問いしるべ
問いから始める物理 光子と電子の波

光子と電子の波

半導体の例題

著者:柚木芹香

前の節で,半導体の色と電気の性質がバンドギャップ Eg で決まることを見ました.この節では,LED の色と明るさ,太陽電池から取り出せる電力,ケイ素の導電率の温度変化を数にします.定数は e=1.60×10−19C,1eV=1.60×10−19J,hc=1.24×10−6eVm,kB=8.62×10−5eVK−1 を使います.光子のエネルギーを eV,波長を nm で表すと hc=1240eVnm なので,光子のエネルギーを eV で表した数で 1240nm を割れば波長になる,と覚えておくと便利です.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

赤い LED のバンドギャップは Eg=1.90eV で,出る光子のエネルギーはすべて Eg に等しいとする.この LED に電圧 2.00V をかけると電流 I=20.0mA が流れ,回路を通る電子1個あたり平均 η=0.300 個の光子が出る.

  1. 出る光の波長を求めよ.

  2. 毎秒出る光子の数と,光の仕事率を求めよ.LED に入る電力のうち光になる割合はいくらか.

  3. 実際には光子のエネルギーは Eg から Eg+2kBT ほどの幅に広がっている.T=300K として,波長の幅を見積もれ.

  4. バンドギャップ 2.70eV の青い LED の光の波長を求め,赤い LED より高い電圧が要る理由を説明せよ.

電池2.00 Vと順方向のLEDを直列につなぎ,電流I = 20.0 mAを流す.伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ち,光子hνを出す.帯の間隔はE_g = 1.90 eVで,η = 0.300. 電池2.00 Vと順方向のLEDを直列につなぎ,電流I = 20.0 mAを流す.伝導帯の電子が価電子帯の正孔へ落ち,光子hνを出す.帯の間隔はE_g = 1.90 eVで,η = 0.300.
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考え方 波長は光子1個のエネルギーで,明るさは光子の数で決まる.光子の数は,電子の数 I/e に η を掛けて数える.

解答

  1. λ=hc/Eg=1240eVnm/1.90eV=653nm で,赤い光である.

  2. 毎秒回路を通る電子の数は I/e なので,毎秒出る光子の数は

ηIe=0.300×2.00×10−21.60×10−19=3.75×1016s−1

である.光子1個のエネルギーは 1.90×1.60×10−19=3.04×10−19J なので,光の仕事率は

Plight=3.75×1016×3.04×10−19=1.14×10−2W=11.4mW

である.これは ηIEg/e=0.300×0.0200A×1.90V と同じである.入る電力は 2.00V×20.0mA=40.0mW なので,光になる割合は 11.4/40.0=0.285,すなわち 28.5 % である.残りは LED と導線の中で熱になる.

  1. kBT=8.62×10−5×300=0.0259eV なので,エネルギーの幅は ΔE=0.0517eV である.λ=hc/E より,幅が小さければ Δλ/λ≈ΔE/E なので

Δλ≈653nm×0.05171.90≈18nm

である.波長の 3 % ほどの幅で,目にはほぼ1つの色に見える.ΔE/Eg が小さいことが,この近似と「決まった色」の条件である.

  1. λ=1240/2.70=459nm で青い光である.電子1個が伝導帯から価電子帯へ落ちて光子1個を出すには,電子がエネルギー Eg を持ちこまなければならない.電源が電子1個にする仕事は eV なので,eV が Eg 程度にならないと光らない.赤は約 1.9V,青は約 2.7V 以上が要る.

確かめ (2) で光の仕事率 11.4mW は入る電力 40.0mW を超えず,η→1 でも IEg/e=38.0mW で IV より小さい.エネルギーの収支に矛盾しない.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

ある太陽電池に一定の光を当てたとき,端子電圧 V と外へ流れ出す電流 I の関係は

I=Iph−Is[exp⁡(VVT)−1]

で表される.Iph=30.0mA,Is=1.00×10−12A,VT=kBT/e=25.9mV とし,太陽電池に入る光の仕事率は 100mW とする.ln⁡10=2.303,ln⁡3=1.099 を使ってよい.

  1. 短絡したときの電流と,開放電圧 Voc を求めよ.

  2. 抵抗 R=10.0Ω をつないだときの電流と電力を求めよ.

  3. 取り出せる電力が最大になる動作点の電圧・電流・電力と,そのときの抵抗を求めよ.光から電気への変換効率はいくらか.

横軸は端子電圧V,縦軸は外へ流れ出す電流I.太陽電池の特性曲線と,問題で与えられた抵抗R = 10.0 Ωの負荷の直線I = V/Rを示す.曲線はVが小さいとほぼ水平で,電流が0になる手前で急に下がる. 横軸は端子電圧V,縦軸は外へ流れ出す電流I.太陽電池の特性曲線と,問題で与えられた抵抗R = 10.0 Ωの負荷の直線I = V/Rを示す.曲線はVが小さいとほぼ水平で,電流が0になる手前で急に下がる.
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考え方 動作点は,太陽電池の特性と抵抗の特性 I=V/R を同時に満たす点である.指数関数は V が Voc よりかなり小さいところではとても小さいので,まずそこで近似できるかを調べる.最大電力は P=IV を V で微分して求める.

