問いしるべ
問いから始める物理 光子と電子の波

光子と電子の波

半導体とバンドギャップ

著者:柚木芹香

問い

電球は電流を流すとフィラメントが熱くなり,赤外線を多く含んだ連続した色の光を出します.LED(発光ダイオード)は,同じように電流を流しても手で触れるほどしか温まらず,赤なら赤,青なら青の決まった色で光ります.しかも青い LED を光らせるには,赤い LED より高い電圧が要ります.電気は,どうやって決まった色の光に変わるのでしょうか.

考えてみる

決まった色の光と聞くと,水素原子のスペクトル線を思い出します.電子が準位の間を移ると,差に等しいエネルギー hν=Em−En の光子が1個出るのでした.LED も「準位の差」で色が決まっているのではないか,と考えたくなります.

ところが LED は気体ではなく固体で,1cm3 に 1022 個を超える原子がぎっしり並んでいます.隣の原子との距離は原子の大きさと同じくらいなので,電子は1つの原子に閉じこめられているとは言えません.原子が並ぶと準位がどうなるかを,まず調べる必要があります.

準位が並んで帯になる

同じ原子を2つ遠くに置けば,2つは同じ準位をもっています.近づけて電子が両方の原子にまたがれるようにすると,1つの準位は少し低いものと少し高いものの2つに分かれます.第7章の連成振動で,同じ振り子を2つばねでつなぐと,1つだった振動数が2つの基準振動に分かれたのと同じことです.2つの原子の波動関数を同じ符号で足した状態と,逆の符号で足した状態のエネルギーが違ってくるのです.

原子が N 個並ぶと,1つの準位は N 本に分かれ,それらが数 eV ほどの幅の中にびっしり詰まります.N は 1022 を超えるので,事実上連続した帯(バンド)とみなせます.もとの原子の準位ごとに帯ができ,帯と帯の間には,電子がとれるエネルギーのない隙間が残ります.

[図:原子の間隔とエネルギー準位の分裂]

初期状態は中くらいの原子の間隔で,2個と8個の原子の準位を並べている.横軸は原子の間隔,縦軸は電子のエネルギー.間隔を狭めると各準位が2本,8本へ広がり,帯の間に隙間が残る.スライダーで間隔と選択位置を変えられる.

電子は1つの状態に2個(スピンの向きが逆のもの)までしか入れません(パウリの原理.詳しくは次の発展の第30章).そのため固体の電子は,低い帯から順に状態を埋めていきます.

定義 価電子帯・伝導帯・バンドギャップ

絶対零度で電子がすっかり埋めている帯のうち一番上のものを価電子帯,そのすぐ上の空いた帯を伝導帯という.価電子帯の上端と伝導帯の下端のエネルギーの差をバンドギャップ Eg という.

導体・絶縁体・半導体

電場をかけて電流が流れるには,電子が電場から少しずつエネルギーを受け取って,少し上の空いた状態へ移れなければなりません.すっかり埋まった帯の中では,移れる先がありません.右へ動く電子と左へ動く電子が同じ数ずつ詰まったまま変えられないので,電流は流れません.

  • 金属(導体)では,一番上の帯が途中まで埋まっているので,電子はすぐ上の状態へ移れて電流が流れる.

  • 絶縁体では,価電子帯が埋まり,Eg が 5eV を超えるほど大きいので(ダイヤモンドは 5.5eV),伝導帯に上がれる電子がほとんどない.

  • 半導体は,Eg が 1eV 前後の絶縁体である.ケイ素 Si は 1.12eV,ゲルマニウム Ge は 0.67eV,ヒ化ガリウム GaAs は 1.42eV,窒化ガリウム GaN は 3.4eV.

電子と正孔

半導体では,熱の揺らぎで価電子帯の電子が伝導帯へ上がります.伝導帯の電子は自由に動けて電流を運びます.価電子帯には電子が1個抜けた穴が残り,隣の電子がその穴へ移ると穴が逆向きに動きます.穴の動きは,正の電荷 +e をもつ粒子の動きとまったく同じに扱えるので,これを正孔(ホール)と呼びます.真性半導体(不純物のない半導体)では,電子と正孔は必ず対で生まれるので,電子の数密度 ne と正孔の数密度 nh は等しくなります.この値を ni と書きます.

ni の温度による変化は,ボルツマン因子で見積もれます.第17章で見たように,温度 T で,エネルギーが ΔE 高い状態は exp⁡[−ΔE/(kBT)] に比例する割合で現れるのでした.電子・正孔の対が1組できる割合は,エネルギー Eg が要るので exp⁡[−Eg/(kBT)] に比例します.一方,電子が正孔と出会って消える(再結合する)割合は nenh=ni2 に比例します.生まれる割合と消える割合がつり合うので

ni2∝exp⁡(−EgkBT),ni∝exp⁡(−Eg2kBT)

となります.指数の分母の2は,1組の対が2つの電荷の運び手になることから来ています.

