問いしるべ
問いから始める物理 測定と不確かさ(発展)

測定と不確かさ(発展)

ばらつきと平均の計算

著者:柚木芹香

前の節で,平均・標準偏差・平均の標準不確かさ s/N を使いました.この節では,それらを手で計算する方法と,N で割る理由,N−1 で割る理由を確かめます.

定理 数学の道具:平均と標準偏差,N で減る理由

基準値を引いて計算する. 測定値 xi から,適当な基準値 c を引いた di=xi−c で計算すると,数が小さくなって楽になる.平均は x¯=c+d¯ である.偏差の2乗の和は,次の式で求められる.

∑i=1N(xi−c)2=∑i=1N(xi−x¯)2+N(x¯−c)2

導出:xi−c=(xi−x¯)+(x¯−c) を2乗して足すと,交差項は 2(x¯−c)∑(xi−x¯)=0 となって消える(偏差の和は0).

N で減る理由. 真の値を μ とし,i 回目の測定値を xi=μ+εi と書く.偶然誤差 εi は,正にも負にも同じように出て,2乗を多数回にわたって平均すると σ2 になるとする.多数回の繰り返しについての平均を ⟨ ⟩ で表すと,⟨εi⟩=0,⟨εi2⟩=σ2 である.平均のずれは x¯−μ=1N∑εi で,その2乗は

(∑iεi)2=∑iεi2+∑i≠jεiεj

と書ける.各回のずれが互いに関係しない(独立)なら,εiεj(i≠j)は正にも負にも同じように出るので,⟨εiεj⟩=0 である.よって

⟨(x¯−μ)2⟩=1N2⋅Nσ2=σ2N

となり,平均のずれの大きさは σ/N である.N 個のずれは,足すと一部が打ち消し合うので,和は N 倍ではなく N 倍にしかならない.これを N で割るから 1/N が出る.

N−1 で割る理由. 上の恒等式で c=μ とおいて,⟨ ⟩ を取ると

Nσ2=⟨∑(xi−x¯)2⟩+N⋅σ2N

よって ⟨∑(xi−x¯)2⟩=(N−1)σ2 である.偏差を,真の値ではなくデータ自身の平均から測ると,平均がデータの真ん中に寄っている分だけ2乗の和が小さく出る.その不足がちょうど1回分なので,N−1 で割ると σ2 の見積もりになる.

一様に散らばるずれの標準偏差. デジタル表示の丸めのように,ずれが −a から a までのどこにも同じ確からしさで出るとき,2乗の平均を求める.区間の上で連続的に変わる量の平均は,区間全体での積分を区間の幅で割ったもの(短い区間に分けて足した平均の極限)なので,

12a∫−aaε2dε=12a⋅2a33=a23

したがって標準不確かさは a/3 である(タイプBの評価でよく使う).

練習. 測定値 2.3, 2.5, 2.4, 2.6 の平均と標準偏差を求めよ.

答え:c=2.4 とすると di=−0.1, 0.1, 0, 0.2.d¯=0.05 より x¯=2.45.∑di2=0.06 から ∑(xi−x¯)2=0.06−4×0.052=0.05.s=0.05/3=0.13.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

前の節の問いの10個の t10(17.91, 18.00, 17.95, 17.86, 17.99, 17.93, 18.01, 17.90, 17.97, 17.88s)について,平均 t¯10,標準偏差 s,平均の標準不確かさ u(t¯10) を求めよ.また,周期 T とその標準不確かさ u(T) を求めよ.

解答を見る

考え方 基準値 c=17.90s を引き,0.01s を単位にして整数で計算する.

di は 0.01s 単位で 1, 10, 5, −4, 9, 3, 11, 0, 7, −2.和は 40 なので,d¯=4,つまり t¯10=17.90+0.04=17.940s.∑di2=406 より

∑(ti−t¯10)2=406−10×42=246(単位 10−4s2)

すなわち 0.0246s2.よって

s=0.02469=0.052s,u(t¯10)=0.052310=0.017s

周期は T=t¯10/10=1.7940s,u(T)=0.0017s である.確かめとして,偏差 ti−t¯10 を直接書くと −3, 6, 1, −8, 5, −1, 7, −4, 3, −6(0.01s 単位)で,和は0,2乗の和は246となって一致する.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

例題 1 の測り方(1回の t10 の標準偏差 s=0.052s)を続ける.