解答

  1. 短絡では V=0 なので I=Iph=30.0mA である.開放では I=0 なので exp⁡(Voc/VT)=Iph/Is+1≈3.00×1010 となり,

Voc=VTln⁡(3.00×1010)=25.9mV×(1.099+10×2.303)=25.9mV×24.13=0.625V

である.

  1. 指数の項を無視できるとすると I=Iph=30.0mA,V=RI=0.300V である.このとき V/VT=11.6 で,Isexp⁡(11.6)≈1×10−12×1.1×105≈1×10−7A は Iph に比べて十分小さいので,近似は正しい.電力は IV=30.0mA×0.300V=9.00mW である.

  2. x=V/VT とおき,Is を Iph に比べて無視すると P=IV=VTx(Iph−Isex).dPdx=0 より

Iph−Isex(1+x)=0,ex(1+x)=IphIs=3.00×1010

である.対数をとると x+ln⁡(1+x)=24.12 で,右辺の大部分は x が受け持つ.x=21 とおくと左辺は 21+3.09=24.09,x=21.03 とおくと 24.12 なので,x=21.03 である.したがって

Vm=21.03×25.9mV=0.545V

である.このとき Isex=Iph/(1+x)=30.0/22.03=1.36mA なので

Im=30.0−1.36=28.6mA,Pm=ImVm=15.6mW

である.抵抗は R=Vm/Im=0.545/0.0286=19.0Ω,変換効率は 15.6/100=0.156,すなわち 15.6 % である.

確かめ Pm は VocIph=18.7mW より小さく,比は 0.83 である.特性曲線がほぼ長方形に近いほどこの比は1に近づく.R=10.0Ω の (2) より電力が大きいことも,(2) の動作点が特性の水平な部分にあって電圧を使い切っていないことと合う.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

ケイ素のバンドギャップを Eg=1.12eV とする.真性のケイ素の電子の数密度は ni∝exp⁡[−Eg/(2kBT)] で,比例定数は温度によらないとし,300K で ni=1.0×1016m−3 である.導電率は σ=σ0exp⁡[−Eg/(2kBT)](σ0 は一定)とする.試料の形と大きさは温度によらず一定とする.

  1. 温度を 300K から 310K に上げると,真性のケイ素の抵抗は何倍になるか.銅の抵抗は同じ温度変化で約4 % 増える.両者を比べよ.

  2. ケイ素に数密度 Nd=1.0×1021m−3 のドナーを入れ,すべて電子を放しているとする.300K で電子の数密度はいくらか.

  3. 温度を上げていくと,ni が Nd と等しくなり,不純物で決めた性質が失われる.そうなる温度を見積もれ.ln⁡10=2.303 を使ってよい.

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考え方 比例定数の分からない量は,2つの温度の比をとって消す.指数の中は Eg2kB(1T1−1T2) という形にまとまる.

解答

  1. Eg/(2kB)=1.12/(2×8.62×10−5)=6.50×103K である.抵抗は導電率に反比例するので

R(310K)R(300K)=σ(300K)σ(310K)=exp⁡[−6.50×103×(1300−1310)]=exp⁡(−0.699)=0.497

で,約半分になる.銅は 10K で4 % 増えるだけで,しかも向きが逆である.ケイ素では電荷の運び手の数が指数関数的に増えるが,銅では運び手の数は変わらず,原子の振動による散乱が増えるだけだからである.

  1. Nd は ni の 105 倍なので,熱でできる電子は無視でき,ne≈Nd=1.0×1021m−3 である.(1) の温度変化でも ni は2倍になるだけなので,電子の数はほとんど変わらない.

  2. 求める温度を T とすると ni(T)/ni(300K)=1.0×105 なので

Eg2kB(1300K−1T)=ln⁡(1.0×105)=5×2.303=11.5

である.1/T=1/300−11.5/(6.50×103)=3.33×10−3−1.77×10−3=1.56×10−3K−1 より,T≈640K である.

確かめ T=640K でも Eg/(2kBT)≈10 で,Eg が kBT より十分大きいというボルツマン因子の近似は保たれている.ただし ni の比例定数も実際には温度とともにゆるやかに増えるので,本当の温度はこの見積もりより低い.ケイ素の電子部品が数百 K の高温で使えなくなる理由の1つである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 光子のエネルギーと波長は λ=hc/E,hc=1240eVnm.LED の色は Eg で決まり,光の仕事率は ηIEg/e.

  • 太陽電池の動作点は特性曲線と I=V/R の交点で,電力 IV が最大になる抵抗がある.開放電圧は VTln⁡(Iph/Is) で Eg/e より小さい.

  • 真性半導体の量は2つの温度の比をとると比例定数が消え,指数に Eg2kB(1T1−1T2) が現れる.

  • ドナーの数密度が ni より十分大きい間は ne≈Nd で,温度によらない.