定理 真性半導体の導電率

真性半導体の電子と正孔の数密度は ne=nh=ni∝exp⁡[−Eg/(2kBT)].電荷の運び手の動きやすさの温度変化は指数関数に比べてゆるやかなので,導電率は近似的に

σ(T)=σ0exp⁡(−Eg2kBT)

と書ける(σ0 は一定とみなす).

ケイ素では,室温 300K で kBT=0.0259eV なので Eg/(2kBT)≈21.6 で,ni は約 1×1016m−3 です.原子の数密度 5×1028m−3 と比べると,原子 5×1012 個に1個ほどしか電子が上がっていません.温度が 10K 上がるだけで導電率は約2倍になります.金属では温度が上がると原子の振動で電子が散らされ,抵抗が増えるのとは逆です.この式は Eg が kBT より十分大きいとして,フェルミ分布をボルツマン因子で近似したものです.Eg が kBT の数倍しかない半導体や高温では破れます.

不純物半導体

ケイ素は価電子を4個もち,隣の4個の原子と電子を出し合って結合しています.ここに価電子5個のリン P をわずかに混ぜると,結合に使われない電子が1個余ります.この電子は PA+ のまわりを回る水素原子のような状態をつくりますが,まわりのケイ素が誘電体として電場を比誘電率 εr=11.7 分の1に弱め,結晶の中の電子は質量が見かけ上 0.26m ほどの粒子として振る舞います.ボーア模型のエネルギー E1 は m/ε02 に比例するので,m を 0.26m に,ε0 を εrε0 に置きかえると,結合エネルギーは

13.6eV×0.26(11.7)2≈0.026eV

で,kBT と同じくらいです.室温ではほとんどのリンが電子を伝導帯へ放します.このときの軌道の半径は 0.053nm×11.7/0.26≈2.4nm で,原子の間隔より十分大きいので,ケイ素を一様な誘電体とみなす近似が成り立ちます.

定義 n型半導体とp型半導体

電子を放す不純物(ドナー,ケイ素ではリンなど5価の原子)を混ぜ,主に電子が電流を運ぶものをn型半導体という.電子を受け取って正孔を作る不純物(アクセプター,ケイ素ではホウ素 B など3価の原子)を混ぜ,主に正孔が電流を運ぶものをp型半導体という.

ドナーの数密度 Nd が ni より十分大きければ ne≈Nd です.Nd=1022m−3(原子500万個に1個)でも,電子は真性のときの100万倍になります.運び手の符号は,第22章のホール効果で確かめられます.厚さ d の板では,ホール電圧 VH=IB/(nqd) の符号が q の符号を,大きさが数密度を教えてくれます(第22章では厚さを h と書きましたが,この章ではプランク定数と区別します).

pn接合と整流

p型とn型をつなぐと,境目の近くでn側の電子はp側へ,p側の正孔はn側へ拡散し,出会って再結合します.後には動けないイオン(n側に正のドナー,p側に負のアクセプター)だけが残る空乏層ができます.このイオンが n側からp側へ向かう電場を作り,n側の電位がp側より高くなります.この電位の段差が,電子がさらにp側へ拡散するのを押し戻し,つり合いで止まります.

p側を高い電位にする向き(順方向)に電圧 V をかけると,段差は eV だけ低くなります.段差を越えられる電子の数はボルツマン因子 exp⁡[eV/(kBT)] の割合で増え,電流は急に増えます.逆向き(逆方向)では段差が高くなり,流れるのは熱でわずかにできる少数の運び手による小さな電流 Is だけです.

法則 ダイオードの特性

理想的な pn 接合に順方向の電圧 V をかけたときの電流は

I=Is[exp⁡(eVkBT)−1]

で近似できる.Is は逆方向の飽和電流で,Eg が大きいほど小さい.

室温では kBT/e=25.9mV なので,電圧を 60mV 上げるごとに電流は約10倍になります.そのため特性曲線はケイ素で 0.6V あたりから急に立ち上がって見えます.第21章のダイオードが「ある電圧を超えると急に電流を通す」のはこのためで,問題では「導通中の電圧降下は一定値 VD,それ以下では電流0」という折れ線で近似することがよくあります.

[図:pn接合の段差とダイオードの電流]

初期状態はV = 0.040 Vの順方向.左がp型,右がn型で,伝導帯と価電子帯の電子のエネルギーはp側で高い.電場はn側からp側へ向く.電圧を変えると段差の高さ,n側からp側へ越える電子の矢印の数,電流電圧曲線上の点が変わる.