  1. 平均の標準不確かさ u(t¯10) を 0.005s 以下にするには,何回測ればよいか.

  2. 同じ合計時間で比べる.t10 を50回測る場合と,t50 を10回測る場合で,周期の標準不確かさ u(T) はそれぞれいくらか.ただし t50 の1回の標準偏差も 0.052s とする.

  3. ストップウォッチの表示は 0.01s 刻みで,真の時間は表示から ±0.005s の範囲のどこかにあるとする.この丸めによる標準不確かさを求め,s と比べよ.

解答を見る

考え方 繰り返しの効き目は 1/N,まとめて測る効き目は 1/n である.丸めのずれは一様に散らばるとして a/3 を使う.

  1. 0.052N≤0.005 より N≥10.4,N≥108.2,つまり109回以上で,110回ほど要る.10回の11倍の手間で,不確かさは 13 ほどにしかならない.

  2. t10 を50回:u(T)=0.05250÷10=0.00074s.t50 を10回:u(T)=0.05210÷50=0.00033s.合計時間は同じでも,長くまとめて測るほうが約2.2倍よい.回数の効き目は 5 倍,まとめる効き目は5倍だからである(ただし前の題材のとおり,数え違いと振れ幅の減りに注意する).

  3. a=0.005s なので u=0.0053=0.0029s.s=0.052s の約18分の1で,人の手のばらつきに比べて無視できる.表示を 0.001s まで細かくしても,結果はほとんど良くならない.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

別の人が,同じ振り子(l=0.7989m)で t10 と t20 をそれぞれ何回か測り,平均が t¯10=17.99s,t¯20=35.93s になった.この人の押し方には,押し始めと押し終わりの反応の違いによる一定のずれがあるかもしれない.そこで,どの測定にも同じ系統誤差 δ(正にも負にもなりうる一定の値)が入るとして,n 周期の時間を tn=nT+δ と表して調べる.

横軸は周期の数 n,縦軸は測った時間 t_n.横軸に0,10,20の目盛りを置く.例題の測定点と直線は示していない. 横軸は周期の数 n,縦軸は測った時間 t_n.横軸に0,10,20の目盛りを置く.例題の測定点と直線は示していない.
  1. T と δ を求めよ.

  2. この人が t¯10/10 を周期として g=4π2l/T2 を計算すると,g はいくらになるか.(1) の T を使うとどうなるか.

  3. t10 だけを何百回測っても δ が見つからない理由を述べよ.

解答を見る

考え方 tn=nT+δ の2つの式を引けば δ が消える.これは tn と n のグラフの傾きが T,切片が δ ということでもある.

  1. t¯20−t¯10=10T より T=35.93−17.9910=1.794s.δ=t¯10−10T=17.99−17.94=0.05s.毎回 0.05s 長く測っていた(止めるのが遅れる癖だった).

  2. t¯10/10=1.799s を使うと g=4π2×0.79891.7992=9.745ms−2.(1) の T=1.794s を使うと 9.800ms−2 になる.δ による g のずれは 0.055ms−2 で,次の題材で求める,t10 10回の偶然誤差による g の不確かさ(0.02ms−2 ほど)より大きい.確かめとして,第2章の一次近似を使うと,T が 0.0051.794=0.28 % 長いとき g∝T−2 は約 0.56 % 小さくなり,9.800×(1−0.0056)=9.745 と一致する.

  3. どの t10 にも同じ δ が入っているので,平均もちょうど δ だけずれたままである.繰り返しで小さくなるのは,回ごとに変わるずれだけである.δ を見つけるには,測る周期の数を変えるように,やり方を変える必要がある.

ポイント ここまでのまとめ

  • 基準値を引いて計算すると楽になる.∑(xi−c)2=∑(xi−x¯)2+N(x¯−c)2.

  • 独立なずれの和は,2乗の平均が足し算になる(交差項の平均が0).だから N 回の平均のずれは σ/N,偏差の2乗の和は平均して (N−1)σ2 になる.

  • ±a に一様に散らばるずれの標準不確かさは a/3.

  • 同じ時間をかけるなら,回数を増やす(1/N)より,まとめて測る(1/n)ほうが効く.一定の系統誤差は,周期の数を変えて引き算すると見つかる.