを押すずれには,両方が混じっています.押す瞬間が毎回少しずつ違うのは偶然誤差です.一方,振り子が目印を通るのを見てから押し始めると反応の分だけ遅れ,止めるときは次の通過を予測して押せるのでほとんど遅れない,という癖があると,毎回 t10 が短く出ます.これは系統誤差です.ほかにも,端がすり減ったものさしで端から測る,前の題材の例題のようにおもりの半径を足し忘れる,といったずれは,何回測っても同じように出ます.

系統誤差は,同じやり方を繰り返しても見えません.見つけるには,やり方を変えて測ります.別の人が測る,別の測定器を使う,測る周期の数を変える,などです.やり方を変えて結果が変わるなら,どこかに系統誤差があります.原因が分かったら補正し(半径を足す,ものさしの端を使わない),補正しきれない分は,その大きさを見積もって不確かさに含めます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 誤差(真の値とのずれ)は知りえない.測った結果がどれだけ疑わしいかを数で表したものが不確かさで,標準偏差の形で表したものが標準不確かさである.

  • 繰り返し測定では,平均 x¯ を値とし,1回の散らばりを標準偏差 s,平均の標準不確かさを s/N とする(タイプA).目盛りや仕様からの評価がタイプB.

  • 偶然誤差は平均で減るが,系統誤差は繰り返しても減らない.やり方を変えて見つけ,補正する.

  • 問いの答え:どれか1つが正しいのではない.平均 17.940s が最も信じられる値で,標準不確かさは 0.017s.ただし,全部が同じ向きにずれていないかは,別の方法で確かめる.