LED:電気から光へ

順方向に電流を流すと,n側から入った電子とp側から入った正孔が接合の付近で出会って再結合します.電子は伝導帯の底から価電子帯の上端へ落ちるので,エネルギー hν≈Eg の光子を出します.これが LED です.電子の運動エネルギーは kBT 程度ばらつくので,光子のエネルギーも数 kBT の幅に広がりますが,Eg に比べれば小さいので,ほぼ1つの色に見えます.電子1個が段差 Eg を落ちるには,少なくとも Eg/e ほどの電圧が要ります.赤(Eg≈1.9eV)の LED は約 1.8V から,青(Eg≈2.7eV)は約 2.7V から光ります.回路を通る電子1個あたり平均 η 個の光子が出るなら,電流 I の LED が出す光の仕事率は ηIEg/e です.

ケイ素は,電子が光子だけを出して落ちるには運動量が合わない(間接遷移型の)半導体で,再結合のエネルギーは主に結晶の振動,つまり熱になります.LED に GaAs や GaN などの化合物が使われるのはこのためです.

フォトダイオードと太陽電池:光から電気へ

LED の逆も起こります.hν≥Eg の光子が半導体に吸収されると,電子を価電子帯から伝導帯へ持ち上げ,電子・正孔の対が1組できます.hν<Eg の光子は吸収されずに通り抜けます.吸収の端の波長 λ=hc/Eg はケイ素で 1.1μm です.

対が空乏層の中かその近くでできると,接合の電場が電子をn側へ,正孔をp側へ分けます.外の回路では,電子がn側から導線を通ってp側へ回り,正孔と再結合します.したがって対1組につき,外の回路のどの断面も電荷 e が1回通ります.電子と正孔の両方を数えて 2e としてはいけません.単位時間に入る光子のうち割合 η が回路に電流を流すなら,光の仕事率 P に対する光電流は

Iph=ηePhν

です.これが光の検出器(フォトダイオード)です.

太陽電池は,これに負荷をつないで電力を取り出すものです.端子電圧 V は接合に順方向にかかるので,ダイオードの電流が光電流と逆向きに流れ,外へ出る電流は

I=Iph−Is[exp⁡(eVkBT)−1]

になります.短絡すれば I=Iph,開放すれば電流0になる開放電圧 Voc が端子に現れ,Voc は Eg/e より小さくなります.抵抗 R をつなぐと,電流は特性曲線と直線 I=V/R の交点(動作点)で決まり,取り出せる電力 IV は R によって変わります.問題では,この曲線を「V が小さいうちは電流一定,その先は直線で下がる」という折れ線で近似することがあります.

[図:太陽電池の動作点と取り出せる電力]

初期状態は負荷R = 20.0 Ω,光の強さ1.00倍.青が太陽電池の特性曲線,橙が負荷の直線I = V/Rで,交点が動作点.緑の長方形の面積は電力IV.抵抗を変えると直線の傾きと動作点が変わり,光を強くすると光電流が増えて曲線が上がる.

光子のエネルギーのうち Eg を超える分は,電子がすぐに伝導帯の底へ落ちるので熱になり,Eg より小さい光子は使われません.Eg が小さすぎても大きすぎても損が増えるので,太陽光に対しては Eg が 1eV 台の半導体が向いています.

問いに戻る

固体の中では原子の準位が帯になり,半導体では価電子帯と伝導帯の間に幅 Eg の隙間があります.LED に順方向の電流を流すと,接合の付近で伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ち,そのたびに hν≈Eg の光子が1個出ます.色は物質の Eg で決まり,電子1個が Eg を落ちるにはおよそ Eg/e の電圧が要るので,Eg の大きい青い LED ほど高い電圧が要ります.電球のように物体全体を高温にして熱放射で光らせるのではなく,電子1個のエネルギーを直接光子1個に渡すので,熱になる分が少ないのです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 原子が並ぶと準位が帯になる.価電子帯と伝導帯の間の隙間がバンドギャップ Eg で,Eg が 1eV 前後のものが半導体.

  • 真性半導体の電子と正孔は対でできて ni∝exp⁡[−Eg/(2kBT)].導電率は温度とともに急に増える(Eg が kBT より十分大きいときの近似).

  • ドナーを混ぜたn型は電子が,アクセプターを混ぜたp型は正孔が電流を運ぶ.符号はホール効果で分かる.

  • pn 接合の電流は I=Is[exp⁡(eV/(kBT))−1] で,順方向にだけ大きく流れる.

  • LED は hν≈Eg の光子を出し,太陽電池・フォトダイオードは hν≥Eg の光子1個から電荷 e を回路に流す.